2012年7月29日日曜日

2012年の熟聴盤⑦

・ MONO/For My Parents
・ Grizzly Bear/Shields
・ Cat Power/Sun
・ David Byrne & St. Vincent/Love This Giant
・ d'Eon/LP
・ Dreams/Forgotten Thoughts
・ Mission Of Burma/Unsound
・ Lymbyc Systym/Symbolist
・ tofubeats/水星
・ Temple Book/Temple Book
・ 石橋英子/imitation of life
・ カメラ=万年筆/COUP D'ETAT
・ Wild Nothing/Nocturne'
・ アニス&ラカンカ/アルバム
・ John Frusciante/Letur-Lefr
・ Dudley Benson/Forest: Songs by Hirini Melbourne
・ The Prodigy/Experience
・ Azealia Banks/Fantasea
・ Frank Ocean/Channel Orange
・ Fight Bite/Fight Bite
・ Nazoranai (Keiji Haino / Stephen O'Malley / Oren Ambarchi)/Nazoranai
・ Chad Valley/New Album
・ Gatekeeper/Exo
・ DIIV/Oshin
・ Cooly G/Playin Me
・ Clams Casino/Instrumental Mixtape 2
・ BEAK>/BEAK>>
・ Xiu Xiu Larsen/Düde





(2012年の熟聴盤⑥)

(2012年の熟聴盤⑤)
(2012年の熟聴盤④)
(2012年の熟聴盤③)
(2012年の熟聴盤②)
(2012年の熟聴盤①)




2012年7月11日水曜日

極私的2000年代考(仮)……ジョーン・オブ・アークを総括する


ティム・キンセラこそ、トータスのジョン・マッケンタイアと比肩する90年代以降のシカゴ・シーン、ひいてはアメリカン・インディが生んだ最大の才能と信じて疑わない。その歩みは、「ハードコア」に出自をもつアメリカのインディ・ロックが、90年代から00年代へと数多の音楽的フェーズを潜り抜け変遷を遂げてきた軌跡と重なり合う。かたや、同じく80年代末のキャップン・ジャズから分派したプロミス・リングが、「ハードコア」を大衆化することでエモの潮流を築いたのに対し、ジョーン・オブ・アークを筆頭にソロ、アウルズ、フレンド/エネミー(サニー・デイ・リアル・エステイトやヘラのメンバーらとのコラボ・ユニット)、メイク・ビリーヴと様々な形態を通じ辿ったティムの20年に及ぶキャリアは、言うなれば「ハードコア」をオルタネイトし、脱中心化する音楽的指標となり続けた。その膨大な数のディスコグラフィーは、ルーツからアヴァンギャルドまで多岐に亘るエリアを侵食しながら、アメリカン・インディの大地に複雑に入り組んだ系統樹をつくり上げている。

「自分達の楽しみは自分達でつくり出すっていう精神で俺達は育ってきた」。そうティムが語るハードコア体験の内実は、ある種の矜持や「生理」として彼の活動すべての根幹を貫いている。ティムにとってあらゆる表現行為は、自身の皮膚感覚を反映したパーソナルなものであり、ゆえに現代においてそれは、必然的にポリティカルな性格を帯びざる得ないことをティムは隠さない。そのことは、今も彼が地元シカゴのローカルなコミュニティに根ざした活動にこだわり続ける姿勢、あるいはJOAやメイク・ビリーヴの新作と併せて発表された初監督映画『オーチャード・ヴェール』――荒廃した近未来のアメリカの郊外で暮らす家族の物語――が描くテーマからも窺える。アーティストとして、あるいはひとりの生活者として、現在のティムを満たすものとは何なのだろう。


●今回、メイク・ビリーヴとジョーン・オブ・アークの新作、さらに映画『Orchard Vale』とそのサウンドトラックと、あなたが携わるプロジェクトの作品が同時期にリリースされます。これは偶然の一致なのでしょうか。それとも、互いに関連付けることが可能なテーマみたいなものが、あなた自身の中にはあったりするのでしょうか。
「えーっと、どうなんだろう。時期的にはそれぞれバラバラに作ってあるんだけど……映画の撮影が終わったのが去年の夏ぐらいで、だいたい1年ぐらい前ってことで……ただまあ、映画とサントラに関して、いろいろ法的な手続きがあって、それが終わるまでずっと待ってる形で、その間、10月にメイク・ビリーヴのレコーディングをして、JOAのレコーディングが1月にあったっていう。だから、今回たまたまリリース時期が重なる結果になったけど、全部、同じ時期に作ったわけじゃないんだよ」

●できればすべての作品について話を伺いたいのですが……今回のインタヴューでは基本的にJOAの新作についてをメインに、現在のあなたの活動全般について包括的な話が伺えればと思います。それでまず、今回のJOAの新作を聴いた印象として、バンドとしての自由度がさらに増したというか、楽曲ごとに示されるサウンド・メイクのベクトルがいっそう多角化を遂げた感触を受けたのですが。
「ありがとう」

●本人としては、今作に対してどんな手応えを感じていますか。
「どうなんだろう……今回のアルバムに関しては……というか、自分がこれまで作ってきたどのアルバムについても言えることなんだけど、今回のアルバムに関しては、とくに聴くのがつらい……というか、心情的につらすぎてね。ちょうど自分の人生で難しい時期に差しかかってた時期で、個人的にいろいろあって、今回のアルバムを作ったのも……もともと、JOAの新作については作る気がなかったんだよ。ただ、自分の人生を大きく揺るがすような出来事があって、自暴自棄でわけのわからない状態になってたから、何でもいいから何かしら集中できるものが必要だったんだよ。アルバムを作ることに集中することで、ギリギリの正気を保ってたっていうか、少しは気が紛れると思ったんだよ。その結果、今回のアルバムが完成したんであって、今の自分にはつらすぎて聴けないし、あえて聴いてみようとも思わないね」

●つらい時期っていうのは?
「まあ、どうでもいい個人的なことだよ…………人生には自分にはどうすることもできない問題っていうのがあるじゃないか。これが自分なりの、人生困ったときの対処法ってことなんだよ」

