2012年1月16日月曜日

2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎V.A./Dark As Night (2010)
個人的にはUSインディー~アンダーグラウンドの潮目の変化を感じた作品。前年(2009年)リリースの、ネオ・フォークならぬ“ネオ・アメリカーナ”とでも呼びたい2000年代USインディーによるアメリカン・ルーツ~伝承音楽のレトロスペクティヴ『Dark Was The Night』とは内容もタイトルもメンツも対照的で、Sleep ∞ OverやoOoOOによるエレクトロニックなダーク・ヒプナゴジアは2010年代の行方を暗示していた……とも。

◎Robedoor/Rock Bottom(2011)
妻のアマンダ・ブラウンは相変わらずLA Vampire名義でディスコ~エセハウス路線に夢中だが、夫ブリットの方は安心のNot Not Funクオリティーというか(リリースはNight Peopleだが)、ドロドロのトリッピー。まあ、アマンダもアレで確信犯的に90年代の(アンチ・グランジ/オルタナティブロック、としての)マテリアリスティックなクラブミュージックを擬態してみせているというのだから、このダンナの方にも何かしらの象徴性があるのかも……ともあれ、この辺りはもう一度フリーフォーク以降の流れからの再考が必要かと。アマンダにはそろそろPocahauntedに代わる強烈なヤツ始めてほしいところだが。

◎Ela Orleans/NEO PI-R(2011)
ダーティー・ビーチズとのスプリットで知った女性ソロ・アーティスト。お国はヨーロッパの方とか。グラスゴーでバンドをやってる、とも。後付けに聞こえるかもですが、女性版ダーティー・ビーチズな色気があります。ロカビリーもあるし、男前。

◎Tom Carter/All Ahead Now(2011)
「ノイズ(・ミュージック)って本質的にはマッチョ/男性的なものだから好きじゃない。でもクリスティーナ・カーターは違うのよ」とはキム・ゴードンの弁。その彼女も近年のソロ名義はフォーク色が濃厚だが、ハラランビデスの片割れで元夫のトムは、ソロでも共演作でも求道的にサイケデリック・ミュージックを追求し続けているという印象。


◎Diva/The Glitter End(2011)
元ボカハウンテッドと知って驚き。そして膝を打つ。アマンダのソロとは異なり後期ポカのトリッピー&トライバルなヴァイヴを継いだというか。彼女は、ボカを抜けベスト・コーストを始めたベサニーの後釜として加入したはずだから、ということは元?ブラック・ブラックのあの娘か。まあ、ブラックブラックはもう少し登場が遅ければローファイ~ゴスポップの流行りに乗れて人気者になれたのにな。

◎Monkey King/La lune se cache derriere la montagne(2009)
自分がカセット集めるきっかけになった中の一本。ダーティー・プロジェクターズの元?一員のウィル・グラスが関わるデュオ。曰く「アシュ・ラ・テンペルが動物の狐憑きの式典でアタリ2600を弾く……」とか。ちなみに片割れはGOAというユニットでトライバルな感じの音楽を。

◎Aerial Jungle/Tales Of Acoustic Levitation(2011)
ご存知Motion Sickness Of Time Travelとして人気爆発のレイチェル・エヴァンスによる別名義ユニット。MSOTTと比べるとエレクトロニカ~エレポップ的なフックが親しみやすい。……と思ったらそうでもなかったり。

◎Thoughts on Air/Vent(2011)
アルバムが出たばかり?間近?のソロアーティスト。ボーズ・オブ・カナダの叙情性をアンビエントに引き延ばしたような。まさにヒプナゴジック。

◎Angel Olsen/Strange Cacti(2011)
ノースカロライナのBatheticから。古風なアシッド・フォークとも言えるが、闇を引き摺りながらも可憐な輝きを見せる様子は、ジョニ・ミッチェルやフランソワーズ・アルディに喩えられるのも頷ける。




◎Stitched Vision/Fold(2011)
オーストラリアから。ブリブリ&ドローニッシュなシンセ無限地獄。ややニューエイジ寄り。






◎Indian Weapons/Labyrinth(2011)
 夫妻+1人のトリオ。ブリーピーでコラージュめいたシンセ&ノイズ。コズミックなウルフ・アイズという印象も。奔放なオシレーター使いはシルヴァー・アップルズ直系か。





◎Lee Noble/No Becoming(2011)
エクスポ70やコフ・クールら擁するSweet Lodge Guruからリリースする、西海岸のアンビエント・ドローン・マスター。寄せては返すテラー・ポップはエレアコな妙味も。Horsehair Everywhereといバンドの一員。



