2012年6月2日土曜日

2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Esprits Frappeurs/Premiere Apparition
オカルティズムと電磁的現象は虚実皮膜の関係といえ、少し古いが黒沢清の『回路』を思い出すまでもなく、むしろテクノロジーの領域にこそスピリチュアリズムや霊魂的な気配はヒタヒタと感じられるといった現在。あるいはシュタイナーによる霊学と神智学との関係……とか。まあともかく、それはそのようなオカルティズムやゴス的な美意識を、昨今はフォークや土着的な音楽ではなくむしろエレクトロニック・ミュージックの方が積極的に打ち出している(または受け皿となっている)という現実があり、そう考えるとこの2人組は、昨年“Depp”なる新たなサブジャンル名でも話題を集めた北欧のEctoplasm Girlsよりもまんま核心を突いているような。テープ・コラージュとエレクトロニクス、エディットされたヴォイスが織りなす奇矯なサウンド・ポエトリー。

◎Giant Claw/Mortal Earth/Morbid Earth
トリオによるシンセ・アンビエント。例えるならAstral Social ClubとEmeraldsの中間に位置するというか……ドローン過ぎずニューエイジ過ぎず、かといって中庸というわけでもなく……持ち時間をたっぷり使って緩いトリップへと誘う、試合巧者な手練手管ぶり。



◎Changeling/Beyond the Edge of Dreams
Quintanna RooやBlack Monkのメンバーも兼ねるRoy Tatumのソロ。ギター・ループやシンセを絡めたレイヤードスタイルは正攻法のアンビエント~ニューエイジ的展開だが、Pocahauntedのヘルプも務めた履歴から期待するとややスパイスが物足りないか。 

◎Diamond Catalog/Magnified Palette' Remixes
片割れはyo-yo dieting名義で知られる男女デュオによるアンダーグラウンド・ベース・ミュージック。の、同じくNNAからリリースされたアルバムのリミックス盤。グルーパーやドリップハウスらが参加したUSアンダーグラウンドの異種結節点ともいうべき内容。


◎DREAMS/Forgotten Thoughts
パリのSVN SNS RCRDSから。安易すぎる例えだがポルトガルのウォッシュトアウト? あるいはジザメリを想起させるシューゲイズな趣も。チルウェイヴの無国境性をあらためて。 90年代とは異なりベッドルームがネット文化により“開かれた”=グローバル化された結果……在来種と外来種の関係じゃないけど、むしろそこから多様性が奪われてしまったように感じるのは錯覚か。なんというか、固有の生態系が損なわれてしまったというか……ポップ/ロックと“辺境(音楽)”の関係にもあてはまりそうな気がするけど。トライバルとかアフロとかエスニックといった類がロック/ポップに落とし込まれたときの、画一的でいかにもクリシェな感じとか、昨今の。

◎Dreams West/ST
新興As Above So Belowからのリリース第一弾。さしずめこちらはベルリンのウォッシュト・アウトか……まあ、2012年の耳で聴くと既聴感をこえて倦怠感を覚えなくもないが、まあともかく、センスは買いたい80Sシンセ・ポップ・スタイルの現在形。

◎Dozens/Confused Kundalini/Split
Hobo CubesのDe GallとSundrips のRyan Connollyによるモントリオールのデュオと、Dry ValleysのAdam Meyerによるニュー・プロジェクト。例えばConstellation~hotel2tango録音を思わすゴッドスピード直系のドローンをいわす前者に、 シンセを厚く塗り固めたダーク・ラーガ風の後者。 嗚呼、耳もたれしそ、、、

 ◎Coppertone/Best of the first six months
プロヴィデンスでRussian Tsarlagを率いたサシャ・ワイズマン女史によるニュー・プロジェクト。LAに渡りUSアンダーグラウンドの深淵にますます憑かれた様子。前身のダウナー極まるデス・ポップも強烈だったがヴァリエーションは増え、アマンダ・ブラウン(時折リディア・ランチ)に肉薄も見せる四十八手のエクスペリメンタル。Nighte Peopleから。

