2012年7月4日水曜日

極私的2000年代考(仮)……NY再興の徒花か、いかに:A.R.E. Weapons


●NYで本格的に音楽活動をスタートさせる以前は、どんなことをしていたんですか。 
「俺(※マシュー・マクーレイ)とブレイン(・F・マクペック)は12歳の頃から一緒に音楽をやってたんだ。俺の継父がギターを買ってくれて、無理矢理パンク・ロックを聴かされながら(笑)、一時期なんか継父も一緒にバンドをやってたこともあってさ(笑)。ボストンにいた頃はハードコアとかパンクをやってて、その後ちょっとジャズを勉強して、フリー・ジャズ・バンドをやってたこともあるんだ。とにかく今まで音楽以外のことはたいしてやってないんだよ」

●クロエ・セヴィニーや、彼女の弟で今はメンバーのポールに出会う以前は、生活保護を受けたり、路上でホームレスのような生活をしたりしてたそうですね。
「そうそう。って、いまだに貧乏なんだけどね(笑)。ポールには本当に助けてもらったよ。まあ、それまでもなんとか生活してたけど……確かにつらい時期もあった。でもとりあえずその日一日を乗り切るって感じでさ。それは今も変わってないんだ。今だって……5ドルしか持ってないし(笑)。明日からどうすんのかわかんないけど(笑)、ニューヨークってのはそれでも生きていける街なんだよ。足元よく見て歩けば金が落ちてるっていう(笑)」

●(笑)。あなたとブレインのふたりは、ボストンからワシントンDC、そしてNYへ、音楽が盛んで、しかもハード・コア/パンクからヒップホップや実験的なエレクトロニック・ミュージックまで、とりわけワイルドな音楽が集まった都市を渡り歩いてきたという印象を受けるのですが。
「うん」

●そうしたそれぞれの都市の音楽シーンやストリートの空気を吸うなかで、現在のA.R.E.ウェポンズのサウンドは生まれ、精錬されていった感じなのでしょうか。



「全くそのとおりだよ。今君が言ったような音楽と、他にもDCのゴーゴーからクラシックまで、とにかくあらゆるジャンルの音楽に触れてきたんだ。その3つの都市でしか暮らしたことがないし、そこで俺達の人格や音楽が作り上げられたのは事実だと思う。ワシントンDCには2、3年しか住んでなかったけど、できる限りのことをやり尽くしたってほどいろんなことをやったよ。DCではもうやることがないと思ったからNYに移ったようなもんなんだ。NYは無限の可能性にあふれた街だからね」

●NYが一番自分に合ってる?
「うん、断然NYが一番気に入ってる。今のところ世界で一番好きだね。まだ日本にも行ったことないし、いろんな都市を知ってるわけじゃないけど、とにかくNYは大好きだよ」

●あなたがもっとも影響を受けたバンドまたはアーティストは?
「うーん、音楽的に影響されたかどうかはともかく、インスピレーションっていうか、いつかこういうバンドになりたいと思ってるのはバッド・ブレインズなんだ。あんなにいいバンドになれたら最高だね。JAY‐Zみたいに多作なアーティストも尊敬してるし、目標にしてる。将来彼らのようになりたいと思ってるんだ」

●よく言われることだと思いますが、A.R.E.ウェポンズのサウンドからは、スーサイドやキャバレー・ヴォルテール、D.A.F.といった70年代後半から80年代前半のパンクでエレクトロニックなダンス・ミュージックや、あるいはフガジのようなハードコア・パンクといったグループを連想するのですが、こういったバンドは実際に聴いてたりしましたか。
「いやあ……好きなバンドではあるけど、普段よく聴く音楽じゃないっていうか……でもまあ、今はあんまり聴かないにしてもスーサイドは大好きだし、フガジもクールだと思う。君が言ってくれたようなバンドには多少影響されてる部分があるかもしれない。でもそれほど大きな……エネルギーをもらったとかそういう意味では強い影響を受けてないと思うんだ。バンドを始めた頃、俺達の音楽は70年代後半のエレクトロニック・ミュージックだってよく言われててさ、でもそうなったのは、単にその時代の機材を使ってたからなんだよ(笑)。とにかく手元にあるものでできるだけのことをしようとしてああいう音楽になったんだ。今はもうちょっと進化して……70年代後半の機材からスタートして、今やっと90年代前半のものが手に入ったんだよ。だからちょっとは時代に追いついたと思うけど(笑)。俺達にとっては最新の音が作れるようになったんだからさ(笑)」

