2012年4月28日土曜日

2012年の熟聴盤④


・ Blues Control/Valley Tangents
・ Azusa Plane/Where The Sands Turn To GoldJason UrickI Love You
・ Mi Ami/Decade
・ Lotus Plaza/Spooky Action At A Distance
・ En/Already Gone
・ Grouper/AIA
・ Carter Tutti Void/Transverse
・ Tyme. × Tujiko/GYU
・ Japandroids/Celebration Rock
・ Ava Luna/Ice Level
・ world's end girlfriend/Starry Starry Night
・ マコメロジー/マコメンタリー
・ Willis Earl Beal/Acousmatic Sorcery
・ PROJECT UNDARK (PHEW, ERIKA KOBAYASHI) FEAT. DIETER MOEBIUS (CLUSTER)/Radium Girls 2011
・ JESSE RUINS/DREAM ANALYSIS
・ Quakers/Quakers
・ Black Swan/AETERNA
・ KIRA KIRA/Feathermagnetik
・ Jack White/Blunderbuss
・ Kufuki/Kufuki
・ MayMay/and so I place you in the setting sun
・ Life&Limb/Life&Limb
・ The Caretaker/Patience (After Sebald)
・ Mark McGuire/A Young Person's Guide To Mark McGuire
・ Gnod/Chaudelande Volume 2
・ Dave Longstreth/The Graceful Fallen Mango
・ The Mars Volta/Noctourniquet
・ Boy Friend/Egyptian Wrinkle
・ Orcas/Orcas
・ Mouse On Mars/Parastrophics
・ Dolphins Into The Future/A Star Maker, Strange Dreams, and Clairvoyance


(2012年の熟聴盤③)
(2012年の熟聴盤②)
(2012年の熟聴盤①)


2012年4月21日土曜日

極私的2000年代考(仮)……80年代USアンダーグラウンドの伝説:ミッション・オブ・バーマ再結成


ミッション・オブ・バーマが22年ぶりにニュー・アルバムを発表する。1970年代末にボストンで結成、ブラック・フラッグやベル・ウブらとともに黎明期のUSアンダーグラウンド・シーンを駆け抜け、わずかアルバム1枚(『VS.』)を残して1980年代初頭に散ったプロト・ハードコア/ポスト・パンクの雄。その彼らが突如、2001年にニューヨークで行われた再結成ワイアーのステージに前座として18年ぶりに姿を現してから3年。シェラック主催のオール・トゥモローズ・パーティーズへの出演やUSツアーをへて、ついに完成された『オン・オフ・オン』は、「復活」という言葉が生易しく感じられるほど漲るエナジーとロウなパッションに溢れた、第二期MOBの幕開けを飾るにふさわしい怪作といえる。

あのワイアーの有名な言葉「ロックじゃなければ何でもいい」を待つまでもなく、同じパンク以降の“ロックの既成概念が激しく揺さぶられた”時代に生まれたMOBもまた、ひとつの強烈な異議申し立ての存在としてあった。だからこそ、偶然にもそのワイアーと時期を同じくして復活を遂げたMOBの真意が気にかかる。そしてそのことは、あの時代のバンドやサウンドが再評価を受ける現在を考えるうえで、なおさら興味深い。どうして今、ふたたびMOBは必要とされたのか。ロジャー・ミラー(G/VO)に訊いた。


●まず、今回22年ぶりの新作『オン・オフ・オン』がリリースされるきっかけとなった2001年のバンド再結成の経緯から伺えますか?
「それは……なかなか説明するのは難しいんだ。何せ、自分たちもどうして再結成する気になったのか、わからないんだから」

●え?
「いや、いろいろな理由が積もり積もって、こうなったとは言えるんだけどね。日本でも出ているかもしれないけど、アメリカで“Our Band Could Be Your Life”(『病んだ魂』の著者、マイケル・アゼラッドが81年~91年のアメリカ・アンダーグラウンド・シーンについて書いた本)っていう本が出版されたのも、きっかけかもしれない。この本に、ブラック・フラッグやミニットメンとか、ソニック・ユースとか、たくさんのインディ・ロックバンドが登場していたんだけれど、その中にミッション・オブ・バーマも取り上げられていてね。でも……とにかく、理由がありすぎて、うまく説明できないな。もしかしたら、ジョーイ・ラモーンが死んだことにも、少しは影響を受けているかもしれない。でも、これが理由ですって、はっきりしたことは言えないんだよ。活動をやめたのは83年だったけど、それからいくら再結成の話を持ちかけられても、僕たちはずっと『ノー』と答えてきた。そうやってきたのに、なぜかある時に『イエス』と答える気になってしまったんだ(笑)。悪いけど、本当に、どうしてなのか、自分でもわからないんだ。でも、今のところうまくいってる気がするよ」


●でも、解散してから再結成するまで、メンバーとは連絡を取り合ってたんですよね?
「うん。ピーターは僕のレコードに参加してくれたこともあるからね。日本ではなかなか手に入らないだろうけど、僕はあれからずいぶんたくさんのレコードを作ってきたんだよ。そんなわけで、再結成する前から、ピーターともクリスとも会う機会はあったんだ」

●しつこいようですけど、そうやって顔を見る機会もあった中で、どうしてこのタイミングで再結成したのか、すごく興味があるんですが、そこはご自身でもわからない?
「うん、わからないね。でも、なんだかうまくいきそうな気がしたんだよ。実際やってみたら、ライヴを見に来てくれた人たちも気に入ってくれたみたいだしね」

●では、解散後も、あなたの中でMOBという存在はくすぶり続けていたんでしょうか? やり残したことはあった、いつかもう一度やりたいというような気持ちはありましたか?
「いや、何というか(笑)……。解散した時は、あれで終わりだと思っていたよ。解散したのは83年だったけど、あのころ僕たちはそんなに人気のあるバンドでもなかったしね。だから『ああ、これで終わりだな』って、それだけだった。まあ、あのまま続けていたらいろいろできたはずだとか、後になって思い返したりはしたよ」

●実際に3人で再びMOBとして音を鳴らしてみて、どんな感触でした? 「これだ!」みたいな感触を得られたりはしたのでしょうか?
「うーん、たまたまあの時は、ある人に、リンカーン・センターでミッション・オブ・バーマをやる気はないかって訊かれたんだよね。ニューヨークのリンカーン・センターと言ったら、そうとう大きな会場だよ(※バレエやオペラのほかパフォーマンス・アートがよく上演される劇場)。そういう話はいつも断わることにしていたんだけれど、その時は、僕だけで決めるには話が大きすぎる気がして、クリントに声をかけたんだ。その時は、クリントも僕と同じように『ノー』と言ってくれるはずだと思っていた。なのに、クリントはやりたいって言い出したんだ。僕は『ウソだろう、クリント、ほんとはやりたくないのにそう言ってるだけなんだろう?』って言ったんだけどね(笑)。それでもやりたいって言い張るから、じゃあ、ピーターがいなかったら無理なんだから訊いてみようっていう話になって。そうしたら、ピーターもやりたいって言うので、じゃあやろうかってことになったんだよ。3人が集まれば、いいものができるのは、僕もわかっていた。クリントはそこのところでちょっと不安があったみたいだけどね。そのころ、僕は別のグループでツアーに出ていたし、ピーターはピーターで、自分のバンドではギターをやっていて、もう10年もドラムを叩いたことがなかったりしたからね。でも、いったんスタジオでリハーサルを始めてみると、これぞミッション・オブ・バーマだっていうものが、よみがえってきたんだ。だから、いろんな意味で、始めてからはそんなに大変なことはなかったね」

