2014年5月29日木曜日

2014年の熟聴盤⑤

・ DPI/RICO
・ Sharon Van Etten/Are We There
・ Umberto/Prophecy Of The Black Widow
・ The Knife/Shaken Up Versions
・ Clap Your Hands Say Yeah/Only Run
・ SIMI LAB/Page2:Mind Over Matter
・ AI ASO/LONE
・ Owen Pallett/In Conflict
・ Lust for Youth/International
・ Olga Bell/Край (Krai)
・ MARK/Maki・K
・ 西森千明/かけがえのない
・ Hundred Waters/The Moon Rang Like A Bell
・ Ben Frost/Aurora
・ Wife/What's Between

※編集中

2014年5月18日日曜日

極私的2010年代考(仮)……Cloud Nothings 『Attack On Memory』



マイスペースにアップした既発曲や宅録音源を集めたコンピレーション・アルバム『Turning On』に続き、セルフ・タイトルのファースト・アルバムをリリースしたのが2011年の1月。それからわずか1年で早くもセカンド・アルバムの本作『アタック・オン・メモリー』が届けられた。その間のツアーや様々な露出を含む多忙なスケジュールを考えれば驚きのペースに思えるが、高校時代からバンド活動を始め、現在のクラウド・ナッシングスを結成する前後も複数のプロジェクトを掛け持ちしながら日常的に曲を書き続けてきた中心人物のディラン・バルディ(Vo/G)にとっては、これも当然の成り行きのようだ。ディランは、デビュー当時まだ18歳の若者で、大学を半年でドロップアウトした自身の経歴もあってか度々指摘される「スラッカー」という(この手の音楽/シーンに対してありがちな)レッテルについては強く否定的で、実際に平日は労働に勤しむ「hard worker」だと語り、また自らを「多作なソングライター」だと認める。もっとも、ディランだけでなく他のメンバーもサイド・プロジェクトに旺盛な活動を見せるクラウド・ナッシングスというバンド自体が、ひとつの「多作なミュージシャン」の集まりであることは間違いない。


クラウド・ナッシングスのスタートは、ディランがクリーヴランドにある実家の地下室やベッドルームでひとり始めた宅録にさかのぼる。高校時代にはザ・ヴォルツというバンドでグリーン・デイのカヴァーをしたり、その後もポニータやネオン・タンズといったプロジェクトを率いて作品もリリース(※後者はダーティー・ビーチズもリリースする「Scotch Tapes」から)するなど、地元のシーンでは知られた存在だったが、そもそも他人と何かをやることに飽きっぽい性格らしく、ならばひとりで好きな音楽を作りたいと始まったのがきっかけのようだ。

それでマイスペースにアップした音源が、ロスで「Bridgetown Records」を運営するケヴィン・グリーンスポンの目に留まり、その音源と急きょ録音された新曲をコンパイルしてリリースされたのがカセット/CDR『Turning On』。それが2009年のことで、それと前後してディランはツアーに出ることを決意し、そのために元バンド・メイトや友人を集めてライヴ・バンドを結成する。初めてのライヴはニューヨークでウッズとリアル・エステイトのオープニング・アクトを務めるという幸運にも恵まれ注目を集めると、その後もSXSWへの出演や、ウェーヴスやカート・ヴァイルやファックド・アップなど話題のアクトと共演を重ね、アメリカのインディ・シーンで次第に頭角を現していく。そして2010年、転機となる「Wichita」との契約を機に『Turning On』が正規にCD化され、またベスト・コーストを見出した「Group Tightener」や「Matador」傘下の「True Panther」(ガールズ、マジック・キッズetc)から7インチ、スプリット・カセット『Cloud Nothings / Campfires』など新たな音源を相次いでリリース。さらに同年、「Carpark」とも新たに契約を交わしワールド・リリースの体制が整うと、翌年の2011年に満を持してファースト・アルバム『クラウド・ナッシングス』がリリースされた。




