2015年12月31日木曜日

2015年の熟聴盤(カセット/BandcampリリースBEST 40)

◎Ramzi / HOUTi KUSH (1080p)
◎DADDY ISSUES / Double Loser (Negative Fun Records/Egghunt Records)
◎BNJMN & Best Available Technology – De / Re-Constructions (Astro:Dynamics)
◎SETH / This Is True (1080p)
◎Daphne Oram / Pop Tryouts (Mondo Hebden)

◎Dolphins Into the Future / Songs of Gold, Incandescent (Edicoes CN)
◎x.y.r. / mental journey to b​.​c. (Not Not Fun)
◎Sunmoonstar / Ibid (self)
◎Infinite Bisous / The Past Tense (tasty morsels)
◎GERMAN ARMY / Clan Chieftans (Handmade Birds)

◎FURNITEUR / Furniteur (Prince George)
◎JAPANESE BREAKFAST / American Sound and Where Is My Great Big Feeling? (Seagreen)
◎Foodman / Couldwork (Orange Milk)
◎Jung An Tagen / Äußere (Orange Milk)
◎Nico Niquo / Epitaph (Orange Milk)



◎Les Halles / Forum (Noumenal Loom)
◎Paul Hares / MSC DTH (big ear tapes)
◎Tallesen / inca (bootleg tapes)
◎[PHYSICS]  / Only Forever (Constellation Tatsu)
◎Keita Sano / Holding New Cards (1080p)

◎Junior Loves & Scientific Dreamz Of U / The Dreamcode (1080p)
◎Giant Claw / Deep Thoughts (Orange Milk)
◎FUSILLER / Dystopies Versus (Phase! Records)
◎Best Available Technology / Excavated Tapes 1992-1999 (Astro:Dynamics)
◎Darren Keen / He’s Not Real (Orange Milk)

◎Oobe / Stealth (Cleaning Tapes)
◎TIM COSNER / Deadtech/Modernhomes (Bonding Tapes)
◎Michael Vallera / Distance (Opal Tapes)
◎Earthly / Days (Noumenal Loom)
◎Ritual Cloak / Night Worship (Exo Tapes)

◎Sarah Davachi / Qualities of Bodies Permanent (Constellation Tatsu)
◎Phipps Pt. / Kiss You So Many Times You Can't Count My Love (Sanity Muffin)
◎Oliwa / Eras (Illuminated Paths)
◎Paa Annandalii / Altars (Celestial Paths Ltd.)
◎Plastic Moonrise / ~ 2 (Self)


◎Event Cloak / Life Strategies (Orange Milk)
◎silentwave / Lotus Flower (Self)
◎Adam Oko / Diet of Germs (Astro:Dynamics)
◎SPACE BLUE / Space Blue (Crudites)
◎GAUTE GRANLI / Ingen Potetsekk Whatsoever (Skussmaal)


2015年12月28日月曜日

告知㉓:Dilly Dally『Sore』

年内最後の〈S&S〉のリリースになります。
メッツと同郷、カナダはトロントの4人組。
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY151125-DD1


PITCHFORKで「8点」を獲得したデビュー・アルバム!!

カナダはトロントで活動する4人組で、中心人物は小さい頃からの友達である女子2人、Katie MonksとLiz Ball。彼女たちはカート・コバーン(NIRVANA)やクリストファー・オウエンス(GIRLS)、ピート・ドハーティ(LIBERTINES, BABYSHAMBLES)らがアイドルだったらしく、このバンドもそれらの影響が色濃く感じられるオルタナティヴ・サウンドが特徴。



PIXIESやBREEDERS、DINOSAUR JR.などを彷彿とさせるオルタナイズされたギター・リフやソロ、一度聴いたら忘れられないしゃがれたヴォーカルはピート・ドハーティやYEAH YEAH YEAHSのカレンOなどを思い起こさせます!!

しかし、PARQUET COURTSやMETZ、MOURN、SAVAGES、HINDSなど今のバンドともしっかりとシンクロするバンド・サウンドを創出しており、たんに懐古趣味へと陥らない確固たるアティテュードも魅力のひとつです!


〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421
来年も〈S&S〉なにとぞご贔屓に。
新年一発目はタイ・セガールのニュー・アルバムになります。

よろしくお願いします!

2015年12月26日土曜日

告知㉒:Ty Segall『Ty Rex』

告知が続きます。
かねてより発表されてきたTレックス/ティラノザウルス・レックスのカヴァー曲を集めたコンピレーション。
http://diskunion.net/rock/ct/detail/XAT-1245647136



そもそも2011年と2013年に、それぞれ"RECORD STORE DAY"の企画作品として12インチと7インチですでに発表されていた楽曲なのですが、このたびめでたく初CD化!
しかも、この初CD化の際に、あの超有名曲「20TH CENTURY BOY」の爆裂ガレージ・カヴァーを新たに収録する熱の入れよう。他には、T.REXと名のる前のフォーク・ロック路線だったTYRANNOSAURUS REX名義の楽曲もカヴァーするなど、マーク・ボランへの愛情が十二分に感じられる高内容のカヴァー・アルバムです。



なお、年明け1月にはタイ・セガール名義のニュー・アルバム『EMOTIONAL MUGGER』もリリースします!

〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421

よろしくお願いします!

2015年12月23日水曜日

告知㉑:Fuzz『Ⅱ』

はい、〈S&S〉のリリースになります。
今年も大忙しですね。
タイ・セーガルのバンド、Fuzzのセカンド・アルバムになります。
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY150903-FZ1



多数のバンドやプロジェクトを掛け持ちし多作多忙を極めながらも、その一つ一つの作品やプロジェクトのクオリティは常にレベルが高く、ガレージ分野のみならず現在のUSインディ・ロック界のカリスマの一人へと着実に成長を遂げたTY SEGALL。

そんな彼がドラム&ヴォーカルを務めるバンド、FUZZの2ndアルバムが登場!BLACK SABBATHやBLUE CHEERのような重くグルーヴが渦巻くヘヴィ・サイケ~ハード・ロックを聴かせてくれた前作『FUZZ』のサウンドを踏襲しつつも、本作ではジミ・ヘンドリックスのようなソリッドなロックンロール・チューンも披露し、より進化/深化の跡が見られる高内容!



ちなみに今年の大きなニュースとしては、レッド・クロス/オフ!のスティーヴン・マクドナルドとメルヴィンズのデイル・クローヴァーと結成したブロークン・バット、さらには盟友エックス・カルト(※3年前のデビュー・アルバムをセガールがプロデュース)のクリス・ショーとこのFuzzのチャールズ・ムーサートと結成したゴッグス(GØGGS)、という2組の今後も気になりますね。

〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421
今後のリリースも続々と決まっています。

よろしくお願いします!


告知⑳:SOLDIERS OF FORTUNE『EARLY RISERS』

更新が滞ってしまいました。。
〈S&S〉のリリース、進んでいます。
SOLDIERS OF FORTUNE/EARLY RISERS
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY151007-SOF1




PAVEMENTのスティーヴン・マルクマスやCASS MCCOMBSらをフィーチャーし、INTERPOL、ONEIDA、CHAVEZのメンバーなどUSオルタナ界のツワモノ勢が集結したスーパー・グループ最新作!!



メンバーには、INTERPOLのBrad Truax、ONEIDAのBarry London、SMASHING PUMPKINSのBilly CoganのバンドZWANへの参加やGUIDED BY VOICES、BONNIE 'PRINCE' BILLY、CAT POWERなどとの共演で有名なMatt Sweeney(CHAVEZ)、ENDLESS BOOGIEのJesper Eklowなどの猛者たちが大集結。

〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421
今後のリリースも続々と決まっています。

よろしくお願いします!

2015年10月17日土曜日

works(仮)

少し前から始めました。
http://junnosukeamai.tumblr.com/
とりあえず、今年に入ってからの主な仕事をまとめてみました。
よろしくお願いします。

2015年10月6日火曜日

告知⑲:Peaches『Rub』

立て続きですが、〈S&S〉の最新リリースになります。
ピーチズの最新作『RUB』。じつに6年ぶりのアルバム・リリース。
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY150903-PC1


今回は共演アーティストの顔ぶれも話題。
元ソニック・ユースのキム・ゴードン、盟友ファイストとモッキー、ベルリンからプランニングトゥロックなどなど。


リリックについては言わずもがな。舌鋒の鋭さ増しています。
ちなみに、初回限定の特典CDRにはヤー・ヤー・ヤーズがギターを弾いている“Bodyline”を収録。


〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421
今後のリリースも続々と決まっています。

よろしくお願いします!