●観客とか、周りの反応はいかがでした?
「うん、とても気に入ってくれているね。最初は2回ライヴをやって、それで終わりのはずだったんだ。再結成なんかしても、誰も注目してくれないだろうと思っていたし。だから、ニューヨークで1回、ボストンで1回だけのつもりが、結局ボストンでは3回、ニューヨークでは2回ライヴをやることになって。それだけ、見に来てくれた人たちの盛り上がりが尋常じゃなかったんだ。本当にすごかったよ、あれは」


●そういう観客の反応を見て、ずっと続けていこうという気になったんでしょうか?
「そうだね、このままやってみようという気持ちになったのは、それがあったと思う。ライヴがあんまり受けたので、うれしくなってしまって。それで次は、イギリスでライヴをやってみることにした。前の時は、行けなかったからね。そうしたら、またとても受けたんで、じゃあ他のところでもやってみようかって思ったんだよ。アメリカの西海岸とかね。ライヴをやるのは楽しいし、しかもギャラもすごくいい(笑)。いや、ほんとびっくりするくらいいいんだよ。だから、そういういろんなことがあって、続ける気になったんだろうね」

●あなたの中で、70年代にMOBをスタートさせたときと、2001年に18年ぶりにMOBを再始動させたときと、心情的にはどんな違いがありました?
「違いはあまりなくて、僕たちにとってはほぼ同じ気持ちだったね。ライヴを観た人たちもそう思ったみたいで、僕たちが解散したのは83年の3月だったんだけど『今はまるで83年の4月みたいだ』って言われた。つまり、それだけ違いがなかったってことだよ。前の時にやっていたことの続きをやっているみたいだったんだ」

●ただ、18年という空白はかなり大きいですよね。その間に、新たにMOBを始めるうえでの「燃料」になるようなものがあったのではないかと思うんですが。
「確かに、この18年の間、僕たちはそれぞれにまったく違ったことをしてきたというのは言える。クリントは音楽からはかなり離れていたけど、ピーターはずいぶん活発に活動してきたし。僕は僕で、もっとアバンギャルド寄りの音楽を作ってきた。僕はもともと、そういう音楽の志向があったしね。だから、それぞれに違ったタイプの音楽の世界で実験をしてきたんだ。でも、またミッション・オブ・バーマとして演奏したいと思う時が来るなんて、僕は考えもしなかった。そんな発想は、僕にはまったくなかったんだ。でも、こうやってまたミッション・オブ・バーマを始めて、一緒にやってみると『うわ、これってすごいじゃないか』って気持ちになって。3人ともそう思ったものだから、新しく曲も書き始めたんだ。それが結局、今度のアルバムというかたちになったわけだね。最初にライヴをやったときに、次にライヴをやるごとに1曲、新曲を入れようって3人で決めたんだ。その後、3ヵ月で3回ライヴをやることになっていたから、そのたびごとに、新しいものができるように、僕が曲を持ってきた。僕以外にも、メンバー全員が新曲を書いてきたから、最後には新曲だけでアルバムが1枚できるくらいになったんだよ。そうやってできたのが、今度のアルバムだね」

●そうしてできた今度のアルバムですけど、この再結成は現在のシーンにおいて、どのような意味を持つ「事件」になると思いますか?
「うーん、このアルバムがまだリリースされていない今の時点では、何とも言えないね。いや、というよりは、『僕たちには知りようがない』と言った方がいいだろうな。そんなこと、わかるわけないんだよ。影響とかを決めるのは、僕たちではない。みんなが気に入ってくれているみたいだから、それなりにインパクトはあるとは思う。でも、僕たちに言えるのはそこまでだね」

●そうですか。では、あなた自身のキャリアの中で、新たなフェーズの始まりとは言えますか? 先程、今まではアバンギャルド寄りの音楽をやってきたという話もありましたが。
「そうは言うけどね、きみたちは僕が今までやってきた音楽をどれくらい知っているのかな?」


●すいません、あまり詳しくはないのですが……ただ、今現在MOBとしてやっているものとはかなり違うのではないかと思ったものですから。
「うん、違うことは違うけどね。ただ、音楽に込められたエネルギーという点では、かなり似ているとも言える。今度のアルバムでも、今まで覚えてきたいろいろな手法を使っているしね。僕の中にあるアバンギャルドなアイディアを音楽に応用していると言う意味では同じだけれど、今回はただ、応用している先がロックバンドだというのが違う点なんだよ」

●では、今回の再結成というのは、83年に一度解散したMOBの再生を意味するものなのか、それともまったく新しい「新生MOB」を宣言するものなのか、どちらですか?
「それは……周りの人は、前のアルバムと地続きの、単なるセカンド・アルバムというとらえ方をしているみたいだけど、僕にとっては違うものなんだ。音だって、前とは同じじゃない。別に意識的に、前と変えようと思ったわけではないけれど、かといって前と同じようなサウンドにしようと思ったわけでもない。同じメンバーがやっているわけだから、同じような音に聞こえるのはある程度は仕方ない。でも僕自身は、すごく違うとも思うんだよ」

●じゃあ、まったく新しいバンドだという感じなんでしょうか?
「いや、それがそうでもないんだ。確かに前とは違うとは言ったけど……そうだなあ……前とは違うんだけれど、同じミッション・オブ・バーマであることには変わりはないんだ。こういうのは、なかなか説明しづらいね」

●そうですか。で、新作の『オン・オフ・オン』ですが、聴いて何よりも驚かされたのは、その当時とまるで変わらないハードコアで荒々しいエナジーです。それでいてノスタルジーや過去の遺産に頼ることなく、2004年のMOBの姿・ヴィジョンを鮮やかに提示して見せていますよね。あなた自身では今回の作品をどう評価していますか?
「うん、僕としてもすごく“今”の作品ができたとは思う。メンバー3人、誰もノスタルジーなんて感じていないし、このバンドをそういうものとはとらえていない。僕たちは、今やるのに一番理にかなっているものをやっているっていう、それだけなんだよ。まあ、さっきも言ったとおり、そうやって作ったものが、現代社会とか、音楽シーンの中でどこに当てはまるのかは、僕にも知りようはないのだけれど(笑)。ただ、少なくとも僕たちがやりたくないと思っていたものはあって……今はみんな、スタイルとかに縛られすぎている気がするんだ。でも、さらに上を目指して、今までに無かったものやアイディアを生み出すのなら、スタイルにこだわる以外にも他にいろいろとやり方があるんだよ。ただ、それには今までの変な決まりを無視しないといけない。たぶん、僕たちはそういう決まりなんか気にしないでやれているはずだし、それは、とてもいいことなんだと思うよ。僕たちの曲を聴いて、スタイルなんて必要ないんだと、気づいてくれる人もいるかもしれないし。聴いていて楽しいということ以外で、このバンドが人にとって役に立つところがあるとしたら、一番大きいのはそういうところだろうね」

●手応えというか感覚としては、かつての何かが強力に戻ってきた感じなのでしょうか? それとも、まったく新たなパワーがたぎっている感じですか?
「そうだね、感覚的には、前にやっていたときとすごく似ている。ただ、違うところもあって……こういう質問には、どう答えたらいいかわからないな。僕たちにとっては、ただミッション・オブ・バーマだっていうことしかないんだ。この3人が集まって音を出すと、こういうものになるっていうね。前にやっていたときからそれなりに時間が経っているから、当然違ったものにはなってはいるけれど……」



●では、今作はメンバー3人がそれぞれに曲作りに関わったそうですが、具体的にはどのようなプロセスを経て、今回の音作りはスタートしたのでしょう?
「そう、3人が別々に曲を作ってきて、それを持ち寄ったんだ。ただ、クリントや僕が作ってきた曲は、リハーサル前にはもうかなりかっちりできあがっていたんだけど、ピーターの曲はもっと自由になる部分が多くて、リハーサル中に3人で変えたところもずいぶんあったよ。そんな感じで、曲は一緒には作らなかった。それでも、この3人で演奏すると突然ミッション・オブ・バーマらしくなるんだよね。クリントはコンソナントっていう、別のバンドもやっているし、今度のアルバムに入っている曲だって、コンソナントの曲になっていたかもしれないのもある。そういう曲でも、ちゃんとミッション・オブ・バーマがやれば、このバンドの曲になるんだよ」