なお、以降のシングルやトロ・イ・モアとのスプリット『I Will Talk To You / For No Reason』を含めて過去に7インチ等で発表された楽曲は、本作『アタック・オン・メモリー』を始めアルバムには重複して収録されていない。その事実からも彼らが多作を誇るバンドであることがわかるだろう。ちなみに、ディラン以外のメンバーのサイド・プロジェクトについて補足すると、サイド・ギターのジョー・ボイヤーとドラムのジェイソン・ゲリックスはトータル・ベイブス、ベースのTJ・デュークはモール・ピープルというバンドで活動。それぞれ『Swimming Through Sunlight』と『Mole People』というアルバムをリリースしている。


前回のファースト・アルバムは、ダン・ディーコンやフューチャー・アイランズなど手がけるチェスター・グワズダのプロデュースの下、ボルチモアのメリーランドにあるスタジオで制作された。対して今回、本作の大きなトピックにもなっているのが、レコーディング・エンジニアを務めたスティーヴ・アルビニの起用である。スティーヴ・アルビニといえば――説明は不要と思うが、シカゴに自前のスタジオ「Electrical Audio」を構えて数々の名盤を世に送り出してきた鬼才エンジニアであり、何より、80年代初頭に活動したビッグ・ブラックを始めレイプマン~現在はシェラックを率いるUS(ポスト・)ハードコアの重要人物。近年ではビッグ・ブラックの再結成も話題を集めたが、一方でプロデュース業の方も、ジョーン・オブ・アークの最新作『ライフ・ライク』を筆頭にスカウト・ニブレットやジ・エックス、フリート・フォクシーズのドラマーのJ・ティルマンなど、相変わらず精力的でクオリティが高い。かくいうディランは16歳の時にビッグ・ブラックの『Songs About Fucking』を聴いて以来、アルビニの作品に対して憧れを持っていたという。前作は初のスタジオ作品ということで、それまでの宅録では物理的に難しかった音質面の向上もレコーディングの目的にあったようだが、今回の制作風景に関してディランがインタヴューで語ったところによれば、「彼はあまり何もせず、ただ録音の用意をして、僕達はただ自分達の曲を演奏するだけだった。彼は特に指示をすることもなく、僕達がやりたいようにやらせてくれた」――と、つまりは普段通りのアルビニ・スタイルのレコーディングだったらしい(※録音中、アルビニはずっとフェイスブックでゲームをしていたらしい……)。もっとも、「オレに仕事を依頼するバンドの多くは、彼らの個性を生かした有機的なサウンドを録ってほしがっている。大切なことは、メンバー全員が互いの目線を交ぜるようにすることだ」――そう自らのレコーディング哲学を語るアルビニの言葉を鑑みれば、彼らは最適な環境でアルバム制作に臨めたというべきだろう。


音楽好きの両親の勧めで子供の頃にピアノを習い、高校時代には録音技術を学ぶクラスも専攻していたというディランだが、彼を心の底から音楽に夢中にさせたのはパンクのレコードだった。なかでもお気に入りは80年代のハードコアで、ハスカー・ドゥ、ジャームス、リプレイスメンツ、アディクツ、アドルセンツ……基準は「短くて簡潔(brief and compact)」なことだった。そのためにディランが考えたことは「可能な限りレコーディングは早く済ませる」ことで、でなければ「曲を書いたときのオリジナルのエネルギーや、そのときの興奮した気持ちが失われてしまう」から、と語る。実際、『Turning On』は4日間、ファースト・アルバムは1週間強で制作され、また後者のレコーディングの際には先述のバンドのレコードをあらためて繰り返し聴き込んでいたそうだ。その狙い通り、1分台から3分台のタイトなロックンロールやパンク・ソングが詰った『クラウド・ナッシングス』は、まさにディランが描く理想的なレコードだった。