●具体的に何が起こったかについては話したくない?
「ああ、あんまり話す気になれないんだ」

●アルバムを作ったことで、気が楽になった部分もあったりするんでしょうか。
「たしかに、気持ちを吐き出したことで楽になった部分はあるけど……それまでずっと自分の中にわだかまってた感情とか、混乱とか、自分の身に降りかかったことをすべて吐き出すことで、楽になった部分はあるんだけど、ただ、個人的に、今回のアルバムを完成された一つの作品とはみてないんだ。そもそも人に聴かせるものとして考えてなかったっていうか……その日1日をやり過ごすのに精一杯で、気を紛らわすのに必死だったっていうか。そしたら、そんな俺を見るに見かねた友人達が、俺にヘッドフォンを被せて、マイクの前で歌わせたっていう……そうすることで、少しでも気が紛れるようにね」


●JOAの音作りに関しては、例えばメイク・ビリーヴの場合と違って、メンバー間の雰囲気や即興的なアイディアのやりとりが優先される、みたいなことを以前話してましたが、今回のレコーディングは、そのようなスタート地点から始まり、そしてどのような過程をへて、現在のアルバムの形に結実したのでしょうか。
「まあ、曲はたくさん書いてるんで。四六時中、家で曲を書いてデモを作ってて、そろそろレコーディングをする時期かなって思ったら、貯まった曲を披露してっていう感じで、コンピューターに入れといた65曲の新曲のうちから、気に入ったのを20曲選んで、それを弾き語りで聴かせて、そのあとスタジオに1週間入って、他のメンバーは自分の都合のいい日時を決めてスタジオに来てっていう具合にして作ってる。JOAに関してもメイク・ビリーヴに関しても、だいたいそんな感じで作業を進めていて、実務的というか、その日誰がスタジオに来れるかに合わせて作業の内容を決めているんだ。だから、アルバムに入ってる曲以外にも、レコーディング待ちの曲がたくさんあって、『今日はこいつとこいつがいるから、この曲をやろうかな』とか、それで一通り録り終わった後に『じゃあ、ついでにこの曲も』みたいな感じで……要はタイミングの問題だよね。基本的には自分ひとりで曲を作った後、各々のメンバーに集まってもらって、そこでバンドの形でもう一度レコーディングするっていう形を取ってるんだ」


●また、そうした自由度の高いレコーディングとは逆に、JOAの場合、録音後のポスト・プロダクションやアレンジメントが重要な鍵となってくると思うのですが、そのあたりのアイディアやコンセプトは? これまでとの違いはありましたか。
「アイディアとしては……結局、今回のアルバムをレコーディングしても、あんまり手を加えてないんだよ。オーヴァーダブもほとんど使ってないし、とにかく、その日誰がスタジオに来ることができて、その中で楽器をとっかえひっかえしながら片っ端からいろんなことを試した中で、1日の終わりに何ができるかって感じで、スタジオでその日何が起きてたのかが、そのまま音として記録していくって感じで進めていったんだ。そのあとアルバム作業が半分ぐらい終わったあたりから、だいたいの方向性が見えてきて、細かな曲順だとか、それに伴って全体的なバランスから曲の感じを変えていったりしながら作っていったんだ。そういう意味で、今回のアルバムはすごくリアルな記録になってるんだよ」

●個人的に、JOAのサウンドは、04年の『Joan Of Arc, Dick Cheney,Mark Twain』を機に、その自由度やクリエイティヴィティを一気にスケールアップさせた印象があるのですが、例えばメイク・ビリーヴを始めたことで、逆にJOAでは自由に好き放題出来るという部分もあるのでしょうか。
「それはあるだろうね。メイク・ビリーヴの場合は、曲を書くんでも、きちんと段階を踏んでっていうのがあって、だから、いわゆるロック・バンドであるメイク・ビリーヴをやることで、自分の中でのロックンロールへの欲求が解消されたというか、JOAの場合は逆にロックじゃなくてもいいじゃんっていうか、もっといろんな音に手を出してもいいじゃないかっていう、そういう自由が生まれたよね」

●また、その際、作品の完成に向けてメンバーを束ねる共通認識、ヴィジョンのようなものも同時にあるのではないかと思うのですが、そのあたりは如何ですか?
「さっきも言ったように、JOAに関しては、実質的に空いているメンバーの中でやるっていう感じで、今週予定されてるライヴも3ピースでやる予定で、メンバーの都合もあるし渡航費諸々の経費を考えれば、そのほうが割に合ってるんだよ。とりあえず曲があればいいわけで、これから先ツアーを続けていく中でメンバーも徐々に途中参加してきて、最終的には7人ぐらいまでに膨れ上がることになるんじゃないかな……そっちのほうが理に叶ってるしね。JOAって、何しろメンバーの数が多いもんだから、臨機応援にやってかないと。だから、ヴィジョンとかバンドとしての体裁がどうこうってことよりも、今あるものでサクサクやってってる感じだね」


●一方、今作では“9/11 2”というタイトルの曲が目を引きます。例えば、今回同時リリースされる監督作品の『Orchard Vale』では、アメリカという現代社会の頽廃がモチーフとして描かれていますが、翻って今回のJOAのアルバムにおいても、そうしや作品のバックグラウンドとなるようなストーリーや政治的なメッセージのようなものがあるのでしょうか。
「いや、アルバムのほうは映画に比べてよりパーソナルなもので。映画のほうはアメリカのカルチャーや政治っていうテーマが背景にあるもので、もちろん、そこには個人的な視点も入ってるけど、そっちをメインにしてるわけじゃないんだよ。その反対に、アルバムのほうは完全にパーソナルなもので、政治やカルチャーに対する視点はほんの少し見え隠れする程度のもので、何より自分が今まで作った中で一番パーソナルな内容になってることはたしかだよ。ここまで自分の情念を露にしたことはないってくらい、感情がもろに剥き出しになったアルバムになってる」

●“9/11 2”っていうタイトルは政治的なタイトルとも受け取れますが、これもパーソナルな曲だったりするんですか。
「ああ、そうだね。9/11 そのものよりも、あの事件の衝撃について……あの事件と同じくらいの衝撃が自分の身にも起こったわけで……ある日を境に、突然、自分のこれまでの日常や人生が一転してっしまったっていう。その日の朝まで、あんなことになるとは微塵に思ってなくて、それが、なんで、あの日を境に突然、すべてが一転してしまったんだろうっていう………………だから、あれはラヴ・ソングなんだよ。失恋について歌った曲で、失恋のショックについて歌った曲なんだ」

