2012年6月25日月曜日

2012年の熟聴盤⑥

・ Animal Collective/Centipede HZ
・ LA Vampires By Octo Octa/Freedom 2K
・ Broken Water/Tempest
・ d'Eon/LP
・ Beck/I Just Started Hating Some People Today
・ je suis le petit chevalier/An Age of Wonder LP
・ V.A./Paisley Underground: 1981-1990
・ Ariel Pink's Haunted Graffiti/Mature Themes
・ Redd Kross/Researching the Blues
・ Marissa Nadler/Marissa Nadler
・ Mount Eerie/Clear Moon
・ Padang Food Tigers/Ready Country Nimbus
・ ザ・なつやすみバンド/TNB!
・ oono yuuki/TEMPESTAS
・ Liars/WIXIW
・ Avec Avec/おしえて
・ friendly hearts of Japan/friendly hearts of Japan
・ アニス&ラカンカ/Aniss & Lacanca E.P.
・ VIDEOTAPEMUSIC/7泊8日
・ Guided by Voices/Class Clown Spots a UFO
・ Tenniscoats/All Aboard!



(2012年の熟聴盤⑤)
(2012年の熟聴盤④)
(2012年の熟聴盤③)
(2012年の熟聴盤②)
(2012年の熟聴盤①)




2012年6月22日金曜日

極私的2000年代考(仮)……トータスのアザー・サイドを総括するレアBOX『A Lazarus Taxon』


「1stアルバムのリミックス盤として1995 年に発売され、長らく廃盤となっていた『Rhythms, Resolutions &Clusters』(マイク・ワットによる未発表リミックス・トラックを追加収録)を中心に、シングル/EP収録曲、コンピレーション提供曲、リミックス・ヴァ-ジョン等、アルバム未収のレア音源を多数収録したCD3枚 +プロモ・クリップや貴重なライヴ映像を収録したDVD1枚によるボックス・セット『ア・ラザラス・タクソン(A Lazarus Taxon)』をリリースする。」(※リリース・インフォより)

●今回のインタヴューでは、来月リリースされるボックス・セット『ア・ラザラス・タクソン』にちなんで、また私たちの雑誌では今回90年代を振り返る特殊記事を企画していることもあり、トータスのこれまでの歴史を振り返るような総括的なお話がうかがえればと考えてます。なのでよろしく!
「ああ」

●今回のボックス・セットのような、これまでのバンドの歴史をある意味で振り返るような作品をリリースすることに、率直にどんな感想をお持ちですか。
「はぁ~(ため息)………………フン(鼻を鳴らす)・…………よくわかんないっていうのが、率直な感想かな」

●(笑)。
「別に(笑)、何て言うか………………そうだね。とくに感慨とかはなくて、こうして作品を集めることができてよかったな、と。変則的な形でリリースしてきたものを、集めて出すには、今が一番いいタイミングなんじゃないかと思い…………ちょうど作品のほうもかなりの数が出揃っていたんで」

●監修作業はどうでしたか。
「えーと…………実際、大変な作業だったんだけど……オリジナルの音源を探したり、それを編集して、マスターし直してって、結構大変ではあったんだけど、まあ、何て言うか、こうして一つの形にまとめることができて、非常によかったというか、達成感はあるよね。作られた時期も個性も全然違ってるけど、個々の楽曲の個性を殺さずに活かすことができたんじゃないかと思ってるよ」

●実際、どのくらいの期間作業していたんですか。
「うーんと…………参ったなあ、というのも、だいぶ以前から取りかかってたんで。途中、間をぼこぼこ開けてっていう感じだったから、実際にどのぐらいかかったは何とも言えないよ」

●さっき言った「いいダイミング」というのは、どういう意味で?
「まあ……前回のアルバムが出たのが、2年も前で、今ちょうど新しいアルバムに向けて作業し出したところなんだけど、その間を埋めるのにちょうどいいんじゃないかっていうことと……うん、要するにそういうことだよね。それと前々から、ボックス・セットみたいな形で出したいな戸は思ってたし、今がその時期だと思ったんだよ」

●そもそものボックス・セットの制作意図は? 
「入手困難の作品が多かったからね。今ではもう手に入らないか、手に入ったとしてもブートレックや、インターネットからダウンロードされたもので、サウンドの質もきっとそんなに良くないものだろうから。だから、ちゃんとした音と形で聴けるように、と……実際、今回入ってる曲の中には、今回マスターし直したことで、オリジナルに比べて格段にサウンドがよくなっているものもあるし」

●トータスは今年で結成15年目となるわけですが、こうした作品をリリースする背景には、何かの一区切り、みたいな感覚もあったりするのでしょうか。
「いや、ないね」

●そうですか(笑)。
「アンソロジーや名作集みたいな形を取ってたら、もしかして一つの区切りを迎えた気になってたかもしれないけど、今回のボックス・セットに関しては、今ではなかなか手に入らない作品を集めてみましたっていう感じだから。これを機にトータスの歴史を総括したとかでもないし、ただ単に、あちこちバラバラに散らばってた音源を一箇所に集めましたっていうだけだから」

●ベスト・アルバムとか、グレイテスト・ヒット的なものではないと。
「全然、まったく。むしろベスト・アルバムとかグレイテスト・ヒットの類や、ほど遠い位置にある作品だと思うけど(笑)」

●まあ、そうですね(笑)。
「わからないけど、ベスト・アルバムにしては、あまりにも奇怪な作品が入りすぎているし(笑)…………グレイスト・ヒットにしても、少なくとも“ヒット”でないことはたしかだよ(笑)」

●とはいえ、今回のボックス・セットのリリースにまつわる作業を通じて、これまでの歩みを俯瞰するような感覚もあったのではないですか。
「えー………………フン(鼻を鳴らす)。まあ、何て言うか、個々の楽曲の違いだとか、それぞれ別の時期に作られた音を並べてみることで、これまでこういうふうに歩んできたんだっていうのがわかって、それは実際おもしろかったけどね、自分たちが音楽的にどう進化・発展を遂げてきたのかがわかって……。さっきも言ったけど、今回のボックス・セットは、いわゆる名作集みたいなものではないし、トータスというバンドを知るための入門として一番ふさわしいアルバムでもないけど、少なくとも、瞬間を垣間見ることはできるというかね。そうした瞬間を繋げていくことによって、トータスがどのような経過を経て今に至ってるのかがわかるようになってるんだ」