ただ一方で、リリースをへて前作について振り返ったディランの胸の内には、音質面の向上によりローファイ~ノイズ的な要素が取り払われたぶん、メロディや楽曲としてのポップさが際立ち過ぎた……という認識があったようだ。それを踏まえてディランは、本作完成後のインタヴューに答えて「僕達が前のアルバムでやっていた“ポップ・パンク”とは対立するものとして、今回のアルバムを“ロック・アルバム”と呼びたい」と語り、その手応えを「よりダークで重い(darker and heavier)」「真の姿に近づいたもの」と説明している。そしてさらに加えて、本作の制作にあたり90年代の「Dischord」――いわずと知れたフガジのイアン・マッケイと元マイナー・スレットのジェフ・ネルソンが運営するD.C.ハードコアの旗艦レーベル――の作品から強い影響を受けたと告白する。


具体的な作品名やアーティストは挙げられていないので影響云々を特定するのは難しいが、興味深いのは前作のルーツが「“80年代”のハードコア」で本作が「“90年代”のハードコア」という、その10年の隔たりだろう。つまり簡略していえば、オリジナル・ハードコアからポスト・ハードコアへ――例えば「Dischord」で挙げるならラングフィッシュやネイション・オブ・ユリシーズが象徴するその間の音楽的な深化や洗練のプロセスを、ディランが相応に意識していたことは想像できる。そして何よりスティーヴ・アルビニこそ、自身のバンドやプロデュース・ワークを通じてポスト・ハードコア以降の流れを牽引した最大の立役者であり、本作のレコーディングの経緯もあらためて腑に落ちる。もちろん、その背景には「Dischord」が体現し続けるDIYなアティチュードへの深い共鳴があればこそ、同じくDIYな制作スタイルを貫くアルビニの元へディランが導かれたであろうことは間違いない。

はたして、彼らが遂げた深化や洗練は、リード・トラックのM①“No Future No Pain”から印象的だ。ピアノの音色で静かに幕を開け、やがてゆっくりと絡み合うバンド・アンサンブルが次第に熱を帯び、ディランの喉を掻き毟るような激しい咆哮でクライマックスを迎える――。そのスリントやジョーン・オブ・アークの諸作も彷彿させる緊張感の立ち込めたサウンドは、これまでのバンドのイメージとは明らかに異質のものだろう。有り体にいえば、静と動のコントラスト/インストゥメンタル・パートとヴォーカル・パートの対比構造が鮮明で、曲の展開やコンポジションに厚みと奥行きを増した。近い感触はM⑥“No Sentiment”についてもいえるが、例えばM③“Fall In”やM④“Stay Useless”といった、ファースト・アルバムの延長線上にあるコンパクトで軽快なギター・コード~それこそオレンジカウンティ辺りの90年代のEMOにも通じるナンバーと対置されたとき、その差異はよりいっそうに感じることができる。

そして、そんな本作をもっとも象徴するナンバーがM②“Wasted Days”だろう。収録タイムが8分を越える(彼らにすれば)大作だが、圧巻は後半のインストゥルメンタル・パートに尽きる。前半の性急なパンク・ロック・スタイルが一転、オーヴァーダブやコラージュめいた音の渦に飲みこまれ混沌としたジャムを繰り広げる展開は、ほとんどサイケデリック・ロックの境地にも近い。初期のローファイやファズ・ポップの面影ははるかに遠く、凝縮された演奏と音圧で軋むノイズの手触りは、個人的にトレイル・オブ・デッドも連想させる。もっとも、前回のレコーディングではディランがすべての楽器を自身で演奏したそうで、つまり実質的にはディランのソロ・レコードともいえた前作に対して、(※現時点ではクレジット等の詳細が不明なのだが、先述のレコーディングの様子から考えて)初のバンドの録音のアルバムとなる本作は、彼らにとってはそもそも次元の異なる作品なのかもしれない。そうした意味でも本作は、まったく新たなクラウド・ナッシングスの姿を記録したアルバムといえるし、ディランの発言を見てもそう捉えるのがふさわしい作品なのだろう。




ちなみに本作のアルバム・タイトルには、これまでのバンドのイメージ(Memory)を破壊する(Attack)という意味が込められているという。ディランは語る。「このレコードは、過去の作品よりも強烈な(hit harder)な曲を書きたいという自分の欲望から生れた。そのためにはバンド・メンバーの個々の強みをアピールする段階的な理解が必要だった。単純なポップ・ソングではバンドの可能性を最大限に引き出すことはできなかったと思う」。