2015年10月1日木曜日

極私的2010年代考(仮)……グリズリー・ベアからみる現代US音楽の相貌


グリズリー・ベアがアメリカのインディ・シーンで浮上した背景には、2000年代の中頃から台頭したネオ・フォーク/フリー(ク)・フォークの流れを指摘できる。フォークを主体とした折衷的な音楽性を特徴とするムーヴメントで、その界隈からは個性豊かなアーティストが数多く登場した。「Neo/Free(Freak)」とあるようにスタイルや趣向は様々で、デヴェンドラ・バンハートやジョアンナ・ニューサムに代表される伝統的素養や大衆性も備えたSSWから、ジャッキー・O・マザーファッカーやノー・ネック・ブルース・バンドといった不定形で実験性を志向する大所帯のコレクティヴまで、その顔ぶれは世代をまたがり多岐にわたる。なかには「New Weird America」と称されたラディカルな一群もあり、つまりはアメリカ音楽の新たな傾向としてそれは捉えられた。



もっとも、その流れにいたるさらなる背景としては、90年代の後半から2000年代にかけて「アメリカーナ」というタームとともにクローズアップされたアメリカン・ルーツ・ミュージックの再解釈の動きがあった。カントリーやフォークやブルースを、いわゆる音響派~ポスト・ロック以降の手法や感性で捉え直し再構築するオルタナティヴな潮流であり、その代表格にはウィルコやジム・オルーク(『Bad Timing』『Eureka』)、あるいはキャレキシコなども挙げられる。それはいわば、アメリカ音楽史の“驚くべき恩寵”に魅せられた一種の復興運動を思わせる静かなムーヴメントだった。そして、そこで憧憬の対象として再発見されたのが、ヴァン・ダイク・パークスやブライアン・ウィルソン、ジョン・フェイヒィやハリー・スミス編纂の『Anthology of American Folk Music』といった巨匠たちの意匠だった。



そうした一連の動向をへてアメリカのインディ・シーンが迎えた豊饒さを伝える作品が、2009年にリリースされたコンピレーション・アルバム『Dark Was The Night』だろう。ザ・ナショナルのアーロン&ブライス・デスナー兄弟が監修を務め、グリズリー・ベアをはじめダーティー・プロジェクターズやアーケイド・ファイア、キャット・パワー、ファイスト、そしてデヴィッド・バーンなど錚々たるアーティストが参加。興味深いのは、オリジナル曲に交じって収録されたカヴァー曲のセレクト。タイトルにも採られたブラインド・ワイリー・ジョンソンやボブ・ディランのブルース/フォークのクラシックス、あるいは、“Amazing Grace”など賛美歌や伝承歌……すなわち「アメリカの歌」を新たな手で歌い起こし、その相貌をアメリカのインディ・シーンの現在地図に重ね描く。その企みは、いわばアメリカン・ルーツ・ミュージックのリプレゼンテーションと呼ぶにふさわしく、「歌/声」の力を今の時代に立て直そうと する試みを感じさせるものだった。




さらに、同作品の参加アーティストの顔ぶれからは、グリズリー・ベアを取り巻くアメリカのインディ・シーンの縮図を俯瞰することができる。たとえばボン・イヴェールやアイアン&ワインに象徴されるモダン・アメリカーナの系譜。その系譜をシェアするスフィアン・スティーヴンスやアンドリュー・バードに加えて、ニコ・マーリーやベイルートを含むチェンバー・ミュージック~ポスト・クラシカルの流れ。あるいは、アントニー(&ザ・ジョンソンズ)が披露する圧倒的な「歌/声」。それらのトピックがグリズリー・ベアの周りを同心円状に広がり、かつレイヤー状に重なりながら現在のアメリカのインディ・シーンを形作っている――そんなイメージを描くことができるだろう。そして、その地図には、彼らと縁の深いフリート・フォクシーズやオーウェン・パレットなどの名前も当然含まれる。




もちろん、グリズリー・ベアが注目を集めたきっかけには、ブルックリンという地の利のアドバンテージも大きかっただろう。そして、前作『Veckatimest』と同時期にリリースされたアニマル・コレクティヴやダーティー・プロジェクターズのアルバムの批評的成功と一定の商業的成功を受けて、イギリスの音楽誌UNCUTが「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」と伝えた2009年から3年。インディ・シーンのさらなる活況を背景に、奇しくもその時のバンドが揃ってニュー・アルバムを発表するタイミングを迎えた。

はたして2012年は、アメリカの音楽史にどんな瞬間が刻まれる年になるのだろうか。

極私的2010年代考(仮)……現代米国音楽を代表するグリズリー・ベアとは?


グリズリー・ベアは、2000年代の初頭に、そもそもはエド・ドロステのソロ・プロジェクトとして始まった。2004年のファースト・アルバム『Horn of Plenty』は、後にドラマーを務めるクリストファー・ベアをサポートに迎えて制作されたが、実質的にはエドのソロ・アルバムに等しく、弾き語りをベースとした多重録音のスタイルはシド・バレットとも比せられてカルト的な評価を得た。それは当時台頭し始めたネオ・フォーク/フリー(ク)・フォークとの共振も見せたが、かたや翌年リリースされた同作品のリミックス・アルバム(※アリエル・ピンク、オーウェン・パレット、元ブラック・ダイスのヒシャム・バルーチャ、ディンテルetcが参加)は、プライヴェートでローファイな作風とは裏腹にその幅広い音楽的背景と人脈を示す証左となった。



そして、グリズリー・ベアは、クリス・テイラーを加えたトリオでライヴを経験後、ダニエル・ロッセンの加入をへて現在の4人体制に。「バンド」としての最初の成果となったのが、2006年のセカンド・アルバム『Yellow House』だった。メンバー全員が作曲からプロダクションまで関わり、多彩な楽器が織りなすインストゥルメンテーションと、彼らの代名詞となる華麗なヴォーカル・ハーモニーを披露。フォーク・ロックの現代的展開という評価を越えて、主にクリスやダニエルに負うジャズや現代音楽の素養を散見できる奥深いサウンドは、〈WARP〉との契約がその先鋭性を証明するところだろう。高まる注目のなか行われたポール・サイモンやロサンゼルス交響楽団との共演は評判を呼び、また、2008年には熱烈なラヴコールを受けてレディオヘッドの全米ツアーのオープニング・アクトも務めた。



続くサード・アルバム『Veckatimest』は、名実ともに彼らの評価を決定づけた作品といえる。ニューヨーク北部の人里離れた山小屋や、『Yellow House』も制作されたエドの母方の生家、そして地元の教会とレコーディング場所を移動するなかで培われたアイディアやイマジネーションと、間にツアーやライヴを挟み練り上げられたバンド・アンサンブルとが融合。ニコ・マーリーがオーケストラ・アレンジを手がけ、ビーチ・ハウスのヴィクトリア・ルグランや少年合唱団をバック・ヴォーカルに迎えるなど装飾が施された一方、トライバルなフィーリングも含んだ音色やリズムは楽園的な響きを増し、その音楽世界をさらに押し広げてみせた。従来のスタイルを発展させるかたちで、室内楽やポスト・クラシカルの流れも汲む巧みな器楽構成や緻密なレイヤー・サウンド、あるいは、文化横断的なアプローチなど様々な意匠が落とし込まれた『Veckatimest』は、細分化を極め爛熟が進むアメリカのインディ・シーンの現在を縮図的に伝えた作品ともいえるだろう。また、同作品は、同じく2009年に発表されたアニマル・コレクティヴ『Merriweather Post Pavilion』やダーティー・プロジェクターズ『Bitte Orca』と並んで、2000年代を通じたアメリカのインディ・シーンの活況と躍進を締め括る大団円の一枚として称えられた。



そうしたグリズリー・ベアの創造性豊かなサウンドを支える要因としては、メンバー各自のプロジェクトやサイド・ワークが果たす部分も大きい。ダニエルはグリズリー・ベアに加入する以前からデパートメント・オブ・イーグルスとして活動し、Anticon周辺にも支持を得た初期のエレクトロ・ヒップホップをへて、近作『In Ear Park』では流麗なアシッド・フォーク的サウンドを展開。今年の春にはソングオリエンテッドな魅力溢れるソロEPを発表した。そして、以前にクリストファーとファースト・フォーティーエイトというダンス・パンク・バンドを結成していたクリスは、昨年のキャント名義のアルバム『Dreams Come True』でチルウェイヴ以降とも呼応したエレクトロニック・ポップを披露。近年はツイン・シャドウやモーニング・ベンダーズ(※現ポップ・エトセトラ)のアルバム制作に関わるなどプロデュース業にも意欲的な動きを見せる。また、ダニエルとともにヴァン・ダイク・パークスとの交流も伝えられるエドは、昨年フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドのフリーEPに参加して話題を集めた。




それらの活動がグリズリー・ベア本体の活動とフィードバックし合う関係にあることはいうまでもない。加えて、その幅広く多彩な創作を可能とする背景には、メンバー全員が複数の楽器を操るマルチ・インストゥルメンタル奏者であるというのも大きいのだろう。グリズリー・ベアのディスコグラフィとその足跡からは、この10年のアメリカのインディ・シーンが辿った軌跡と変遷が見えるようだ。

(2012/08)