●“If There Was a Time #1”という意味深なタイトルの曲もありますが。
「まあ、あの曲についても……っていうか、今回のアルバムに入ってる曲すべてが失恋について歌ってるんだよ(笑)。この半年間、それ以外に何も考えられない状態でね。……“If There Was a Time #1”は、今回のアルバムの中に入ってる曲の中でも、一番抽象的な曲だと思うんだ。で……日本語の歌詞でどれだけニュアンスが伝わるかわからないけど、言葉遊びをしていて、最終的には何を歌ってるのかっていうと……要するに、自分は完全に混乱していて……で、混乱したまんまの状態で、時間とは何か、空間とは何かってことを問うてるわけだよね。その結果、時間も空間も実際には存在しないんじゃないかってところに救いを求めているというか……もしも時間も空間も存在しなければ、何もなかったのと同じなわけであってさ……っていう内容の曲なんだ」

●映画はもっと政治的なメッセージの込められたものだそうですが、映画の制作意図としては?
「それ集まった人間で何ができるかってところから、自分と、妻と、まわりにいる何人かの友達と、自分達の才能を出しあって1本の映画を作ろうってところから始まって……だから、この映画が最終的にどういったテーマのものになるのか、自分達自身にもわからなかったし、ただ仲間で協力して一緒に何かしてみたかったんだ。それでみんなでアイディアを出し合うところから始まって、このプロジェクトに参加できる俳優人を探してきて、全部の駒が出揃った上で、ここから何ができるかってことを考えていったんだよ」

●『BOO HUMAN』というタイトルの意味は?
「3つ意味があるんだけど……ひとつは英語の“ブー・フー”っていう、わんわん泣きわめくときの音で、泣きわめくしかできない人間ってことで、“ブー・フー・ヒューマン”、つまり、“ブー・ヒューマン”っていうね。それとふたつ目は、ブーイングのときの“ブー”って掛け声、つまり人間に対してダメ出しをしてるんだよ。みっつ目は、誰かを驚かすときにワッていうときの“ブー!”っていう音……つまり、目の前にいきなり何か現れたときの驚きを象徴してるんだよ」


●今秋には大統領選が控えています。例えば4年前の大統領選では、マイケル・スタイプやエディ・ヴェダーらが参加した「Vote For Change」に代表されるミュージシャン内の動きがありましたが、今またそうした機運がアメリカのロック・シーンで高まりつつあるような気配はあるのでしょうか。あなた自身の今のアメリカに対する現状認識は、どんな感じなのでしょう?
「個人的に、ジョージ・ブッシュが選挙で選ばれた事実はなかったと解釈してるんだ。つまり、こないだの選挙は歪められた真実であって……しかも、前々回の選挙も入れると、こと大統領選に関しては、二度も、事実が歪められたってことになるんだ。自分は大統領選ってもの自体に対して完全に不信感を抱いてるし、国を挙げての茶番劇を見てるような気分っていうかね」

●じゃあ、今度の選挙に関わるつもりもない感じ?
「そこまではわからないけどね。たしかにオバマ候補者の発言のいくつかに共感するところもあるし、これまで大統領選に立候補した人物の中で、一番共感できる人間であることはたしかだけど、オバマの発言や行動だけでこの国を変えていけるってことまでは思っていないんだ。どうなんだろう……自分でもわかんないけど、とりあえず、アメリカの政治によって、これまでさんざん裏切られて、失望させられてきたって歴史があるからね。そのせいで、もはや政治ってものに対して自ら関心を向けることをしなくなったというか、政治ってものに真っ向から立ち向かっていこうとなると、あまりにもインチキや許せないようなことがまかり通ってて、こっちの頭がどうにかなっちゃうから……。ただ、今はもう自分の人生だけで手一杯で、さっきも言ったように、人生が180度変わってしまったから……それまで暮らしてた場所を離れて、新しいアパートを見つけてっていう、自分の生活すべてが一変してしまったから、あんまり自分が生きていくこと以外に考える余裕がなかったんだよ」

●それって、奥さんと別れたってことですか?
「そう、そうだよ」

●でも、映画作りではパートナーだったんですよね?
「ああ、そうだけど」

●今でもこのプロジェクトに関しては一緒に活動しているんですか。
「一緒に映画を作って、そのあと彼女が俺の元からいなくなったんだ」

●今のアメリカ社会については率直にどう見てますか。 
「4、5年前の、共和党支持の戦争支持の風潮と比べると、いくらかマシな状況にある……と言っても、希望的観測っていうよりも、国民全員が今の政治に対して絶望しきってるってことなんだろうね。どうなんだろう……自分はもう、アメリカって国に対して期待することをやめちゃったんだよ。もちろん、自分は今この国に生きているんだけど、一国のことよりも、自分の人生の次に何が待ち構えてるかだけに集中するようになってるんだ」

●次に何が待ってるかって、たとえばまた監督に挑戦してみたいとか?
「できればやってみたいね。この秋からまた大学に通う予定なんだよ。シカゴのアート・スクールで文章の創作について勉強する予定なんだ。これから何年かは学生生活を送ることになるはずだよ」

●例えば、あなたは以前、様々なプロジェクトで音楽活動をするというスタンス、ライフスタイルそのものが、現在のアメリカ文化に対するプロテストたり得ている、と話していましたが、そうした感覚は近年ますます強くなっている感じですか。
「まあ……自分と同い年ぐらいの年代の人間の中でも、ホームレスを別にすれば、自分は経済的には最下層に位置してるし、自分が日々の生活を送っていく上で、あるいはバンドとして活動を続けていく上でも、自分と同い年ぐらいの平均的アメリカ人とは、暮らし方から人生に対する見方から価値観まで、180度違ってるってことはたしかだろうけど……日常生活のほんの些細なことであっても、たとえば自分はテレビを持ってなかったりするんだけど、まわりの連中はみんなテレビの話題で盛り上がってて、それが自分にはゾンビが会話してる光景みたいにしか見えないんだよね。だからって、自分の生き方だとか人生が、他の人と比べて優ってるとも思わないけど、ただ、自分の生き方は一般的なアメリカ人とは違ってるんだ」

●どうであれ、そういう生き方しかできないってことですよね。
「そういうふうにしか生きられないし、そうすることが今の世の中に対する自分なりの抵抗でもあると思うし……あまりにも多くの人間が、本当の自分が望んでるのとは別の人生を送ってるようにしか思えないから」