これを書いている2011年末、続々と発表される各音楽メディアのクリティック・ポールを見るかぎり、彼らのファースト・アルバムは必ずしも期待された評価を得た作品とはいい難いかもしれない。いや、かたや例えば今年インディ・シーンを騒がせたチルウェイヴ/グローファイやシンセ・ポップの台頭と比較したとき、そもそも「ロック・バンド」というフォーマット自体が、新しい世代のミュージシャンの間で有効性や新鮮味を問われつつあるのかもしれない……という印象も受ける。
本作『アタック・オン・メモリー』は、そうした状況に対する強烈なインパクトになるのではないか。確信とともに期待している。


(2011/12)

2014年5月8日木曜日

告知⑪:The Body『I Shall Die Here』



〈Signs and Symptoms〉シリーズではないのですが、告知を。

ハクサンクロークの全面参加が話題のポートランドのスラッジ/ドゥーム・メタル・デュオ、
ザ・ボディの最新作「I Shall Die Here」。

アースとリタジーを結び、さらにはスワンズへと線を伸ばす現代ヘヴィ・ミュージックの最高峰かと。

来日目前のデムダイク・ステアら〈Modern Love〉周辺のダーク・アンビエント/ポスト・インダストリアルとも共振する漆黒の音響美、ぜひ。

今後、〈Signs and Symptoms〉とはまた別に日本盤の監修を手がける作品が増えてくるかと思います。
いくつかリリースも決まってます。
告知はあらためて。

どうぞご贔屓に。


2014年5月5日月曜日

2014年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Luxury Elite/TV Party
非常に〈Orange Milk〉らしい、脱臼メロウ・ファンク・ポップ・チューン。vaporwave同様、この手の音楽は記名性を剥いで剥いで剥いだ先に何があるのか、興味深く見守り続けているのだけど、さて。まあ、サン・アロウの例もあるしな……というかスタローンズの新作にとても似てる。

◎Cube/Her Instrument
今年もピッチが早い〈Digitalis〉。ザラついたビートにフィールド・レコーディングスらしきアンビエント、インダストリアルな反復をかましたり、ドローン、テープ・ループ&逆回転……と手数は多彩。総体ではきわめて〈Digitalis〉らしく、いい意味で捉えどころなし。

◎Orca Life/Modern Living
〈Chill Mega Chill〉ってレーベル名もたいがい。前身はドローン/アンビエントをしていたらしいが、その名残も湛えつつ、アブストラクトなトラック/ビート・メイク寄りに作風をシフト。チルというより普通にエレクトロニカっぽい。90年代にシカゴや〈Thrill Jockey〉周りでよく見かけたような。

◎It is rain in my face./The Framer
同レーベルから。ヴォーカルの“食えなさ”が鼻につくが(いい意味で)、ファズの効いたフォーキィ・ポップは嫌いじゃない。トラックにも配慮の跡が。タイトルが「農園主」だしね。

◎JCCG/Eje
ポルトガルの〈A Q U A E〉から。ロイ・モントゴメリーも引き合いに出されるリヴァービーなギター・アンビエンス。ローレン・マザケインやヴィニ・ライリーの反響も。

◎SUSAN BALMAR/SIGNUM
「Meili Xueshan」のコンピでも見かけた気鋭。ポスト・D/P/I、なんてモードもつい浮かんでしまうサンプリングやインダストリアルな感覚、ビートやノイズはやはりとても今っぽい。ざらざらとした物音感。名義はスーザン・ボイルを意識してんのかな知らん。

◎Jerry Paper/Andy Boay
なにげに歌声がイーノっぽい。レイモンド・スコットやR・スティーヴィー・ムーアに通じる匂いを漂わせた宅録風情のメロウ・ポップ・シンガー。

◎Guenter Schlienz/Treehut Visions
〈Sic Sic〉や〈Constellation Tatsu〉からのリリースでお馴染みドイツのアンビエント作家。揺りかごに乗せられて遠くの惑星軌道をゆっくり周回するようなモジュラー・シンセの満ち引きは、子供の頃の記憶とジャック・ケルアックの小説をインスピレーション源にしているのだとか。

