ミッション・オブ・バーマが22年ぶりにニュー・アルバムを発表する。1970年代末にボストンで結成、ブラック・フラッグやベル・ウブらとともに黎明期のUSアンダーグラウンド・シーンを駆け抜け、わずかアルバム1枚(『VS.』)を残して1980年代初頭に散ったプロト・ハードコア/ポスト・パンクの雄。その彼らが突如、2001年にニューヨークで行われた再結成ワイアーのステージに前座として18年ぶりに姿を現してから3年。シェラック主催のオール・トゥモローズ・パーティーズへの出演やUSツアーをへて、ついに完成された『オン・オフ・オン』は、「復活」という言葉が生易しく感じられるほど漲るエナジーとロウなパッションに溢れた、第二期MOBの幕開けを飾るにふさわしい怪作といえる。
あのワイアーの有名な言葉「ロックじゃなければ何でもいい」を待つまでもなく、同じパンク以降の“ロックの既成概念が激しく揺さぶられた”時代に生まれたMOBもまた、ひとつの強烈な異議申し立ての存在としてあった。だからこそ、偶然にもそのワイアーと時期を同じくして復活を遂げたMOBの真意が気にかかる。そしてそのことは、あの時代のバンドやサウンドが再評価を受ける現在を考えるうえで、なおさら興味深い。どうして今、ふたたびMOBは必要とされたのか。ロジャー・ミラー(G/VO)に訊いた。
●まず、今回22年ぶりの新作『オン・オフ・オン』がリリースされるきっかけとなった2001年のバンド再結成の経緯から伺えますか?
「それは……なかなか説明するのは難しいんだ。何せ、自分たちもどうして再結成する気になったのか、わからないんだから」
●え?
「いや、いろいろな理由が積もり積もって、こうなったとは言えるんだけどね。日本でも出ているかもしれないけど、アメリカで“Our Band Could Be Your Life”(『病んだ魂』の著者、マイケル・アゼラッドが81年~91年のアメリカ・アンダーグラウンド・シーンについて書いた本)っていう本が出版されたのも、きっかけかもしれない。この本に、ブラック・フラッグやミニットメンとか、ソニック・ユースとか、たくさんのインディ・ロックバンドが登場していたんだけれど、その中にミッション・オブ・バーマも取り上げられていてね。でも……とにかく、理由がありすぎて、うまく説明できないな。もしかしたら、ジョーイ・ラモーンが死んだことにも、少しは影響を受けているかもしれない。でも、これが理由ですって、はっきりしたことは言えないんだよ。活動をやめたのは83年だったけど、それからいくら再結成の話を持ちかけられても、僕たちはずっと『ノー』と答えてきた。そうやってきたのに、なぜかある時に『イエス』と答える気になってしまったんだ(笑)。悪いけど、本当に、どうしてなのか、自分でもわからないんだ。でも、今のところうまくいってる気がするよ」
●でも、解散してから再結成するまで、メンバーとは連絡を取り合ってたんですよね?
「うん。ピーターは僕のレコードに参加してくれたこともあるからね。日本ではなかなか手に入らないだろうけど、僕はあれからずいぶんたくさんのレコードを作ってきたんだよ。そんなわけで、再結成する前から、ピーターともクリスとも会う機会はあったんだ」
●しつこいようですけど、そうやって顔を見る機会もあった中で、どうしてこのタイミングで再結成したのか、すごく興味があるんですが、そこはご自身でもわからない?
「うん、わからないね。でも、なんだかうまくいきそうな気がしたんだよ。実際やってみたら、ライヴを見に来てくれた人たちも気に入ってくれたみたいだしね」
●では、解散後も、あなたの中でMOBという存在はくすぶり続けていたんでしょうか? やり残したことはあった、いつかもう一度やりたいというような気持ちはありましたか?
「いや、何というか(笑)……。解散した時は、あれで終わりだと思っていたよ。解散したのは83年だったけど、あのころ僕たちはそんなに人気のあるバンドでもなかったしね。だから『ああ、これで終わりだな』って、それだけだった。まあ、あのまま続けていたらいろいろできたはずだとか、後になって思い返したりはしたよ」
●実際に3人で再びMOBとして音を鳴らしてみて、どんな感触でした? 「これだ!」みたいな感触を得られたりはしたのでしょうか?
