「本当のパンクっていうのは、一度も自分がパンクなんだと証を立てる必要を感じたことがない人だっていうことだよ」(サーストン・ムーア)。
重要なのは、そうして登場した様々な「パンク」が、30年や40年という発展のフェーズを潜り抜けてきたなかで何を残し、いかなる果実を産み落としたか、だろう。
様々な有名無名のアーティスト(ハイ・アライ・サヴァント、エターナルズ、TVオン・ザ・レディオetc)の証言を元に、黒人のパンク・ロック・シーンを描いたドキュメンタリー映画『アフロ・パンク』。そのなかである者は、史上最もパンクな生き方をした一人にニーナ・シモンを挙げている。またある者は、黒人でパンク・ロッカーであることは二重の意味で社会的にマイノリティーである、と語る。あるいはある者は、黒人も白人も関係なく、抑圧の歴史を理解し政治的な関心を寄せてくれる同志に「We」という言葉で呼びかける。そこには「パンク」をめぐる様々な議論や可能性と、それを映し出す様々な現実がある。そして、そんな彼らが揃って絶大なるリスペクトを表明するのが、バッド・ブレインズというバンドの存在である。
前身のマインド・パワーをへて、1970年代末にワシントンDCで結成されたバッド・ブレインズ。メンバー全員が黒人からなるブラック/アフロ・パンクのパイオニアとして、同じDCのマイナー・スレットらと並ぶUSハードコアのカリスマとして、彼らの登場がその後のシーンに与えた影響は計り知れなく大きい。VoのH.R.の脱退に伴いソウル・ブレインズと改名して活動していた時期(1999年~2001年)もあったが、その存在は映画でも描かれているように世代を越えて「黒人/パンク」であることの薫陶を授ける大きな指針となり続けてきた。そして彼らは、ファースト『バッド・ブレインズ』のリリースから25年目にあたる年に、オリジナル・メンバーを再結集させ、プロデューサーにビースティーズのアダム・ヤウクを迎え、1980年代全盛期を彷彿させる傑作ニュー・アルバム『ビルド・ア・ネイション』を完成させた。
以下、ベーシストのダリル・ジェニファーへのメール・インタヴュー。彼らにとって音楽をやること、バッド・ブレインズであること、そして「パンク」であることの意味と思想が、ここにはダイレクトな言葉と根源的なメッセージと共に記されている。これがバッド・ブレインズの本質(=ハードコア)だ。
●今回のニュー・アルバム『ビルド・ア・ネイション』には、世代を越えてパンク/ハードコア・リスナーや評論家から賛辞の声が寄せられています。自分達としても、今回のアルバムに対しては相当な手応えを感じているのではないかと思いますが、いかがですか。
「完成にあたっての特別な思いとかはなかったな。これはグレイト・スピリットに導かれたライフワーク、使命だからね。“最高と最悪”は音楽やアートには存在しない。違いがあるだけだ」
●今回のアルバムは、オリジナル・メンバーによるバッド・ブレインズの復活作となるわけですが、自分達としてはどんな感覚なんでしょうか。あの頃の最強のバッド・ブレインズが戻ってきた!という感覚なのか、それとも、まったく新たなバッド・ブレインズがここに誕生した、という感覚なのか。
「俺たちはずっとブラザー同士であり続けてきたわけで、復活ではないんだ。グレイト・スピリットに導かれて行っていることの全てにおいて、俺たちは日々、生まれ変わっているんだ」
●今回のアルバムは、「アダムが1stのヴァイヴに現代的なタッチを加えてくれた」というあなたのコメントにもあるように、初期のバッド・ブレインズを彷彿させるバンドのエッセンスが凝縮されていながら、単なる原点回帰ではない、サウンドのエッジもパワーもスピードも過去を更新する凄まじい内容に仕上がっています。実際に今回のレコーディングに入るときのバンドのテンションは、どのような感じのものだったのでしょうか。
「スタジオに入るのであれ、ステージに上がるのであれ、どこであってもつねに“光”、インスピレーションとガイダンスを探し求めている。繰り返すけど、バッド・ブレインズは使命だからね」
●あらためてバッド・ブレインズという存在を世に問う、みたいな心に期するところもあったのでしょうか。
「証明なんてつまらないね。我々は神の作品であり、グレイト・スピリットの道具なんだ。世界に何かを証明するなんて馬鹿げてるよ。そしてそう、何かを作る時にはつねにクリエイティヴな力が存在している。その力が平和や愛、ハーモニーというヴァイブレーションをジャーの子供たちや鳥、蜂や木々に広めさせるんだ。勘違いしないでほしい。これはヒッピー・トークではないんだ」
●今回のサウンドについて、メンバー同士やアダムとの間で何か話していたことなどありますか。たとえば、あなたが言う「現代的なタッチ」という部分で、音作りの部分で特に意識されたところはどんな点ですか。
「彼はアナログな感じを残してくれたと思う。オシロスコープはすばらしいスタジオで、Neve(録音機材メーカー)のコンソールはツェッペリンみたいな音にしてくれるんだ」
●これまでのバッド・ブレインズと、『ビルド・ア・ネイション』におけるバッド・ブレインズの最大の違いは、どんなところだと言えますか。逆に、時代の変化と関係なく、メンバー同士を固い絆で結び続けているものとは?