2015年9月30日水曜日

2015年の熟聴盤⑨

告知⑱:WAVVES / CLOUD NOTHINGS『NO LIFE FOR ME』

〈S&S〉シリーズの最新作。
ウェーヴスとクラウド・ナッシングスのコラボ・アルバム『NO LIFE FOR ME』



推して知るべし、言わずもがな、の内容。

宅録に近い環境で制作され、ある意味、お互いのルーツに立ち帰ったような趣も。
全9曲で30分未満。ラフ&簡潔。
(※Bandcampでも全曲聴けちゃいますしね)


ネイサン・ウィリアムスとディラン・バルディが共同で曲を書き、演奏はウェーヴス人脈がサポート。
ネイサンの弟ジョエル、スピリット・クラブのメンバーも務めるアンドリュー・キャディックも参加。
実質的にはウェーヴスとディランのコラボ、か。
アルバムには収録されなかった、ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム参加曲もいつか聴きたいですね。

〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421
今後のリリース作品についても載っています。

よろしくお願いします。

2015年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

2015年8月27日木曜日

USアンダーグラウンド白書 : Life Coach


本作『アルファウェイヴズ』は、トランズ・アムやファッキング・チャンプスでの活動で知られるギタリストのフィル・マンレイと、マーズ・ヴォルタや、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのザック・デ・ラ・ロッチャとのワン・デイ・アズ・ア・ライオンでドラムを叩いたジョン・セオドアが結成したプロジェクト、ライフ・コーチのデビュー・アルバムになる。ライフ・コーチというプロジェクト名は、フィルがリスペクトするジャズ・ドラマー、トニー・ウィリアムス(※マイルス・デイヴィスの「黄金クインテット」のメンバーだった)のアルバム『Life Time』にちなんで付けられたもので、そもそもは2年前のフィルのソロ・アルバムに冠せられたタイトルだった。なお、本作の海外でのリリースは、そのフィルの『Life Coach』もリリースした〈Thrill Jockey〉からとなる。


まずはフィルの経歴を簡単に整理する。

フィルにとって音楽キャリアの出発点となったのが、現在も〈Thrill Jockey〉の看板バンドとして活動を続けるトランズ・アムだ。80年代の終わりにワシントンDC近郊で結成され、90年代半ばのデビューからすでに20年近くがたつ。活動を始めた当初は、マイナー・スレットやガヴァメント・イシューらを輩出した土地柄かハードコア・バンドとして鳴らしたが、トータスのジョン・マッケンタイアがプロデュースした『Trans Am ‎』をへてリリースされたセカンド『Surrender To The Night ‎』('97)やサード『The Surveillance』('98)の頃には、後の代名詞となるプログレ~クラウト・ロックとニュー・ウェイヴとハード・ロックがミックスされたようなサウンドを確立。近年では、2007年の8枚目『Sex Change』が!!!やバトルスとも比せられる評価を得るなど、いわゆるポスト・ロックのオリジネイターとしても



一方、フィルはトランズ・アムと並行して、90年代初頭にオハイオの大学時代のルーム・メイトらと結成したゴールデンを始動。後にメイク・アップやウィアード・ウォーで活動するアレックス・ミノフを始めUSインディ・シーンの手練を揃え、フィッシュやメルヴィンズの影響を受けたディープなサイケデリック・ロックで評判を得る。さらに、2000年代の後半には、トランズ・アムとは合体名義(TransChamps /The Fucking Am)でアルバムをレコーディングするなどかねてより交流のあったサンフランシスコのインストゥルメンタル・メタル・バンド、ファッキング・チャンプスに代替メンバーとして加入。他にも、ブルックリン・シーンの重鎮オネイダのツアーにサポート・ギタリストとして帯同したり、〈Kranky〉や〈100% Silk〉からリリースするサンフランシスコのエレクトロニック・アーティスト、ジョナス・ラインハルトことジェシー・ライナーのバンド・メンバーを務めるなど、その活動は広範囲に及ぶ。

加えて、近年のフィルの活動でとくに注目すべきは、そのプロデューサー/エンジニアとしての仕事ぶりだろう。フィルがこれまで手がけたアーティストは、バーン・オウル、ウッデン・シップス、ムーン・デュオ、ミ・アミ、デート・パルムス、フレッシュ&オンリーズなど多数。中にはバーン・オウル『Lost In The Glare』やウッデン・シップス『West』といったキャリアを代表する作品も含まれており、その確かな手腕もさることながら、それらアーティストの顔ぶれからは、昨今の活況を呈するUSアンダーグラウンド・シーンにおいてフィルが支持を集め強い影響力を持ち続けていることが窺える。もっとも、現在のUSアンダーグラウンド・シーンにおいてデフォルトと化したクラウト・ロックのリヴァイヴァルは、さかのぼればトランズ・アムが促した部分もあったといえなくもない。バンド/ギタリストとしての活動しかり、その旺盛な創作ペースと様々な現場を渡り歩く多才ぶりは、なるほど評価と知名度を増すフィル個人の近況を物語るようだ。


そして、このライフ・コーチというプロジェクトにおいて鍵を握るのが、ジョン・セオドアの存在である。

冒頭でも触れたマーズ・ヴォルタやワン・デイ・アズ・ア・ライオンでの活動ぶりについては有名なところだろう。とくにバンドのダイナモとしてオマー・ロドリゲス・ロペスと渡り合う存在感を見せた前者における功績については、いくら強調してもし過ぎることはない。ジョンのドラミングがあの強靭無比なグルーヴを支えていたことは、ジョン在籍時と脱退後の作品を聴き比べればおのずと明らかだろう。



そんなジョンとフィルの出会いは、前述のゴールデンの頃にさかのぼる。というのも、ジョンもまたゴールデンの元メンバーであり、つまりフィルとは大学の同窓生という関係だったわけだ。またゴールデン以外にも、ジョンはトランズ・アムのアルバムで叩いたり、The Fucking Am名義の作品に参加したりするなど、フィルとは20年来の友人であり音楽仲間だった。そうした縁もあり、その後もフィルがソロ・アルバム『Life Coach』に併せてライヴを行った際にジョンがサポート・ドラムを務めるという機会が何度かあったようで、その流れで今回のライフ・コーチの結成へと至ったらしい。なお、近年ではトゥールのメイナード・キーナンのサイド・プロジェクトであるプシファーやインキュバスのブランドン・ボイドのソロ・アルバムで叩いたり、そしてさらに来たるクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのニュー・アルバムでもドラマーを務めるなど、その才能は相変わらず引く手あまたの状態だ。


ソロ・アルバム『Life Coach』は、曲作りや演奏からレコーディングまですべてフィルひとりでやり遂げた作品だった。ギター、ベース、シンセ、ドラムマシーンを駆使して組み上げられたサウンドは、フィルが愛聴したカンやクラフトワーク、クラスターといったクラウト・ロックからの影響、あるいはそれらの作品を手がけたコニー・プランクへのリスペクトが示された、DIYなサイケデリック・ミュージックだった。また、いくつかの曲で聴けるアコギの流麗なフィンガーピッキング・スタイルは、ブルーグラスやフォーク・ミュージックを聴いて育ったというフィルのルーツも窺わせた。


対して、本作『アルファウェイヴズ』では、ドラム・パートはもちろんすべてジョンが担当、しかもファースト・テイクのもののみが使われたという(※ジョンのドラムには一切何も手を加えることはなかったそうだ)。その他のギターやシンセなどのパートとドラムマシーンでフィルが曲作りした音源をジョンに送り、それにジョンがマリブに所有するガレージで録音したドラム・パートを加え、最終的にフィルが仕上げるというプロセスで制作は進められた。ちなみに、以前にフィルがアルバムのミックスを手がけたことがあるゴールデン・ヴォイドのイサイア・ミッチェルが、何曲かでリード・ギターとして参加している。


はたして、そのサウンドは、スタジオ・レコーディングとライヴ・レコーディングがミックスされたような奥行きある生々しい質感となった。タイトル・トラックの“Alphawaves”で聴ける、絡み合うフィルとイサイアのツイン・ギター&空間系のシンセと並走するタイトなドラムの相性の良さは、ジョンもまたハルモニアやクラウス・ディンガーをリスペクトするクラウト・ロックの熱心なリスナーであったことを窺わせるが、かたや“Into the Unknown”で叩く多彩でアヴァンギャルドなスタイルは、トータスやジューン・オブ・44周辺のポスト・ロック~ジャズ人脈が集結したヒム(HiM)でプレイしていたこともある経歴が反映されているようで興味深い。




ハード・ロックなギター・ソロが印象的な“Fireball”、さらにカンやアモン・デュールもかくやたるサイケデリックでブギーなバンド・アンサンブルを展開する“Mind’s Eye”は、フィルの表現力豊かなヴォーカルと相まって本作のハイライトと呼べるナンバーだろう。ちなみに、こうしたジョンのプリミティヴな身体感覚は、シュトックハウゼンのような現代音楽から、インドネシアのガムラン、北アフリカやヒンドゥーの民族音楽、メラネシアに伝わる聖歌、そしてもちろんフェラ・クティまで、国籍・時代・ジャンルを問わず聴取された音楽経験によって醸成されたものらしい。あるいは、ドゥーム/スラッジなギター・インストゥルメンタルで押し切る“Life Experience”、同じくドローニッシュなサウンド・エクスペリメント“Ohm”には、それこそバーン・オウルやエターナル・タペストリーらに代表される現在のUSアンダーグラウンド・シーンと共有するフィルの志向/嗜好を見て取ることができる。

