2014年2月27日木曜日

2014年の熟聴盤②

・ Hobo Cubes/Apex Ideals
・ Opitope/Physis
・ Neneh Cherry/Blank Project
・ D/P/I/08.DD.15
・ Thug Entrancer/Death After Life
・ V.A./Meili Xueshan II
・ V.A./Meili Xueshan I
・ Padok/Roadside House

(※編集中)


2014年の熟聴盤①)

2014年2月24日月曜日

2014年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Virgin Blood/Snow
サンクトペテルブルクの太っ腹〈Lava Church〉から。うなじの綺麗な浮女子はポートランド生まれなのかフロリダ生まれなのか。ミニマルなシンセ使いはインダストリアルな意匠も感じさせ、ゾラ・ジーザスが脱ぎ捨てた黒衣の切れっ端を流水の具体音で清めて修道衣をあつらえたような反転も。

◎Warm Climate/Summer Speech Therapy
サン・アロウの〈Sun Ark〉から。M. Geddes Gengrasも名を連ねる濃厚なサイケデリック・ロックだが、突然ディスコ・ビートが飛び出したりするなど展開は奇抜で、昨今のUSアンダーグラウンドを通過したクラウト・ロックやアンビエントの感覚を禍々しく蒸留。テクニカル・アシスタントを務めるGrant CapesはLee NobleやDerek Rogersとも共演するやり手。

◎German Army/Barrineans
「ドイツ軍」というすごいネーミング。検索しても素性は定かではないが、タグからは米西海岸の出身らしい。エレクトロニックに加工された声からは性別もわからないが、トラックもプロダクションも匿名が高く、はて?

◎Threes And Will/Sea Fourth
エストニアの〈Trash Can Dance〉から。アボリジニの伝説からネーミングされたらしいノイズ・ロック。ドローンとジーザス・リザードを撹拌したような瞬間も。〈T&G〉印の硬音。



◎Joane Skyler/orz
作者の近影なのか。UKの〈Reckno〉から、初のフィジカルとなるらしい一本。A面の霊妙なシンセ使いは昨今の女性エレクトロニクス作家のそれを感じさせるが、初期〈Warp〉風情のアブストラクトでアシッディなビート&エディットを嬉々と展開するB面、からの幽玄なアンビエントへと回帰を見せる30分ジャストの円環構造。




2014年1月のカセット・レヴュー)
2013年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
2012年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)

2014年2月3日月曜日

極私的2010年代考(仮)……グリズリー・ベア、その深くおおらかな歌心の源泉



2009年のサード・アルバム『ヴェッカーティメスト』から3年。グリズリー・ベアとしてオリジナル・アルバムのリリースは途絶えたままだが、昨年には楽曲提供・制作を手がけた映画『ブルーバレンタイン』のサウンドトラックがリリース。同じく昨年はメンバーのクリス・テイラーがソロ・プロジェクトのキャント名義でアルバム『ドリームズ・カム・トゥルー』を発表するなど、バンド周辺は動きを見せている。ちなみに、クリスは『ヴェッカーティメスト』リリース直後の2009年に自主レーベル〈Terrible〉を立ち上げる傍ら、近年はモーニング・ベンダーズやツイン・シャドウのアルバム制作に関わるなどプロデュース業にも精力的で、また、バンドの創設者であるエド・ドロステは昨年公開されたフリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドのフリーEPで一曲(“I’m Losing Myself”)共演を果たして話題を集めた。




そして、昨年の暮れ、そのエドが自身のフェイスブック上でグリズリー・ベアのニュー・アルバムが2012年内にリリース予定であると言及。そんな矢先、今年に入り所属する「WARP」から突如アナウンスされたのが、今回のダニエル・ロッセンのソロ作品のリリースである。

本作『Silent Hour/Golden Mile』は、グリズリー・ベアのVo/マルチ・インストゥルメンタル奏者によるソロ名義のデビューEPになる。


ここでダニエルの経歴について簡単に触れておく。

そもそもエドのソロ・プロジェクトとして始まったグリズリー・ベアにダニエルが加入したのは2005年。タイミング的にはセカンド・アルバム『イエロー・ハウス』のレコーディングの直前で、ファースト・アルバム『ホーン・オブ・プレンティ』に参加したクリストファー・ベア、ライヴでサポートを務めていたクリスに続いて最後に加入したのがダニエルだった。

