2015年10月17日土曜日

works(仮)

少し前から始めました。
http://junnosukeamai.tumblr.com/
とりあえず、今年に入ってからの主な仕事をまとめてみました。
よろしくお願いします。

2015年10月6日火曜日

告知⑲:Peaches『Rub』

立て続きですが、〈S&S〉の最新リリースになります。
ピーチズの最新作『RUB』。じつに6年ぶりのアルバム・リリース。
http://diskunion.net/rock/ct/detail/AWY150903-PC1


今回は共演アーティストの顔ぶれも話題。
元ソニック・ユースのキム・ゴードン、盟友ファイストとモッキー、ベルリンからプランニングトゥロックなどなど。


リリックについては言わずもがな。舌鋒の鋭さ増しています。
ちなみに、初回限定の特典CDRにはヤー・ヤー・ヤーズがギターを弾いている“Bodyline”を収録。


〈S&S〉のカタログはこちら→http://diskunion.net/rock/ct/list/0/0/72421
今後のリリースも続々と決まっています。

よろしくお願いします!

2015年10月1日木曜日

極私的2010年代考(仮)……グリズリー・ベアからみる現代US音楽の相貌


グリズリー・ベアがアメリカのインディ・シーンで浮上した背景には、2000年代の中頃から台頭したネオ・フォーク/フリー(ク)・フォークの流れを指摘できる。フォークを主体とした折衷的な音楽性を特徴とするムーヴメントで、その界隈からは個性豊かなアーティストが数多く登場した。「Neo/Free(Freak)」とあるようにスタイルや趣向は様々で、デヴェンドラ・バンハートやジョアンナ・ニューサムに代表される伝統的素養や大衆性も備えたSSWから、ジャッキー・O・マザーファッカーやノー・ネック・ブルース・バンドといった不定形で実験性を志向する大所帯のコレクティヴまで、その顔ぶれは世代をまたがり多岐にわたる。なかには「New Weird America」と称されたラディカルな一群もあり、つまりはアメリカ音楽の新たな傾向としてそれは捉えられた。



もっとも、その流れにいたるさらなる背景としては、90年代の後半から2000年代にかけて「アメリカーナ」というタームとともにクローズアップされたアメリカン・ルーツ・ミュージックの再解釈の動きがあった。カントリーやフォークやブルースを、いわゆる音響派~ポスト・ロック以降の手法や感性で捉え直し再構築するオルタナティヴな潮流であり、その代表格にはウィルコやジム・オルーク(『Bad Timing』『Eureka』)、あるいはキャレキシコなども挙げられる。それはいわば、アメリカ音楽史の“驚くべき恩寵”に魅せられた一種の復興運動を思わせる静かなムーヴメントだった。そして、そこで憧憬の対象として再発見されたのが、ヴァン・ダイク・パークスやブライアン・ウィルソン、ジョン・フェイヒィやハリー・スミス編纂の『Anthology of American Folk Music』といった巨匠たちの意匠だった。



そうした一連の動向をへてアメリカのインディ・シーンが迎えた豊饒さを伝える作品が、2009年にリリースされたコンピレーション・アルバム『Dark Was The Night』だろう。ザ・ナショナルのアーロン&ブライス・デスナー兄弟が監修を務め、グリズリー・ベアをはじめダーティー・プロジェクターズやアーケイド・ファイア、キャット・パワー、ファイスト、そしてデヴィッド・バーンなど錚々たるアーティストが参加。興味深いのは、オリジナル曲に交じって収録されたカヴァー曲のセレクト。タイトルにも採られたブラインド・ワイリー・ジョンソンやボブ・ディランのブルース/フォークのクラシックス、あるいは、“Amazing Grace”など賛美歌や伝承歌……すなわち「アメリカの歌」を新たな手で歌い起こし、その相貌をアメリカのインディ・シーンの現在地図に重ね描く。その企みは、いわばアメリカン・ルーツ・ミュージックのリプレゼンテーションと呼ぶにふさわしく、「歌/声」の力を今の時代に立て直そうと する試みを感じさせるものだった。




さらに、同作品の参加アーティストの顔ぶれからは、グリズリー・ベアを取り巻くアメリカのインディ・シーンの縮図を俯瞰することができる。たとえばボン・イヴェールやアイアン&ワインに象徴されるモダン・アメリカーナの系譜。その系譜をシェアするスフィアン・スティーヴンスやアンドリュー・バードに加えて、ニコ・マーリーやベイルートを含むチェンバー・ミュージック~ポスト・クラシカルの流れ。あるいは、アントニー(&ザ・ジョンソンズ)が披露する圧倒的な「歌/声」。それらのトピックがグリズリー・ベアの周りを同心円状に広がり、かつレイヤー状に重なりながら現在のアメリカのインディ・シーンを形作っている――そんなイメージを描くことができるだろう。そして、その地図には、彼らと縁の深いフリート・フォクシーズやオーウェン・パレットなどの名前も当然含まれる。




もちろん、グリズリー・ベアが注目を集めたきっかけには、ブルックリンという地の利のアドバンテージも大きかっただろう。そして、前作『Veckatimest』と同時期にリリースされたアニマル・コレクティヴやダーティー・プロジェクターズのアルバムの批評的成功と一定の商業的成功を受けて、イギリスの音楽誌UNCUTが「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」と伝えた2009年から3年。インディ・シーンのさらなる活況を背景に、奇しくもその時のバンドが揃ってニュー・アルバムを発表するタイミングを迎えた。

はたして2012年は、アメリカの音楽史にどんな瞬間が刻まれる年になるのだろうか。

極私的2010年代考(仮)……現代米国音楽を代表するグリズリー・ベアとは?