フィル・マンレイとジョン・セオドア――両者がともに歩み、そこから枝分かれしてキャリアを積む過程でそれぞれに獲得した音楽的なルーツやバックグラウンドがまさに邂逅を遂げた成果こそが本作『アルファウェイヴズ』であり、ライフ・コーチの実像にほかならない。



アルバム完成後のインタヴューに答えたフィルによれば、ライフ・コーチとしての大々的なツアーは現時点で予定がなく、ひとまずは互いがそれぞれのプロジェクトに注力するという方向らしい。フィルはトランズ・アムのニュー・アルバムのレコーディングと、長年温めているというゴールデンの再始動に向けた調整。そしてジョンは、前述のクイーンズのアルバムに続き、マストドンのブレント・ヒンズとデリンジャー・エスケイプ・プランのベン・ワインマン、元ジェーンズ・アディクション/現在はナイン・インチ・ネイルズでベースを弾くエリック・アヴェリーと結成したジラフ・タン・オーケストラのデビュー・アルバムが控える。さらに、同じインタヴューに答えたジョンによれば、現在は活動を停止しているワン・デイ・アズ・ア・ライオンについても、フル・アルバムのリリースを含めて何らかの新たな動きを模索しているそうだ。
 

(2013/04)

2015年8月25日火曜日

告知⑰:Eskimeaux『O.K』

〈S&S〉の最新リリースになります。
ブルックリンの才媛SSW、エスキモーのデビュー・アルバム『O.K』
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY150702-ES1


地元メディアでは“ブリックリンのサードウェイヴ”として注目を集めるアートスペース〈EPOCH〉が送り出す新人。



宅録の音源とは変わってバンド編成で録音されたアルバムは生ドラム&オーケストレーションが随所に活かされ、彼女がリスペクトするテーガン&サラにも通じるポップネスを。
同じブルックリン出身のワクサハッチーや、実際に交流もあるフランキー・コスモスなどのファンにもオススメしたいです。

余談ですが、しばらく進行が止まっていた、最近来日が決まり大騒ぎとなったバンドのZINEの制作も、ようやく動き出した模様です。
お楽しみに。

〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421

よろしくお願いします。

2015年8月14日金曜日

2015年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Earthly/Days
〈Noumenal Loom〉からアニコレ『サング・トング』への……といったらアゲすぎか。北カリフォルニアのデュオによる一本で、同レーベルを代表するGiant Clawらのような先鋭性やエキセントリックさはないけど、今様なポスト・インターネット周辺の感性で「ローファイ」やら「トライバル」やら「エレクトロニカ」をポップにアウトプットしてみたら、なんだかいい感じ?みたいな。ちょい懐かしいところではブルックリンのHigh Placesを思い出させたりも。

◎Philadelphia Collins/Derp Swervin'
Speedy Ortizのメンバーらによるニュー・プロジェクト。サウンドはご想像の通り。ガレージ、サイケ、ダウナーなファズ・ポップ。白眉は同じくSpeedy OrtizのEllen KempnerをゲストVo.に迎えた②。

◎Seventeen At This Time/Flaming Creatures
フランス/パリのグループ(デュオ?ソロ?)っぽいけど、詳細は不明。最近、2000年代リヴァイヴァル始まってる?って思うことが多くて、まあ、この一本が直接的にそうだって話ではないんですけど。ノワーリーでゴシック。紫煙巻くダーク・ポップ。

◎Michael Vallera/Distance
〈Opal Tapes〉のファンにはCoin名義でお馴染みのMichael Valleraによるプロジェクト。ディストピックなドローン/アンビエントという路線に変わりはなく、ただ、フィールド・レコーディングも馴染ませた音像の陰影/グラデーションにヒタヒタと忍び寄るモノリスティックなドラム・マシーンやビート。

◎Dream Suicides/Soft Feelings
アメリカ西海岸のドリーム・ポップ・プロジェクト。アートワークは一貫して女性のポートレート写真。美意識というのか、何かに取り憑かれているというのか。C86とチルウェイヴの間の、曖昧模糊とした手触り。

◎Varg/Under The Roman Lash
〈Ascetic House〉のアンビエント~インダスもの。自分の記憶が正しければ、もっとゴリゴリなノイズ系のイメージも強かった〈AH〉だけど、最近はこういうノリなのかしら。繋がりもある〈Posh Isolation〉や〈100% Silk〉とごっちゃになってるだけか。

◎jimmy pop/Varsity Blues
ミシガンのドリーム・サイケ。宅録なのかバンドなのか。声の印象が少しブラッドフォード・コックスぽくもあるが、言われてみれば初期のアトラス・サウンドぽく……もないか。でもなあ、ウェーヴスやクラウド・ナッシングスも、こういうところから化けていったんだよなあ。

◎Moor Mother Goddess/Moor Mother Goddess
“blk girl blues, witch rap, coffee shop riot gurl songs, southern girl dittys, black ghost songs." と称する、DC発フィラデルフィア経由の女性トラックメイカー。ミクステ溢れた昨今、疎い自分にはどれを聴いてもあまり違いが判らないのだけど、何かしらのフックをきっかけにお気に入りの一本を選びたい。自分はコレを。http://www.fvckthemedia.com/issue58/moor-mother-goddess

◎Tallesen/inca
〈Software〉からのデビューで注目を集めたTallesen。総帥OPNの流れを汲むダウンテンポなニューエイジ・シンセ・ウェイヴを聴かせつつ、〈Bootleg Tapes〉からの今作では、カン『フロウ・モーション』のオンライン・アンダーグラウンド・ヴァージョン、とも呼びたい涼やかなトリップでゆらゆら、クラクラ。

◎RAMZI/Houti Kush
〈1080p〉が送る、この夏のマスト。オンライン・アンダーグラウンド特有のハイパー・コンテクストな位相に、より土着的なもの、有り体に言えば「トライバル」な感性が流入、いや染み出し始めているような手触りというか。聴き慣れているはずなのに、なんだか耳新しい。もしかしたら何かを思い出しているのかもしれないけど、ここには確かな“兆候”が感じられると思います。

◎CFCF/The Colours of Life
フリートウッド・マックとマニエル・ゲッチングを繋ぐ男。モントリオールのエレクトロ作家による新作の一本は〈1080p〉から。流麗なミニマリストぶりは健在ながら、AOR~ニューエイジ~エレクトロ“ニカ”なポップ寄りの作風が際立つ仕上がりは、(アルバム)名は体を表すというか。

◎Paradise 100/Northern Seoul
相変わらずリリースの絶えない〈100% Silk〉から。“ザ・インディ・ハウス”なド直球感。ベルギーからの刺客だが、にしてもタイトルは所謂「ノーザン・ソウル」なのか、それとも「北朝鮮」をパロっているのか、、



◎Paul Hares/MSC DTH
その昔に見た「世にも奇妙な~」というドラマで強烈な印象に残っているのが、あらすじは忘れてしまったけど、ビデオかテレビの中に男が引きずり込まれてしまうという話で。頭からビニール袋を被せられてグルグル巻きにされた男のラップ、オペラ。梱包前のスピーカーがぶおんぶおんと風を振動させる息苦しいビート、窒息しそうな音像。






2015年8月7日金曜日

極私的2010年代考(仮)……Fuck Buttons『Slow Focus』


ファック・ボタンズの名前を久しぶりに聞いたのは昨年の夏。映画監督のダニー・ボイルが総合演出をしたロンドン・オリンピックの開会式で、ポール・マッカートニーやアークティック・モンキーズのライヴ・パフォーマンスとともに、彼らの音楽が世界中に向けて流されたことは嬉しいサプライズだった。音楽監督を務めたアンダーワールドのリック・スミスが彼らのファンだったことから声がかかり、ローリング・ストーンズやデヴィッド・ボウイ、セックス・ピストルズ、クラッシュ、ニュー・オーダーら英国を代表するアーティストの楽曲に交じって、彼らの“Surf Solar”と“Olympians”のリミックスがスミスのコントリビュートしたセレモニーのサウンドトラックとして使用された。さらに、片割れのベンジャミン・ジョン・パワーのソロ・プロジェクト、ブランク・マスがロンドン交響楽団と録音した“Sundowner”も披露。

かねてより音楽の目利きには定評のあるボイルとはいえ、気鋭が揃う英国のインディー・シーンでもレフトフィールドに位置する彼らの起用は異例と言えるだろう。実際、あのような国際的行事の場で自分たちの音楽が流れるというのは、彼らにとって光栄ながらもシュールな体験だったようだ。ともあれ、内外に少なからぬ驚きを残したその光景は、リリースが久しく途絶えていた(※シガー・ロスのヨンシーのリミックス“Tornado”などあったが)彼らの存在をあらためてクローズアップさせる機会となったに違いない。