●ところで、シェラックのボブ・ウェストンをテープ・マニピュレーターに加えたのはどういう経緯だったんでしょう? MOBのハードコアな音作りには、まさに理想的な選択だとも思ったのですが。
「ボブはピーターがやってたヴォルケーノ・サンズっていうバンドのメンバーだったからね。それに、クリントのコンソナントのプロデュースもしてるうえに、僕のアルバムでトランペットを吹いてくれたこともあった。だから、3人とも、ボブとは関わりがあったんだよ。そのうえ、ボブはミッション・オブ・バーマにすごく憧れていたし、僕たちもシェラックは好きだったしね。だから、今回彼にテープ・マニピュレーターをやってもらうというのは、とても自然な流れだったわけだよ」

●では、今度のアルバムは、この22年間に貯め込んでいたものがすべて吐き出された作品、と言えるのでしょうか?
「いや、それは違うね。だって、別にこのバンドをやろうと思って貯め込んできたものなんて、僕にはないから。その間に、3人それぞれにいろいろなアイディアを思いついてはきたし、そういうものの一部はこのアルバムにも反映されている。でも、ミッション・オブ・バーマ用に何かアイディアを貯め込んできたというわけではないね」

●でも、たとえば、ソロやユニットでの活動や、実験的なアプローチが、現在のMOBのサウンドにフィードバックされたということはありますか?
「それはどうだろう、ちょっと考えさせてくれないかな……。そうだな、僕のギターが、前とは違ったレベルに達しているとは言えるんじゃないかな。たとえば“The Setup”だと、曲の途中にあるギター・ブレイクが、テープ・リバーブと二重奏をしているように聞こえるところがあるけど、あれは普通じゃ考えられないようなものなんだよ。あとは“Fever Moon”のギター・ソロでは、金属片を使って弾いていたりするし。それに、僕の作る音楽にはクラシックの要素もある。今度のアルバムでもストリングスが入っているのも、そういうところの現われだよ。だから、そういうクラシック的なところと、アバンギャルドなノイズっぽいものが、このアルバムにも入っているとは言えるかな」

●では、70~80年代のMOBと、今こうして再結成した2000年代のMOBの最大の違いは何ですか?
「そうだね、前よりはゆっくり目に演奏するようになったことかな(笑)。ゆっくりっていっても、前と比べて3%くらいスピードダウンしただけで、目に見えて遅くなったわけじゃないけれど。前は、早すぎて僕たちが何やってるのか、周りで見ててもわからないこともあった。今は、自分たちももっとよく考えて演奏するようにしているから、前みたいにわけがわからないってことはなくなってると思うよ。それから、ヴォーカルも、前よりハーモニーがあるね。前の時に出した『VS.』では、3パートのハーモニーらしきものはあったけど、あれはハーモニーというよりは、単に3人が同時に叫んだりわめいたりしているだけだったから(笑)。でも今は、僕たちもちゃんと歌ってるし。それに、僕の書く曲も、前よりメロディーがあるしね。前のアルバムの時は、僕のヴォーカルは歌ってるというよりは、何かを叫んでる感じだった。それに比べると、今度はちゃんとメロディーを歌ってるよ」

●逆に、一貫して変わらないところは?
「ああ、それは……決まり事を、まるで無視しているところ。その点では、昔とまったく変わってないね。それと、混乱が好きでたまらないこともそうだね。ピーターも言っていたよ。今度も新しい曲をずいぶん覚えないといけなかったんだけど、一度覚えてしまうと、と単にバラバラに破壊しだすのが僕たちだって」

●ちなみに、タイトルの『オン・オフ・オン』というフレーズには、どんな意味が込められているのでしょうか?
「これを考え出したのはクリントなんだ。なんだか、このバンドのたどってきた道にぴったりな気がしてね。一度活動して、解散して、また活動を始めたわけだから。それに、ライヴでも2時間ぶっ通しで演奏するわけじゃなくて、45分やってからちょっと休みをとって、また45分ライヴをやるっていうかたちにしているんだ。パンクの時代には、こういうやり方もあったんだよ。それもタイトルにつながってるね。それに、CDでも、ちょうど真ん中になるトラックには音が入ってない。そこでふたつの部分に分かれているんだ。そういういろいろな意味を込めて、このタイトルにしたんだ」


●ちょっと昔の話に戻りますけど、MOBが活動していた70年代の終わりから80年代の初めというと、他にもアンダーグランドの傑出したバンドが数多く登場した時期でしたよね。
「うん、あのころは、本当にいい時期だった。あのころと比べると、今のシーンはそこまでいいものはないね。だからこそ、僕たちのようなバンドが出てきて、他のバンドとは違ったやり方で、みんなを驚かせることもできるのかなと思うんだけど」

●今は、いわゆる「ポスト・パンク」と呼ばれたりして、あの時代のバンドや音が注目されたりしていますよね。
「そうだね。僕たちなんて、『プレ・ポスト・パンク』なんて呼ばれ方をしたりもする(笑)。なんだかおかしな話だよ。まあだから、僕たちはパンクでもなければ、ポスト・パンクでもない、どこかその間にいたバンド、っていうふうにとらえられているんだろうね」

●(笑)。あの当時、活動していて、時代特有の空気なり気分というものを感じたりはしていましたか?
「確かに、僕たちはいろんないいバンドと一緒に演奏していたけれど、今のバンドみたいに相手のスタイルを真似するバンドは、ひとつもなかったね。今は『ポスト・パンク』時代の音がすごく注目されていて、ああいうスタイルを真似しているバンドもたくさんいるけれど。僕にとって、ミッション・オブ・バーマというのは、自分たち独自のスタイルを作るということ、そのものなんだ。僕からみれば、ミッション・オブ・バーマの影響を受けたとかいうバンドも、さっぱりそういうふうには聞こえない。だって、今までのサウンドなんて真似してられるかっていう生意気なところがないと、ミッション・オブ・バーマとは言えないんだから」

●そういう点で言うと、去年ワイアーのコリン・ニューマンにインタビューした時に聞いた話なんですが、彼の中には当時「パンクでもロックンロールでもない何かが作りたかった」という思いがあったそうなんですね。あなたの中でも、そうした何かを否定したいとか、壊してやりたいとかいう気持ちがあったのでしょうか?
「うん、それは確実にあったね。僕たちが心から尊敬しているバンドは、みんなそういう気持ちがあったと思うし、ワイアーは特にそうだった。ずっと尊敬してきたバンドなんだ。ギャング・オブ・フォーや、テレビジョンや、ラモーンズや、他にもそういうバンドはたくさんあるけれど、僕たちを本当の意味で刺激したバンドは、ワイアーだと思う。『僕たちにもできるんだ』って思わせてくれたバンドだから」

●そういう気持ちは、今でもあなたの中で生き続けていると思いますか?
「うん、あるよ。まあ、前よりは明るくなったとは思うけど(笑)。前はもっと、何かに飢えているところがあったからね。でも、音楽に関して言えば、今でもそういう気持ちを失ってはいないよ」


●前回MOBを解散した理由のひとつに、あなたの耳鳴りの問題があったとは聞いていますが、そうした理由とは別に、当時の時点では「もうやりたいことはやり尽くした」という部分もあったのでしょうか?
「というか、もうかなり行き詰まっていたんだよね。僕自身は、耳のことがあったから、仕方ないと思っていた。ピーターはたぶん、一番残念がっていたんじゃないかな。マーティンとクリントは、ピーターほどは重く受け止めてはいなかった感じがする。でも、その時の事情ってうまく説明できないんだ。なんだかおかしな話だけど、そんなに大ごとだっていう気も、その時はしていなかったし。ただ、こうやってまた一緒に集まってみたら、本当に感触がよかったんだよ」