●例えば、メジャー資本のレコード会社の傘下で活動すること自体が、ひいては石油産業や軍事産業に加担するという意味で現代社会の腐敗の構造に組み込まれざるを得ない、という見解もありますが、あなた自身の生活や活動にも、そうした現状認識が反映されている部分もあるのでしょうか。
「常に意識してるよ。それは日常的なことにおいても、自分がどこで金を使うかとかさ、どの店で何を買ってっていう、いつもそういうことについて意識してるよ」

●それでも、現代社会の腐敗構造に組み込まれざるを得ないことについて、どう対処していますか。
「自分でもわからないんだ。他のいろんな人間と同じで、自分も混乱して、どうしたらいいのかわからないんだよ」

●そうした状況に対して音楽に何かできることがあると思いますか。
「もちろん。音楽には、人々を変えて、人々の世界への関わり方を変える力があるって、心から信じてるし」

●自分の音楽を通して、それをどう表現していますか。
「もう単純に、愛だよね……ベタで申し訳ないけど(笑)、でも、実際そうなんだから仕方ない。愛と……慈悲の心と……それ以外には思いつかないよ」

●今作でJOAのアルバムとしては9枚目になります。過去には一時的にバンドを離れたこともありましたが、今のあなたにとってJOAはどんな場所だといえますか。
「何しろずっと長いこと一緒にやってるからねえ……ちょうど、前回の『Eventually All At Once』のときに、父親が死んでショックを受けてた時期で……病気とかじゃなくて、本当に突然の死だったんだ。その失意の中でJOAのアルバムを作って、父親の死を乗り越えたって出来事があって……それと同じことが今回のアルバムでもまた起こって、自分で自分を再び信じられるように、錯乱状態から少しでも抜け出せるように、必死でレコーディングしてっていう……自分にとっては、そういう場所なんじゃないかな。地に足がつけられる場所っていうか、自分が冷静になって物事について考えられる場所……そこで自分を自由に表現することで世界について知る、というか。だから、すごく自由だし、いろんな形で存在することができるっていう。自分は方向性を見失ったときに還ることのできる場所というかね」

●また、サウンド面・音楽的な見地から、過去9作品を通してJOAはどのような変遷を遂げてきたと自己分析できますか? 先ほども話したように、個人的には04年『Joan Of Arc, Dick Cheney,Mark Twain』、そして99年の『Live In Chicago 1999』を分岐点に創作の幅を広げ進化を遂げてきたような印象があるのですが。
「どうかな……昔に比べて今のほうが自分のアイディアに確信が持てるようになったって部分はあるけどね。いろんなアイディアを試すんだけど、前よりも気負いがなくなったというかさ。今のほうが昔に比べて賢くなってるし音楽についてよく知ってるんだけど、それでも、いまだに1曲1曲が戦いでありバトルだって気がするし、そこからどこに向かっていくのかっていう……最終的にどこに向かってるのかはわからないけど、ただ目の前の課題は一つ一つクリアにしていってるっていう、そんな感じで今まで来てるかな」

●ところで、唐突ですが、音楽的なキャリアの出発点としてハードコア/パンクを経験したことが、現在の自分の活動にフィードバックされていると実感する部分は何かありますか。というのも、あなたや、同郷シカゴで同世代のジョン・マッケンタイア率いるトータスをはじめ、ヘルメットやドン・キャバレロのメンバーが参加するバトルス、あるいはLCDサウンドシステムのジェームス・マーフィや、ジャッキーO・マザー・ファッカーやサンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンといった実験的なジャム・バンドに至るまで、80年代末~90年代初頭のハードコア/パンク・シーンに音楽的なルーツをもつバンドやアーティストが、近年極めて独創的な音楽を生み出している状況について、個人的に興味深く見ているところがありまして。
「たしかに、若い頃にハードコアやパンクと出会ったことは、それまで自分の中にあった価値観や常識を一変させるような事件だったし……『ああ、人生にはこんな可能性もあるんだ』っていう、生き方っていうのは決して一つじゃないんだっていう、それこそ新たな世界が開けたような衝撃があったよね。若くて多感な時期にそういう衝撃に出会ったら、自分の人格を形成する上でのものすごく根っこの深いところにまで影響してくるもので、今でもハードコアやパンクのあのコミュニティに育ってなかったら、今の自分達はなかったと思ってるし、今でも……というか、いまだに自分はハードコアやパンクの精神に自分は生かされてると思うしね。ハードコア・コミュニティの、自分達の楽しみは自分達で作り出すっていう精神で、俺達は育ってきてるさ。それが若い人達にとっては、自分を表現する最初の一歩であり、自分を表現できる最初の場でもあったんだよ。大人になるにつれ、世の中ってそう単純じゃないもんだってことに気づき始めて……で、そうした微妙な、なんとも捉えがたいものを初めて自分なりに表現できたのがハードコア・バンドであって、あれはあれで、ある意味、すごく繊細な表現でもあったわけだよ(笑)。人生って、そんなに単純なもんじゃないし、可能性だって一つじゃないんだよっていう、それを最初の教えてくれたのがハードコアでありパンクだったんだよ」

●最後に、月並みな質問ですが、あなたを過剰といっていいほどのペースで創作に駆り立てるもの、あなたの創作活動の根幹を支えているものとは何だと言えますか。
「どうなんだろう、自分でもそれが何なのかわかんないままに活動を続けてて、自分のやってることに興味を持ってくれてる人もいてっていう……なんか、巨大なジグソーパズルでもやってるようなね。最終的にどういう絵が完成するのかはわかんないけど、一つ一つパズルのピースを埋めてってるっていう感じかな。それをやってないと、ソワソワして落ち着かないというか、そういう性分なんだよ(笑)」


(2008/06)



極私的2000年代考(仮)……ジョーン・オブ・アークというシカゴの重心)

2012年7月4日水曜日

極私的2000年代考(仮)……NY再興の徒花か、いかに:A.R.E. Weapons


●NYで本格的に音楽活動をスタートさせる以前は、どんなことをしていたんですか。 
「俺(※マシュー・マクーレイ)とブレイン(・F・マクペック)は12歳の頃から一緒に音楽をやってたんだ。俺の継父がギターを買ってくれて、無理矢理パンク・ロックを聴かされながら(笑)、一時期なんか継父も一緒にバンドをやってたこともあってさ(笑)。ボストンにいた頃はハードコアとかパンクをやってて、その後ちょっとジャズを勉強して、フリー・ジャズ・バンドをやってたこともあるんだ。とにかく今まで音楽以外のことはたいしてやってないんだよ」