「うーん、たまたまあの時は、ある人に、リンカーン・センターでミッション・オブ・バーマをやる気はないかって訊かれたんだよね。ニューヨークのリンカーン・センターと言ったら、そうとう大きな会場だよ(※バレエやオペラのほかパフォーマンス・アートがよく上演される劇場)。そういう話はいつも断わることにしていたんだけれど、その時は、僕だけで決めるには話が大きすぎる気がして、クリントに声をかけたんだ。その時は、クリントも僕と同じように『ノー』と言ってくれるはずだと思っていた。なのに、クリントはやりたいって言い出したんだ。僕は『ウソだろう、クリント、ほんとはやりたくないのにそう言ってるだけなんだろう?』って言ったんだけどね(笑)。それでもやりたいって言い張るから、じゃあ、ピーターがいなかったら無理なんだから訊いてみようっていう話になって。そうしたら、ピーターもやりたいって言うので、じゃあやろうかってことになったんだよ。3人が集まれば、いいものができるのは、僕もわかっていた。クリントはそこのところでちょっと不安があったみたいだけどね。そのころ、僕は別のグループでツアーに出ていたし、ピーターはピーターで、自分のバンドではギターをやっていて、もう10年もドラムを叩いたことがなかったりしたからね。でも、いったんスタジオでリハーサルを始めてみると、これぞミッション・オブ・バーマだっていうものが、よみがえってきたんだ。だから、いろんな意味で、始めてからはそんなに大変なことはなかったね」
●観客とか、周りの反応はいかがでした?
「うん、とても気に入ってくれているね。最初は2回ライヴをやって、それで終わりのはずだったんだ。再結成なんかしても、誰も注目してくれないだろうと思っていたし。だから、ニューヨークで1回、ボストンで1回だけのつもりが、結局ボストンでは3回、ニューヨークでは2回ライヴをやることになって。それだけ、見に来てくれた人たちの盛り上がりが尋常じゃなかったんだ。本当にすごかったよ、あれは」
●そういう観客の反応を見て、ずっと続けていこうという気になったんでしょうか?
「そうだね、このままやってみようという気持ちになったのは、それがあったと思う。ライヴがあんまり受けたので、うれしくなってしまって。それで次は、イギリスでライヴをやってみることにした。前の時は、行けなかったからね。そうしたら、またとても受けたんで、じゃあ他のところでもやってみようかって思ったんだよ。アメリカの西海岸とかね。ライヴをやるのは楽しいし、しかもギャラもすごくいい(笑)。いや、ほんとびっくりするくらいいいんだよ。だから、そういういろんなことがあって、続ける気になったんだろうね」
●あなたの中で、70年代にMOBをスタートさせたときと、2001年に18年ぶりにMOBを再始動させたときと、心情的にはどんな違いがありました?
「違いはあまりなくて、僕たちにとってはほぼ同じ気持ちだったね。ライヴを観た人たちもそう思ったみたいで、僕たちが解散したのは83年の3月だったんだけど『今はまるで83年の4月みたいだ』って言われた。つまり、それだけ違いがなかったってことだよ。前の時にやっていたことの続きをやっているみたいだったんだ」
●ただ、18年という空白はかなり大きいですよね。その間に、新たにMOBを始めるうえでの「燃料」になるようなものがあったのではないかと思うんですが。
「確かに、この18年の間、僕たちはそれぞれにまったく違ったことをしてきたというのは言える。クリントは音楽からはかなり離れていたけど、ピーターはずいぶん活発に活動してきたし。僕は僕で、もっとアバンギャルド寄りの音楽を作ってきた。僕はもともと、そういう音楽の志向があったしね。だから、それぞれに違ったタイプの音楽の世界で実験をしてきたんだ。でも、またミッション・オブ・バーマとして演奏したいと思う時が来るなんて、僕は考えもしなかった。そんな発想は、僕にはまったくなかったんだ。でも、こうやってまたミッション・オブ・バーマを始めて、一緒にやってみると『うわ、これってすごいじゃないか』って気持ちになって。3人ともそう思ったものだから、新しく曲も書き始めたんだ。それが結局、今度のアルバムというかたちになったわけだね。最初にライヴをやったときに、次にライヴをやるごとに1曲、新曲を入れようって3人で決めたんだ。その後、3ヵ月で3回ライヴをやることになっていたから、そのたびごとに、新しいものができるように、僕が曲を持ってきた。僕以外にも、メンバー全員が新曲を書いてきたから、最後には新曲だけでアルバムが1枚できるくらいになったんだよ。そうやってできたのが、今度のアルバムだね」
●そうしてできた今度のアルバムですけど、この再結成は現在のシーンにおいて、どのような意味を持つ「事件」になると思いますか?