◎Crystal Visions/True Believers
新興2:00AM Tapesから、Christopher Merrittによるプロジェクト。ノイズ・マナーのエレクトロニクスだが、それこそ“har-sh-oegazer”とでも呼びたい残響甘やかなサウンドスケープ。グリッチのスワロフスキーのよう。




◎Alps/Golden
オーストラリアのChris Hearnによるプロジェクト。Coachwhips~Thee Oh Seesラインのシューテイストなガレージ・ロックにパンキーなロックンロールを塗り重ねた豪快さ。大味なノリはオージー産ならではか。



◎Hands of Hydra and Janina Angel Bath Dio/Stargazer
Plastic Crimewave Soundの一員でもあるHands of HydraことAdam Krakowと、Eternal Tapestryで客演も果たすJanina Angel Bathのデュオ編成。ミドル・イースタン風アンビエント・ラーガにそよぐミスティックな歌声。テリー・ライリー・ミーツ・MV&EEというか。チャードルを纏ったジュリアナ・バーウィックか。話題のSloow Tapesから。


◎Haunted Houses/The Heaven of the Soul and the Heaven of the Moon
Lee Noble主宰のNo Kingsから。過去にBatheticからリリースもあるRyan Lopilatoのプロジェクト。ローファイなティム・キンセラ? はたまたビリー・ジョエルのアシッド/アンタイ・フォーク??といった瞬間も。やさぐれたキミヤ・ドーソン風。


◎Magik Markers/Isolated from Exterior Time 2010 a.k.a. Bonfire
ドラッグ・シティからのフル・アルバム以来 表立った動静が伝えられないMM。互いに課外活動に忙しく、片割れのエリザは昨年シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンスのベン・チャズニーと200 Yearsを結成と、今後の展開はますます不透明な模様…と思ったらこの春には元ロイヤル・トラックスのジェニファー・ヘレマのBlack Bananasとツアーで共演と、いよいよ本格的に再始動か。ハードコア、インプロ、 サイケ、ジャム、オルタナ……フリーp・フォーク以降のUSアンダーグラウンドのヴォキャブラリーを圧縮/蒸留したロウ・テンショjン。


◎The Hospitals/R. I. P. Cassette
2008年の『Hairdryer Peace』がWIRE誌の年間ベストに選出されたサンフランシスコのインディー・ノイズ・ロック。Not Not FunやIn the Redからのリリースもあるが、本作はややイレギュラーな編集盤。ノーファイ、シットゲイズ等々のUSアンダーグラウンドにおける評価の一助を先駆けた彼らだが、ノーエイジから『Cryptograms』前後のディアハンター、あるいはサイテイングスやエー・フレイム~AFCGTス等々のロボトミックなインダストリアル/ノイズ・ロックまで包括し得る、思いのほか広範な射程を誇る。バンドのwikiからフリー・ダウンロードできるが、まずは前述の 『Hairdryer Peace』 を勧めたい。


◎Iibiis Rooge/Life In a Blood Cell
High Wolfこと何某とAstral Social Clubのニール・キャンベルが組んだデュオ。トランシーでエスノな、両者の持ち味が過不足なく交配されたミニマル・サイケ・アンビエント。しかしHigh Wolfは正体不明かつ多作と、とても追えないハイペースぶり、、



◎Cuticle/I Want You
Daren HoやJeff Witscher等々のメンバーも兼ねるアンダーグラウンド・シンセ・ベース・ミュージック。Not Not Funと100% Silkを往来する来歴通りのマナーというか、テッキーなミニマリズムはなるほどアマンダ・ブラウン好みか。本作は新興カセット・レーベルAll Hell(すげー名前、、)から。


◎Radiator Hospital/WELCOME TO THE JUNGLE
そもそもはFred Thomasという何某とスプリットでリリースされた音源。カセット=アンビエント/ドローンな作品が多いなか、 こういうローファイなベッドルーム・フォーキー・ポップにで出くわすとホッとするというか、つい遠い目で90年代を追想したくなる、、ベッドルームがまだ閉ざされた妄想の実験室だった時代の名残り。リプレイスメンツのカヴァーを含む6曲。今年のヴァレンタインに録音されたとか。