●どんな15年だったと漠然と感じますか。
「あー………………一言、『こうだった』って言えるものじゃないよ。やっぱり、何て言うか……あまりにもいろいろありすぎて。自分は今36歳だけど、36年のうちの15年だから、自分の人生のかなり大きな位置を占めるものであるし、そこだけ区切ってどうこうと言うわけにはいかないというか……自分の人生のほとんどの時間をトータスとして過ごしてるってことだからね。何だろう……感想っていっても、自分でも何て言ったらいいのか、わからないよ」

●15年前の自分はどうだったか覚えていますか。
「覚えてるっていったら、覚えてるよね。15年前からほとんど変わってないところもあるし」

●変わらないところって、たとえば何ですか。
「まあ、基本的なところというか、音楽に対する姿勢や、そこに何を求めるのかって部分について言えば、15年前と同じだよね。常に、斬新で新しいアイディアを求めていくこと、常識や型に捕らわれないっていうね。その部分については、昔から一貫してるよ」

●音楽に対して、そういう姿勢を貫かれるようになったのは、どうしてですか。
「それは………………たぶん、成長する過程で、いろんなものにさらされてきた結果、その全部を自分の音楽に反映させることによって、そこを足場にして、それぞれの音なりアイディアなりが、もっと可能性を開いていけたらなって思ってるからだろうね」

●今回の作業を通して、トータスとしてこれまで歩んできた足取りがはっきりわかったっていう感じですか。
「いや、そこまではっきりとしたものじゃなくて…………あえて、言葉にするのなら、暗くてぼんやりしたイメージなんだけど、何も見えないなりにも前に進んでるってことは確認できたよね」

●前進してるっていうと、たとえばどんなところで?
「まあ、確実に言えるのは、音のパレットが広がったってことだよね、それはもう明らかに。初期の頃の作品はもっとこう…………“単純”とは言いたくないけど、何だろう……サウンドの種類が限られてたっていうのはあるよね。それは明らかな違いだよ。それとたぶん、えー……初期の頃よりも、いろいろ試してみたい気持ちが強くなってるというか、今のほうが実験精神が旺盛になってるね」

●若い頃よりも今のほうがエクスペリメンタルになってるってことですか。
「たぶんね」

●今のほうがラディカルというか?
「ラディカルまでいくと、ちょっと行き過ぎだと思うけど…………エクスペリメンタルといっても、ジョン・ケージとか、そういうレベルではないし(笑)。音楽の概念そのものに疑問を抱かせるようなことはしていないと思うし……“ラディカル”って言葉を使うなら、自分たちよりももっとふさわしいアーティストがいると思うよ。フフフ」

●普通の人の理解の範疇を超えた音楽を作ることには興味がないというか?
「うーん……今のところは。…………もしかして、来年ごろやってみるかもしれないし(笑)」

●そしたら、どんな感じのものになると思いますか?
「来るべき時が来たら、なんとかやってみせるさ」

●音楽的なことでも、気持ちの部分のことでも構いませんが、この15年間であなた自身、あるいはバンドにとっていちばん変化を感じることは? 
「まあ、基本的なところで、機材や楽器の扱いがうまくなったとか、少しだけ賢くなったとか、レコーディング環境とか、そういうことだよね。それと、たぶん、世の中で何が起こってるのか、前よりもよく見えるようになったとか……一般的なところだよ」

●今回のボックス・セットには、この15年間に作られたさまざまな時代の音源が収録されているわけですけど、この15年間の中で自分たちにとってターニング・ポイントとなった瞬間、あるいは作品をあげるとするなら?
「いや、とくにはないよ。どのアルバムがターニング・ポイントっていうことではなくて、アルバムを作るごとに自分たちの世界なり、サウンドなりを新たに広げる良い機会だと思ってきたし、ターニング・ポイントとなるような、瞬間だとか、特別な出来事っていうのは思い浮かばないよ」

●すべての作品が繋がってる感じですか。
「繋がってるっていうか……まあ、そうだね。自然に成長していった感じだよ」

●『ミリオンズ・ナウ・リヴィング・ウィル・ネヴァー・ダイ』をリリースした前後から「ポスト・ロック」という言葉が聞カれるようになり、それとともにトータスの名前も一気に注目されるようになります。「ポスト・ロック」という言葉に積極的な、ポジティヴな意味をあえて見出すとするなら、それはどういえると思いますか。
「………………はぁ(ため息)……“ポスト・ロック”って言葉に対して、個人的に、ポジティヴな意味を感じないんだけど」

●自分たちの音楽が、“ポスト・ロック”というものを結びつけられてることに対して、どう感じますか。
「いや、そこらへんについても、とくに考えたこともないんだ。『ジャーナリストが変わったものを説明するときに作った言葉なんだな』って、それくらいの認識しかないよ」

●自分がジャーナリストだとしたら、自分たちの音楽をどう定義しますか。
「インストゥルメンタル音楽」

●シンプルですね(笑)。
「シンプルっていうか……まあ、そうかもね。たぶん、あえて定義しないようにしてるのかもしれないよ……安易な定義づけはしない。うん。定義することで、自分で自分にセーヴをかけるようになってしまうから」

●“ポスト・ロック”とは「ロックを、精神論や一時の感情にまかせることなく、真摯な創作倫理をもって音楽的/技術的な前進に導く態度」であると、トータスから教わった部分もあります。
「うん、まあ、わかるような気もするけど…………少なくとも、音楽的、技術的前進ってところに関しては。自分たちとしては何もプロのミュージシャンとして、楽器やコンピューターを巧く扱えるようになりたいと思って、ここまできたわけじゃないからね。優れた演奏家、エンジニアになることには、そもそも興味がなく……というか、他のメンバーがどう思ってるのかはわからないけど、少なくとも、自分はただ技術的に優れたミュージシャンなりエンジニアになることには興味がなく……ただ、使える道具が多ければ多いほど、音楽的にもっとおもしろいことができると思って、ここまでやってきちゃったわけで……もちろん、自分たちの技術に自信と誇りは持っているけど、最終的に目指してるところはそこじゃなくて、もっと別のところにあるんだよ。だから、ある意味、ナイーヴな気持ちから始まってるというか、ナイーヴであったからこそ、ここまで前進できたっていうことはあって……。技巧や技術の部分で自分たちに限界を設けずに、自由にクリエイションできるように心がけてきたから。自分がもしもアーティストではなく技術者だったら、きっとどこかで限界を感じてたかもしれないけど、ナイーヴだったからこそ、限界を感じずに来れたのかもしれない」