◎Hot & Cold/Conclusion Introduction(2011)
サイモン&ヨシュア・フランクという兄弟デュオ。早い話がローファイ?ローテク?なスーサイドというか、乾いたベースとドラムマシーンによるファジー・ポップ。





◎Geoffrey Sexton/Suburban Sun Births
実験的な映像作家でもあるらしい。ひたすらダークでゴーストリーな、ミニマル・アンビエント&ドローン。無音部分のヒスノイズさえも何かを物語るよう。





◎Octo Octa/Rough, Rugged, And Raw
LA吸血鬼のアマンダ・ブラウン率いるNot Not Fun傘下のディスコ・レーベル100%silkから。なるほどレイヴィーなテック・ハウス。いかがわしくて、確信犯的な安っぽさ。カセットリリースというのが意外だが、改めて主宰者アマンダのクオリティーコントロールは徹底している。




◎Sore Eros/Sickies Volume One
ローファイなヨンシー?アンドロジニアスなアリエル・ピンク? コネチカットの、元々はソロ・プロジェクトだったロバート・ロビンソンによるバンド作。パンダ・ベアとも交流あり。


 
◎Ralph White/The Hanged Man 
テキサスのサイケ・カンリー。バンジョーやフィドル、アコーディオンや手製のマンドリンを、1人かバンドを従えて朴訥と奏でる。マット・ヴァレンタインほど中毒性はないが、ヘンリー・フリントのアーカイブスに所蔵されてても違和感ない。



◎Trailblazer/Successor
信頼のNight Peopleから。レキシントンのColeman Guyonによるソロ。スペクトラム~ソニック・ブームとジャーマン・エレクトロニクスの催眠的混交。惚けた歌声が、また……



◎1958-2009/1958-2009
その名やアートワーク(black&white!)が物語る、謎のMJドリビュート・デュオ。しかし中身は、シンセとギターが満ち引きを繰り返す、ただただ茫洋として美しいアンビエント・ドローン。もしかしてよくよく聴くとカバーなのかもしれないが……


◎Righteous Acid/Mellow Doses
Sun Arawことキャメロン・スタローンズ主宰のSun Arkから。The Invisible Astro Healing Rhythm Quartetで叩く西海岸のソロ・プロジェクト。Sublime Frequenciesを聴き狂ったダックテイルズというか、文化的坩堝の軒先で流れる大衆ラジオのよう。






◎Golden Retriever/Emergent Layer
スリル・ジョッキーがディストリビュートするポートランドのデュオ。モジュラーシンセとベースクラリネットが奏でるディープ・メディテーション。NNA Tapesから。



◎Heat Wave /Empty Head
何者でしょうか。テープもまた匿名性の高いメディアかもしれません。「サランラップで巻かれたような」終始モコモコと淀んだ音像。幾重もの層から継ぎ接ぎされた記憶が染み出してくる……。

◎M. Geddes Gengras/the Kiss of Life
ロスのGed Gengrasによるプロジェクト。USアンダーグラウンドのシンセ・ミュージック=「sci-fi」シーンで近年メキメキ頭角を。ロマンチックなタイトルとは裏腹にアナログ・シンセが暴れ回る。多作です。




◎Dirty Beaches/Night City
こ存じ“汚れた砂浜”。全編インストで、後発のアルバムと比べるとデモ音源集的な趣きも。近年のUSアンダーグラウンドの活況とカセット・リリースの密接な関わりについては、あらためて押さえるべきポイントだろう。




◎Hering und seine sieben Sachen/Magnetismustourismus
Autistic Argonauts名義でもリリースする、レーベル主宰者のドイツ人Daniel Voigt。アートワークとも相まってドリーミーなシンセ・ドローン。日本の吟醸派にも言えるけど、カセット作品/「sci-fi」にローカリズムはないなー。


◎JEFFRY ASTIN/GRASSES ONLY GREEN
話題のNite Liteを始め多数のプロジェクトや作品に関わるテープ・ノイジシャン/サウンド・コラージュニスト。例えば日本のVIDEOTAPEMUSICを連想させる。



◎Napolian / Computer Dreams/split
好相性のスプリット。シンセ・ポップとサンプリングのファンキー・フュージョン。“歌もの”チルウェイヴをメタorベタに茶化したような。この界隈はbandcampとも連動しながら無数の関連tagを伴い増殖&細分化が進行中。



◎Pendulums/Circular Energies
吟醸派から、米デラウェアのSacred Phrasesを主宰するデュオ。同レーベルの太陽塔やぶちかましとも相通じるニューエイジなシンセ・ドローン 。



◎Laser Disc/Visions New Dreams LTD

ビデオデッキやラジカセに死蔵されたTVCMやアナウンス、AORやらフュージョンやらファンク、具体音とか効果音とかガラクタのような音源をマッシュアップした、レトロフューチャーなネオ・トーキョーのサウンドトラック。アートワークが言わずもがな……。