●なるほど(笑)。ところで、スーサイドのアラン・ヴェガとマーティン・レヴのふたりには、イギー・ポップのようなロックンロールのワイルドさと、かたやヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルのような実験精神があった一方で、当時のロックンロールにもアートに対しても反抗的で辟易とした感情があったわけですけど、そうした部分で共感するところはありますか。
「うーん、そういう欲望よりも、俺達はもっと……現代の人達が持ってる、過去の音楽の記憶を塗り替えるようないい音楽を作ろうとしてるんだ。よくあるレトロ・ロックとか、安っぽいポップじゃなくてさ。俺達はそういう音楽はやりたくない。つまり、スーサイドがやってたことも俺達と同じで、乱暴すぎる印象を与えるかもしれないけど、人々の音楽に対する考え方を少しでも未来に向けさせるような音楽を作ろうとしてたんだと思うよ。それってロックンロールの精神でもあると思う」


●ニヒリスティックな性格ではない?
「あー、どうだろう……ニヒリスティックって、起こってしまうことはしょうがないって考えるタイプのことだろ? 俺達は基本的に楽観的で、やる気もある人間なんだ。まあニヒリズムや運命論も否定はしないけど、俺は神を信じてるし、つまり……うー、うまく答えられない。俺、哲学者じゃないからさ(笑)。……もちろんパンク精神はあると思う。パンクの怒り……いや、怒りじゃないな、なんていうか、人から言われたことを鵜呑みにしない態度とか、自分が信じられると確信したものだけを信じるっていうところはあると思うよ」

●あなたが音楽に感じる一番シビれる瞬間とは?
「……その音楽を作った人が、俺と同じ世界観を持ってるって実感した時だな。悲しい曲でもハッピーな曲でも、自分が感じてることがうまく表現されてるのを聴くとぐっとくるんだ。気に入ってるものなら、メタリカの曲でもバレエの『くるみ割り人形』でも(笑)、同じように共感できる。その曲の真髄に触れるっていうか、俺と同じ感じ方をする人が作った音楽なんだってわかる瞬間があるんだよね」

●こんかいリリースされたアルバム『A.R.E.ウェポンズ』ですが、これまでの2枚のEPが試作品か予行演習に思えてしまうほど、クレイジーな“実戦向き”の作品であるなと。昨年の秋頃にはすでに完成されていたそうですが――。
「レコーディングは去年の5月には終わってたんだ」

●では、あらためて振り返ってみて、自分ではアルバムをどう評価してますか。
「すごく気に入ってる。5月にレコーディングが終わって、それからしばらく、確か10月になるくらいまで聴かずにほっといたんだけど、あらためて聴いてやっぱりいいアルバムだと思ったよ。すごく満足してる。いまだに自分でもよく聴くしね。レコーディングが終わった後にまた何曲か作ったから、それも入れられたら完璧なんだけど……でもとりあえず今までの作品の中では一番気に入ってるよ。これまでのEPは、このアルバムを作るための練習だったっていうか、機材の使い方を勉強してる途中だったんだよね(笑)。さっきも言ったけど、今はもっと新しい機材も手に入ったからさ。これまではもっととっつきやすい音楽を作りたいと思っても、どうすればいいのかわからなかったんだ。当時の機材では自分達のやりたいことを実現できなかったんだよね。でも今はサンプラー・シークエンサー、デジタル・キーボードもあるし、今までできなかったようなサウンドを作れるようになったんだよ」