●あらためて過去の音源を聴き返してみて、新たな発見や再発見したこと、あるいは考えさせられたことはありますか。
「えーっと…………難しいところなんだけども…………昔はもっと我慢強かったかもしれないね」

●我慢強いって?
「何かあると事を長引かせて、延々と作業するのが好きで、全然飽きもしなかったんだ。ただ、今は一つのことに、そこまで執拗に作業することは滅多にないという…………」

●それはまたどうして?
「不思議だよね。自分でも何でだろうと思うけど」

●何ででしょうね(笑)。
「我慢できなくなったってことでもないんだけど、何だろう……今は執拗に一つのことに集中するよりも、あれもこれも、しかも今すぐに(笑)、試してみたくてたまらないんだ。だから、一つのことにそこまで時間をかけてやってられないんだよ(笑)」

●それはアプローチが変わったってことですか、それともフォーカスが変わったってことですか?
「えーっと、フォーカスだね」

●フォーカスが変わったことで、今は……?
「今は単なるADHD(注意欠乏他動性障害)だよ(笑)」

●過去の作品や音源というのは、あなたやトータスにとってどういう意味を持つものなのか。それは単なる過去に過ぎないのか。それとも常に現在の自分たちにヒントをくれるような、何かをフィードバックさせる可能性を含んだものなのでしょうか。
「えーっと…………うーんと(笑)……そのー、ほら、昔から過去には執着しないほうなんで。すでに終わってしまったことよりも、新しいものを見るクセがついてるというか。うん、そうだね、過去は過去として、それを無理に掘り起こすことはしないというか」

●過去から学ぶこともありますか。
「学ぶことがあるとしたら、まあ、『あそこの、あれは失敗だったな』っていう…………それくらい。二度と同じ失敗をしないこと、かな」

●今のあなたの耳には、たとえばファースト・アルバムの『トータス』はどんな風に聞こえるんでしょうか。ついアラ探ししてしまう? 
「えーっと、どういうふうに聴こえるか………………プロっぽくない音だなって思うけど」

●どういう点において?
「うーん……何か、全体的に荒削りな感じがするんだよ。ただ、それが別に悪いっていうわけでもないんだけどね…………というか、そこがむしろ、あのアルバムの魅力だったりしてね。ただ、何て言うか、ほら…………今の自分たちが作ってたら、もっと全然違った感じに聴こえるんだろうな、と」

●たとえば、今あのアルバムを作ったら、どんな感じに聴こえると思いますか。
「えーっと、たぶん、音にもうちょっと深みが出るだろうね。あとは、そのー…………ほら、音の感触みたいなものがちょっと違ってくるのかな、と。えっと、今、頭の中にぼんやりと思い浮かんでるんだけど、言葉にするのは難しいね」

●これまでリリースされてきた作品は、あなたの中ではそれぞれが完結したものなのでしょうか? それとも次の段階へといたる布石となっている?
「…………うん、まあね。これまでのすべての作品が前に向かって続いてるというか。どの作品も、その次に来る作品の可能性を示唆してくれているし、失敗から学ぶってこともあるだろうし、最終的には全部が身になってるというかね。大きな絵で見たときに、一つ一つのパズルがどこでどのように繋がってるのかがわかるんだ」

●失敗って、たとえばどんなところに感じますか?
「失敗っていうより、自分の感性が変わったってことなんだろうけど、そのときにはこれでいいと思ってたものが、後になって全然許せなくなったり……あるいは、いろいろなことに気づくようになったり。前だったら、そのまま流していたところを、今はこう……何て言うか……言葉が思い出せないんだけど、何だろう……そのー…………昔に比べて近視眼的な見方をしなくなったというかね」

●今月25日はオール・トゥモローズ・パーティーズ主催の「Don’t Look Back 06」というイヴェントで『ミリオンズ・ナウ・リヴィング・ウィル・ネヴァー・ダイ』の収録曲を全曲演奏される予定だそうですが、それはあなたの中で回顧的なものとして受け止められているものなのか。それとも新鮮な何か、別の可能性を感じさせるものなのでしょうか。
「そりゃ、可能性を感じさせるものだよ。当然」

●どういう意味で?
「というか…………今回こういう話が出たのは、ひとつにはあのアルバムの曲の、いくつかはまあ、ライヴでやったこともあるけど、96年以降はほとんどライヴでも演奏してなかったし、これまでライヴで一度も演奏していない曲もあるしね。だから、自分たちにとって、まったく新しい初めての試みになるよ」

●他に何を期待しますか。
「喜びと、驚きと……それと、最後まできちんと演奏できますようにってことかな」

●ちなみに、今のあなたから見て『TNT』についてはどう評価していますか。あの作品で行われた、プロトゥールズによるハードディスク・レコーディングという手法は、当時のいわゆるロック・バンドのなかでは画期的なものだったと思うのですが
「うん、まあ、今でもすごく満足しているし、テクノロジーにすごく助けられたなってことは感じるし、そこで可能性が広がったってことについては、たしかによかったよね。…………まあ、サウンドに関して少し問題があるとはいえ」

●どこが問題だと感じるんですか。
「全部マイナーだから。でも、それは僕自身の問題なんだ。自分がそこを問題視しなければいいだけの話だから」

●『TNT』も他の作品もそうですが、「誰もやったことのないことを」「自分たちだけのやり方でやる」ところにこそ、トータスのトータスのゆえんがあり、トータスが真にイノヴェイティヴなバンドであり続けているバンドだと思います。あなたは自分たちの音作りの上で「イノヴェイティヴであること」をどのように定義しますか?
「あー………………よくわからない。というか、そこに自分の関心があるわけじゃないからね。今までそういう視点から考えたことがないというか、自分たちは自分たちのやるべきことをやっているだけだからね」

●たとえば、バンドとしてどうありたいとかってありますか?
「いや、単純に、自分たちが楽しいと思える音楽をやっていけたらいいと思うけど。『この音、いいね』とか、あるいは自分たちの興味を引くような……うん、本当にそれだけだよ。他にというか、それ以外の動機はないし、ただ自分たちのやることをやって、で……それがうまくいきますようにって(笑)、願うだけだよ」