2009年のセカンド・アルバム『タロット・スポート』から件のオリンピックを挟み、最新作となるサード・アルバムの本作『スロウ・フォーカス』までの約4年間。シングル・カットを除けばリリースの音沙汰はなかったが、もちろん、その間も彼らは活動の手を休めていたわけではない。まず、リリースから約2年半も続く長丁場となった『タロット・スポート』のツアー。さらに、それと並行して彼らは個々に新たなプロジェクトを始動させる。かたや、パワーは前述のブランク・マス名義で、モグワイが主宰する〈Rock Action〉からデビュー・アルバム『Blanck Mass』をリリース。かたや、相方のアンドリュー・ハンは、女性ヴォーカリストのクレア・イングリスとマルチ・インストゥルメンタル奏者のマシュー・ド・プルフォードを迎えたユニット、ドーン・ハンガーを結成。昨年、デビュー・12インチ『Stumbling Room / Billowed Wind』を自主リリースした。また、外仕事ではファック・ボタンズとして手がけたシガー・ロスのヨンシーのリミックス“Tornado”がある。そして、日本のファンにとっては、念願の初来日となった2011年2月の「I'll Be Your Mirror」でのステージが記憶に新しい。ちなみに、本作『スロウ・フォーカス』の曲作りは、前作『タロット・スポート』のツアーから戻り次第始めて約一年半に及んだそうだが、オリンピックの開会式の頃にはすでに作業を終えていたという。


前の2枚のアルバムで注目されたことのひとつに、サポートを務めた制作陣の存在が挙げられる。2008年のファースト・アルバム『ストリート・ホーシング』では、モグワイのギタリストのジョン・カミングスと、モグワイが主宰する〈Rock Action〉所属のパート・チンプのティム・セダーがレコーディング・エンジニアを、さらにスティーヴ・アルビニ率いるシェラックのボブ・ウェストンがマスタリングを担当。そして、2009年の前作『タロット・スポート』では、以前にリミックスを依頼したアンドリュー・ウェザオールをプロデューサーに起用。幾重ものシンセ・ノイズ/ドローンとトライバルなリズム、ディストーション・ヴォイスが絡み合うエクスペリメンタルなサイケデリック・サウンドを展開した前者に対し、そこにバレアリックなダンス・ビートを持ち込み、一転してミニマルな躍動感とトランシーな陶酔感をもたらした後者と、いずれもそのサウンドからは、制作をサポートした人脈の音楽的なバックグラウンドを反映した志向が強く窺えた。つまり、グローイングや〈Kranky〉周辺のアンダーグラウンドなアンビエント・ドローン、イエロー・スワンズやプルリエントのインダストリアルとの共振やシューゲイザー・リヴァイヴァルの流れも意識させたノイズ・ミュージックと、それこそ当初「ニュー・エキセントリック」という泡沫的なコピーでフォールズやジーズ・ニュー・ピューリタンズらとカテゴライズもされた折衷主義的なダンス・ミュージックの結節点といえた彼らのサウンドを、まさにモグワイに象徴される90年代後半~2000年代以降のパンクやハードコアを出自としたポスト・ロック/インストゥルメンタル・ロックの系譜に位置付け、さらにウェザオールがDJやリミキサー、セイバーズ・オブ・パラダイス/トゥー・ローン・スウォーズメンの活動を通じて歩んだエレクトロニック~UKクラブ・ミュージックの文脈へと接続を試みた筋書きが、その2枚のアルバムのプロダクションやトラックメイクからは透けて見える。また、その制作陣の起用に表れたアルバムごとのサウンドのベクトルは、そもそもパンク/ハードコアの厳格なマナーを信条に培われたパワーと、〈Warp〉や〈Leaf〉のアーティストに耽溺していたハンの、それぞれ個々のルーツを再確認するようなアプローチを示していて興味深い。

対して、約4年ぶりとなるニュー・アルバムの本作『スロウ・フォーカス』が前の2枚のアルバムと異なるのは、それが初のセルフ・プロデュース作品である点だろう。そのきっかけとしては、彼らが自前のスタジオを手に入れたこと。本作はそのロンドンの「Space Mountain Studio」で制作された最初の作品になる。そして、彼らのインタヴューによれば、そうしてスタジオに入り浸り日常的に作業を続ける中で、レコーディングやプロダクションに関する発想というものが、じつは自分たちの曲作りのプロセスには自ずと組み込まれたものであると気付いたことが今回のセルフ・プロデュースに至った理由なのだという。彼らの曲作りは、ライヴと同じく互いが向き合う形に機材をセッティングして行われ、制作された楽曲は実際にライヴで試してみてスタジオと作業を往復しながら完成形に仕上げていくやり方がとられているのだが、その過程ではこれまでも、テクスチャーや音のコンビネーション、リズム・ストラクチャーのアレンジなどポスト・プロダクションも見据えたやり取りが同時進行で行われてきたとハンは語る。いわく、彼らにとってプロデューサー的な思考とは曲作りにおける考察や熟慮の一環であり、今回のセルフ・プロデュースについては自然かつ論理的なネクスト・ステップとして受け止めているようだ。ちなみに、本作の曲作りは、2年半も続く長丁場となった前作『タロット・スポート』のツアーから戻り次第始めて、期間は約一年半に及んだそうだが、オリンピックの開会式の頃にはすでに作業を終えていたという。



セルフ・プロデュースを受けて特別に意識しすることもなく、コンポジションのアプローチ自体はこれまでのアルバムと同じだという。ただ、曲作りからレコーディング、ミックスまで一括して同じスタジオで作業が行われた成果か、よりダイレクトでアグレッシヴなサウンドに仕上がったと自負する。ボアダムス・ライクのパーカッシヴなドラム・ビートが強烈な“Brainfreeze”に続き、反復するSci-Fiなシンセのアルペジオが、まるでジョルジオ・モロダーが映画『トロン』のサウンドトラックを手がけたイメージにふさわしい“Year Of The Dog” (※近年、ジョン・カーペンターの80年代のSF映画のサウンドトラックがUKの〈Death Walts〉から再発され、コズミック~Nu Discoの文脈で再評価されている流れも想起させる)。そして、最近ヒップホップにハマっていると話していたハンの趣向が反映されたと思しき、“The Red Wing”のブレイクビーツやファットなボトム・プロダクションは、本作のトピックとなる彼らの新機軸といえるだろう。ボルチモア・ブレイクスやゲットー・ベースも連想させる“Prince's Prize”のコンシャスなビートも新鮮かもしれない。対して、アシッド・ハウスのベース・ラインや複雑なビート・プログラミングを呑み込む“Sentients”や“Stalker”の重層的なシンセ・サウンドからは、パワーがブランク・マス名義で披露するよりドローニッシュでインダストリアルなノイズの影響も見て取れる。“Hidden Xs”の10分を超えるスペクタクルは、彼らがモグワイとエイフェックス・ツインの私生児として音楽的な青写真を描いた、その現段階での完成形を見るようで圧巻だ。

彼らにとっては、前の2枚のアルバムとの違いよりも連続性の方が意識されているそうだが、一方で「これまでの作品にはなかった感情が表現されている」とも語っていて、パワーは本作を「malevolence(※悪意、悪心)」という言葉で形容している。なお、本作のマスタリングは、『ストリート・ホーシング』以来となるボブ・ウェストンが担当(※エンジニアリングはLCDサウンドシステムやビッグ・ピンク、イズ・トロピカルの諸作を手がけたジミー・ロバートソン)。なるほど、前作『タロット・スポート』の〈KOMPAKT〉勢にも通じるバレアリックなサウンドと比較すると本作はソリッドな音像が際立つが、この辺りの人選も、本作のどこかダークで攻撃的なムードと関係があるのかもしれない。

今秋、彼らは本作を引っ提げて、主要都市を回る大規模なUK/USツアーを敢行。なかでも、デムダイク・ステアやレイムと並び昨今のインダストリアル・テクノ/ダーク・アンビエントを代表する〈Tri Angle〉の気鋭、ハクサン・クロークことボビー・ケリックを連れ立った前半のツアーは、本作が示す現在のファック・ボタンズの音楽的なボジションを象徴する格好の機会となるに違いない。そして、前作のツアーでは本作の楽曲がすでに披露されていたと明かすように、今回のツアーでも次回作に向けた新たな楽曲がいち早く披露されることになるのではないだろうか。あとは日本のファンとして、初来日となった2年前の「I'll Be Your Mirror」でのステージ以来となる来日公演の実現を切に願うばかりである。

(2013/08) 

2015年7月31日金曜日

告知⑯:Spirit Club などなど

〈S&S〉通算24作目のリリースになります。

◎Spirit Club/Spirit Club
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY150625-SC1