●クロエ・セヴィニーや、彼女の弟で今はメンバーのポールに出会う以前は、生活保護を受けたり、路上でホームレスのような生活をしたりしてたそうですね。
「そうそう。って、いまだに貧乏なんだけどね(笑)。ポールには本当に助けてもらったよ。まあ、それまでもなんとか生活してたけど……確かにつらい時期もあった。でもとりあえずその日一日を乗り切るって感じでさ。それは今も変わってないんだ。今だって……5ドルしか持ってないし(笑)。明日からどうすんのかわかんないけど(笑)、ニューヨークってのはそれでも生きていける街なんだよ。足元よく見て歩けば金が落ちてるっていう(笑)」

●(笑)。あなたとブレインのふたりは、ボストンからワシントンDC、そしてNYへ、音楽が盛んで、しかもハード・コア/パンクからヒップホップや実験的なエレクトロニック・ミュージックまで、とりわけワイルドな音楽が集まった都市を渡り歩いてきたという印象を受けるのですが。
「うん」

●そうしたそれぞれの都市の音楽シーンやストリートの空気を吸うなかで、現在のA.R.E.ウェポンズのサウンドは生まれ、精錬されていった感じなのでしょうか。



「全くそのとおりだよ。今君が言ったような音楽と、他にもDCのゴーゴーからクラシックまで、とにかくあらゆるジャンルの音楽に触れてきたんだ。その3つの都市でしか暮らしたことがないし、そこで俺達の人格や音楽が作り上げられたのは事実だと思う。ワシントンDCには2、3年しか住んでなかったけど、できる限りのことをやり尽くしたってほどいろんなことをやったよ。DCではもうやることがないと思ったからNYに移ったようなもんなんだ。NYは無限の可能性にあふれた街だからね」

●NYが一番自分に合ってる?
「うん、断然NYが一番気に入ってる。今のところ世界で一番好きだね。まだ日本にも行ったことないし、いろんな都市を知ってるわけじゃないけど、とにかくNYは大好きだよ」

●あなたがもっとも影響を受けたバンドまたはアーティストは?
「うーん、音楽的に影響されたかどうかはともかく、インスピレーションっていうか、いつかこういうバンドになりたいと思ってるのはバッド・ブレインズなんだ。あんなにいいバンドになれたら最高だね。JAY‐Zみたいに多作なアーティストも尊敬してるし、目標にしてる。将来彼らのようになりたいと思ってるんだ」

●よく言われることだと思いますが、A.R.E.ウェポンズのサウンドからは、スーサイドやキャバレー・ヴォルテール、D.A.F.といった70年代後半から80年代前半のパンクでエレクトロニックなダンス・ミュージックや、あるいはフガジのようなハードコア・パンクといったグループを連想するのですが、こういったバンドは実際に聴いてたりしましたか。
「いやあ……好きなバンドではあるけど、普段よく聴く音楽じゃないっていうか……でもまあ、今はあんまり聴かないにしてもスーサイドは大好きだし、フガジもクールだと思う。君が言ってくれたようなバンドには多少影響されてる部分があるかもしれない。でもそれほど大きな……エネルギーをもらったとかそういう意味では強い影響を受けてないと思うんだ。バンドを始めた頃、俺達の音楽は70年代後半のエレクトロニック・ミュージックだってよく言われててさ、でもそうなったのは、単にその時代の機材を使ってたからなんだよ(笑)。とにかく手元にあるものでできるだけのことをしようとしてああいう音楽になったんだ。今はもうちょっと進化して……70年代後半の機材からスタートして、今やっと90年代前半のものが手に入ったんだよ。だからちょっとは時代に追いついたと思うけど(笑)。俺達にとっては最新の音が作れるようになったんだからさ(笑)」

●なるほど(笑)。ところで、スーサイドのアラン・ヴェガとマーティン・レヴのふたりには、イギー・ポップのようなロックンロールのワイルドさと、かたやヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルのような実験精神があった一方で、当時のロックンロールにもアートに対しても反抗的で辟易とした感情があったわけですけど、そうした部分で共感するところはありますか。
「うーん、そういう欲望よりも、俺達はもっと……現代の人達が持ってる、過去の音楽の記憶を塗り替えるようないい音楽を作ろうとしてるんだ。よくあるレトロ・ロックとか、安っぽいポップじゃなくてさ。俺達はそういう音楽はやりたくない。つまり、スーサイドがやってたことも俺達と同じで、乱暴すぎる印象を与えるかもしれないけど、人々の音楽に対する考え方を少しでも未来に向けさせるような音楽を作ろうとしてたんだと思うよ。それってロックンロールの精神でもあると思う」


●ニヒリスティックな性格ではない?
「あー、どうだろう……ニヒリスティックって、起こってしまうことはしょうがないって考えるタイプのことだろ? 俺達は基本的に楽観的で、やる気もある人間なんだ。まあニヒリズムや運命論も否定はしないけど、俺は神を信じてるし、つまり……うー、うまく答えられない。俺、哲学者じゃないからさ(笑)。……もちろんパンク精神はあると思う。パンクの怒り……いや、怒りじゃないな、なんていうか、人から言われたことを鵜呑みにしない態度とか、自分が信じられると確信したものだけを信じるっていうところはあると思うよ」

●あなたが音楽に感じる一番シビれる瞬間とは?
「……その音楽を作った人が、俺と同じ世界観を持ってるって実感した時だな。悲しい曲でもハッピーな曲でも、自分が感じてることがうまく表現されてるのを聴くとぐっとくるんだ。気に入ってるものなら、メタリカの曲でもバレエの『くるみ割り人形』でも(笑)、同じように共感できる。その曲の真髄に触れるっていうか、俺と同じ感じ方をする人が作った音楽なんだってわかる瞬間があるんだよね」

●こんかいリリースされたアルバム『A.R.E.ウェポンズ』ですが、これまでの2枚のEPが試作品か予行演習に思えてしまうほど、クレイジーな“実戦向き”の作品であるなと。昨年の秋頃にはすでに完成されていたそうですが――。
「レコーディングは去年の5月には終わってたんだ」