◎Riki 2Oh2/The Story of Riki 2Oh2
素性不明の脱法系ミクスト・テープ。サブライム・フリークエンシーズと西海岸ドープネスの混交。ミクステというかコラージュに近い坩堝的アマルガム。


◎Raven Strain/Brain Stains
ミシガンのマシーナリー・アンビエント。具体音らしきものも織り交ぜたインダストリアル・ノイズ・コラージュは同郷のウルフ・アイズを幻視させる。つまりスロッビング・グリッスルのライン。



◎N.213/Bastard

ヴァンクーヴァーでShearing Pinxを率いるNic Hughesのプロジェクト。MarsやSwell Mapsを想起させるポスト・パンク/ノー・ウェーヴmeetsノイズ・エクスペリメンタル。



◎LX Sweat/Sweat Sweat Sweat
ずばりサン・アロウの流れを汲むNot Not Funの有望株。前後不覚のずぶずぶなダブ音響に、絡みつくスクリュード・ファンク~R&B。シンセ・ポップ~チルウェイヴに対するLAアンダーグラウンドからの意匠返し的な趣きも。


◎Kunlun/Kunlun
High Wolfことフランスの何某によるプロジェクト。数多あるプロジェクトのなかでももっともアブストラクトでヒプナゴジック。ミニマルなシンセとコンゴトロニックなビートが描く無間の電子曼荼羅。

 ◎L'Amazon Ram Arkestra/A.R.A
こちらもHigh Wolfが関わるプロジェクト。ミドル・イースタン~ニュー・エイジ風のサイケ・アンビエンスはJackie-O MotherfuckerやVibracathederal Orchestralにもたとえられるが、こうして何某のプロジェクトを総覧した上で浮かび上がるのは、つまりHigh Wolfこそ目下のアンダーグラウンド・シーンの潮流の集約点という事実。長尺のエクスペリメンタルのなかで幾つもの景色が立ち現れてはクロスフェードし、流れては消えていくような電子音響の蜃気楼。


◎Lace Bows/Pollen Futures
Hooker Visionからポルトガル産の幻覚キノコ=Joana Franciscoのプロジェクト。プリペアード・ピアノやフィールド・レコーディングを交えて編まれたラーガなドローン・アンビエンス。ヴォイス・ループやサンプリング/コラージュを纏め上げたB面のへルタースケルターなグッド・ヴァイヴレーションはまるで60年代の西海岸が幻視した狂気のアトモスフィアを醸成。



◎Long Distance Poison/Calendric Circuits
限定ラインのDigitalis Limitedから。ブルックリンのトリオによる、 ゴシック趣味のドゥーミーなアンビエント・ドローン。 歪んだシンセのトーンはカルロス・ジフォーニら地元のNo Fun勢にも通じる耳障りなノイズ・センスを感じさせる。


◎MACINTOSH PLUS/FLORAL SHOPPE
素性不明のチョップド&スクリュードなシンセ・ポップ。Bandcampのタグからわかるのはアメリカのアーティストらしいが、 Laserdisc Visionsにも通じるレトロならぬ“アナログ”フューチャーなAORなテイストや80年代のMTV的なヴィジュアル喚起性。デッドストックのポップスをカットアップしたようなムード・ミュージックはvideotapemusicっぽくもある。


◎Maps And Diagrams/Red Moon Rising
UKのChemical TapesからリリースのTim Martinによるプロジェクト。 クラスター~ジャーマン・エレクトロ・スタイルのシンセ・アンビエント。コズミックでニュー・エイジな王道感と、ドローンなうねりがもたらす催眠的なゆらぎ。ヒプナゴジックならぬメスメリズム(mesmerism)・ポップ。



◎Mark Bradley/No Mind Meditation/Split
オヴァル風のエレクトロニカ・スタイルと思いきや、バレアリックなビートが迫り出し、ミニマルやアンビエント/ドローン、ディスコ~テクノと多様なモードを打ち出す前者。対する後者もテープ・コラージュのようにニュー・アイジやサイケ、パワー・アンビエント……と互いに20分強の持ち時間の中で展開めまぐるしいピークを演出。深酔いするようなトリップ。