●ちなみに、あなたが選ぶ90年代のベスト・アルバムは?
「自分にとってのベストってこと?」

●そうです。
「どんなジャンルの人でも?」

●ええ。
「ふぅ~(ため息)………………フン(鼻をならす)……………………難しいな」

●みなさん、そうおっしゃいます。
「………………どういうのになるんだろう………………絶対に、これっていうのがあるはずなんだけど………………ちょっと待って、今、調べてみるから………………………………(戻ってきて)他の人たちは何て言ってるの?」

●人にも寄りますけど、アメリカのバンドで多いのは、やっぱりニルヴァーナの『ネヴァー・マインド』とか、イギリスの若いバンドだったら、オアシスとかブラーとかだし……あと、レディオヘッドとか……。
「ああ」

●ちなみに先日マウス・オン・マーズと話したら、エイフェックス・ツインって言ってましたけど……。
「参ったな………………………………サン・シティ・ガールズのアルバムとか、素晴らしいと思うけど…………サン・シティ・ガールズの『Torch Of The Mystique』とか……で、いいでしょうか(笑)。『Torch Of The Mystique』こそ、90年代のベスト・アルバムだと、僕はここで声を大にして言うよ」

●理由は?
「ふぅ~(ため息)………………まあ、何て言うか、彼らは長いこと一貫して同じことをやっているんだけど……って、要するに、ありとあらゆる影響やサウンドを取り入れてっていうことで、そうした彼らのアーティスト性みたいなのが、一番よく表れてるのがあの作品だと思うよ」

●90年代を象徴するアルバムということでは?
「90年代を象徴するアルバムね………………参ったな………………90年代の空気を伝えるアルバムってこと?」

●そうですね。
「90年代の、どのへん?」

●どのへんでも。
「まあ、たしかにエイフェックス・ツインとか、90年代を象徴してるだろうし……どのアルバムかってことでは…………一番好きなのはいつも『アンビエント・ワークス』なんだけど」

●どういった意味で90年代を象徴してると思いますか。
「あのアルバムがすべての始まりだからね。あのアルバムの登場によって、それまでにないまったく新しいサウンドが誕生して、それまでとは違ったまったく新しいサウンドを追求するまったく新しい人種があらわれて……すべてはエイフェックスのあのアルバムから始まってるんだよ」

●最後に……月並みな質問ですが、この15年間も立ち止まることなくあなたを音楽を作ることに駆り立てたものとは?
「あー………………わからないよ。こういう質問って、答えにくいよ(笑)………………うん(笑)……だから、何て言うか、扉を開けた向こうに、また新たな扉があらわれて、それがずっと続いていってる感じだからね」

●この15年間で得た最大の教訓は?
「最大の教訓ね……………………ふぅ(ため息)…………最大の教訓があるとしたら、いまだに最大の教訓を得ていないってことじゃないかな」

●何か別の方向に進もうと思ったことはないんですか。
「役者になるとか?」

●役者でも何でも。
「そんなのいっつも思ってるよ。どこから契約を取ってきてくれないかな」

●誰と一緒に仕事をしたいのか、教えてくれるのなら。
「そんなのわかんないよ…………相手の気持ち次第だね。心の準備はもうできてるので。どなたでも、一度、こちらに企画書を送ってもらえれば(笑)」

●もうひとつ最後に。一昨年『イッツ・オール・アラウンド・ユー』をリリースされた際のインタヴューであなたは「具体的にどう変わるのかは自分でもよくわからないけど、でも今回のアルバムのあと、今までとは違う方向に進んでいこうとしているっていうのは僕にもはっきりとわかるんだ」と話していました。現時点でどのようなバンドの未来を、今後の方向性を思い描いているのか、またその実感をお持ちでしょうか。
「いや、まだ見えてないんだよ」

●見えてきそうな感じはありますか?
「もうすぐ見えてくるはずなんだけど……まあ、来年くらいには」


(2006/08)



極私的2000年代考(仮)……トータスは健在する(増補版))
極私的2000年代考(仮)……トータスの源流、バストロを振り返る)

2012年6月10日日曜日

シューゲイズ再興の端緒 : UKからの応対


「フラワーズ・オブ・ヘルというのは昔のブルーズの音楽からとったんだ。悲哀でタフなミュージシャンの生活(地獄、Hell)も、結果としてリスナーの楽しみになる(花、Flower)。PiLとは関係ないよ」

地獄に咲く花々、とでも訳すのだろうか。PiLのアルバム『フラワーズ・オブ・ロマンス』を連想させるバンド・ネームの由来について訊ねると、バンドのメイン・ソングライターであるグレッグ・ジャーヴィスはこう答えてくれた(※以下、すべての発言部分は彼による)。20世紀初頭のアメリカ南部で、孤独や疎外感を抱えた黒人労働者たちが自らの心の叫びとして歌い始めたことから生まれたブルーズ。もちろん彼ら、フラワーズ・オブ・ヘルの音楽はブルーズではない(そしてPiLとも似ても似つかない)。ましてや当時の黒人労働者たちの孤独や疎外感など、彼らの音楽とは無縁に等しい。しかし、表現の形こそ違え、同じ音楽家であるかぎり何より大切なのは、そこにどれだけ「美しい花」を咲かせることができるか――フラワーズ・オブ・ヘルのサウンドからは、そんな音楽に深く魅せられた表現者としての強い矜持が伝わってくるようだ。

セルフ・タイトルが冠された本作『フラワーズ・オブ・ヘル』は、スペースメン3からヨ・ラ・テンゴやブライト・アイズまでカタログに揃える「Earworm Records」から、昨年2006年の終わりにイギリスで発表された彼らのデビュー・アルバムになる。しかし、ご承知のとおり、彼らはいわゆる「新人バンド」というわけではない。前述のグレッグを始め、総勢10名に及ぶバンド・メンバーは、多くが「ミュージシャンとしての前歴」を持っている。

◎グレッグ・ジャーヴィス(ギター、ピアノ/90年代にモスクワでPragueというバンドで活動)
◎ラス・バーロウ(ギター、イーボウ、オルガン)
◎メル・ドレイジー(ヴァイオリン/クリエンテルでキーボード&ヴァイオリンを担当)
◎アビ・フライ(ヴィオラ/ブリティッシュ・シー・パワーやバット・フォー・ラッシュズのメンバーも兼ねる傍ら、ヤコブズ・ストーリーズという自身のグループを率いる)
◎スティーヴ・ヘッド(ギター、ベース、ハモンド、ピアノ/ジ・アーリー・イヤーズにツアー・メンバーとして参加)
◎トム・ホッジズ(バリトン・サックス、フルート、ギターetc/ティンダースティックスのツアーやレコーディングに参加)
◎グリ・ヒュンメルサンド(ドラム、パーカッション/ピーチ・ファズで活動後、現在はプラシラズでギターを担当)
◎オーウェン・ジェームス(トランペット、コルネット/元はジャズ&ブラス奏者)
◎バリー・ニューマン(ギター、ベース、ハーモニカ/写真家としても活躍)
◎ヒルド・ステファンソン(ハモンド/元タイニー・トゥー)