●ちなみに、先に名前を挙げたようなバンドと比べると、特に日本なんかだと、どうもあなた方が過小評価されているような気もするんですが、そんなことを感じたりはしませんか?
「ああ、それは確かに思うね。でも、僕たちはたった1枚しかアルバムを出していないわけだし、注目されなくても仕方がなかった気がする。でも、結局、そのせいで『伝説のバンド』なんて呼ばれるようになってしまったわけだけれど。実際にライヴを見た人なんて、ほとんどいないのに、今でも影響を与え続けてるなんて、なんだか変な感じだよ。実に面白い立場に、僕たちはいる。たとえば、最初に話の出た“Our Band Could Be Your Life”にしても、僕たちは他のもっと有名なバンドと同じ扱われ方をしている。あれを読んで、僕たちは本当にうれしかった。他のバンドの20分の1もレコードが売れなかったったのに、こんなに大きく扱ってくれるなんて、すごいと思ったよ。ほんとに名誉なことだしね」

●さきほど、あなたの作曲にはクラシックの影響もあるという話もありましたが、あなたはMOBを始める以前に音楽学校で作曲を勉強されたこともあるそうですよね。そこでの経験や知識が自分の創作活動に影響を与えていると思いますか?
「まあ、そういう勉強をしたのは僕だけだから、影響はあるかもしれない。だからといって、いわゆるアートロックっぽいものにはなっていないんだ。このバンドは、3人それぞれが違った要素を持ち寄って、ミッション・オブ・バーマになっている。だから、僕がクラシックや、アバンギャルドの要素を持ち込んだとしても、バンドがそれ一色になることはないんだ。あくまでそれは一部であってね」

●なるほど。では最後にお訊きします。今回の再結成は、あくまで一時的なプロジェクトなんでしょうか? それとも、MOBの新たな歴史の始まりと呼べるものなんでしょうか?
「どうだろうなあ。というか、そんなこと、僕にわかるはずないよ。アルバムが出たので、ツアーの予定はあるし、もしアルバムの売れ行きが良ければ、今でも僕は新しい曲を書いてるから、もう1枚アルバムを作れるというのも充分考えられることではあるけどね。でもそれと同じくらい、もうこれっきりにするという選択肢だってある。とにかく、先のことはわからないよ」

●じゃあ、今後はアルバムの評価次第っていうことですか。
「それもあるけど、やってて楽しくなくなるまでは、続けるんじゃないかな。先のことはあまり考えないし。レコードが出て、いくつかライヴをやるっていう、それだけだよ。あとは、新曲も書いてるけれど」

●では、これっきりにはならない可能性もありますね。
「そういうことだね」



(2004/06)

2012年4月4日水曜日

極私的2000年代考(仮)……ライトニング・ボルト、カクカタリキ


2000年代を迎え、ニューヨークを筆頭に再び活気を取り戻したアメリカン・アンダーグラウンド・シーン。その大きな起爆剤のひとつが彼ら、ライトニング・ボルトであるという意見に異論は少ないのではないか。

1994年に、地元ロードアイランド州プロヴィデンスのアートスクールに通う学生だったブライアン・チッペンデール(Dr)とブライアン・ギブソン(G)によって結成されたデュオ。以来、その“スラップスティック・ハードコア”“人力メタル・マシーン・ミュージック”とでもいうべき破壊的なサウンド&パフォーマンスが話題を呼び、ブラック・ダイス(の元メンバーのヒシャムがVoとして参加していた時期もある)やイレース・エラッタといった同世代の地下人脈と連帯をみせる一方、ソニック・ユースをはじめとする先行世代を刺激し巻き込みながら、彼らはその名を世界中に知らしめていった。今では彼らの存在は、インディ界のちょっとしたセレブリティであるといっても過言ではない。

はたして彼らは、フリー・ジャズや現代音楽の精髄を受け継ぐ異端的後継者なのか。それとも、耳鳴りする轟音やメタル的な速弾きの美学に喜びを覚える天然無垢なロックの野性児なのか――ブライアン・チッペンデールに、その音楽哲学、そして2年ぶり4作目となる新作『ハイパーマジック・マウンテン』について訊いた。


●どんな感じでライトニング・ボルトは始まったんですか?
「僕たち二人は、大学が一緒だったんだ。アート・スクールに通ってたんだけど、僕の方がもう一人のブライアンより何年か学年が上で。ブライアンは、入学してすぐのころから、あいつはベースがうまいって、学校で評判になるくらいだったね。で、知り合ってすぐのころはもう一人、ギタリストも入れてたんだけど、結局は僕とブライアンの二人だけでやってみようってことになって。最初にライヴをやったのは、もうずいぶん前で、94年だね。二人だけだったけど、すごく楽しかった。そのあと、1年半くらい、ヴォーカルがいた時期があったんだよ。それも日系の」

●ブラック・ダイスのメンバーだった?
「うん。ヒシャム・バルーチャっていって、ライトニング・ボルトのあと、ブラック・ダイスに入ったんだけど、今はそっちも脱退してる。彼は2回目のライヴから参加したんで、最初のライヴは二人きりだったんだ」

●アート・スクールでは音楽関係の勉強をしていたんですか? それとも美術とか、他の分野を専攻していたんでしょうか?
「僕もブライアンも、勉強してたのはヴィジュアル・アートだよ。ブライアンは、アニメーションをずいぶん作ってたし、プレイステーション用のゲームの会社でアルバイトをしていたこともあるんだ。独立系の会社で、音楽系のゲームを作るっていうのでその手伝いをしてたらしいけど、僕は実物を見たことはないな(笑)。僕の方は、シルクスクリーンなんかを使って、版画や印刷物をたくさん作ってたよ。ポスターとか、ドローイングとか、その手のものだね。実は今晩も、インタビュー前にやってたくらいなんだけど」

●そうですか。たとえば、あなたたちの「生家」ともいえるフォート・サンダーの内装なんかを見ると、マイク・ケリーや草間弥生といったアーティストの名前を連想したりもするのですが、ご自身で制作している作品も含めて、そうしたヴィジュアル・アートが音作りのインスピレーションになる場合もありますか?
「うん、そう思うよ。 そんな話を二人ですることもあるし。僕もブライアンも、いろんなジャンルのものを作ることを通して、自分たちなりのファンタジーの世界を創りあげているんじゃないかな。僕は漫画もずいぶん描くし、フォート・サンダーにしても、僕が今住んでいる家にしても、いろんなものを飾り付けて、ほかにないような家にしているしね。音楽にしても、僕たちにしかできない、ユニークな世界を創っているっていう点では、ヴィジュアル・アートとと同じだと思う。自分で作ったものに包まれて暮らす感覚、って言ったらいいのかな。ライトニング・ボルトそのものが、僕たちにとっては音楽で魔法の世界を作り出しているようなイメージなんだ」