◎Aaron Martin/Chapel Floor
Expo ’70のジャスティン・ライトによる〈Sonic Meditations〉から。音色深いギター・ドローンにのせ、チェロやオルガンも重ねられた重層的な響きはポスト・クラシカルな趣も。音自体はミニマルだが、その空間の使い方が優雅で贅沢。

◎Jeremy Bible/Collisions
オハイオのマルチ・メディア・アーティスト。ハイブロウなノイズ/ミュージック・コンクレート作品だが、パーフォマンスの実況録音を聴くような臨場感も。プリペアードの4チャンネルステレオを使った聴覚の拡張。

◎PONY BONES/PONY BONES II
Speedy Ortizを最近抜けたギタリストのプロジェクト。ローファイでダウナーなギター・ロック、という部分はSpeedy Ortizに通じるものがあるが、あの灰の中にダイヤモンドの鉱脈を掘り当てるようなメロディの輝きはあらず。また経過報告か。

◎I Am Just A Pupil/Wild
カリフォルニアの〈Rotifer〉から。儀式音楽のようなタイコに、鳥の囀りや川のせせらぎを採取したフォールド・レコーディングス、ときおりヴェイパー風の歌謡サンプリングを織り交ぜたA面に悪酔い。B面もフィールド・レーディングス/サンプリングは多用されているけれど、ぐっとアンビエントな仕上がり。

◎Yvette/PROCESS
ニューヨークのデュオ。一言でいえば、かなりド直球のライアーズ・フォロワー。インダストリアルへの回帰を受けてライアーズ再評価の追い風が吹いているのかも。ヴォーカルの歌い方もかなりまんまだなあ。

◎William Selman/Equatorial Night
シカゴの〈Hausu Mountain〉から。ゴソゴソ、というかモゾモゾと効果音がしぶきを上げるようなタイニー&ストレンジなサンプリングのオノマトペは、どこかサン・アロウの新作にも通じるものが。

◎Men of Bissau/To Heal In Paradisó
Tiny Music Tapesのリポートで見かけて以来、気にかかっていたドローン/インダストリアル・プロジェクト。LAの〈Nostilevo〉からリリースされた一本。テープ・ヒスに染み付いた鉛色のモワレ、不安定なピッチの上でサンプリング/ヴォーカル・エフェクトがおどろおどろしくハウリングを起こす。ウルフ・アイズから元気やる気をぶっこ抜いたような、ただただぼんやりとしたノイズが延々と。

◎KETEV/KETEV
UKの〈Opal Tapes〉から。匂い立つようなダーク・アンビエント。銀残しのような音像、インダストリアルとトライバルを止揚したような音像・ビートはシャックルトンを連想させる場面もあるが、よりモノトナスな感覚が打ち出されているよう。官能性も湛えた、荒々しい物音の響きよ。

◎Nenado/Your Sketch
レーベル・トータルとしては、じつは評価を保留したいところがなくもないUKの〈Astro:Dynamics〉。OPNらに続く先鋭的なエレクトロニック・ミュージックの輩出先としても注目を集めるが、こちらはなんというか、アブストラクト・ヒップホップといった印象も先立つ。フォー・テット・ミーツ・アンチコン、みたいな。

◎Valanx/Through Stygian Forests
暗渠にしずくを落とす工業廃水。いわゆるダーク・アンビエントの類いだが、エレクトロニクスに窺えるほのかなsci-fiなタッチが耳の残る。象印の〈Elephant〉から。

◎F P H/P L N T

カリフォルニアの〈Rotifer〉から。ヴォリュームとペダルを弄りながら逆回転とアンプリファイを繰り返す前後不覚のシンセ・ウェイヴ。半角スペースを使ったプロジェクト名やタイトルが思わせぶりだが、ざらざらと粒子の粗い音像にはヴェイパーウェイヴの亡霊、ニュー・エイジの逝き遅れによる断末魔の叫びが捉えられているよう。