◎rale/The Moon Regarded, And The Bright One Sought
南カリフォルニアのウィリアム・ヒューストンによるプロジェクト。慎ましくも幽玄なアンビエント・ドローンはまるでソニック・ブームのエクスペリメンタル・オーディオ・リサーチを海底深くに沈めたよう。静かな波のうねり、深海に伝わる響きの持続音。


◎Bataille Solaire/Baal Shamash et son char céleste
Leopard et MoiやFemminelli名義でもリリースするモントリオールのAsaël Robitaille。 シンセ・オルガンやディレイを効かせたハープが織りなすコズミック・ドローン。 ニュー・エイジやトランス~サイケが奇妙にブレンドされた、まるでシュールな天体ショーを眺めているかのよう……。



◎Attenuated/Night of Sense
Ian Kennedyによるデビュー作。 シンセ・オルガンやサックスを交えた荘厳なるドローン・オーケストラ。 ミニマルからシューゲイザーまで包括したサウンドスケープは2000年代にリリースされたクランキーのカタログの中から幾つかのクラシックを想起させる。


◎Niggas With Guitars/Continent Gods

重厚長大なドローン~フォーク。シルクロード紀行やサハラ巡礼のドキュメンタリー映像がオーヴァーラップする。作品によって多面体な表情を見せ、ファンキーやダブにも振れる来歴不明のアマルガムはサン・アロウにも近い。限定リリースのDigitalis Limitedから。


◎Michael Shannon/Sensa Atmospheres シアトルのサウンド・アーティスト。フィールド・レコーディングを下絵にオシレーターやパーカッションやチベット楽器をコラージュのように塗り固めた、まるでゲルハルト・リヒターやジャクソン・ポロックの抽象画も連想させるドローン・ペインティング。


◎Mohave Triangles/Haze for Daze
ノース・カリフォルニアのプロジェクト。正味15分の曲がA面B面に。長尺だが様々な風景が継ぎ接ぎされていて、フィールド・レコーディングやアンビエント~ドローン、トライバルなどシークエンス毎に魅せ場が異なる雑多性。セピアトーンのエレクトロニクスはボース・オブ・カナダも彷彿。


◎Nzambi/Lesser Utopias
ルイヴィルの2人組。シンセとドラム・マシーンが軽快に綴るニカ・スタイルのアンビエント。シカゴ・ハウスの影響も指摘されるが、なんとなく2000年代中頃のmorrっぽいやわらかな感触。

◎Asio Otus/Taivaallisia Tulia
以前はLong-eared Owlという名前でリリースしていたフィンランドの2人組。「UFO sightings in the early 70s in a small town called Pudasjärv」というコンセプトのアルバムらしく……ハルモニアなどのジャーマン・エレクトロ系や、地元のFonalのカタログを連想させる。



◎Pocahaunted/Beast That You Are
『Make It Real』で解散する以前の、カセットやらCDRやら量産していた頃の1本。後にベスト・コーストを始めたベサニーがポカ時代を振り返り「あんな音楽ほんとはやりたくなかった」みたいなことを話していたが、これを聴けばそのストレスやいくばくか……とも。いや、今やアンダーグラウンド・ディスコ・クイーンと化したLA・ヴァンパイアことアマンダ・ブラウンしかり、元Black Black/現DIVAのディーヴァ・ドンペ(※父親はバウハウスのドラマーのケヴィン・ハスキンス)しかり……これも一種の苦行時代というか、より高く深くトリップするための何物かだったのかも。なんて。


◎Ono Sendai/ST
新興All Hellから。綴りを見てオノ・セイゲンと空目してしまったアンビエント~ドローン作家。中身は似ず非なるというか、ヒプノでブリーピーな電子音を操り三半規管を狂わす手練手管ぶり。



◎Persona La Ave/Brothers Was Taken 来日間近のTeamsが激推するというサウス・キャロライナのソロ・プロジェクト。近いところではDuck Diveも連想した潮騒のチルウェイヴ。リリースは1902年!?(Bandcampより)












2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))




2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))

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