●さきほど、初ライヴは94年だったという話がありましたが……。
「うん、ただ、94年の12月だったから、実質的に活動が始まったのは95年だね」

●当時はたとえばロラパルーザが最初の開催中止を迎えるなど、アメリカではグランジやオルタナティヴといった90年代初頭のインディ・ロック・シーンのバブルがはじけた頃だったと思いますが、そうした当時のロック・シーンについては、どのように見ていました?
「いや、僕だってあのころはふつうにグランジを聴いてたよ(笑)。サウンドガーデンとか、ニルヴァーナとか。でも、僕の住んでるプロヴィデンスっていう街では、音楽シーンが盛り上がって、面白くなり始めたのがちょうどこの頃だったんだよね。僕たちが拠点を構えて、そこでライヴを始めたのも95年だしね。どうしてかは自分でもわかんないんだけど、それまでは僕も、出身地とかジャンルとかにこだわらないでいろいろ聴いてたのに、この頃になって、地元のバンドの良さに突然気づいたんだよね。急に面白いバンドが次々と出てきて、お互いを刺激するようになってたから。だから当時、僕が一番注目して、熱心に聴いてたのはそういう地元のバンドだった。もちろん、アメリカ中で人気のあるような、メジャーなバンドもコンサートに来てたし、日本のバンドも来たりしてたけど。僕たちの音楽には、日本の影響がすごく大きいんだ。あの頃も、ボアダムスのライヴを見に行ったりしてたはずだよ。ただ、変な時期ではあったよね。グランジも下火になって、みんなが共感できるような、大きなムーヴメントがなくて。90年代の初めは、ヘルメットみたいなノイズ・ロック・バンドもグランジつながりでけっこう受け入れられてたんだけど、僕たちがバンドを始めたのは、ちょうどそういう盛り上がりが終わったころだった。まあ、少しはそういうものもあったかもしれないけど、地元のシーン以外とは、特につながりを感じたりはしてなかったな」

●たとえば、ライトニング・ボルトの結成には、グランジやオルタナティヴといった前の世代のロックに対するカウンター的な意味合いもあったと思いますか?
「いやー、どうだろう、カウンターっていう意識はなかったと思う。どちらかと言うと、ほんとはああいうサウンドにしたかったんだけど、どうやったらいいのかまるでわかってなかった、って感じだよ(笑)。勘違いから始まったバンドなんだ。まあ、だいたい、バンドってこうなることが多いけどね。目指してるものはあるんだけど、なぜか違う方向に行ってしまうっていう。だからこそ面白いわけで」

●それもそうですね。
「それに、目指していたところにたどりついたとたん、不思議とバンドの魅力って失せてしまうことも多いし。ライトニング・ボルトも、そうなってないといいんだけど(笑)。でもほんと、今でもあの頃のロックを聴くくらいだし、グランジとは違うものを作ろうとか、意識してはいなかったはずだよ。自分たちが楽しめるものにしようっていう、それだけで。そのなかで、できることの幅を広げていこうとはしていたけどね」

●だとすると、ライトニング・ボルトのユニークなサウンドであるとか、楽器編成も含めたバンドの方向性というのは、結成当初からヴィジョンを持って始めたというわけではなくて、偶然にというか、本能的にたどり着いた感じなのでしょうか?
「うん、そうだね。本能的というのが、一番あたってると思う。実際、最初はほかにもメンバーを入れようともしたわけだけど、うまくいかなくて、結局この二人に落ち着いたんだし。ほかに入ってくれそうな人の当てがなかった、みたいなところもあるんだ。でも、このメンバーでやっていくうちに、バックアップ・メンバーはいらない、二人で十分やりたいことはできるって自信をつけていったんだよ。まあ、二人だけじゃ、ステージ映えしないとかいうことはあるけどね。ただ、こういうスタイルになったのは、やっぱり本能的なものだと思う。僕たち二人は、もともとかなり変わってるから、直感のおもむくままにやっていれば、他のアーティストとは違うものになってしまうっていう」

●でも、最初っから今みたいな神懸かり的な速さでドラムが叩けたんですか?
「うーん、もう少し、ゆっくり目だったかな(笑)。だんだん速くなってる気は、自分でもする。それと、今よりヘヴィーだった。今が軽いってわけじゃないけど、もっとトライバルな感じっていうか。それは、あの頃聴いてたバンドの影響もあったと思う。カリフォルニア出身のクラッシュ・ワーシップとか。ドラマーが4人もいて、すごくヘヴィーで、儀式というか、呪術的な感じがあったんだ。あと、ちょっと今名前が出ないけど、いくつかヘヴィーなドラムが印象的なバンドがあって、その影響で、僕も今ほど速くなくて、タムももっと使ってたね。そこから、どんどん速くなっていって……どんどんシンプルになってるのかもしれないな」

●そのあたりについては、よく指摘されるようにボアダムスやルインズやメルト・バナナといった日本のノイズ・バンドからの影響もあったのでしょうか?
「日本のバンドの存在は、すごく大きいよ。とくにボアダムス。メルト・バナナも、とにかく凄まじいエネルギーがあって、圧倒されるね。日本のバンドには、ずっと刺激を受けてきたし、今でもそうだよ。この前、日本に行ったときも、ほんとにいい日本のバンドとたくさん共演できたしね。あとは、アメリカにも何組か来てくれたから、そのときに一緒にやったりとか。DMBQとか、今年のハロウィンにプロヴィデンスでライヴやるんだよ。でも、どうかな、僕たちが具体的に何を得たのかっていうのは、難しいところだね。たとえば、ボアダムスなんて、楽器を超上手に弾きこなしつつ、同時にそういう演奏をぶち壊すようなところもあって、そこがすごいと思う。とくに、昔のボアダムスはそうだったな。楽器を、ものすごく雑に扱ったりもするんだけど、結果できたものははちきれそうなくらいの生命力に満ちている。そういう、確かなスキルと、溢れるエネルギーが両立しているところが、日本のバンドのすばらしいところだし、そこは僕たちにも通じる要素があると思う。なぜかはわからないけど、アメリカよりも日本のバンドに、僕はそういうものを感じるんだ。それと、混じり気なしの狂気みたいなものもね」

●では日本以外で、リスペクトするミュージシャンというと、誰になるのでしょうか?
「そうだなあ……沢山いるはずなんだけど、名前が出てこないよ……そうだな、今のバンドだと、USAISAMONSTERはすごくいいね。アメリカのレーベルが一緒なんだけど、ニューヨーク出身で、僕たちと同じ2ピースのバンドで、共通するところもすごく多い。最近はよく一緒にライヴやってるよ。あとは、地元にもいいバンドがたくさんいるよ。ありすぎて、名前がぜんぜん出てこないくらい(笑)」

●そういえば前に何かの記事で、あなたがスレイヤーをフェイヴァリットに挙げているのを見たのですが。
「ああ、確かに(笑)。しばらく聴いてないけど、昔はずいぶんメタルを聴いてたから。グランジにハマる前に、メタルを聴きまくった時期があったんだ。スレイヤーとか、メタリカとか、夢中になって聴いてたよ。初期のスレイヤーは、ほんとにすごかった。むちゃくちゃ邪悪でね。でも、今どんなものをやってるのかは知らないんだ。いいのかもしれないけど(笑)」

●では、ライトニング・ボルトのサウンドで欠くことのできない重要な要素、あるいは音作りやライヴで演奏するうえでもっとも大事にしていることは何ですか?
「そうだね、まず、僕たちが曲を書くときは、とにかく楽器を弾いてみるところから始めるんだ。今、こうやって話してる隣の部屋にもドラムが置いてあるから、その気になればいつでも始められるし、他の人の手を煩わせる必要もない。で、そうやって弾いたものを録音して、聴き直しながら曲を作っていく。もちろん、最初から使えるものばっかりってわけにはいかないけど、聴いていく中で、これはいい、これはダメだって判断しながら、いいものをピックアップするんだ。そうやってある程度まとまると、一度ライヴでやってみて、出来を確かめる。僕たちにとっては、そうやってライヴの場で曲を試すことはすごく大事なんだ。もしそれでダメなら、その曲はボツになる。僕たちが大事にしてるものは2つあって、ライヴでパワーが伝わるものっていうのが1つ、あとは、前とまるっきり同じものの繰り返しではないっていうのがもう1つなんだ。これがけっこうキツいんだけどね。僕たちもバンド始めてからかなり経つし、何しろ二人しかメンバーがいないわけだから、山ほど選択肢がある、とは言えない状態になることもけっこうあるよ。つい、前にやったのと同じアイディアが頭をよぎることもしょっちゅうだし。それでも、ほんのちょっとでもいいから、確実に前に進んで行こうとはしてる。だから、どのアルバムも、もちろん似たところはあるだろうけど、それぞれに新しい方向性もあると、僕は思ってるよ。大変だけどね。でも、僕がこんなこと言うと『えっ』って思われるかもしれないけど、一番大事にしてるのはどこかで『ロックであること』なのかもしれないな。まあ、僕なりにではあるけど、すごく大切なことではあるよ(笑)」