グリズリー・ベアは、2000年代の初頭に、そもそもはエド・ドロステのソロ・プロジェクトとして始まった。2004年のファースト・アルバム『Horn of Plenty』は、後にドラマーを務めるクリストファー・ベアをサポートに迎えて制作されたが、実質的にはエドのソロ・アルバムに等しく、弾き語りをベースとした多重録音のスタイルはシド・バレットとも比せられてカルト的な評価を得た。それは当時台頭し始めたネオ・フォーク/フリー(ク)・フォークとの共振も見せたが、かたや翌年リリースされた同作品のリミックス・アルバム(※アリエル・ピンク、オーウェン・パレット、元ブラック・ダイスのヒシャム・バルーチャ、ディンテルetcが参加)は、プライヴェートでローファイな作風とは裏腹にその幅広い音楽的背景と人脈を示す証左となった。



そして、グリズリー・ベアは、クリス・テイラーを加えたトリオでライヴを経験後、ダニエル・ロッセンの加入をへて現在の4人体制に。「バンド」としての最初の成果となったのが、2006年のセカンド・アルバム『Yellow House』だった。メンバー全員が作曲からプロダクションまで関わり、多彩な楽器が織りなすインストゥルメンテーションと、彼らの代名詞となる華麗なヴォーカル・ハーモニーを披露。フォーク・ロックの現代的展開という評価を越えて、主にクリスやダニエルに負うジャズや現代音楽の素養を散見できる奥深いサウンドは、〈WARP〉との契約がその先鋭性を証明するところだろう。高まる注目のなか行われたポール・サイモンやロサンゼルス交響楽団との共演は評判を呼び、また、2008年には熱烈なラヴコールを受けてレディオヘッドの全米ツアーのオープニング・アクトも務めた。



続くサード・アルバム『Veckatimest』は、名実ともに彼らの評価を決定づけた作品といえる。ニューヨーク北部の人里離れた山小屋や、『Yellow House』も制作されたエドの母方の生家、そして地元の教会とレコーディング場所を移動するなかで培われたアイディアやイマジネーションと、間にツアーやライヴを挟み練り上げられたバンド・アンサンブルとが融合。ニコ・マーリーがオーケストラ・アレンジを手がけ、ビーチ・ハウスのヴィクトリア・ルグランや少年合唱団をバック・ヴォーカルに迎えるなど装飾が施された一方、トライバルなフィーリングも含んだ音色やリズムは楽園的な響きを増し、その音楽世界をさらに押し広げてみせた。従来のスタイルを発展させるかたちで、室内楽やポスト・クラシカルの流れも汲む巧みな器楽構成や緻密なレイヤー・サウンド、あるいは、文化横断的なアプローチなど様々な意匠が落とし込まれた『Veckatimest』は、細分化を極め爛熟が進むアメリカのインディ・シーンの現在を縮図的に伝えた作品ともいえるだろう。また、同作品は、同じく2009年に発表されたアニマル・コレクティヴ『Merriweather Post Pavilion』やダーティー・プロジェクターズ『Bitte Orca』と並んで、2000年代を通じたアメリカのインディ・シーンの活況と躍進を締め括る大団円の一枚として称えられた。



そうしたグリズリー・ベアの創造性豊かなサウンドを支える要因としては、メンバー各自のプロジェクトやサイド・ワークが果たす部分も大きい。ダニエルはグリズリー・ベアに加入する以前からデパートメント・オブ・イーグルスとして活動し、Anticon周辺にも支持を得た初期のエレクトロ・ヒップホップをへて、近作『In Ear Park』では流麗なアシッド・フォーク的サウンドを展開。今年の春にはソングオリエンテッドな魅力溢れるソロEPを発表した。そして、以前にクリストファーとファースト・フォーティーエイトというダンス・パンク・バンドを結成していたクリスは、昨年のキャント名義のアルバム『Dreams Come True』でチルウェイヴ以降とも呼応したエレクトロニック・ポップを披露。近年はツイン・シャドウやモーニング・ベンダーズ(※現ポップ・エトセトラ)のアルバム制作に関わるなどプロデュース業にも意欲的な動きを見せる。また、ダニエルとともにヴァン・ダイク・パークスとの交流も伝えられるエドは、昨年フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドのフリーEPに参加して話題を集めた。




それらの活動がグリズリー・ベア本体の活動とフィードバックし合う関係にあることはいうまでもない。加えて、その幅広く多彩な創作を可能とする背景には、メンバー全員が複数の楽器を操るマルチ・インストゥルメンタル奏者であるというのも大きいのだろう。グリズリー・ベアのディスコグラフィとその足跡からは、この10年のアメリカのインディ・シーンが辿った軌跡と変遷が見えるようだ。

(2012/08)