◎Metatag/Transmission
ノルウェーのエレクトロニック・デュオ。ウォーミーで典雅な音色も湛えた電子音響だが、白夜が人を狂わせるような不穏な瞬間も垣間見せ、たとえば80年代ジョン・カーペンター映画作品のサウンド・トラックを引き合いに出されるレヴューもちらほら。

◎Gora Sou/Living XXL
話題の〈Noumenal Loom〉から。映画『アビス』も連想させるMVも印象的なドイツ在住のドローン・アンビエント~ニュー・エイジ作家。この電子で濾過されたような瑞々しいスピリチュアリズム、未来的な響きは、しかし、あっという間に過去の遺物へ、ノスタルジーを喚起させる残影となるのだろうな。

◎the lost & found sound/hallelujah, i'm a bum
“失われた&発掘された音”とでも訳すのだろうか。キーボードやオルガンのループに乱れたラジオ短波を重ねたような来歴不明の音の藻屑。〈Sublime Frequencies〉とか、この手の音源を現地採取した際のアウトテイクとしてたくさん所蔵してそう。

◎Lord Skywave/Cardamon Copy
以前はSimianという名義で活動していたらしいSimon Lordによる、ヴィンテージの4トラック・テープで録音されたという作品。〈Astro:Dynamics〉のレーベル・イメージからするとかなりポップな方なのでは。エレクトロニックなレイヤー、ヴォーカルの多重録音で飾られたウォーミーなアンビエンス。

◎Melanie Velarde/•••
ベルリン&メルボルンを拠点に活動するマルチ・メディア・アーティスト。環境音楽めいたというか、これといって主張するところのない(?)アンビエント・ミュージックはモダンというより古風な佇まいも感じさせ、この作家の主戦場は「音楽」ではなくあくまで「アート」なのかも、という印象。

◎Demonstration Synthesis/DS2
プチ・ブーム中の〈Rotifer〉から。モントリオールのコラージュ作家Daniel Leznoffによる一本。ドリーミーでSci-Fiなテイストはこのレーベルの傾向だが、ハーモニーやシンセのコード感とかとりわけポップ。

◎Q///Q/Azores Azul
アイスエイジ周辺のコペンハーゲンのアンダーグラウンド・シーンは目下個人的な関心事のひとつだが、同郷で運営の〈Skrot Up〉からリリースされる本作は、それらとまったく印象が異なる。クラスター風情の牧歌的なシンセの音色に、カシオやアタリやニンテンドー・リスペクトなゲーム音楽~チップチューンへのシンパシーが掛け合わされた、ともかくゆるい電子音楽作品。伸びきったうどんのようなヴォーカルはサン・アロウっぽくも。

◎555/NINE GATES
Food Pyramidでお馴染みミネアポリスの〈Moon Glyph〉から、そのFood PyramidのChristopher Farstadによるビート・ミュージック作。Sci-Fiなシンセ・アンビエントが後退し、ベース・ミュージック的なフットワークでアップリフティングさせる。

◎Tredici Bacci/The Thirteen Kisses Cassetta
個人的にはご無沙汰の〈NNA Tapes〉。けれど14人編成のストレンジ・ポップというのは同レーベルでも異色かと。エンニオ・モリコーネの映画音楽に影響を受けたとか云々というエピソードも頷ける。ボストンはマサチューセッツ発。

◎Lily/Modern Malaise
〈No Corner〉から。ブリストルからの〈100% Silk〉への返答? パラノイアックなミニマル・ハウス/テクノ。

◎Syko Friend/Stiff Leash and a Still Self
うっすらメンヘラ?の香りも漂う、、、ミネアポリスの宅録ゴシック・フォーク。ブライアン・イーノに捧げられているトカナントカ書かれているが、はたして。ヒスりまくりのヴォーカル・ハーモニーもおどろおどろしい。






2014年4月のカセット・レヴュー)
2014年3月のカセット・レヴュー)
2014年2月のカセット・レヴュー)
2014年1月のカセット・レヴュー)
2013年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
2012年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)