Wavvesのネイサン・ウィリアムスが弟のジョエル、そして親友のアンドリュー・キャディックと始めた新たなプロジェクト。
スタイルはれっきとしたバンド。が、ノリは初期の宅録時代のWavves~No-Fi/Shitgaze、はたまたガジェットな音触はネイサンがジョエルとやってたエレクトロ/ヒップホップ・デュオのSweet Valleyにも近いか。



ジザメリとリップスが悪酔いしたようなローファイ・サイケ。サーフ、オールド・ポップ、シューゲイズetc。
ちなみにアンドリュー・キャディックはJeans Wilder名義でも活躍する、その界隈の才人。
推して知るべし。かも。


ちなみに、同じくディスクユニオンからリリースのこちらの作品にも解説を寄せています。

◎The Yours/TEENAGARTEN
http://diskunion.net/indiealt/ct/detail/AWY150624-YS1
香港のペインズ、から一転、フォールやノー・ウェイヴの反響も窺わせるダークな2nd。



〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421

よろしくお願いします。

2015年6月4日木曜日

USアンダーグラウンド白書 : Blues Control



活況を呈する昨今のUSアンダーグラウンドで、いわゆる「ニュー・エイジ」というタームが浮上の兆しを見せ始めたのは、ここ1、2年のことだろうか。もっとも、そこに明確な画期点のようなものはなく、それはかつての「ニュー・エイジ」がアンビエントから派生し、ミニマルやワールド・ミュージックなど様々な領域と隣接した複合的なサブ・ジャンルだったように、今日の「ニュー・エイジ」もまたUSアンダーグラウンドで展開する坩堝的な音楽実験の中から醸成されたトピック――という印象が強い。よってそこに含まれうるアーティストも広範囲に及び、個々のソロやインナー・チューブ等々のエメラルズ周辺から、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ハイ・ウルフ、サン・アロウやジェームズ・フェラーロ……まで基準は曖昧だが、傾向としてはエレクトロニック・ミュージックの新たな潮流のひとつと位置付けることが可能かもしれない。その背景には、2000年代中盤以降のフリー・フォークから続く流れ、つまりエスニックやエコロジーの余波も受けたサイケデリックの隆盛や、そこから支流のように伸びたドローン/ドゥームとの接続、そしてシンセサイザーを中心にリヴァーヴやエコーが多用されたアンビエント~ベッドルーム・ミュージックの台頭を指摘できるだろう。あるいは、リヴァイヴァルをへて基礎教養として定着した感もあるクラウト・ロックの副作用という面もあるかもしれない。ともあれ、そうした様々なジャンルやシーンが接近ないし合流する場所から顕在化した「ニュー・エイジ」的なサウンドは、昨今のUSアンダーグラウンドにおける興味深い事象といえる。





本作『ヴァレー・タンジェンツ』が、フル・アルバムとしては4作目になるニューヨークはクイーンズ発の男女デュオ、ブルース・コントロール。これまで〈Not Not Fun〉や〈Woodsist〉、〈Holy Mountain〉などUSアンダーグラウンドの名立たるレーベルから作品をリリースし、一昨年には来日公演も行われた彼らだが、そのキャリアの出発点もじつは「ニュー・エイジ」と深い関係があった。というのも、そもそも彼らは現在のブルース・コントロールの以前に、その前身にあたるウォータースポーツというプロジェクト名で活動していて(※2003年~)、そのコンセプトというのが、片割れのラス・ウォーターハウスいわく「ニュー・エイジを復活させる(resurrect)試み」だった。実際、シンセやベル、ゴングやパーカッションを用いた静謐系のミニマル・ミュージックは、禅の世界にも通じる神秘的なムードを湛えていて、当時のレヴューなどでは喜多郎を引き合いに出して語られることもあったという。また初期のライヴではサイエンス~ヒーリング系のレコードを流しながら演奏していたこともあったようで……もっとも、当時の彼らの音楽はジョーク半分に受けとめられていたフシがあり、喜多郎との比較も本音は多分に嘲笑的なものだったらしい(※彼らはお世辞と受け取ったようだが……ちなみに彼らの関心はあくまで音楽のみで、宗教や精神世界的な部分にはまったく興味がなかった)。それもそのはずで、今でこそ「ニュー・エイジ」はUSアンダーグラウンドのトピカルなタームだが、当時は真剣に興味を持つアーティストやリスナーはほとんどおらず、おかげで資料用のレコードは激安のワゴンセールで購入できたという。しかし彼らには明確な目的があり、ラスはそれを「サイケデリック・ソングの要素を脱構築すること(deconstructing)」と記している。それこそアシュ・ラ・テンペルやマニュエル・ゲッチング、タンジェリン・ドリームといった例を持ち出すまでもなく、クラウト・ロックと「ニュー・エイジ」の間には音楽的革新を果たした共同歩調の歴史があり、そうした前例も彼らには青写真のひとつとしてあったようだ。


そんな彼らがブルース・コントロールとして活動をスタートさせたのは2006年。ウォータースポーツとして招かれたあるショウで、唐突にブルース・コントロールを名乗り演奏を始めたことがきっかけだった。ラスによれば、その頃の彼らはサウンドの新たな方向性を模索していたらしく、その糸口として“ロック”寄りのパフォーマンスを画策していたという。結果的には彼らはそのショウで手応えを掴み、さらにその際の音源は後に『Riverboat Styx』というカセット作品として〈Fuck It Tapes〉からリリース(※後に〈Not Not Fun〉からリイシュー)されることにもなるわけだが、ラスいわく彼の頭の中には、自分達のような「ニュー・エイジ」なユニットが“ロック・バンド”を演ってみたらどうなるのか――という期待のようなものがあったようだ。一方で、パートナーのリア・チョーもまた、そもそも高校時代にジェスロ・タルのカヴァー・バンドを組んでプログレやジャムにハマるような素養の持ち主だったという。つまり「ニュー・エイジ」を掲げたクラウト・ロックや広義のエレクトロニック・ミュージックを含むサイケデリック・サウンドの探求をへて、ブルースやガレージ~ハード・ロック等々に及ぶクラシックなロック・サウンドを構想した――もっとも、理論的な転回というより実践的な延長・発展と呼べるプロセスがウォータースポーツとブルース・コントロールの間にはあったと想像できる。



前述の『Riverboat Styx』を含む数本のカセット作品の後、ファースト・アルバム『Puff』をウッズが主宰する〈Woodsist〉から2007年にリリース。以降、〈Sub Pop〉のシングル・シリーズの7インチやCDRなど挟みながら、〈Holy Mountain〉からセカンド・アルバム『Blues Control』、そしてカート・ヴァイルのゲスト参加も話題を集めたサード・アルバム『Local Flavor』を名門〈Siltbreeze〉からリリースと、作品を重ねるごとにポテンシャルを押し広げてきた。ラス操るギターとテープ・ループ、カスタムメイドが施されたリアのシンセ/キーボードによって即興的に音をミックスさせるスタイルはライヴで練り上げられたもので、実際ライヴでは2台のテープ・デッキを使ってピッチを弄ったりコラージュをしながらループやビートを作り、その上に演奏やサンプリングが重ねられていく。曲作りの基本は即興とジャムであり、反復(repetition)と構築(※ラスは「垂直方向に曲を築く(building songs vertically)」と形容する)こそブルース・コントロールの生命線である。そして作品はあくまでライヴの延長線上にあり、ライヴでの演奏からループやリフのアイディアを探り、あるいはライヴ音源そのものをミックスさせたりもすることでレイヤーは生み出される。レコーディングではコンピューターやデジタル・テクノロジーも多用されるが、ラスいわく作品には「実際に演奏できること以外は記録されていない」、つまり自分達がやろうとしているのは録音可能性ではなく演奏可能性の追求であると強調する。かくしてブルー・チアーからエリック・サティやポポル・ヴーまで引き合いに出され、挙げ句“ヴァン・ヘイレンとヘンリー・フリントを繋ぐミッシング・リンク”とまで評される彼らだが、様々な反響と参照を含んだ音の奥行きはローファイな製法とは裏腹に途方もない。