◎Voder Deth Squad/1
奇才M. Geddes GengrasとJeremy Kellyによるユニット。「リドリー・スコットのSF映画のサントラのよう…」とも評されるが、個人的にはタルコフスキーのプラズマの海を想起。裏面はフィリップ・グラスも彷彿させるたおやかなアンビエンス。


◎EMA/Little Sketches On Tape
去年ブレイクしたエリカ様。ピアノやテープ・コラージュも交えたドローニッシュなノイズ・フォークはなるほどex Gowns。企画で披露したニルヴァーナ“Endless, Nameless”のカヴァーも最高にカッコよかった。


◎Wether/Walking Through Black Prisms
ナッシュヴィルのカセット専門No Kings RecordsからMike Haleyのソロ。ブーン、ブーン、ジジジ、ジジジ……と続くA面の曇天漆黒のシンセ・ドローンはSunn O)))のオマージュのようにも聴こえたり、聴こえなかったり……。一転、B面は雨上がりにかかる虹のようにキラキラ。

◎Cough Cool/Clausen
ニュージャージーの宅録ソロ。シンセやギターやドラムマシーンをあまく重ね、ひたすらディレイとループでシークエンスを演出する脳内麻薬のようなフローティング・ポップ。初期セバドーからスロウダイヴまで引き合いだされてローファイ~シューゲの文脈で語られるが、実態はかなりゆるい……。



◎Mind Over Mirrors/High & Upon
DigitalisからもリリースするJaime Fennellyのユニット名義。ラ・モンテ・ヤングのパイプ・オルガンも連想させるシンセ・ドローンには教会音楽からの影響も。反復、反響、ミニマリズム……。



◎Nite Lite/Marlene
ポートランドのStunned Recordsから、レーベル主宰者によるデュオ。まるで文明と野生の衝突/混交を記録したかのようなフィールド・レコーディングス。メタルノイズと鳥の声。コンガと阿鼻叫喚。片割れはスーパー・ミネラルズやマジック・ランタンとしても活動。

◎Josephine/You Are Perfect Today
Grouperとコラボのテープ作品もある Jefre Cantu-Ledesmaによるデュオ。ハーモニウムとギターが描くウォーミーなドローン。60年代のジョン・ケイルの作品のような趣きも。Moholy-Nagy やIsidore Ducasseといったユニットでも活動。




◎Gypsy Treasures/Buried Goods
Sublime FrequenciesへのUSアンダーグラウンドからの返答? NNFがリリースする、RailcarsことAria Jalaliのプロジェクト。リヴァーブとエレクトロニクスで禍々しく飾られた宅録ラーガ。ちなみにbandcampで無料購入も可。




◎Angel Eyes/Dire Dish
オーストラリアはメルボルンから。ギターやキーボードが奏でるたおやかな瞑想サイケ。




◎Dustin Wong/Let It Go
近作と比べるとレイヤー度は控え目だが、まがうかたなきダスティン節。タップ&ループのひとりギター・オーケストラ。リズミックなミニマル・ギター・アンビエンス。エリック・サティ“Gymnopedie”の妖艶?なカバーも。



◎The Deep/Life Light
トロントのデュオ。シンセループ&ベース&ドラムマシーン+ゴーストリーな女性vo。USアングラ経由のジュリアンナ・バーウィックというか。100%silkからリリースも。


◎Teeth Mountain/Teeth Mountain
ボルチモアが誇る最強のコレクティブ。例えるならジャッキーOマザーファッカーにアモン・デュールⅠ&Ⅱをぶち込んだような。あるいはEPI時代のヴェルヴェット・アンダーグラウンド。ライブ・カセット『Live On』も強烈だが、まずはライブ動画を御覧あれ。

◎Bear Bones, Lay Low/Smoked The Whole Thing
切り絵風のアートワークに惹かれて。アーネスト・ゴンザレスなる氏のソロ、という以外は……と調べたら、Sylvester Anfang IIの一員として重厚なストーナー・サウンドを。こちらはウネウネのシンセ・ラーガ。なるほど、煙たい、です。




◎The New Honey Shade/Ozark Dream
注目のThe Caretakerとも並び評されるMark Kuykendallのプロジェクト。フィールド・レコーディングやモノローグを織り交ぜた、映像喚起性の高いアンビエンス。Scisscor Tailから。



◎Cankun/Jaguar Dance
NNFが送るVincent Cayletのソロ=フランスからの刺客。シンセとギター・ループが奏でるモコモコのヒプナゴジアはサン・アロウや、同じくフランスのハイ・ウルフとも比較される代物。遠くでヴォーカルも聴こえる…