「うーん、このアルバムがまだリリースされていない今の時点では、何とも言えないね。いや、というよりは、『僕たちには知りようがない』と言った方がいいだろうな。そんなこと、わかるわけないんだよ。影響とかを決めるのは、僕たちではない。みんなが気に入ってくれているみたいだから、それなりにインパクトはあるとは思う。でも、僕たちに言えるのはそこまでだね」
●そうですか。では、あなた自身のキャリアの中で、新たなフェーズの始まりとは言えますか? 先程、今まではアバンギャルド寄りの音楽をやってきたという話もありましたが。
「そうは言うけどね、きみたちは僕が今までやってきた音楽をどれくらい知っているのかな?」
●すいません、あまり詳しくはないのですが……ただ、今現在MOBとしてやっているものとはかなり違うのではないかと思ったものですから。
「うん、違うことは違うけどね。ただ、音楽に込められたエネルギーという点では、かなり似ているとも言える。今度のアルバムでも、今まで覚えてきたいろいろな手法を使っているしね。僕の中にあるアバンギャルドなアイディアを音楽に応用していると言う意味では同じだけれど、今回はただ、応用している先がロックバンドだというのが違う点なんだよ」
●では、今回の再結成というのは、83年に一度解散したMOBの再生を意味するものなのか、それともまったく新しい「新生MOB」を宣言するものなのか、どちらですか?
「それは……周りの人は、前のアルバムと地続きの、単なるセカンド・アルバムというとらえ方をしているみたいだけど、僕にとっては違うものなんだ。音だって、前とは同じじゃない。別に意識的に、前と変えようと思ったわけではないけれど、かといって前と同じようなサウンドにしようと思ったわけでもない。同じメンバーがやっているわけだから、同じような音に聞こえるのはある程度は仕方ない。でも僕自身は、すごく違うとも思うんだよ」
●じゃあ、まったく新しいバンドだという感じなんでしょうか?
「いや、それがそうでもないんだ。確かに前とは違うとは言ったけど……そうだなあ……前とは違うんだけれど、同じミッション・オブ・バーマであることには変わりはないんだ。こういうのは、なかなか説明しづらいね」
●そうですか。で、新作の『オン・オフ・オン』ですが、聴いて何よりも驚かされたのは、その当時とまるで変わらないハードコアで荒々しいエナジーです。それでいてノスタルジーや過去の遺産に頼ることなく、2004年のMOBの姿・ヴィジョンを鮮やかに提示して見せていますよね。あなた自身では今回の作品をどう評価していますか?
「うん、僕としてもすごく“今”の作品ができたとは思う。メンバー3人、誰もノスタルジーなんて感じていないし、このバンドをそういうものとはとらえていない。僕たちは、今やるのに一番理にかなっているものをやっているっていう、それだけなんだよ。まあ、さっきも言ったとおり、そうやって作ったものが、現代社会とか、音楽シーンの中でどこに当てはまるのかは、僕にも知りようはないのだけれど(笑)。ただ、少なくとも僕たちがやりたくないと思っていたものはあって……今はみんな、スタイルとかに縛られすぎている気がするんだ。でも、さらに上を目指して、今までに無かったものやアイディアを生み出すのなら、スタイルにこだわる以外にも他にいろいろとやり方があるんだよ。ただ、それには今までの変な決まりを無視しないといけない。たぶん、僕たちはそういう決まりなんか気にしないでやれているはずだし、それは、とてもいいことなんだと思うよ。僕たちの曲を聴いて、スタイルなんて必要ないんだと、気づいてくれる人もいるかもしれないし。聴いていて楽しいということ以外で、このバンドが人にとって役に立つところがあるとしたら、一番大きいのはそういうところだろうね」
●手応えというか感覚としては、かつての何かが強力に戻ってきた感じなのでしょうか? それとも、まったく新たなパワーがたぎっている感じですか?