●では逆に、ライトニング・ボルトにとってタブーとは?
「タブーかぁ。うーん、ちょっと考えるね……もう一人のブライアンは、また違う考えかもしれないけど、僕はこういう、独特のドラム・スタイルだから、ライヴにせよ、練習にせよ、終わったときにはくたくたに疲れきるくらい、充実したものじゃないといけない、っていう気持ちはあるね。だから、100%を出し切れない曲は苦手というか、ミニマルな曲だと、あんまり工夫のしようがないんだよね。そこがライトニング・ボルトの難点とは言えるかな。あと、僕もベースのブライアンも、どうもやりすぎるところがあって。一歩引いてみるとか、控えめにするとか、そういうことがタブーなのかもしれない(笑)。でも、自分ではよくわかんないところもあるし……タブーって……たぶん、きっと本当はけっこうたくさんあるんだろうけど、自分では気づいてないだけなんじゃないのかな。いかにも、っていうロックな曲はあんまりやらないけど、まったくないわけでもないし。今度のアルバムなんて、カントリーっぽい曲まであるくらいだからね。カウボーイが出てきそうな(笑)。あとは、もう一人のブライアンは前、ちょっとヴォーカルをとってたけど今はやってないとか……そんなところかなあ」

●わかりました。変な質問ですいません。
「いや、変わった質問の方がいいよ。頭使うし(笑)」

●では、ライトニング・ボルトのサウンドが、奇抜なだけの実験音楽や、単なる「電気楽器によるフリー・ジャズ」に堕することなく、ユーモアと愛らしさとカタルシスに満ちあふれたポジティヴな音楽となり得ている、その秘訣は何だと思いますか?
「うーん、それって、僕たちの音楽に邪悪さが足りないってこと?」

●いえ、そうではなく、即興音楽やフリー・ジャズのような変な堅苦しさや敷居の高さがなく、むしろ聴いた人をつい惹き付けてしまうような、オープンな魅力があるということなんですけど。
「ああ、そういうことか。確かに、僕たちの音楽には、どこか喜びに溢れたところもあるとは思うよ。音楽のすばらしさだけではなくて、生きていることそのものを祝福するような感じというか。ある意味、今、君が言ってくれたようなところがあるから、僕たちは他のバンドとはひと味もふた味も違った音楽がやれてるんだと思う。メタル・バンドのようでもあるけど、あそこまでおどろおどろしくはない。アバンギャルドやジャズにも通じるところはあるけど、あそこまでガチガチのテクニック重視でもないっていう。僕たちの場合は、アイディアを思いついて、いったん形にしたら、あとは演奏していく中でどうやってぶっ壊すか、っていうのをいつも考えるからね。曲だって生き物だから、ライヴのなかで曲を生かしていくには、いつもそんなにオリジナルの形にこだわるわけにはいかないし、そこでこそテクニックっていうのがほんとにものを言うんじゃないのんかな。僕たちはいろんなジャンルの音楽の要素をこのバンドにぶち込んでいるけど、どのジャンルかっていうのがはっきりしないくらい溶け合ってくれるっていうのが、究極の目標なんだ。僕たちにほんとの意味でテクニックがあって、うまくいったら、もとは何だったのかもわからないようなものが生まれるんじゃないかと思うんだけど。って、これで答えになってる?」

●ええ、わかります。
「あと、エンターテインメント、っていう言葉はあんまり使いたくないんだけど、やるからには楽しくないとっていう気持ちもあるしね。退屈なものなんて、やる意味ないから。まあ、聴く人によっては僕たちの音楽もたぶん退屈だろうけど(笑)。でも、いわゆるアバンギャルド的なものや、メタルへの反発も、少しは入ってるとは思う。なんか、生真面目すぎるのもどうかなって。もちろん、僕たちだって真面目にやってはいるけれど、楽しくやるっていうのは、一番大事なことの1つだよ。あんまり真面目にやりすぎると、ダークな世界に足を突っ込んでしまいそうで」

●なるほど。それと、そのシンプルなスタイルから、誰でも真似できる、単純でイージーな音楽だと勘違いされることもあるかと思いますが……。
「そうだね(笑)」

●では、これぞライトニング・ボルトならではというオリジナリティや、モットーなりテーゼというのは何だと思いますか?
「うーん、確かに僕たちの曲にはシンプルなものもあるけど、今はもう、これしかできないってわけじゃなくて、シンプルにしようと決めてやってることだから。こうなるまでにはいろいろあって、前はもう少し、テクニック重視だった時期もあったんだけど、今はそういうところからはまた離れつつある。ま、もしかしたらだんだんバカになってるだけのかもしれないけど(笑)。でもひとつ言えるのは、僕たち二人はこれだけ長い間一緒にやってきたぶん、バンドの結束がすごく固いってことだね。たぶん、他の人でも僕たちの曲はできるだろうし、すごく上手に弾きこなせるだろうけど、僕たちがやることで、曲に締まりが生まれるんだと思う。タイトだけど、パワーが炸裂するような。今は、二人で演奏しているとお互いの心が読めるような気になることさえあるくらいなんだ。それだけ、一緒にやってきた時間が長いからね。たぶん、どのバンドでも長くやってればそうなってくるものだろうけど、二人しかいければ、メンバー同士の距離がいっそう近くもなる。世界で一番タイトだ、なんていうと大げさだけど、こういう構成でこういうサウンドをやってるバンドは、ゼロではないにしても滅多にないぶん、そういうお互いの関係が他のバンドとは大きく違うところかな」

●では、敢えて自分たちの音楽を言葉で表現するなら、どうなりますか?
「ええと……難しいね(笑)」

●だとは思いまずが、ぜひ。
「たぶん、ベースのブライアンに訊いたら、また違う返事になるだろうし……さっき、すごくタイトだって言ったばかりなのにこういうことを言うのも変だけど、二人で演奏しているとき、お互いに感じてることはまったく違うと思うんだ。同じ曲をやってるけど、それぞれがやってることはぜんぜん違うしね。まあ、二人とも激しいけど。で、僕にとって、音楽って言うのは、肉体性を讃えるものなんだ。ヘンで、やかましくて、ノイズばりばりで、速い音楽で、肉体を実感するっていう。でも、もう一人のブライアンにとっては、やかましくて、ノイズばりばりで、速い、頭を使った音楽ってことになるかもしれない。ベースを弾いてるから、ドラムを叩いてるのとは違ったことを考えてるんじゃないかな。僕はせいぜい、いろんなものを叩くしかできないけど、ベースだともっといろんな技法があるからね」