「このバンドのメンバーは自然発生的に集まったんだ。この半年間で、何人かのミュージシャンにいっしょに演奏したいって言われてて。そんな人たちと、それから自分自身いっしょに仕事をしたいと思ってたミュージシャンを集めたんだ。ロンドンは大きい街だけど、ライブ・シーンで活躍する人たちは大体お互い知ってるもの。フラワーズ・オブ・ヘルのメンバーのほとんどは他のグループにも所属しているから、フラワーズ・オブ・ヘルのライブがあるときは代わりのピンチヒッターにお願いするなんてこともちょくちょくで。 そのピンチヒッターたちがみんな上手いからバンドを抜けてほしくなくて、最終的に規模が倍に膨れ上がってしまったんだ。ピンチヒッターとして参加したミュージシャンがそのままメンバーになったというわけ」



スペースの都合上、メンバー各々が参加する/参加してきたバンドについての紹介は割愛させてもらうが、ミュージシャンとしての多彩なバックグラウンド、加えてマルチ・インストゥルメンタリストとしての素養をメンバーの多くが備えていることは、フラワーズ・オブ・ヘルというバンドを定義する大きな特徴と言えるだろう。さまざまな楽器が奏でる音色が幾重にも織り成し、シンフォニックに響き合いながら紡がれるサウンドスケープ。そこには、交響楽にも通じる荘厳でクラシカルな美しさと、同時代的な(例えばブリティッシュ・シー・パワーやジ・アーリー・イヤーズ、クリエンテルらと共振する)ポスト・ロック~ネオ・シューゲイザーの系譜に立つ現在性が息づいている。

「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1st、スペースメン3の『Playing With Fire』と『Recurring』、そしてスピリチュアライズドの『Laser Guided Melodies』が俺のお気に入りの4枚のアルバム。いつも感じてたことなんだけど、これらのアルバムのスタイルを使えば、もっといろんなバリエーションの音楽が探求できるはず。 でも残念なことにこのアルバムを創ったアーティストたちはみな違う音楽の道に進んだり、自身たちで創造したユニークで特別なスタイルを捨ててしまったりしたんだ。そこで気付いたことがある。自分が一番好きな種類の音楽をレコードで聴きたいと思ったら、自分自身で創るしかないと。いつもこれらのレコードとクラシック・ミュージック間の相似性に興味を持っていた。だから俺たちのアルバムのゴールは、ヴェルヴェットの1stと『Laser Guided Melodies』とクラシックをミックスさせた、先述の4枚のアルバムのどれも持ち合わせていない音楽だったんだ」

フラワーズ・オブ・ヘルのサウンドには、今から10年ほど前の90年代後半に、スピリチュアライズドやマーキュリー・レヴ、シックス・バイ・セヴンらを筆頭に「UKネオ・サイケデリア」などと呼ばれて注目を集めたバンドを彷彿とさせるところがある。文字どおりサイケデリックで夢幻的なトーンを帯びた音像と、奥行きや空間的広がりを意識させる音響処理。事実、グレッグの発言からも彼らが当時のバンドをひとつの音楽的指標としていることは明らかであり(そして「UKネオ・サイケデリア」たちが音楽的指標としたのが他ならぬヴェルヴェット・アンダーグラウンドだった)、なかでもグレッグが強いシンパシーを寄せるスピリチュアライズド、その中心人物であるジェイソン・ピアースの元相棒であり、かつて共にスペースメン3を率いたソニック・ブームakaスペクトラムがゲスト参加(6曲目「Through The F Hole」)していることは、本作品の最大のトピックの一つだろう。



「ソニックにデモをいくつか送って、彼のいるラグビーにその翌週に行くから会えないかと聞いたんだ。彼は俺のデモを気に入ってくれていて、家に招待してくれたんだ。 彼の家では音楽の話をしたり、レコードを聴いたり、演奏したりして仲良くなった。数週間後、彼にスペクトラムという彼のバンドにギターとして誘われたんだけど、要求された仕事量からするとフラワーズ・オブ・ヘルを辞めないといけなかったから、逆に誘ってみたんだ。ゲストとして俺たちとどうかって」

98年に「Rocket Girl」からリリースされたスペースメン3のトリビュート・アルバム『A Tribute To Spacemen 3』。モグワイやアラブ・ストラップ、ロウ、バード・ポンド、ピアノ・マジックなど、錚々たる顔ぶれの「スペースメン3の子供たち」が参加し、それぞれカヴァー曲を収録した作品だが、例えばその末席にフラワーズ・オブ・ヘルが名を連ねていたとしても、そのサウンドはまったく遜色のないものだ。そして、その「スペースメン3の子供たちが」が、98年時点におけるサイケデリック・ミュージックやポスト・ロック~インストゥルメンタル・ロックの最前線の一角を示すサンプルであったように、いわば「スメースメン3の孫」たるフラワーズ・オブ・ヘルのサウンドを、それから10年後の現在における同種の可能性を示すものだと見立てる視点は、おそらく間違っていない。

「詩と音楽というものはふたつの別個のアートだと思う。昔、世界中の国々で歌うことを通して音楽と詩が結びついた。太古の昔には、人の声が結い一音楽を奏でるものであったので、そこに言葉をのせて歌うというのはごく自然のことだった。今日では、私たちの周りには様々な楽器があり、詞と音楽を結び付ける必要がなくなった。歌を聴くとき、人間の耳は人間の声に集中してしまい、演奏はただの背景になってしまう。しかし人間の声を取り除いた瞬間から、演奏が前面に出てくる。あなたの耳は演奏に集中するはずだ。この機能は脳にも存在し、言葉が使われていなければ、あなたの心を昂ぶる感情の夢へといざなうだろう。もしもベートーベンが作品に歌詞をつけていたら、あの力強さは弱くなることはあっても、増すことはないだろう。彼はそのことに気付いていたと俺は確信している」