「そうだね、感覚的には、前にやっていたときとすごく似ている。ただ、違うところもあって……こういう質問には、どう答えたらいいかわからないな。僕たちにとっては、ただミッション・オブ・バーマだっていうことしかないんだ。この3人が集まって音を出すと、こういうものになるっていうね。前にやっていたときからそれなりに時間が経っているから、当然違ったものにはなってはいるけれど……」
●では、今作はメンバー3人がそれぞれに曲作りに関わったそうですが、具体的にはどのようなプロセスを経て、今回の音作りはスタートしたのでしょう?
「そう、3人が別々に曲を作ってきて、それを持ち寄ったんだ。ただ、クリントや僕が作ってきた曲は、リハーサル前にはもうかなりかっちりできあがっていたんだけど、ピーターの曲はもっと自由になる部分が多くて、リハーサル中に3人で変えたところもずいぶんあったよ。そんな感じで、曲は一緒には作らなかった。それでも、この3人で演奏すると突然ミッション・オブ・バーマらしくなるんだよね。クリントはコンソナントっていう、別のバンドもやっているし、今度のアルバムに入っている曲だって、コンソナントの曲になっていたかもしれないのもある。そういう曲でも、ちゃんとミッション・オブ・バーマがやれば、このバンドの曲になるんだよ」
●ところで、シェラックのボブ・ウェストンをテープ・マニピュレーターに加えたのはどういう経緯だったんでしょう? MOBのハードコアな音作りには、まさに理想的な選択だとも思ったのですが。
「ボブはピーターがやってたヴォルケーノ・サンズっていうバンドのメンバーだったからね。それに、クリントのコンソナントのプロデュースもしてるうえに、僕のアルバムでトランペットを吹いてくれたこともあった。だから、3人とも、ボブとは関わりがあったんだよ。そのうえ、ボブはミッション・オブ・バーマにすごく憧れていたし、僕たちもシェラックは好きだったしね。だから、今回彼にテープ・マニピュレーターをやってもらうというのは、とても自然な流れだったわけだよ」
●では、今度のアルバムは、この22年間に貯め込んでいたものがすべて吐き出された作品、と言えるのでしょうか?
「いや、それは違うね。だって、別にこのバンドをやろうと思って貯め込んできたものなんて、僕にはないから。その間に、3人それぞれにいろいろなアイディアを思いついてはきたし、そういうものの一部はこのアルバムにも反映されている。でも、ミッション・オブ・バーマ用に何かアイディアを貯め込んできたというわけではないね」
●でも、たとえば、ソロやユニットでの活動や、実験的なアプローチが、現在のMOBのサウンドにフィードバックされたということはありますか?
「それはどうだろう、ちょっと考えさせてくれないかな……。そうだな、僕のギターが、前とは違ったレベルに達しているとは言えるんじゃないかな。たとえば“The Setup”だと、曲の途中にあるギター・ブレイクが、テープ・リバーブと二重奏をしているように聞こえるところがあるけど、あれは普通じゃ考えられないようなものなんだよ。あとは“Fever Moon”のギター・ソロでは、金属片を使って弾いていたりするし。それに、僕の作る音楽にはクラシックの要素もある。今度のアルバムでもストリングスが入っているのも、そういうところの現われだよ。だから、そういうクラシック的なところと、アバンギャルドなノイズっぽいものが、このアルバムにも入っているとは言えるかな」
●では、70~80年代のMOBと、今こうして再結成した2000年代のMOBの最大の違いは何ですか?