●実は過去に2回、僕はライトニング・ボルトのライヴを日本で見たことがあるのですが、あの悪魔的ともスラップスティックとも言えそうなすさまじい熱気と爆発的なエモーションは、いったいどこから生まれてくるのでしょうか? 
「うーん、僕にも時々わからなくなるんだよね。たぶん、むちゃくちゃ緊張するから、そのぶん逆ギレみたいになってるんじゃないのかな。まあ、そればっかりじゃないけど、そういうところは確実にあるよ。ほんと、自分でもよくわかんないけど、僕なんて極端に落ち着きのない性格だから、それもあるのかな。僕はそれが体の動きに出る方で、ベースのブライアンはものすごい勢いで考えるって方向に出てるんだよね。で、その二人が一緒に演奏すると、ほんとに誰にも止められないものになるっていう。それに、ライヴだとお客さんからもエネルギーをもらえるから、さらにこっちもパワーアップして、またそれをお客さんにぶつけるっていうのもあるし。ほんと、ライヴの出番が来ると、めちゃくちゃテンションが上がるんだ。いつもこのライヴが最後だ、っていうくらいのつもりでやってる。だから最高のものを見せないとって、ステージに立つたびに思うよ。ほんとに激しく演奏していると、何かを突き抜けて、あり得ないことが起きたりするんだ。地球が震えて、どこか秘密の扉が開いたりするような感覚というか、とてもこの世のものと思えないよ。全力で演奏しているときにだけ、魔法が訪れるんだ。そういう、自分の100%を出し切るんだっていう気持ちは、二人とも持っていると思う。それが、エネルギーのもとかな。あと、おいしい食事と(笑)」

●なるほど。さて、最新作の『ハイパーマジック・マウンテン』ですが、演奏のヴォルテージやテンションの高さ、スピード感、カタルシスとも、これまでの作品の中で最高到達点を刻む作品だと思います。
「ほんとに? うれしいな」

●と同時に、とてもポップなアルバムだなあという印象も受けたのですが、自分たちではどんなアルバムに仕上がったと思いますか?
「我ながら、すごく気に入ってる。アメリカでは明日が発売日なんで、そろそろレコード評も出てきていて、僕もいくつか読んだけど」

●評判はどうですか?
「うん、いいって言ってくれてる人が多いかな。まあ、なかには、特に進歩がないっていう評もあったけどね。僕自身は、今までで一番、ライヴに近いものができたかなと思ってる。僕たちのライヴは、たいてい60分くらいだから、今度のアルバムも、それとほぼ同じ長さにしたしね。そうやって、ライヴの感じをできるだけ伝えようとしたんだ。ライヴと同じように、流れを作り出したかった。最初はわりに取っ付きやすいんだけど、だんだんヘンなものが増えていって、聴き終わるころには、不思議な世界にどっぷりはまって、もう抜け出せなくなるような。まあ、そういうことはどのアルバムでも考えるんだけど、今度のアルバムはそういう『旅』みたいな感覚が、今までにも増して強い気がする。長めだし、僕たちと一緒に旅をする感じが出せたかなと思うよ。でも確かに、ポップな曲もある。とくに最初の何曲かは、今までよりもさらにポップかもしれない。これまでも何曲は必ず、ポップな曲は入れてきてた、って言ってもあくまで僕たちの考えるポップ・ソングだけどね。別にポップなものを目の敵にするつもりはないけど、かといって全面的に受け入れるつもりもないんだ。ポップなものと、何のまとまりもない大混乱の間のどこかで、僕たちなりの着地点を見つけたいと思ってる。とにかく、気に入ってもらえて嬉しいよ」

●ところで、ちょうど2000年代に入るのと前後して、ライトニング・ボルトをはじめ、ニューヨークだったらブラック・ダイスやアニマル・コレクティヴだったり、西海岸だったらヘラやディアフーフやイレース・エラッタだったり、アンダーグラウンドで活躍する同世代のバンドやミュージシャンがぐっと台頭を始めた印象があります。
「そうだね」

●その背景には、何かしら必然性や因果関係のようなものがあったと思いますか?
「うん、だと思う。だいたい、90年代後半って、音楽シーンがほんとに低調だったんだよね。僕の住んでるプロヴィデンスなんかはまた違ったけど。でも、世界中からいいバンドが出てきて、いい音楽が溢れてるような状況だったら、わざわざ自分がやろうっていう気にはならないと思うんだ。だから、君が名前を挙げてくれたようなバンドは、たぶん90年代の半ばか後半、あんまりいいバンドがいない時期に始めたのが多いはずだよ。大きなムーヴメントとかもなくて、誰も面白そうなことやってない、じゃあ自分がやってやるっていうような感じだったんじゃないかな。で、ある程度活動を続けていくなかで、ちょうど同じくらいの時期に世に知られるようなったっていう。みんな、いいバンドで、お互いやってることはまるっきり違っていても、どこか通じるところが確かにあるね。音楽に、芸術的な要素を持ち込んでる、そのやり方が近いのかもしれないね。でもほんと、今はいい時期になったなって思うよ。まあ、また突然暗黒時代に入っちゃうかもしれないけど。こういうのってサイクルがあって、いい時期の後には悪い時期が来るものだし」

●こうしたバンドと、共有するヴィジョンなりアティテュードのようなものがあると思いますか? たとえば音楽性は違えど、どこかしら同じものを目指している、みたいな。
「そうだね、何かを共有しているのは確かだと思う。ブラック・ダイスとはいい友達だし。メンバーに、同じプロヴィデンスのアート・スクールを出てるやつが多いから。でも、今たどってる道はお互い全然違うよね。ブラック・ダイスは一度にいろんな方向を目指す、みたいなやり方をしてるし。あと、アニマル・コレクティヴはすごいバンドだと思う。こっちも向こうもブラック・ダイスと友達だから、ニューヨークに行くと会ったりするよ。メンバーと個人的な付き合いがあるわけではないんだけど、ほんと、尊敬してる。あとこれは、日本のノイズバンドにも感じるんだけど、美学を追求していくなかで、精神性に立ち返る動きがあるんじゃないのかな。ただそれは、ほんとに心の底から精神性に回帰してるというよりは、音楽のスタイルを突き詰めるなかで、そういう形になっていってるというか。今は、そういう意味で通じるものを持っているバンドがすごく多いね。僕たちにもそういう要素を感じてもらえればいいなと思ってる。自分たちの可能性をできるだけ突き詰めることで、君がさっき言ったような、カタルシスを得られるような経験に至れれば、言うことないよ。音楽と自分が一体化するような、そういう感覚だよね。もう長いこと、ある程度以上有名なバンドにはそういう体験は期待できない状態が続いてきたけど、またみんな、そういうスピリチュアルなものを求めるようなってきたんじゃないのかな。もちろん、みんなやってる音楽はそれぞれ全然違うけど、精神的美学と言うか、そういうところで、お互いをつなぐものはあると思うよ」

●なるほどね。
「ただ今のは、東海岸のバンドに限った話だよ。イレース・エラッタとか、僕は大好きだけど、とくに共通点は感じないな。カリフォルニアはまた、事情が違うだろうし、僕には向こうのことは説明できないよ。天気も違って、まるで別世界だから」

●わかりました。では最後に、ライトニング・ボルトとしての今後の野望、最終的な目的っていったら、何ですか?
「うーん……。そんなものはない、かもしれない。最初、バンドを始めたときから、まあ、ライヴをやりたいくらいのことは思ってたけど、それ以上でも以下でもなかったくらいだし。一回ライヴやったらその次、レコード出したらもう一枚って、そのくらいだったよ。もともと、気軽に始めたものだったしね。地元のプロヴィデンスのコミュニティー向けにやることしか考えてなかったし、僕たちの周りの人たちは、世界一だって思ってたから。そういう人たちに聴いてもらえれば、それでよかったんだ。ツアーでいろんなところに行くうちに、そういう気持ちも変わってきたけど……ただ今でも、変な話だけど、自分たちの家や、練習場所に夜に集まって、好きなだけ演奏する、それが自分たちの最終的な目的だ、っていう気がするんだよね。あの場所で、ものを創りあげていく、その体験が僕たちにとっては目標なんだよ。もちろん、前よりアルバムが売れたり、ツアーでいろんなところに行って、日本にまで足を運べたのは嬉しいことだけど、それが目標かっていったら、違うと思う。僕たちにとっては、これからも新鮮な音楽を作り続けることが目標だから」