ヴェルヴェット・アンダーグラウンドからスペースメン3、そしてスピリチュアライズドからフラワーズ・オブ・ヘルへ――。あるいは、本作のプロデュースを務めたデス・イン・ヴェガスのティム・ホルムズに絡めて強引に導き出すなら、そこにスーサイドからシルヴァー・アップルス、そしてスペクトラムへと至る流れを含んだエレクトロニック・ミュージックの系譜を見通すことも可能だろう(もっともグレッグは、音楽面のみならず精神的な指標として、ジョー・ストラマーやボブ・ディラン、ニーナ・シモン、ジョニー・キャッシュ、エンニオ・モリコーネらの名前を挙げている)。

いずれにせよ、彼らのようなサウンドは、現在のイギリスの音楽シーンの動向に照らし合わせて見れば、限りなく「傍流」に位置する存在に違いない。ニュー・レイヴや、あらゆるリヴァイヴァリズムが横行する2000年代のイギリスのメインストリームと、彼らがやろうとしていることの間には明確な一線が引かれている。だからグレッグが、ブロークン・ソーシャル・シーンやアーケイド・ファイアを指し、「革新が奨励されるような土壌のミュージック・シーンがあるということは本当に素晴らしいことだと思う」とカナダのインディー・シーンに対して切実なシンパシーを寄せているという事実は、当然のことなのかもしれない。しかし、ブリティッシュ・シー・パワーをはじめとする「傍流」たちの変革を求める声がフラワーズ・オブ・ヘルの誕生を導いたように、グレッグが切望するような創造的なシーンは今のイギリスにも残されているし、そこにはメインストリームを覆す新たな胎動を感じることができるのではないだろうか。

「イギリス文化にとって、音楽とはファッションの一部であり、イギリス音楽産業が投資するバンドはファッショナブルなバンドだけ。そして、周知の通り流行のファッションはすぐに変わる。今の流行も数年後には消えているだろう。今から5年後にはカイザー・チーフスもブロック・パーティーも音楽を作り続けているとは思わない。でも、レコード会社の契約を取り付けるのが難しくなってきている昨今、ミュージシャンたちはファッショナブルな音楽でレコード会社と交渉することを諦め、本当にやりたい種類の音楽への道を進もうとする傾向にあることはいいことだ」

グレッグによれば、7月には早くも次のアルバムの制作に入る計画とのこと。また、それに先駆けて、ジーザス&ザ・メリー・チェイン“Darklands”のインスト・カヴァーを含むアナログEPが夏前に、そして秋には限定の7インチがリリースされる予定だという。

(2007/06)

極私的2000年代考(仮)……シューゲイズ再興の端緒 : アソビ・セクスの場合)
極私的2000年代考(仮)……シューゲイズ再興の端緒 : ア・プレイス・トゥ・バリー・ストレンジャーズの場合)
極私的2000年代考(仮)……シットゲイズもしくはノーファイについて(So Bored !))

2012年6月2日土曜日

2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Esprits Frappeurs/Premiere Apparition
オカルティズムと電磁的現象は虚実皮膜の関係といえ、少し古いが黒沢清の『回路』を思い出すまでもなく、むしろテクノロジーの領域にこそスピリチュアリズムや霊魂的な気配はヒタヒタと感じられるといった現在。あるいはシュタイナーによる霊学と神智学との関係……とか。まあともかく、それはそのようなオカルティズムやゴス的な美意識を、昨今はフォークや土着的な音楽ではなくむしろエレクトロニック・ミュージックの方が積極的に打ち出している(または受け皿となっている)という現実があり、そう考えるとこの2人組は、昨年“Depp”なる新たなサブジャンル名でも話題を集めた北欧のEctoplasm Girlsよりもまんま核心を突いているような。テープ・コラージュとエレクトロニクス、エディットされたヴォイスが織りなす奇矯なサウンド・ポエトリー。

◎Giant Claw/Mortal Earth/Morbid Earth
トリオによるシンセ・アンビエント。例えるならAstral Social ClubとEmeraldsの中間に位置するというか……ドローン過ぎずニューエイジ過ぎず、かといって中庸というわけでもなく……持ち時間をたっぷり使って緩いトリップへと誘う、試合巧者な手練手管ぶり。



◎Changeling/Beyond the Edge of Dreams
Quintanna RooやBlack Monkのメンバーも兼ねるRoy Tatumのソロ。ギター・ループやシンセを絡めたレイヤードスタイルは正攻法のアンビエント~ニューエイジ的展開だが、Pocahauntedのヘルプも務めた履歴から期待するとややスパイスが物足りないか。 

◎Diamond Catalog/Magnified Palette' Remixes
片割れはyo-yo dieting名義で知られる男女デュオによるアンダーグラウンド・ベース・ミュージック。の、同じくNNAからリリースされたアルバムのリミックス盤。グルーパーやドリップハウスらが参加したUSアンダーグラウンドの異種結節点ともいうべき内容。


◎DREAMS/Forgotten Thoughts
パリのSVN SNS RCRDSから。安易すぎる例えだがポルトガルのウォッシュトアウト? あるいはジザメリを想起させるシューゲイズな趣も。チルウェイヴの無国境性をあらためて。 90年代とは異なりベッドルームがネット文化により“開かれた”=グローバル化された結果……在来種と外来種の関係じゃないけど、むしろそこから多様性が奪われてしまったように感じるのは錯覚か。なんというか、固有の生態系が損なわれてしまったというか……ポップ/ロックと“辺境(音楽)”の関係にもあてはまりそうな気がするけど。トライバルとかアフロとかエスニックといった類がロック/ポップに落とし込まれたときの、画一的でいかにもクリシェな感じとか、昨今の。

◎Dreams West/ST
新興As Above So Belowからのリリース第一弾。さしずめこちらはベルリンのウォッシュト・アウトか……まあ、2012年の耳で聴くと既聴感をこえて倦怠感を覚えなくもないが、まあともかく、センスは買いたい80Sシンセ・ポップ・スタイルの現在形。

◎Dozens/Confused Kundalini/Split
Hobo CubesのDe GallとSundrips のRyan Connollyによるモントリオールのデュオと、Dry ValleysのAdam Meyerによるニュー・プロジェクト。例えばConstellation~hotel2tango録音を思わすゴッドスピード直系のドローンをいわす前者に、 シンセを厚く塗り固めたダーク・ラーガ風の後者。 嗚呼、耳もたれしそ、、、