「そうだね、前よりはゆっくり目に演奏するようになったことかな(笑)。ゆっくりっていっても、前と比べて3%くらいスピードダウンしただけで、目に見えて遅くなったわけじゃないけれど。前は、早すぎて僕たちが何やってるのか、周りで見ててもわからないこともあった。今は、自分たちももっとよく考えて演奏するようにしているから、前みたいにわけがわからないってことはなくなってると思うよ。それから、ヴォーカルも、前よりハーモニーがあるね。前の時に出した『VS.』では、3パートのハーモニーらしきものはあったけど、あれはハーモニーというよりは、単に3人が同時に叫んだりわめいたりしているだけだったから(笑)。でも今は、僕たちもちゃんと歌ってるし。それに、僕の書く曲も、前よりメロディーがあるしね。前のアルバムの時は、僕のヴォーカルは歌ってるというよりは、何かを叫んでる感じだった。それに比べると、今度はちゃんとメロディーを歌ってるよ」
●逆に、一貫して変わらないところは?
「ああ、それは……決まり事を、まるで無視しているところ。その点では、昔とまったく変わってないね。それと、混乱が好きでたまらないこともそうだね。ピーターも言っていたよ。今度も新しい曲をずいぶん覚えないといけなかったんだけど、一度覚えてしまうと、と単にバラバラに破壊しだすのが僕たちだって」
●ちなみに、タイトルの『オン・オフ・オン』というフレーズには、どんな意味が込められているのでしょうか?
「これを考え出したのはクリントなんだ。なんだか、このバンドのたどってきた道にぴったりな気がしてね。一度活動して、解散して、また活動を始めたわけだから。それに、ライヴでも2時間ぶっ通しで演奏するわけじゃなくて、45分やってからちょっと休みをとって、また45分ライヴをやるっていうかたちにしているんだ。パンクの時代には、こういうやり方もあったんだよ。それもタイトルにつながってるね。それに、CDでも、ちょうど真ん中になるトラックには音が入ってない。そこでふたつの部分に分かれているんだ。そういういろいろな意味を込めて、このタイトルにしたんだ」
●ちょっと昔の話に戻りますけど、MOBが活動していた70年代の終わりから80年代の初めというと、他にもアンダーグランドの傑出したバンドが数多く登場した時期でしたよね。
「うん、あのころは、本当にいい時期だった。あのころと比べると、今のシーンはそこまでいいものはないね。だからこそ、僕たちのようなバンドが出てきて、他のバンドとは違ったやり方で、みんなを驚かせることもできるのかなと思うんだけど」
●今は、いわゆる「ポスト・パンク」と呼ばれたりして、あの時代のバンドや音が注目されたりしていますよね。
「そうだね。僕たちなんて、『プレ・ポスト・パンク』なんて呼ばれ方をしたりもする(笑)。なんだかおかしな話だよ。まあだから、僕たちはパンクでもなければ、ポスト・パンクでもない、どこかその間にいたバンド、っていうふうにとらえられているんだろうね」
●(笑)。あの当時、活動していて、時代特有の空気なり気分というものを感じたりはしていましたか?
「確かに、僕たちはいろんないいバンドと一緒に演奏していたけれど、今のバンドみたいに相手のスタイルを真似するバンドは、ひとつもなかったね。今は『ポスト・パンク』時代の音がすごく注目されていて、ああいうスタイルを真似しているバンドもたくさんいるけれど。僕にとって、ミッション・オブ・バーマというのは、自分たち独自のスタイルを作るということ、そのものなんだ。僕からみれば、ミッション・オブ・バーマの影響を受けたとかいうバンドも、さっぱりそういうふうには聞こえない。だって、今までのサウンドなんて真似してられるかっていう生意気なところがないと、ミッション・オブ・バーマとは言えないんだから」
●そういう点で言うと、去年ワイアーのコリン・ニューマンにインタビューした時に聞いた話なんですが、彼の中には当時「パンクでもロックンロールでもない何かが作りたかった」という思いがあったそうなんですね。あなたの中でも、そうした何かを否定したいとか、壊してやりたいとかいう気持ちがあったのでしょうか?