「違いは、俺たちが年を取り、賢くなり、そして神のことをより理解できるようになったこと。ボーイではなくいっぱしの男として生きることを学び、思いやりや理解、そして忍耐といったものを俺たちにもたらしてくれた。常時、グレイト・スピリットが“バンド”を結び付けてきてくれたんだ」
●今回のアルバムは、強いて言うならジャーと「PMA=Positive Mental Attitude」についてのアルバムという、思想的にもバッド・ブレインズの本質が貫かれた作品と言えるわけですが、本誌の読者のなかには若いリスナーもいるので、そのところを改めてあなたの言葉で説明していただけますか。
「PMA=ポジティヴ・メンタル・アティチュードとはどうあろうとポジティヴな思考を広め、勧める姿勢だ。“あらゆる不利なことの中には、より大きな利へとつながる種がある”や、“諦める者はけっして勝つことはなく、勝つ者はけっして諦めない”とか。自分が人生で望むことをつねに目指し、ネガティヴな思考や人にけっして負けるな、ということだ。ジャーは神の名であり、グレイト・スピリットであり、愛であり、生命であり、PMAである。ジャーは全てであり、全てはジャーである」
●タイトル『Build A Nation』の意味は?
「ジャーの子供たちによる国を作ろうということ。(勘違いしないでほしいが)これは国粋主義的な主張ではないんだ。神の子全員への呼びかけなんだ。つまり我々全て、老いも若きも、すなわち人類だよ」
●キャリアを遡った話も伺わせてください。今年の春に、あなた方も出演された映画『アメリカン・ハードコア』が日本でも公開されました。その作品のなかでバッド・ブレインズは、アメリカのハードコアの歴史とスピリットを象徴するきわめて重要な存在として描かれていました。あなた自身は、バッド・ブレインズの登場とその足跡がハードコア・シーン、ひいてはアメリカに与えた影響力や意義について、どのように捉えているのでしょうか。
「我々を結びつけ、民族や宗派、肌の色に関係なく、その平和や愛、芸術的自由というメッセージを広めさせてくれたジャーに感謝している。世界中を旅し、我々の自由な(liberation)ロックを“子供たち”と分かち合えるようにしてくれたことに感謝している。全てはグレイト・スピリットのおかげなんだ」
●80年代初頭に登場したハードコアは、当時のレーガン政権に象徴される保守的で右傾化するアメリカに対して、本気で世界を変えてやろうというカウンター・カルチャー的な運動としての要素がきわめて強いものだったことが『アメリカン・ハードコア』にも描かれています。バッド・ブレインズが結成に際して掲げていた理想なりメッセージとは、改めてどのようなものだったのでしょうか。
「ブリティッシュ・パンクに大きな影響を受けた自分達としては、音楽的にも精神的にもアメリカという名のバビロンに反することが自然に思えたんだ」
●例えば、ハードコア・バンドであることと、レゲエのヴァイヴやラスタファリズムは、あなた達のなかでどのように結び付けられていたのでしょうか。
「レベル・ミュージックにはいろんなスタイルがあるんだ。ラスタマンは我々にジャーとバビロンについて教えてくれた。ジャーはそれを開かれた心を持つ若者たちと分かち合うことを教えてくれた。ヘヴィなダブ・ベースと速く鋭いロック・ギターはまるで夏の空を埋め尽くす嵐の雲のようなもので、重低音のベースを轟かせ、やがて最高に鋭い輝きと共に雷が炸裂する……、栄光あれ」
●『アメリカン・ハードコア』と並んでパンク/ハードコアの歴史を再検証する重要な作品『アフロ・パンク』がこの夏日本でも公開されます。端的に窺いますが、黒人がパンクやハードコアをやることの重要性は何だとあなたは考えますか。