●では、あらためて振り返ってみて、自分ではアルバムをどう評価してますか。
「すごく気に入ってる。5月にレコーディングが終わって、それからしばらく、確か10月になるくらいまで聴かずにほっといたんだけど、あらためて聴いてやっぱりいいアルバムだと思ったよ。すごく満足してる。いまだに自分でもよく聴くしね。レコーディングが終わった後にまた何曲か作ったから、それも入れられたら完璧なんだけど……でもとりあえず今までの作品の中では一番気に入ってるよ。これまでのEPは、このアルバムを作るための練習だったっていうか、機材の使い方を勉強してる途中だったんだよね(笑)。さっきも言ったけど、今はもっと新しい機材も手に入ったからさ。これまではもっととっつきやすい音楽を作りたいと思っても、どうすればいいのかわからなかったんだ。当時の機材では自分達のやりたいことを実現できなかったんだよね。でも今はサンプラー・シークエンサー、デジタル・キーボードもあるし、今までできなかったようなサウンドを作れるようになったんだよ」

●アルバムを聴いて驚いたのは、ビートやトラックがEPと比べてビルドアップされていた点なんですが、アルバムを作る上で特に意識した点はありますか。
「俺達が作りたかったのは……周りにいる人達、つまり、俺達の成功に力を貸してくれた人達が喜んで聴いてくれるようなアルバムだった。仲間と一緒に楽しめる音楽を作りたかったんだよ。それに……たとえば俺が今13歳、14歳くらいだったらどんな音楽を聴きたいかっていうのも頭にあった。古臭くなくて、クレイジーで勢いがあるもの、13歳の俺が聴きたくなるようなサウンドを作りたかったんだよね」

●A.R.E.ウェポンズはトラック・メイクが独得というか、ヒップホップとの距離感が絶妙だなと。
「おっ、ありがとう(笑)。……まあ、最近のヒップホップもそれはそれでいいと思うよ。でももっとハードでアグレッシヴなもののほうが……なんていうか、音楽で大事なのはバランスだと思うんだ。たとえば、暗くてアグレッシヴな感じで曲を作り始めたら、キャッチーで軽い感じもプラスするようにして、逆にキャッチーさが前面に出てる曲になってきたらダークな感じを加えていくっていうふうに、バランスを持たせることが大事だと思う。人生と同じでさ、二面性があるってこと。そういう意味でビギー・スモールズは優れたミュージシャンだったと思うんだ。ダークな感じとR&Bのビートのバランスがうまくとれてたからね。俺が最近気に入ってよく聴いてるのは、ニュー・モダン・ジャマイカン・ダンスものっていうか、デジタル音楽で、ハードでクレイジーなんだけど、きれいなメロディのヴォーカルがのっかってるやつなんだ。メロディはきれいでも、歌詞は『殺してやる』っていう内容だったりするんだけどさ(笑)。とにかく、俺はバランスがとれてる音楽が好きなんだよ。甘ったるいだけの音楽なんか嫌いだし、メタルでも、俺は基本的にヘヴィ・メタルは好きなんだけど、単に邪悪なだけのメタルもつまらないと思うんだ。その点メタリカはいいよね。悪魔少年のことだけ歌ってるわけじゃなくて(笑)」

●(笑)。ちなみに、レコーディングや音作りはどんな感じで行われるのですか。緻密に計画を練るというよりは、その場の雰囲気やノリを最優先に即興的にレコーディングされる……というイメージなんですが。


「あー、実際は……ブレインと俺が……まずサンプラー・シークエンサーとデジタル・キーボードでドラム・ビートを作るんだ。で、それに合わせて即興でアレンジを加えていくんだよ。ベースラインやリズム、メロディなんかをビートにかぶせていって……その部分は即興で作ってる。その後で気に入ったところといらないところを決めながら編集していって……まあ、結局はいろいろ手を加えすぎちゃって、『もうたくさんだ!』ってところまで来てやめるんだけどね(笑)。曲にもよるけどさ。今回スタジオでアルバムをレコーディングしてた時も、同時進行で曲を作ってたんだ。スタジオにいた間だけでできた曲もあるくらいで」

●基本的に、作曲の初めの段階からブレインとの共同作業なんですか。
「そう。俺が先にビートを思いついて、ブレインがメロディをつけていく時もあるし、その逆もあるんだ。基本的にそういった共同作業だけど、まずブレインが曲のアイデアを思いつくことが多い気がする。曲の内容とか、歌詞の一部なんかをあいつが思いついて、それから一緒に歌詞を増やしていって、曲を発展させて……うん、俺達ふたりで初めから最後まで一緒に作るっていうのが基本だね」

●リリックはどんな感じでいつも書いてるんですか。
「そうだな、“Changes”がいい例だと思うけど……俺が……まず初めの部分を書いて……一応ひととおり最後まで作ってみて、ブレインがそれにいろいろ加えていって、最終的にふたりで完成させる感じなんだ。歌詞を書くのは難しいよね。できるだけストレートで……それでいてちゃんと曲になってなくちゃいけないし……とにかく安っぽい歌詞にはしたくない(笑)。詩的じゃなくていいけど、せめて何かしら意味がある歌詞にしたいと思ってるんだ」

●歌詞を作るのはスタジオでだけじゃなくて、たとえば街を歩いてる時なんかにも思いついたりするんですか。
「そうだね。歌詞の手直しは時間がかかるし……ブレインは何十冊ものノートに歌詞を書き溜めてるんだ。俺はいつも書き留めてるわけじゃないけど、街を歩きながらいいフレーズを思いつくこともあるよ」

●ところで、“Changes”には、「Some People Just Go Insane / Nothing New in 2002(*頭がおかしい人々/2002年には珍しくないこと)」というフレーズがあります。これは、今のアメリカが進もうとしている状況や、あるいはメディアで騒がれているNYのシーンに対するあなたの皮膚感覚を綴ったものなのかな?とも感じたのですが。
「うーん、実際そういうことを言いたくて作った曲じゃないけど、あてはまるとは思う。あの曲を作ってた時は単に『みんな頭がおかしくなってる』って気がしてただけなんだ(笑)。誰も自分の頭が狂ってて間違ったことをしてるなんて認めたがらないからね(笑)。うん、君が言ったことも両方あてはまると思うよ。意図的にそうしたわけじゃないにしても」