「うん、それは確実にあったね。僕たちが心から尊敬しているバンドは、みんなそういう気持ちがあったと思うし、ワイアーは特にそうだった。ずっと尊敬してきたバンドなんだ。ギャング・オブ・フォーや、テレビジョンや、ラモーンズや、他にもそういうバンドはたくさんあるけれど、僕たちを本当の意味で刺激したバンドは、ワイアーだと思う。『僕たちにもできるんだ』って思わせてくれたバンドだから」
●そういう気持ちは、今でもあなたの中で生き続けていると思いますか?
「うん、あるよ。まあ、前よりは明るくなったとは思うけど(笑)。前はもっと、何かに飢えているところがあったからね。でも、音楽に関して言えば、今でもそういう気持ちを失ってはいないよ」
●前回MOBを解散した理由のひとつに、あなたの耳鳴りの問題があったとは聞いていますが、そうした理由とは別に、当時の時点では「もうやりたいことはやり尽くした」という部分もあったのでしょうか?
「というか、もうかなり行き詰まっていたんだよね。僕自身は、耳のことがあったから、仕方ないと思っていた。ピーターはたぶん、一番残念がっていたんじゃないかな。マーティンとクリントは、ピーターほどは重く受け止めてはいなかった感じがする。でも、その時の事情ってうまく説明できないんだ。なんだかおかしな話だけど、そんなに大ごとだっていう気も、その時はしていなかったし。ただ、こうやってまた一緒に集まってみたら、本当に感触がよかったんだよ」
●ちなみに、先に名前を挙げたようなバンドと比べると、特に日本なんかだと、どうもあなた方が過小評価されているような気もするんですが、そんなことを感じたりはしませんか?
「ああ、それは確かに思うね。でも、僕たちはたった1枚しかアルバムを出していないわけだし、注目されなくても仕方がなかった気がする。でも、結局、そのせいで『伝説のバンド』なんて呼ばれるようになってしまったわけだけれど。実際にライヴを見た人なんて、ほとんどいないのに、今でも影響を与え続けてるなんて、なんだか変な感じだよ。実に面白い立場に、僕たちはいる。たとえば、最初に話の出た“Our Band Could Be Your Life”にしても、僕たちは他のもっと有名なバンドと同じ扱われ方をしている。あれを読んで、僕たちは本当にうれしかった。他のバンドの20分の1もレコードが売れなかったったのに、こんなに大きく扱ってくれるなんて、すごいと思ったよ。ほんとに名誉なことだしね」
●さきほど、あなたの作曲にはクラシックの影響もあるという話もありましたが、あなたはMOBを始める以前に音楽学校で作曲を勉強されたこともあるそうですよね。そこでの経験や知識が自分の創作活動に影響を与えていると思いますか?
「まあ、そういう勉強をしたのは僕だけだから、影響はあるかもしれない。だからといって、いわゆるアートロックっぽいものにはなっていないんだ。このバンドは、3人それぞれが違った要素を持ち寄って、ミッション・オブ・バーマになっている。だから、僕がクラシックや、アバンギャルドの要素を持ち込んだとしても、バンドがそれ一色になることはないんだ。あくまでそれは一部であってね」
●なるほど。では最後にお訊きします。今回の再結成は、あくまで一時的なプロジェクトなんでしょうか? それとも、MOBの新たな歴史の始まりと呼べるものなんでしょうか?
「どうだろうなあ。というか、そんなこと、僕にわかるはずないよ。アルバムが出たので、ツアーの予定はあるし、もしアルバムの売れ行きが良ければ、今でも僕は新しい曲を書いてるから、もう1枚アルバムを作れるというのも充分考えられることではあるけどね。でもそれと同じくらい、もうこれっきりにするという選択肢だってある。とにかく、先のことはわからないよ」
●じゃあ、今後はアルバムの評価次第っていうことですか。
「それもあるけど、やってて楽しくなくなるまでは、続けるんじゃないかな。先のことはあまり考えないし。レコードが出て、いくつかライヴをやるっていう、それだけだよ。あとは、新曲も書いてるけれど」
●では、これっきりにはならない可能性もありますね。
「そういうことだね」
(2004/06)
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