「アフロ・パンクはポジティヴな集団だと思うけど、自分は個人的には肌の色や民族、ブラック、ホワイト、エイジアンといったことに焦点を置くことにはつねに抵抗を感じているんだ。『ジャーフロ(Jahfro)・パンク』に名前を変えるべきだと思うけど、ジェイムズ(・スプーナー、監督)とそのムーヴメントはリスペクトしてるよ」
●『アメリカン・ハードコア』の原作者スティーヴン・ブラッシュは、当時のハードコア・シーンについて「それぞれの街ごとに小さな抵抗部族が存在していた」と話していました。例えば都市ごとのシーンの違いに加えて、人種の違いがシーン間の格差や対立を生む大きな壁となるような場面はありましたか。『アフロ・パンク』には、黒人がパンク/ハードコア・バンドをやることは白人社会からも黒人社会からも浮いた二重の意味でマイノリティーな存在である、という描写もありますが。
「当時の若者たちのムーヴメントにはバンド同士の敵対心もなかったし、パンクのコミュニティは平和と愛に溢れていたよ。メーンからマイアミまで、全てのシーンを網羅したアルバムがドクター・ノウ(ギター)とジェリー・ウィリアムズ(プロデューサー)のコンパイルで作られたぐらいだし。そして、俺たちはアフリカン・アメリカンのグループではなく、バッド・ブレインズという4人の人間で、イアン・マッケイやヘンリー・ロリンズといった友人がいただけなんだ。ニューヨークにはジョンやハーリー、マッキーやザ・マッドというブラザーもいるよ」
●当時のDCのハードコア・シーンでの出来事で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
「ゲットーで全て黒人の客の前で演ったハウス・ショウかな。全ての人類は何でもできるんだということを知らせ、見せられたからね。リップ・ティアのファッションに身を包み、同時に少なくとも5人のガールフレンドがいたこと。ティーンエイジ・パンク・スターだったこと。いいだろ……(笑)」
●『アフロ・パンク』には、いわばバッド・ブレインズに続くアフロ・パンクの後継者として、エターナルズやハイ・アライ・サヴァント、TV・オン・ザ・レディオなどが出演しています。そうした黒人によるパンク/ハードコア・バンドが今注目を集めているという事実は必然的なことだと思いますか。
「サウンドやスタイルはどの種族に属しているかとは関係なないものだ。それは全く取るに足らないものだ。人の肌の色が人の目の色より重要だと考えられている以上、戦争や問題、混乱はなくならない。だから、人種や肌の色、宗教の差を無視して、ジャーの子として、人間としてお互いを尊敬し合うことに力を傾けようじゃないか」
●そうした新しい世代のバンドを見て、あらためて自分達がやってきたことの正しさを実感するようなところもあるのではないですか。
「自分の心と考え、そして技術に従い、創造力とギターによって神の仕事を行ってきた。誇りとは神に渡すべきものだ」
●最後に、現在のアメリカについてのあなたの見解を教えてください。そして、そうした現在のアメリカにおいて、バッド・ブレインズの再結成と今回のアルバムは、どのような意味を持つものだと考えますか。
「バビロンは今、混乱し、迷い、崩壊しかけている。その中に暮らすジャーの子供たちはあらゆるレベルで生き抜くことに苦しんでいる。たしかに、このアメリカには金持ちも貧困層も“いわゆる”中流階級もいるけど、ここは神の国なんだ。山や草原、谷、世界は全てグレイト・スピリットに属しているんだ。“国”は気にするな。世界であり、惑星なんだ!!!
バッド・ブレインズに興味を持ってくれて、サポートしてくれてありがとう。ジャーは我々が近い将来、君たちの美しい世界の中の一地域を訪れることを願っている
ダリル・ジェニファー」
(2007/10)
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