よって彼らのディスコグラフィーは各時点のピークのパフォーマンスが記録された強烈なものばかりだが、なかでも異色であり、前作『Local Flavor』と本作『ヴァレー・タンジェンツ』のブランクを埋める意味でも興味深い作品が、昨年にリリースされた『FRKYS Vol. 8』だろう。『FRKYS Vol. 8』はニューヨークの〈Rvng Intl.〉がリリースするコラボレーション企画の第8弾にあたる作品で、過去にはエクセプターとカーター・トゥッティ(※スロッビング・グリッスルのクリス&コージー)とフィータスことジム・サーウェル、ジュリアナ・バーウィックと元DNAのイクエ・モリが共演を果たし、つい先日もサン・アロウ&ゲッデス・ゲングラスとザ・コンゴス(※リー・ペリーとの共作で知られる70年代のダブ・レゲエ・グループ)による最新作『FRKYS Vol. 9』がリリースされたばかりだが、『FRKYS Vol. 8』でブルース・コントロールのふたりが共演相手に指名したのは、Laraaji Nadabrahmananda。Laraajiはチターやハンマー・ダルシマーといった民族弦楽器を演奏する音楽家で、本名のエドワード・ラリー・ゴードン名義でも70年代から作品を発表してきた「ニュー・エイジ」の祖父のひとりだが、その彼が80年にブライアン・イーノのプロデュースで制作したアンビエント・シリーズの第3弾『Ambient 3: Day Of Radiance』こそ、「ニュー・エイジ」についてラスの目を大きく見開かせるきっかけとなった一枚だったという。Laraajiは共演を快諾した意図を「クリエイティヴなアンビエント・ミュージックの聴取を通じて、より深い静寂(Deeper Stillness)というものを老若のリスナーに提示したい」と語っていて、結果的に同作品は、一日限りのレコーディングでじつに4時間近くにわたって繰り広げられた両者のインプロヴィゼーションをドキュメント/抜粋した大作となった。通常のブルース・コントロールの作品と比べると「ニュー・エイジ」寄りのサウンドだが、ウォータースポーツ時代に溯るふたりのルーツを再確認できる意義深い作品といえるだろう。




〈Drag City〉から初のリリースとなる本作『ヴァレー・タンジェンツ』は、現在彼らが拠点を置くペンシルヴァニア州リーハイ・ヴァレー郊外のクーパースバーグで録音された。現時点でクレジットの詳細は不明だが、これまでの作品同様にセルフ・プロデュースで制作され(※ファースト『Puff』の録音&ミックスは〈Woodsist〉主宰/ウッズを率いるジェレミー・アールも在籍するMeneguarのジャスティン・ウェルツが務めた)、基本となる音作りのスタイルやアプローチもこれまでと大きな変更はない。が、たとえば初期の作品に顕著だったガレージ・ロックやノイジーなトーン、あるいは前後不覚に陥るダブの感覚やレイヤー・サウンドの混沌とした音響は、本作では幾分和らいだような感触を受ける。とりわけ耳を引くのは“Love's A Rondo”を彩るピアノのフレーズで、スロウなファズ・ギターやパーカッションとユニゾンしながら醸し出すスピリチュアルなムードは、どこかアリス・コルトレーンの世界も彷彿とさせて印象的だ。また、ジャジーなピアノ・ソロが映える“Open Air”、ピアノのスタッカート/シンコペーションが鮮烈な“Gypsum”についても同様だが、いずれもメロディ・ラインが際立ち、スポンテニアスなサウンドに“ポップ”な輪郭を与えている。一方、“Iron Pigs”のエルメート・パスカルもかくやたるフュージョン的なアンサンブル、“Opium Den/Fade to Blue”のサイケデリックで霧深いテクスチャーや“Walking Robin”のローファイなビートが刻む瞑想的なセッションなどは、従来的なブルース・コントロールの本領を堪能できるハイライトだろう。もっとも、前作収録の“On Through The Night”のような極端に長尺な楽曲はなく、即興とジャムを軸としながらも整理され、凝縮されたコンポジションが本作の特徴といえるかもしれない。そこには前述した『FRKYS Vol. 8』との対比も見て取ることができるが、演奏のテンションは相変わらず高く、ともあれ、これまでのディスコグラフィーからさらに前進を遂げたブルース・コントロール像が記録された作品であることに間違いない。




今回のブルース・コントロールをリリースした〈Drag City〉、あるいは昨年バーン・オウルやウッデン・シップスのニュー・アルバムやエターナル・タペストリーとサン・アロウのコラボレート作品を送り出した〈Thrill Jockey〉といったレーベルが、いわばUSアンダーグラウンドの“中二階”的な役割を担いアーティストをフックアップするケースが近年見られる。たとえば〈Not Not Fun〉傘下の〈100%Silk〉のようなサブ・レーベルの活発化の一方で、氾濫するUSアンダーグラウンドが次の段階を求めて新たな局面を見せ始めているのは間違いなく、その動向には注視すべきものがある。それは昨今のブルックリンのアーティストが辿ったようにUSインディのメインストリームへと向かうのか、それともまったく別のオルタナティヴなシーンを現出させるのか――。本作『ヴァレー・タンジェンツ』は、この先のUSアンダーグラウンドも視野に入れた、バンドの今後を占う試金石となる作品になるだろう。

(2012/05)

2015年6月1日月曜日

告知⑮:Wand などなど

ご無沙汰です。
〈S&S〉、約半年ぶりのリリースになります。

WAND/GOLEM
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY150508-WD1
ロサンゼルスの4人組、ワンド。



デビューはマイカル・クローニンとのスプリット7インチ、去年のファースト・アルバム『ガングリオン・リーフ』はタイ・セガールのレーベル〈God?〉から。
そういうバンドでして、そういう音になります。
プロデュースも然り、ジー・オー・シーズやセガール関連作でお馴染みのクリス・ウッドハウス。


ちなみに。〈S&S〉からのリリースではありませんが、同じくディスクユニオンからの作品で

サーストン・ムーアとジョン・モロニー(サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マン、チェルシー・ライト・ムーヴィングetc)のデュオ。
Thurston Moore/John Moloney/Full Bleed



http://diskunion.net/progre/ct/detail/AWY150326-TMJM1


それと
香港のギター・レス(ベース・トリオ+ドラム)4人組、ANWIYCTIのデビュー・アルバム
ANWIYCTI/NEW WORLD IF YOU CAN TAKE IT


http://diskunion.net/indiealt/ct/detail/AWY150424-AN1
地元公演ではロシアン・サークルズやティ・ウィル・デストロイ・ユーの前座を務めたりもしています。

などの解説も書かせてもらっています。

〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421

よろしくお願いします。






2015年2月10日火曜日

極私的2010年代考(仮)……Gravenhurst (1999–2014)



おそらくは、多くのリスナーにとってグレイヴンハーストの名前を知るきっかけになったのが、2004年のセカンド・アルバム『Flashlight Seasons』だろう。もちろん、ニック・ドレイクやジェフ・バックリィとも比せられたその美しく幽玄なベッドルーム・フォークは、それだけで十分に魅力的で関心を引くものだったが、それ以上に『Flashlight Seasons』が反響を呼んだ大きな理由は、それが「Warp」からリリース(※正確には、前年に地元ブリストルのインディ・レーベル「Sink & Stove」からリリースされたのを受けてリイシュー)されたことだったように思う。




つまり、当時はまだテクノやエレクトロニック・ミュージック専門のイメージ(※ヴィンセント・ギャロのような例外こそあれ)が強かった「Warp」のレーベル・カラーと彼らの音楽性とのギャップが衆目を集めたわけだが、その意外性が、結果的にグレイヴンハーストという存在をより際立たせたのは間違いない。

もっとも、その背景には、アメリカにおけるデヴェンドラ・バンハートやアニマル・コレクティヴを代表格とした新たなフォーク・ミュージックのムーヴメントがあり、事実、『Flashlight Seasons』は「Warp」に先駆けてアリゾナの「Red Square」からリリースされた経緯がある。また、イギリスにおいてもそうした動きと呼応して、グレイヴンハーストことニック・タルボットとはタイプはやや異なるが、リチャード・ヤングスやアレキサンダー・タッカーといった同時代性を共有するシンガー/ギタリストへの注目が高まりを見せた時期だった。そして「Warp」以外にも、たとえば「Domino」や「FatCat」からリリースするフォー・テットやマイス・パレードやアデムのように、エレクトロニカ/ポスト・ロック以降のフォークやアコースティックの流れが、そこにいたるさらなる背景としてあったことも指摘すべきポイントだろう。


加えて、個人的に興味を引かれたのが、グレイヴンハーストという名前がデヴィッド・パホの曲名から取られたというエピソードだった。

デヴィッド・パホとは、アメリカはケンタッキー州ルイヴィル出身のアーティストで、スリントを始めとする80年代末~90年代初頭の地元のポスト・ハードコア・シーンに深く関わった後、トータスやフォー・カーネーションといった錚々たるグループを渡り歩く傍ら、ソロとしてエアリエルMやパパMなどの名義で作品を発表してきたシンガー・ソングライターである。2000年代に入ってからは、ビリー・コーガンがスマッシング・パンプキンズ解散後に始めたズワンへの参加や、ヘヴィ・メタル・ユニット=デッド・チャイルドの結成、また最近ではヤー・ヤー・ヤーズやインターポールのツアーにサポートで帯同したことでも話題を呼んだ。