●今、日本の話が出ましたけど、来日の予定などはあるんですか?
「うん、来年の春になると思う。3月か、4月くらいかな。日本はツアーでも最優先する国だから、間違いなく行くよ(笑)」


(2005/12)


極私的2000年代考(仮)……“騒音”の愉悦)

2012年4月1日日曜日

2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定)


◎Ethereal Doom Cosmonaut / Bleak Tails/Mr. and Ms. Erotic America
EDCはCampfireという名義でも活動したSebastian Dionisioのプロジェクト。ダブとKompaktを結ぶフィールド・レコーディングス風アンビエントは、最近ならDolphins Into The Futureにも通じる感性。かたやStephen何某によるBTも、独特なシークエンスでストーリーを紡ぐアンビエントの使い手。しかしこの作品タイトル、アホっぽくていいなあ。

◎T. Fuller/Eat Your Beets
Prairie Fireから3作目となるテレンス・フラー。A面のパーカッシヴなエレクトロニクス、転じてB面はインダストリアル・マナーのブロークンビーツ。なんてことはない……と言ってしまえばそれまでだが、こうした作品が容易に可視化される状況から、新たな才能が生まれフックアップされるのか、それともダダ漏れのまま平坦化されていくのか、ここからしばらくは見所でもある。しかし、CS作品はジャケ買いの醍醐味を再燃させるなあ。



◎ABSINTHE MINDS/THE SONG OF RETURNING LIGHT
ウィスコンシンのドローン・サイケ・トリオ。NNFから2009年リリース、というわけでこの時期はポカ始めレーベル一堂揃いも揃ってズブズブのドロドロという。ジェームズ・フェラーロさえ生温い?アンダーグラウンド・シンセの鬼才Dead Lukeがゲスト参加、さらにはゾラ・ジーザスも歌ってます。



◎Red Electric Rainbow/Reptile Brain/Split
RERことシカゴのDaniel D. SmithとタブリンのDandrew Dogartyによるスプリット。OneohtrixやMistをコズミック~ニューエイジに拡張したようなアナログ・シンセの多重多層アンビエント。たとえばボーズ・オブ・カナダのふたりの原風景にナショナルジオグラフィックの映像があったように、目下のUSアンダーグラウンドがニューエイジやアンビエントにうなされる背景には、何事があるのやろう。




◎Padme/Wisdom from the Stars
ジャーマン・アンダーグラウンドから、「クラウト・ロック経由ドローン行き」のアウトバーンをタダ乗りし続けるUSアンダーグラウンドへの、ささやかなカウンター。B級C級ホラーにインスパイアされたという、ダリオ・アルジェントでジョン・カーペンターな?シリアル・シンセ・ドローン。



◎Dry Valleys/Movile Cave Sojourns
カナダのテープ専門Old Frontiersから。執拗に練られた具体音&コラージュは、こちとらよっぽどホラーでテリブル。スロッビング・グリッスルとかクロームの死体や屍をなぶってねぶってしがみ続けるようなネクロフィリアな暴力音響。Hooker Visionsから出てる他作品も聴き応えアリ。






◎Knyfe Hyts/Mementos
ブルックリンのガレージ+ニューウェーヴ。モードは2000年代初頭な感じ。A.R.E.ウエポンズとか初期ライアーズとか。2000年代リヴァイヴァルなんて……まさかないよな?



◎Food Pyramid/Ⅲ
ミネアポリス?ミネソタ?のクインテット。時折ピアノやサックスも織り交ぜた茫洋たるクラウト・ロック・スタイルのドローン・アンビエントは、個人的に既聴感もありつつ……目下USアンダーグラウンドにおける最強のジャンル音楽となった、この手の“環境音楽”の背景に思考をめぐらせる、、、



◎Tonstartssbandht/Hymn
オーランドのアンディー&エドウィン・ホワイト兄弟による、録音時期もバラバラな 6曲入り。サンプリングを下敷きにしたダーティー・サイケ・ロックから美麗アンビエントまで。80Sポップやコスベルも露悪的に演じる諧謔趣味の源流には、生まれ育ったニューヨーク~モントリオールのアンダーグラウンドと通じるものも。また思いを馳せるのはパンダ・ベア『パーソン・ピッチ』のフリークアウトした神々しさ……だったり。




◎White Hills/The Process
今やスリル・ジョッキーにおける顔役の一角として存在感を増すニューヨークの巨魁スペース・ロック。本作はアルバム『H-p1』のメイキング的作品で、ジャムやリフのアイディアが素材感生々しい姿で記録された、つまりあの重厚にして疾走感溢れるサイケデリアの肉汁のような灰汁のような。



◎Angelo Harmsworth/Untitled
名門Batheticから。ギターやシンセやピアノのループに、靄のようなテープ・ヒス。さらに子供達の遊び声などフィールド・レコーディングも編み込んだセピア色のサウンドスケープはビビオやボーズ・オブ・カナダに喩えられるのも頷ける。時が時ならフリー・フォークやフェネス『エンドレス・サマー』の反響も。

◎Kwjaz/Kwjaz
Not Not FunからはアナログでリリースされたサンフランシスコのPeter Berends。ジャケットは体を表す好例。モクモクと煙るドローン・ジャズにサンプリングやタブ/サイケのマナーをくゆらせた……推して知るべしか。



◎Lasers For Eyes/Cult of the White Orchid​/​The People Long Only to Live
現在は解散してしまったポートランドの菜食主義者デュオ。DFA1979に成り損ねた、、、というと語弊しかなく不正確だが、デュオとは思えぬ手数と熱量のガレージ・ロック。ジョイ・ディヴィジョンのカヴァーも程よいコスプレ感。



◎Mind Flayer/It's Always 1999
片割れはライトニング・ボルトのブライアン・チッペンデール。過去にはウルフ・アイズやミシガン時代のアンドリューW.K.も出入りした牙城Bulbからリリース……という言わずもがなの展開。中距離のノイズ&エレクトロ・ジャムは構成もへったくれもないが、意外と聴けてしまうのは心地良くパーカッシヴなオノマトペ感ゆえ。


◎Parashi/Troika
ニューヨークのミニマリスト。電磁コイルを思わせるプラズマティック・ノイズに被さるブーン、ブーンという持続音、金属片が擦れ合うような不協和なムードがいかにも。GranitkorridorとのスプリットCSも秀逸だった。



◎Pedro Magina/Nineteen Hundred And Eighty Five
Not Not Funから美麗なニューエイジ・シンセ。後の100%silk(どうでもいいけどナイロン100%を意識したネーミングなのかしら)と接続するラインではなく、Emeraldsや少し前までのOneohtrix Point Neverにも近いミニマル・アンビエンス。


◎Pepepiano/King
カリフォルニアのデヴィッド・バードによるソロ。チルウェイヴとウォンキーのいいとこ取りというか、デイダラスやLAのLow End Theory周辺、あるいはBaths発掘以降のAnticonと同期した快楽主義とビートの鋭度。ブレイクはタイミングの問題か。LA、いやはやバンキャ恐るべし。



◎Napolian/Computer Dreams/Split
Lo-fiでもHi-fiでもなく“Mid-fi”、、、はたしてそんなジャンル/タグがいつの間に出来たのか。 ともあれ素性もイマイチ不明な2組によるスプリット。 チルウェイヴ~チョップド&スクリュー系の今様シンセ・ファンク。“ヴィンテージ・フューチャー”、、、はたしてry


◎Red Math/Unhinged
名門Digitalisからナッシュヴィルの何某。ノイズ~ドローン系ではなくダブステ~ドラムンに接近を見せるミニマル&インダストリアル・ビートはたとえばDemdike StareへのUSアンダーグラウンドからの応答という趣も。余談だがModern Love~Kompaktの繋がりは今後が興味深い。
























2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))