そんなダニエルにとって、グリズリー・ベアと並んで自身の音楽キャリアの柱となるのが、デパートメント・オブ・イーグルスとしての活動である。

進学のためロスからニューヨークに渡ったダニエルが、当時大学の同級生でルームメイトだったフレッド・ニコラウスとデパートメント・オブ・イーグルス(※正確には前身にあたるホワイティ・オン・ザ・ムーン・UK)を結成したのは2001年。つまり、グリズリー・ベアへの加入よりも活動は古く、また、2002年にはオークランドの〈Isota〉から7インチをリリースして一足先にデビューを飾っている。ちなみに、2003年にリリースされたファースト・アルバム『The Whitey on the Moon UK LP』(※『The Cold Nose』と改題して2005/2007年に〈Melodic〉/〈American Dust〉からリイシュー)をはじめ初期の音源は、「西海岸のアブストラクト・ヒップホップのパロディみたいな」と自嘲するガジェット感満載のローファイなエレクトロニカ/サンプリング・ポップだったが、ワイ?やデイダラスにリミックスされるなどベイエリアの〈Anticon〉周辺やトラック・メイカーの間で話題を集め、本人たちの思惑以上の高評価を得た。

その直後、ダニエルがグリズリー・ベアに加入し活動は小休止するが、2008年にはセカンド・アルバム『In Ear Park』を〈4AD〉からリリース。レコーディングにはクリストファーやダーティー・プロジェクターズのナット・バルドウィンが参加し、さらにクリスがプロデュースから演奏まで全面協力したサウンドは、それまでとは打って変わり、アコースティック・ギターやピアノを軸とした華麗なバンド・アンサンブルと美しいコーラス・ワークで魅せるアシッド・フォーク的な世界へと変化を見せた。それはダニエルいわく、グリズリー・ベアへの加入を通じて成長を遂げた自身のソングライティングの変化の表れであり、また、クリスやクリストファーが制作に関わったという意味でも、つまり『In Ear Park』は『イエロー・ハウス』を参照点として翌年の『ヴェッカーティメスト』へと展開するディスコグラフィーの橋渡し的な作品ともいえる。そうしたダニエルとデパートメント・オブ・イーグルスの変遷は、『In Ear Park』用のセッションを中心に未発表音源を収録した『Archive 2003-2006』(2010)でも確認できる。




本作『Silent Hour/Golden Mile』は、ダニエルにとってソロ名義の作品としては初のリリースとなるわけだが、彼がソロ音源を発表するのはじつは今回が初めてではない。ダーティー・プロジェクターズやベイルートの参加曲や、アトラス・サウンドやCSSによるカヴァーが話題を集めた2007年リリースのグリズリー・ベアのEP『Friend』には、彼が自宅で録音した“Deep Blue Sea”という曲が収録されている。

もっとも、ダニエルが個人で曲作りを始めたのはグリズリー・ベアに加入する以前からであり、デパートメント・オブ・イーグルスも元はといえば、15歳でジャズ・バンドを組むような生粋のジャズ少年だった彼が大学時代に遊びで始めた宅録の延長で生まれたプロジェクトだった。そもそもダニエルにとって曲作りとは、自分の身近な友人に向けたきわめてプライヴェートなものだったという。グリズリー・ベアに加入したのも、そんなダニエルの曲作りを間近で見ていたひとりである大学時代からの友人のクリスに誘われたことがきっかけで、その際のバンドのリハーサルで披露した自作のデモが後日『イエロー・ハウス』の収録曲に採用されたという経緯がある。




そして、本作『Silent Hour/Golden Mile』も、始まりはごく個人的に書き溜められていた曲のアイディアだった。当初はグリズリー・ベアのニュー・アルバム用のデモとして漠然と考えられていたようだが、そこからイメージが膨らみ、紆余曲折をへて今回のソロ名義の作品というかたちに実を結んだという。レーベルからの資料によると背景には、『ヴェッカーティメスト』リリース後のツアーを通じた心身の疲弊があり、曲作りの動機にはそのリハビリテーション的な意味合いもあったことが窺える。「ツアーであちこちを回っていると、自分が何をしようかという展望が見えなくなることがあるんだ。突然、自分は何をしようとしているか、何を作ろうとしているかといったことが、分からなくなってしまうんだよ」「この曲たちは、僕にとっての指針であり、また自分で歩むための足を取り戻してくれる存在なんだ」とダニエルは語る。