◎Gnod/Science & Industry
ポカハウンテッドやサン・アロウとの共演が縁でNNFと契りを交わした、マンチェスターの暗黒宇宙。スラッジとラーガを橋渡す、リチュアルでヘヴィ・ジャミーなウォール・オブ・サウンド。“Deadbeat Disco In Paper Error Shocker!”って曲名もヤバい。

◎Dylan Ettinger/New Age Outlaws
ブルーミントンの奇想音楽家。ムーグ・シンセがピーヒャラ~ピーヒャラと誘うドローン・ダブ。「ニューエイジ」はキーワードだが、その未来図はダリの画のようにひしゃげ、とろけかかっている…。彼の前ではジョン・マウスも眩しい。




◎Rangers/low cut fades
昨年のアルバムも好評だった、ポスト・アリエル・ピンクの異名もとるサンフランシスコの奇才。一向に覚める気配のない、浅い眠りを繰り返すような甘くも倦怠的なベッドルーム・ファンタジー。サン・アロウ然りだが、この手に宿る澱んだファンキー感は、ほんとケッタイな。


◎Mad Nanna/I Made Blood Better
豪メルボルンでAlbert's Basementを運営するMichael Zulickiのプロジェクト。ジャンデックも思わすウィアードなアヴァン・フォーク。幽霊的。





◎Malibu Wands/C H D W
Mr. William Cody Watsonによる20分×4セットのドローン・エクササイズ。ウルフ・アイズがエメラルズに感化されてドローンを始めたら……と妄想も。タイトルは「Cult, Hive, Drug, Worship」の意。





◎Blank Realm/Dirty Ark
豪ブリスベンの4人組。4-trackとProToolsを駆使し録音されたインプロヴィゼーショナル・アヴァン・ロック。個人的には(活動の不定期な)マジック・マーカーズの後釜を担う逸材と期待です。

◎Blues Control/Riverboat Styx
来日を見逃したことを今も悔やむ……。スラッジーなギターとドラムマシーン、ハーモニカetcがメロと拍子をとるドローン音頭。ノー・ネック・ブルース・バンドとエクセプターを結ぶ中間点。

 


◎Deep Magic/Solar Meditations
Dreamcolourのドラマーでもあるアレックス・グレイのソロ。キーボードやギター、フィールドレコーディングやムーリッツピアノを交えつつ。太陽というより月面をまったり眺めるようなアンビエンス。



◎Lucky Dragons/Shape Tape
LAのアート・デュオ。時に観客まで巻き込み、様々な仕掛けを配しハプニング的なサウンド・エクスペリメンタルを創造する。……と期待するとやや肩透かし感も。どっぷり頭まで浸かったメディテーション。





◎Maria Minerva - Tallin at Dawn
NNF/100%silkが誇るシンセ・ポップ~ディスコ・クィーン。LA Vampireことアマンダとは良き姉妹的関係。エストニア生まれのエキゾチカ。


◎ Peaking Lights/Imaginary Falcons
Night PeopleとNNFからリリースというのがまた。それと片割れがexナンバーズというのも個人的にはツボ。サン・アロウやハイ・ウルフのラインだが、アニコレ辺りのサイケ・ポップとも接続可能な聴きやすさが魅力か。ちなみに去年出たアルバムのリミックスに100%silkのItalからエイドリアン・シャーウッドまで参加してるのも面白い。DOMINO経由でアンダーグラウンドから一抜け感も。

◎Topping Bottoms/Towers Of Spines
一昨年にハイ・ウルフと来日公演も。というか日本人をメンバーに含むので……活動拠点はどこなんだろう? 編成は流動的だが、同じNNFで言えばエターナル・タペストリーやマジック・ランタン(~ジャッキー・O・マザーファッカー)にも近いサイケデリックなジャム・スタイル。PSF直系の和製アングラ・サイケ~ノイズの影響も言われるが、その辺りは指摘も野暮なくらい境界は曖昧というか。


◎Psychic Reality/LA Vampires/Psychic Reality/LA Vampires
後の女性シンセ・ポップやウィッチ・ハウスの台頭を予見させた両者だが、あらためて聴き返すと混濁甚だしくダウナーで、NNFのレーベル・カラーを正しく象徴している……というか。Psychic RealityことLeyna Noelはまるでスロッビング・グリッスルで踊るように禍々しく、今やすっかりディスコ狂のアマンダだが、この頃はまだリディア・ランチやジェニファー・ヘレマとの間を揺れ動いていたような印象も。スリッツの“泥パイ”も連想させる“血糊パイ”ジャケが、気分。









極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))

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