●たとえばライアーズやヤー・ヤー・ヤーズ、ラプチャーやレディオ4にブラック・ダイスを筆頭に、今のNYの音楽シーンは稀に見る盛り上がりを見せていますが、そうした状況については正直どう見てます?
「それは……メディアが狂ってるだけだと思う。NYっていうのは昔からクリエイティヴな人達が集まる場所なんだ。表現する自由を手に入れて、世界中に自分の存在を知らしめたいような人達がね。だからNYには今までだってものすごい数のバンドがいたわけで、いいバンドも少なくなかった。まあ、そんなによくない時期もあったけど……今騒がれてるようなバンドにはそんなに興味ないよ(笑)。あんまり意識してない。今NYの音楽シーンが注目されてるのだって、俺にしてみれば変な感じだよ。いかにも、あー……ルネッサンスがどうのって言う人もいるけどさ、あいつらが取り上げてるのは白人のキッズだけなんだからね。NYで新しいトレンドが生まれたってことで、ヤー・ヤー・ヤーズやライアーズ、それに俺達までいろいろ言われるようになったけど、実際チャートのトップにいるNYのアーティストはJAY‐Zや50セントだっていう事実を無視してるんだよ。彼らだってNY出身なのにさ」

●音楽に限らず、アート・シーンやいろんなフィールドにあなた方は顔が広いような印象があるのですが、ふだんはどんな連中とツルんでるんですか?
「あーんと……正直言って、ほとんどブレインとポールとだけなんだよな。他に友達っていうと……フリー・ライターとかスケーターの連中とか……ミュージシャン、DJ、ヒップホップ・キッズ……有名な人は誰も思いつかないんだけど(笑)」

●仲のいいバンドとかいます?
「仲がいいのは……そうだな……付き合いが長い友達がラプチャーでサックス吹いてるけど……だからって別にバンドとして仲がいいわけじゃないんだ(笑)。その友達っていうのがもともとあのバンドでも浮いてる存在だからさ(笑)。そいつと一緒のバンドにいたこともあるんだけどね。DCにいた頃からの友達だからさ」


●音楽的に一番共感できるバンドは?
「音楽的にはたぶん……NYから出てきたミュージシャンでいうと、アンドリューW.K.だね。さっき君が挙げたNY出身バンドと比べても一番好きだよ。ブラック・ミュージックを含めないなら、だけど(笑)。うん、彼は今メディアで騒がれてるNYシーンからは外されてるけど、実際俺が聴いてるいわゆるNYアーティストはアンドリューだけなんだ(笑)」

●ちなみに、グループ名の「A.R.E.」は「Atomic・Revenge・ Extreme」の略で、特に意味はないとのことですが――。
「まあ、好きな意味にとってくれて構わないよ。この名前はブレインのアイデアで、あいつは将来私立探偵になるのを夢見ててさ、コードネームはA.R.E.ウェポンズにしようって決めてあったんだ(笑)。でもクールな名前だからバンド名に使わせてもらったんだよ。今回のアルバムに“A.R.E.”って曲があって、そこでは“Attitude, Raw Energy”の略なんだよね。だから場合によって意味も変わるし、特に決まった意味はないんだ」

●では、今の自分たちが新たに「A.R.E.」に意味を与えるとするなら?
「そうだな、今のところ“Attitude, Raw Energy”が一番しっくりくると思う。俺達の原動力を表わす言葉だからさ。これがなかったらバンド活動も続けられなかっただろうし、その前にストリートでくたばってたって(笑)。“Attitude, Raw Energy”があったからこそ、ここまでなんとかやってこれたんだよ」



(2003/02)

2012年7月3日火曜日

2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定)



◎/please//ST
リタ・アッカーマンも思わせるジャケのポートレート(本人?)に惹かれたEllen Davies嬢(女性だよね?)のドリーム・ポップ・プロジェクト。ショアーなアコギの響きと、レイヤード・シンセのめくるめくブリージネス。ドリーム・ポップ+チルウェイヴ=ドリーム・ウェイヴというのも安易だが頷ける心地よさ。ブツはMagic Rub CassettesだがBandcampを仕切るSewage TAPESは要注目。新作の『Daydreams always seem​.​.​.』ってタイトルもいいな。


◎Rags/ST
これがデビュー盤(デモ音源?)になるサタニックなブラック・メタル・プロジェクト。といっても本域というよりは、たとえばリタジーやミック・バー周辺に近いブルックリンの新感覚なメタル風。ミニマルなリフの構築はマス寄りというか。スペイン発ということで意外というかどんなシーンなんだろう?と興味がわく。


◎rale/The Moon Regarded, And The Bright One Sought
南カリフォルニアのドローン作家。イーノ『Another Green World』の暗黒ヴァージョン。合わせ鏡のようなA/B面。果ての見えない無間の景色を広げる。



◎Polluted Water/Nature Man  Woman
Hobo CubesもリリースするGoldTimersTapesから、シカゴのアンビエント作家。「汚/穢水」とは絶妙なネーミングだが、ケミカルウォッシュされたシンセの海原をドリフトするようなA面、対してB面では深海にもぐり水圧のなかまんじりと息を潜めるかのごとく重苦しいドローン。


◎Polymer Slug/Simple Displays Control
digitalisの限定ラインからリリース。シカゴに拠点を置くAdam Tramposhのソロ。模範的なシンセ・アンビエントといった感じだが、かたや(?)Dolphins into the Futureのアンビエントが深海の暖流ならPolymer Slugはまるで湖水の朝靄を思わせる。奇矯なコラージュのジャケとは裏腹に耳当たりは上品。



◎Animal Collective/Keep
スニーカーブランドとコラボした付録カセット。各メンバーのソロ名義の曲を収録。既発ソロの延長であるエイヴィとパンダはさて置き、ディーケンのエコーブルなピアノ・サイケとアルト・ヴォイス、そしてジオロジストの霊妙なアンビエント・トラックが聴きどころ。ちなみにニュー・アルバムの『Centipede Hz』とは無縁だが、その残響を聴き取れなくもないわけではなく……なにせアニコレのアルバムとは常に「メンバーそれぞれがその時期に聴いていた音楽の傾向が重なり合う分岐点」であるわけだからして……。