 ◎Coppertone/Best of the first six months
プロヴィデンスでRussian Tsarlagを率いたサシャ・ワイズマン女史によるニュー・プロジェクト。LAに渡りUSアンダーグラウンドの深淵にますます憑かれた様子。前身のダウナー極まるデス・ポップも強烈だったがヴァリエーションは増え、アマンダ・ブラウン(時折リディア・ランチ)に肉薄も見せる四十八手のエクスペリメンタル。Nighte Peopleから。

◎Crystal Visions/True Believers
新興2:00AM Tapesから、Christopher Merrittによるプロジェクト。ノイズ・マナーのエレクトロニクスだが、それこそ“har-sh-oegazer”とでも呼びたい残響甘やかなサウンドスケープ。グリッチのスワロフスキーのよう。




◎Alps/Golden
オーストラリアのChris Hearnによるプロジェクト。Coachwhips~Thee Oh Seesラインのシューテイストなガレージ・ロックにパンキーなロックンロールを塗り重ねた豪快さ。大味なノリはオージー産ならではか。



◎Hands of Hydra and Janina Angel Bath Dio/Stargazer
Plastic Crimewave Soundの一員でもあるHands of HydraことAdam Krakowと、Eternal Tapestryで客演も果たすJanina Angel Bathのデュオ編成。ミドル・イースタン風アンビエント・ラーガにそよぐミスティックな歌声。テリー・ライリー・ミーツ・MV&EEというか。チャードルを纏ったジュリアナ・バーウィックか。話題のSloow Tapesから。


◎Haunted Houses/The Heaven of the Soul and the Heaven of the Moon
Lee Noble主宰のNo Kingsから。過去にBatheticからリリースもあるRyan Lopilatoのプロジェクト。ローファイなティム・キンセラ? はたまたビリー・ジョエルのアシッド/アンタイ・フォーク??といった瞬間も。やさぐれたキミヤ・ドーソン風。


◎Magik Markers/Isolated from Exterior Time 2010 a.k.a. Bonfire
ドラッグ・シティからのフル・アルバム以来 表立った動静が伝えられないMM。互いに課外活動に忙しく、片割れのエリザは昨年シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンスのベン・チャズニーと200 Yearsを結成と、今後の展開はますます不透明な模様…と思ったらこの春には元ロイヤル・トラックスのジェニファー・ヘレマのBlack Bananasとツアーで共演と、いよいよ本格的に再始動か。ハードコア、インプロ、 サイケ、ジャム、オルタナ……フリーp・フォーク以降のUSアンダーグラウンドのヴォキャブラリーを圧縮/蒸留したロウ・テンショjン。


◎The Hospitals/R. I. P. Cassette
2008年の『Hairdryer Peace』がWIRE誌の年間ベストに選出されたサンフランシスコのインディー・ノイズ・ロック。Not Not FunやIn the Redからのリリースもあるが、本作はややイレギュラーな編集盤。ノーファイ、シットゲイズ等々のUSアンダーグラウンドにおける評価の一助を先駆けた彼らだが、ノーエイジから『Cryptograms』前後のディアハンター、あるいはサイテイングスやエー・フレイム~AFCGTス等々のロボトミックなインダストリアル/ノイズ・ロックまで包括し得る、思いのほか広範な射程を誇る。バンドのwikiからフリー・ダウンロードできるが、まずは前述の 『Hairdryer Peace』 を勧めたい。


◎Iibiis Rooge/Life In a Blood Cell
High Wolfこと何某とAstral Social Clubのニール・キャンベルが組んだデュオ。トランシーでエスノな、両者の持ち味が過不足なく交配されたミニマル・サイケ・アンビエント。しかしHigh Wolfは正体不明かつ多作と、とても追えないハイペースぶり、、



◎Cuticle/I Want You
Daren HoやJeff Witscher等々のメンバーも兼ねるアンダーグラウンド・シンセ・ベース・ミュージック。Not Not Funと100% Silkを往来する来歴通りのマナーというか、テッキーなミニマリズムはなるほどアマンダ・ブラウン好みか。本作は新興カセット・レーベルAll Hell(すげー名前、、)から。


◎Radiator Hospital/WELCOME TO THE JUNGLE
そもそもはFred Thomasという何某とスプリットでリリースされた音源。カセット=アンビエント/ドローンな作品が多いなか、 こういうローファイなベッドルーム・フォーキー・ポップにで出くわすとホッとするというか、つい遠い目で90年代を追想したくなる、、ベッドルームがまだ閉ざされた妄想の実験室だった時代の名残り。リプレイスメンツのカヴァーを含む6曲。今年のヴァレンタインに録音されたとか。


◎Riki 2Oh2/The Story of Riki 2Oh2
素性不明の脱法系ミクスト・テープ。サブライム・フリークエンシーズと西海岸ドープネスの混交。ミクステというかコラージュに近い坩堝的アマルガム。


◎Raven Strain/Brain Stains
ミシガンのマシーナリー・アンビエント。具体音らしきものも織り交ぜたインダストリアル・ノイズ・コラージュは同郷のウルフ・アイズを幻視させる。つまりスロッビング・グリッスルのライン。



◎N.213/Bastard

ヴァンクーヴァーでShearing Pinxを率いるNic Hughesのプロジェクト。MarsやSwell Mapsを想起させるポスト・パンク/ノー・ウェーヴmeetsノイズ・エクスペリメンタル。



◎LX Sweat/Sweat Sweat Sweat
ずばりサン・アロウの流れを汲むNot Not Funの有望株。前後不覚のずぶずぶなダブ音響に、絡みつくスクリュード・ファンク~R&B。シンセ・ポップ~チルウェイヴに対するLAアンダーグラウンドからの意匠返し的な趣きも。


◎Kunlun/Kunlun
High Wolfことフランスの何某によるプロジェクト。数多あるプロジェクトのなかでももっともアブストラクトでヒプナゴジック。ミニマルなシンセとコンゴトロニックなビートが描く無間の電子曼荼羅。

 ◎L'Amazon Ram Arkestra/A.R.A
こちらもHigh Wolfが関わるプロジェクト。ミドル・イースタン~ニュー・エイジ風のサイケ・アンビエンスはJackie-O MotherfuckerやVibracathederal Orchestralにもたとえられるが、こうして何某のプロジェクトを総覧した上で浮かび上がるのは、つまりHigh Wolfこそ目下のアンダーグラウンド・シーンの潮流の集約点という事実。長尺のエクスペリメンタルのなかで幾つもの景色が立ち現れてはクロスフェードし、流れては消えていくような電子音響の蜃気楼。