そんなダニエルの思いが詰った曲のアイディアを作品化に向けて強力に後押ししたのが、本作のレコーディングに参加したゲスト・ミュージシャンの存在である。〈Anti-〉からニュー・アルバム『Be The Void』がリリースされたばかりのフィラデルフィアのサイケデリック・ポップ・バンド、Mr.ドッグのドラマーのエリック・スリック。サンフランシスコのオルタナ・カントリー・バンド、ザ・コート&スパークの元メンバーで、PG・シックスやファミリー・バンドといったサイケ・フォーク系アクトの作品にも関わるスチール・ギター奏者のスコット・ハーシュ。管楽器のアレンジメントを手がけるイアン・デーヴィスとクリス・ノルト。そして、アニマル・コレクティヴやダーティー・プロジェクターズの諸作をはじめ数々の重要作品に関わるブルックリンの敏腕、ニコラス・ヴェルヌがミックスを担当している。

サウンド全体の基調となるのは、ざっくりといえば『イエロー・ハウス』以降のグリズリー・ベアとも共有するおおらかなフォーク・サウンドと、多彩な楽器が織りなすアンサンブル、だろう。しかし、『ヴェッカーティメスト』で聴かせたような緻密に構築された音のレイヤーとは異なり、もっと生っぽい感触を活かしたバンド・サウンドが醍醐味である。また、同作品ではプロデューサーも務めたクリスによるエレクトロニックなプロダクションとも本作は無縁だ。





抑揚の美しいストリングスと包み込むようなドラムが耳に残る“Up On High”。中期ビートルズも彷彿させるサイケデリックであまやかな“Silent Song”。流麗なフィンガー・ピッキングがアメリカーナ的叙情を描き出す前半から、エレクトリックなギター・サウンドがたたみ掛ける後半への展開が素晴らしい“Return To Form”。一転して、静謐なピアノの調べにブラス・アレンジが厳かなタッチを与える“Saint Nothing”。そして白眉は、エリック・スリックのアグレッシヴなドラミングが映えるロック・バンド的なダイナミズムと、ダニエルの懐深くおだやかなヴォーカル&コーラス・ハーモニーがハイライトを飾る最終曲の“Golden Mile”だろう。「静かな時(Silent Hour)のために、輝ける道程(Golden mile)のために」「この混乱には至福がある。そして至る所に狂気は存在する」と歌われる歌詞も印象的だが、本作には、グリズリー・ベアへの加入をへて洗練され、そこから『In Ear Park』や『ヴェッカーティメスト』の成功をへてさらに磨き上げられた、ダニエル・ロッセンという音楽家/ソングライターの「良質」が凝縮されている。また、同じソロ作品でも、かたやクリスがキャント名義で披露するエレクトロニックなドリーム・ポップと比較したとき、両者の対照的な作風は興味深い。あるいは、実質的にエドのソロ作品といえたグリズリー・ベアのファースト『ホーン・オブ・プレンティ』のローファイなサイケ・フォークとも異なる手触りであり、『Silent Hour/Golden Mile』は同時に、現在のバンドにおけるダニエルの創作的な貢献度の高さもあらためて窺い知れる作品といえそうだ。
 

冒頭でも記したように、グリズリー・ベアのニュー・アルバムは年内にリリースが予定されている。レコーディングの開始が伝えられたのが昨年の5月なので、順調に進んでいれば作業はもう終了していてもおかしくない。仮に、今回の『Silent Hour/Golden Mile』のリリースでダニエルがグリズリー・ベア用に温めていた持ち曲が消化されたとするなら、新たに書き下ろされた楽曲はまたまったく異なるサウンドであるだろうことも想像できる。はたしてどんな作品が届けられるのか、楽しみに待ちたい。
         

(2012/5)