◎Russian Tsarlag/Classic Dog Control Booth

ポスト・アリエル・ピンクとは異論もあろうが、どちらがR.スティーヴ・ムーアの作法・手癖をより受け継いでいるかと問われれば鼻差で軍配が上がるのでは、という気もしないではないカルロス・ゴンザレスのソロ・プロジェクト。アシッド・フォーキィーなミニマル・ギターにコラージュも織り交ぜたシンセ・エレクトロニクス、リズム・ボックスのドップラー効果。ローファイなアンビエンスはピーキング・ライツやサン・アロウに代表されるNNFのお家芸といった感も。あるいはストーンドしたダーティー・ビーチズのような。



◎Police Academy 6/ST
奇矯なエレクトロニクス・ミュージックを量産輩出するAMDISCSから。チャド・ヴァリーをいかがわしくデコレイトしたようなチルウェイヴィーなシンセR&B。多彩なゲストを擁したヴォーカルは宅録女子とは異なり音響化ではなく歌謡化へ。宅録のジョージ・マイケルか?といった場面も含めて色気と俗が混じり合う感覚は、まあなんと承認欲求があけすけというか、あるいみガチ。


◎Saåad/Pink Sabbath
Romain Barbotによるブルックリンのダーク・アンビエント。ラーガのようなウォール・オブ・サウンド、分厚いエコーとドローンは……“ももいろサバス”とはご愛嬌だが、本家(?)“くろいろサバス”とは異なる夢幻の暗黒を創出。



◎Salamander Wool/Espionage Briefcase
ボルチモアのCarson Garhart。エディットのセンスにクリスチャン・マークレイ~ジョン・オズワルド的なものも感じるが、ローファイなダブ・ファンクとコラージュ/コンクレートとトライバリズムの混交は、まるでNNFとSublime Frequenciesの共同リリースを思わせる。


◎Samantha Glass/Midnight Arrival
フリー・フォークの一角Davenportから派生したSecond Family Bandの元メンバー。NNFからのリリースもあるウィスコンシン州マジソンのBeau Devereauxによるソロ・プロジェクト。ローファイなクラウト・ロックというかトリッピーなハード・ロックというか。すっかりストーンドした歌声に浮女子ならぬ夢遊男子といった趣も。しかし今西海岸で起きていることは、100%Silk周辺の動きも含めてフリー・フォークから続く“New Weird America”の新たな局面なんだろうな。


◎Sashash Ulz/Ornamentika

Hooker Visionからリリースとなるロシアのアンビエント作家。宗教的な静寂とニューエイジなトリップの狭間でエレクトロニクスがやわらかなうねりを広げる。溢れかえるシンセとムーグの囀りを引き摺りながら、まるで大気がざわめくようなドローンを展開。


◎Sean McCann/Mirage Warehouse
映像作家としての顔も持つ西海岸のアンビエンティスト。クラシックの影響も窺わせるシンフォニックなエレクトロニクスと持続音。テープ・コラージュも重ねるアヴァンな展開も見せるが、基本ノーブルな曲調で正統派的といえる。


◎Sean Nicholas Savage/Trippple Midnight Karma
モントリオールのサイケデリック・ソウル・ポップ。モータウンや80Sシンセ・ポップ、レゲエやエスノ趣味も備えた……ヴァンパイア・ウィークエンド~MGMT以降のセンスも窺わせる宅録ドリーマー。アーバン・ポップ的というか、サバービアが夢見るサーフ・ミュージックといった趣きも。かといってチルウェイヴ的なコンプ感はなく、正しくローファイ的感性というかな。

◎Seziki Tetrasheaf/Keys To Kishore
まさにNew Weird America、なフロリダのテープ・コラージュニスト。継ぎ接ぎしては塗り重ね、ピッチを弄り倒してチョップド&スクリュード、だだ漏れなアシッド・サイケを垂れ流す……さながらキャロライナー・レインボーとジェームス・フェラーロを混淆させたようなヘルタースケルター感。タイラー的な露悪趣味も。


◎Shingles/White Out Grasshopper等のメンバーを兼ねるJesse DeRosaのソロ。タイトル通り視界を失うまで果てしなく続くようなシンセ・ドローン。動力を奪われたクラスターのごとくふわふわと虚空を彷徨う……。


◎Simon Frank/Unheated Neighbors
トロントのベッドルーム・ローファイ・サイケデリア。アリエル・ピンク・ミーツ・スーサイド? リズム・ボックスに揺られながらノイズと戯れ、よしんば朗々と唄心も披露する面妖ぶりは、しかし不思議と初々しさも滲ませ、ますますカルトなムードを醸し出す。初期の頃のウェーヴスも思わせる。

◎Skoal Kodiak/Kryptonym Bodliak
The Cows(!)を始め錚々たるバンドで活動したメンバーが結集したミネソタのトリオ。Loadの先輩(経歴的には逆か)MindflayerやNeon Hunkの系統に属すトラッシー&トランシーでエレクトロニックなマス・ロック。ベース+ドラムがデフォだがジャムのテイストはライトニング・ボルトよりも近作のブラック・ダイスに近い。ノイジーなシンセとファンキー・ダブなグルーヴ、コンプされたヴォーカルはカートゥーンぽく、アヴァンギャルドに振り切れないポップさが2000年代らしいというか。


◎Spare Death Icon/Survival
さまざまな名義を使い分けるシアトルのJason E. Anderson。ダーク・ウェーヴとウィッチ・ハウスの間隙を突くシンセ・ヒプナゴジア。



◎Speculator/Lifestyle  昨年リリースされた『Nice』が話題を集めたロスの宅録ボーイ。シューゲ~ローファイなポップ・パンク~80sポップ趣味はウェーヴスと初期チルウェイヴを繋ぐイメージだが、ドラッギーなノイズやドローンも披露する身軽な所作は、アンダーグラウンドなすえた匂いはなくカジュアルで現代っ子ぽい。現状、ここがマックスな感もあるが、うまくフックアップされれば化けるかも。

◎Stag Hare/Sand Paintings
鳥の鳴き声や風に揺れる木々の音などフィールド・レコーディングも取り入れつつ、曳航するシンセ・ドローンとパーカッションでオーガニックなアンビエント空間を描き出す。パンダ・ベアも思わせる抜け感のある歌声が誘う、悠久のメディテーション。



◎Stephen Molyneux/Cambodian Field Recordings
ナッシュビルのミュージック・コレクティブ、Horsehair Everywhereの一員がタイやカンボジアで採取したフィールド・レコーディング。 人声や雑踏のグライディング・トーンが奏でるナチュラル・アンビエント、ナチュラル・ドローン……。
















2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))