◎Lace Bows/Pollen Futures
Hooker Visionからポルトガル産の幻覚キノコ=Joana Franciscoのプロジェクト。プリペアード・ピアノやフィールド・レコーディングを交えて編まれたラーガなドローン・アンビエンス。ヴォイス・ループやサンプリング/コラージュを纏め上げたB面のへルタースケルターなグッド・ヴァイヴレーションはまるで60年代の西海岸が幻視した狂気のアトモスフィアを醸成。



◎Long Distance Poison/Calendric Circuits
限定ラインのDigitalis Limitedから。ブルックリンのトリオによる、 ゴシック趣味のドゥーミーなアンビエント・ドローン。 歪んだシンセのトーンはカルロス・ジフォーニら地元のNo Fun勢にも通じる耳障りなノイズ・センスを感じさせる。


◎MACINTOSH PLUS/FLORAL SHOPPE
素性不明のチョップド&スクリュードなシンセ・ポップ。Bandcampのタグからわかるのはアメリカのアーティストらしいが、 Laserdisc Visionsにも通じるレトロならぬ“アナログ”フューチャーなAORなテイストや80年代のMTV的なヴィジュアル喚起性。デッドストックのポップスをカットアップしたようなムード・ミュージックはvideotapemusicっぽくもある。


◎Maps And Diagrams/Red Moon Rising
UKのChemical TapesからリリースのTim Martinによるプロジェクト。 クラスター~ジャーマン・エレクトロ・スタイルのシンセ・アンビエント。コズミックでニュー・エイジな王道感と、ドローンなうねりがもたらす催眠的なゆらぎ。ヒプナゴジックならぬメスメリズム(mesmerism)・ポップ。



◎Mark Bradley/No Mind Meditation/Split
オヴァル風のエレクトロニカ・スタイルと思いきや、バレアリックなビートが迫り出し、ミニマルやアンビエント/ドローン、ディスコ~テクノと多様なモードを打ち出す前者。対する後者もテープ・コラージュのようにニュー・アイジやサイケ、パワー・アンビエント……と互いに20分強の持ち時間の中で展開めまぐるしいピークを演出。深酔いするようなトリップ。


◎rale/The Moon Regarded, And The Bright One Sought
南カリフォルニアのウィリアム・ヒューストンによるプロジェクト。慎ましくも幽玄なアンビエント・ドローンはまるでソニック・ブームのエクスペリメンタル・オーディオ・リサーチを海底深くに沈めたよう。静かな波のうねり、深海に伝わる響きの持続音。


◎Bataille Solaire/Baal Shamash et son char céleste
Leopard et MoiやFemminelli名義でもリリースするモントリオールのAsaël Robitaille。 シンセ・オルガンやディレイを効かせたハープが織りなすコズミック・ドローン。 ニュー・エイジやトランス~サイケが奇妙にブレンドされた、まるでシュールな天体ショーを眺めているかのよう……。



◎Attenuated/Night of Sense
Ian Kennedyによるデビュー作。 シンセ・オルガンやサックスを交えた荘厳なるドローン・オーケストラ。 ミニマルからシューゲイザーまで包括したサウンドスケープは2000年代にリリースされたクランキーのカタログの中から幾つかのクラシックを想起させる。


◎Niggas With Guitars/Continent Gods

重厚長大なドローン~フォーク。シルクロード紀行やサハラ巡礼のドキュメンタリー映像がオーヴァーラップする。作品によって多面体な表情を見せ、ファンキーやダブにも振れる来歴不明のアマルガムはサン・アロウにも近い。限定リリースのDigitalis Limitedから。


◎Michael Shannon/Sensa Atmospheres シアトルのサウンド・アーティスト。フィールド・レコーディングを下絵にオシレーターやパーカッションやチベット楽器をコラージュのように塗り固めた、まるでゲルハルト・リヒターやジャクソン・ポロックの抽象画も連想させるドローン・ペインティング。


◎Mohave Triangles/Haze for Daze
ノース・カリフォルニアのプロジェクト。正味15分の曲がA面B面に。長尺だが様々な風景が継ぎ接ぎされていて、フィールド・レコーディングやアンビエント~ドローン、トライバルなどシークエンス毎に魅せ場が異なる雑多性。セピアトーンのエレクトロニクスはボース・オブ・カナダも彷彿。


◎Nzambi/Lesser Utopias
ルイヴィルの2人組。シンセとドラム・マシーンが軽快に綴るニカ・スタイルのアンビエント。シカゴ・ハウスの影響も指摘されるが、なんとなく2000年代中頃のmorrっぽいやわらかな感触。

◎Asio Otus/Taivaallisia Tulia
以前はLong-eared Owlという名前でリリースしていたフィンランドの2人組。「UFO sightings in the early 70s in a small town called Pudasjärv」というコンセプトのアルバムらしく……ハルモニアなどのジャーマン・エレクトロ系や、地元のFonalのカタログを連想させる。



◎Pocahaunted/Beast That You Are
『Make It Real』で解散する以前の、カセットやらCDRやら量産していた頃の1本。後にベスト・コーストを始めたベサニーがポカ時代を振り返り「あんな音楽ほんとはやりたくなかった」みたいなことを話していたが、これを聴けばそのストレスやいくばくか……とも。いや、今やアンダーグラウンド・ディスコ・クイーンと化したLA・ヴァンパイアことアマンダ・ブラウンしかり、元Black Black/現DIVAのディーヴァ・ドンペ(※父親はバウハウスのドラマーのケヴィン・ハスキンス)しかり……これも一種の苦行時代というか、より高く深くトリップするための何物かだったのかも。なんて。


◎Ono Sendai/ST
新興All Hellから。綴りを見てオノ・セイゲンと空目してしまったアンビエント~ドローン作家。中身は似ず非なるというか、ヒプノでブリーピーな電子音を操り三半規管を狂わす手練手管ぶり。



◎Persona La Ave/Brothers Was Taken 来日間近のTeamsが激推するというサウス・キャロライナのソロ・プロジェクト。近いところではDuck Diveも連想した潮騒のチルウェイヴ。リリースは1902年!?(Bandcampより)












2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))




2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))