そして、そんなデヴィッド・パホの複雑な音楽的変遷をへた経歴は、まさに前記の『Flashlight Seasons』と前後して「ネオ・フォーク」「フリー(ク)・フォーク」というタームとともに浮上した、多様な音楽ジャンル――それこそハードコアやノイズやポスト・ロックから、現代音楽やフリー・ジャズや民族音楽にいたるまで――に横断してルーツを引く新たなフォーク・ミュージックの担い手たちの姿と重なるものであり、ひいてはグレイヴンハーストへの関心もそこにこそあった。
というのも、ニックは99年にグレイヴンハーストを結成する以前に、90年代の半ばからアッセンブリー・コミュニケーションズというバンドを率いて活動していた過去を持つ。いわく、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスミスに影響を受けたギター・ロック・バンドだったらしく、シューゲイザーやポスト・ロックの要素も散りばめられたサウンドは、グレイヴンハーストと比べて実験的で“ロック寄り”なものだったという。そもそもニックは、ブリティッシュ・フォークの伝説的シンガーのバート・ヤンシュやニール・ヤングの大ファンを公言する一方、リスペクトするギタリストにケヴィン・シールズや元ハスカー・ドゥのボブ・モールドを挙げ、地元ブリストルではサード・アイ・ファウンデーションやフライング・ソーサー・アタックといったアンビエント/音響系を好んで聴くなど、ルーツはオルタナティヴな嗜好が強い。さらには、グレイヴンハーストの活動と並行して、ノイ!とジョルジオ・モロダーのミュータントとも評された地元ブリストルのミュージック・コレクティヴ=ブロント・インダストリーズ・キャピタルに参加していた時期もある。

つまり、ニックもまた同様に折衷的なバックグラウンドを抱えたシンガー・ソングライターに他ならず、そこにはデヴィッド・パホとの相似性を見ることができるだろう。そして奇しくも、『Flashlight Seasons』に続いてリリースされたサード・アルバム『Fires in Distant Buildings』(2005年)は、そんなニックのルーツが物語る先鋭性がバンド・サウンドを軸に前面化した作品となった。はたして、ニックがその辺りについてどの程度意識的だったのか詳細は知らないが、ともあれ、その命名のエピソードからも想像できる当時の「フォーク」をめぐる潮流のようなものを、グレイヴンハーストが象徴的に反映していたことは間違いない。

 
さて、前置きが長くなったが、本作『The Ghost In Daylight』は、2007年の『The Western Lands』に続く通算5作目、「Warp」からのリリースとしては4作目のアルバムになる。

前々作の『Fires in Distant Buildings』は、スタジオとベッドルームと半々でレコーディングが行われ、サウンドも前記のニックのバックグラウンドを象徴するように、サイケデリックなフォーク・テイストからノイジーなロック・アンサンブルやスロウコアまで幅広いレンジを披露した作品だった。対して前作の『The Western Lands』は、エンジニアリングやミックスもリハーサル・ルームや自宅のPCで行われるなどプライヴェートな環境で制作され、サウンドも多彩なアプローチのなかにブリティッシュ・フォークの影響を強く滲ませた、よりメロディアスなアレンジとトラディショナルなストラクチャーが際立つ内容だった(※ちなみに『The Western Lands』にはキンクス“See My Friends”の、『The Western Lands』にはフェアポート・コンヴェンションの“Farewell, Farewell”のカヴァーが収録されていた)。



本作『The Ghost In Daylight』においても、グレイヴンハーストの基本となるサウンド・コンセプトは変わらない。かたやアコースティック・ギターを爪弾くフォーク・スタイルと、かたやヴィンテージ・シンセやオルガン、メロトロンなど多彩な音色が織りなすレイヤーをバンド・サウンドに絡ませながら、ニックの叙情的でくぐもりのある歌声をともない陰影豊かなアンサンブルを紡いでいく。その魅力や醍醐味は作品を重ねるごとにグラデーションを見せつつも、グレイヴンハーストの世界観を変わらず特徴づけている個性であるだろう。

それはたとえば、“In Miniature”や“Three Fires”のように弾き語りに近くシンプルなかたちで提示されることもあれば、“Fitzrovia”や“The Ghost of Saint Paul”のようにアンビエントなタッチの独得な音響処理で包まれたかたちで提示されることもある。あるいはアルバムの幕開けを飾る“Circadian”では、清冽なフィンガー・ピッキングから次第にゆらめくようなフィードバック・ギターが誘うサイケデリックな展開を見せ、続くリード・シングルの“The Prize”においても、壮麗なストリングス・アレンジとプログレッシヴなバンド・アンサンブルが終盤に魔術的なクライマックスを飾る。




そして白眉は、アルバム中盤に置かれた“Islands”だろう。“Fitzrovia”と並んで8分を超えるロング・トラックだが、“Fitzrovia”がたとえばドゥルッティ・コラムも連想させるフォーク・アンビエントともいうべき静寂なるメディテーションなら、“Islands”の美しくミニマルなサウンドスケープはさながらブライアン・イーノとの邂逅も思わせる。シネマティックで音響詩的なサウンド・デザインは、かたやベッドルームの余韻も残したローファイなプロダクションとともにグレイヴンハーストのスタイルであり、とりわけ『Fires in Distant Buildings』から『The Western Lands』以降のアプローチを発展させたソロとバンド・アンサンブルの融合/コントラストも含めて、つまり本作『The Ghost In Daylight』は、これまでのディスコグラフィーをトータルに前進させその領域を押し広げた作品といえるだろう。



今年2012年は、グレイヴンハーストとしてのデビュー作となるファースト・アルバム『Internal Travels』がリリースされた2002年から数えて、ちょうど10年の節目の年になる。本作『The Ghost In Daylight』は、まさにそんなメモリアルなタイミングを飾るにふさわしい、集大成的ともいうべき作品に違いない。はたして次の10年にかけて、これからニックはどんな音楽を送り届けてくれるのか。気が早いかもしれないが、その行方を期待して見届けたいと思う。


(2012/04)

2015年1月29日木曜日

2015年の熟聴盤①

・ Viet Cong/Viet Cong
・ Yogee New Waves/PARAISO
・ Mourn/Mourn
・ VA/Multiply: Duppy Gun Prod. Vol. 1
・ VA/Master Mix: Red Hot + Arthur Russell
・ VA/She Knows More Than She Thinks
・ Project Pablo/I Want to Believe
・ ENERGISH GOLF/SIDE BUSINESS
・ Arca/Sheep (Hood By Air FW15)
・ Zs/Xe
・ Petite Noir/The King of Anxiety EP
・ The Go! Team/The Scene Between

2015年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Ryan Emmett/Portrait of a Dog
〈Orange Milk〉から。オンライン・アンダーグラウンドにおける“ジャズの新章”?というのは冗談だけど。いきなり注ぎ込まれるモーダルな気配になるほど、『Bitches Brew』のアンビエント・ヴァージョンという形容も頷けたり。〈OM〉といえばGiant Clawのイメージが強いが、こちとらカットやペースト感は皆無でひたすら瞑想的。

◎Tropical Rock/Suma Love
イリノイのフリー・フォーク・ユニットSpires That in the Sunset RiseのKathleen Bairdが始めた新しいデュオ。テノリオンやフルートが囁くように鳴る箱庭ミニマル・ポップ。B面のひそやかなコズミック感が、らしくもあり、新鮮。ニューヨークの〈Perfect Wave〉から。

◎NAH/tapefuck
90年代(「1994」というタグの意味は?)フィラデルフィアからのデス・グリップスへのアンサー。いや、バーネットみたいなMCは不在なれど、これはハードコアとマス・ロックとファンクとインダストリアルの折衷&止揚。基本ドラマーによるワンマン・ユニットだが、チョップとカットの波状でドス黒いカタルシスを。

◎Strange Mountain/Recollection Fuckup
インドネシアはジャカルタのMarcel Theeによるソロ・プロジェクト。過去には〈SicSic〉や〈exo tapes〉からのリリースもある多作なアンビエント作家。ジャケットからココロジー的な音を想像していたがまったくそう非ず。一言でいえばモーション・シックネス的な。鳥の囀りとかフィールド・レコーディングスも編み込むネイチャー系。

◎Raphi Gottesman/Signed, Noisemaker
同じくスウェーデンの〈Fluere Tapes〉から。トランペットやペダル・スチールも含んだオークランドのトリオ。アメリカーナ風味のインストゥルメンタル・ミュージック。シッピング・ニュースとアイアン&ワインのあいのこ。

◎Les Halles/Forum
去年はGiant Clawで一山当てた感の〈Noumenal Loom〉から。去年にフランスで録音されたというアンビエント。ヴィンテージ、というか古楽器で演奏されたような独特の褪せた風合い。

◎Komodo Haunts/Neo​-​Mythology
Mt. Tjhris名義でのリリースもあるアンビエント作家。〈SicSic〉や〈Hooker Vision〉からのリリースに続く去年の新しい一本。霞か湯気のようなアンビエントで、耳を澄ますとエレクトロニクスの隙間から流水音や自然音らしきものも聴こえてくる。ピンボケしたサン・アロウ、みたいな趣も。

◎Stag Hare/Pongdools
Garrick Biggsによるニューエイジ・シンセ・プロジェクト。三部作の内の二作目らしい。真ん中の曲ではモータリック・ビートを持ち出しアンビエントとクラウト・ロックを止揚。