●アルバムを聴いて驚いたのは、ビートやトラックがEPと比べてビルドアップされていた点なんですが、アルバムを作る上で特に意識した点はありますか。
「俺達が作りたかったのは……周りにいる人達、つまり、俺達の成功に力を貸してくれた人達が喜んで聴いてくれるようなアルバムだった。仲間と一緒に楽しめる音楽を作りたかったんだよ。それに……たとえば俺が今13歳、14歳くらいだったらどんな音楽を聴きたいかっていうのも頭にあった。古臭くなくて、クレイジーで勢いがあるもの、13歳の俺が聴きたくなるようなサウンドを作りたかったんだよね」

●A.R.E.ウェポンズはトラック・メイクが独得というか、ヒップホップとの距離感が絶妙だなと。
「おっ、ありがとう(笑)。……まあ、最近のヒップホップもそれはそれでいいと思うよ。でももっとハードでアグレッシヴなもののほうが……なんていうか、音楽で大事なのはバランスだと思うんだ。たとえば、暗くてアグレッシヴな感じで曲を作り始めたら、キャッチーで軽い感じもプラスするようにして、逆にキャッチーさが前面に出てる曲になってきたらダークな感じを加えていくっていうふうに、バランスを持たせることが大事だと思う。人生と同じでさ、二面性があるってこと。そういう意味でビギー・スモールズは優れたミュージシャンだったと思うんだ。ダークな感じとR&Bのビートのバランスがうまくとれてたからね。俺が最近気に入ってよく聴いてるのは、ニュー・モダン・ジャマイカン・ダンスものっていうか、デジタル音楽で、ハードでクレイジーなんだけど、きれいなメロディのヴォーカルがのっかってるやつなんだ。メロディはきれいでも、歌詞は『殺してやる』っていう内容だったりするんだけどさ(笑)。とにかく、俺はバランスがとれてる音楽が好きなんだよ。甘ったるいだけの音楽なんか嫌いだし、メタルでも、俺は基本的にヘヴィ・メタルは好きなんだけど、単に邪悪なだけのメタルもつまらないと思うんだ。その点メタリカはいいよね。悪魔少年のことだけ歌ってるわけじゃなくて(笑)」

●(笑)。ちなみに、レコーディングや音作りはどんな感じで行われるのですか。緻密に計画を練るというよりは、その場の雰囲気やノリを最優先に即興的にレコーディングされる……というイメージなんですが。


「あー、実際は……ブレインと俺が……まずサンプラー・シークエンサーとデジタル・キーボードでドラム・ビートを作るんだ。で、それに合わせて即興でアレンジを加えていくんだよ。ベースラインやリズム、メロディなんかをビートにかぶせていって……その部分は即興で作ってる。その後で気に入ったところといらないところを決めながら編集していって……まあ、結局はいろいろ手を加えすぎちゃって、『もうたくさんだ!』ってところまで来てやめるんだけどね(笑)。曲にもよるけどさ。今回スタジオでアルバムをレコーディングしてた時も、同時進行で曲を作ってたんだ。スタジオにいた間だけでできた曲もあるくらいで」

●基本的に、作曲の初めの段階からブレインとの共同作業なんですか。
「そう。俺が先にビートを思いついて、ブレインがメロディをつけていく時もあるし、その逆もあるんだ。基本的にそういった共同作業だけど、まずブレインが曲のアイデアを思いつくことが多い気がする。曲の内容とか、歌詞の一部なんかをあいつが思いついて、それから一緒に歌詞を増やしていって、曲を発展させて……うん、俺達ふたりで初めから最後まで一緒に作るっていうのが基本だね」

●リリックはどんな感じでいつも書いてるんですか。
「そうだな、“Changes”がいい例だと思うけど……俺が……まず初めの部分を書いて……一応ひととおり最後まで作ってみて、ブレインがそれにいろいろ加えていって、最終的にふたりで完成させる感じなんだ。歌詞を書くのは難しいよね。できるだけストレートで……それでいてちゃんと曲になってなくちゃいけないし……とにかく安っぽい歌詞にはしたくない(笑)。詩的じゃなくていいけど、せめて何かしら意味がある歌詞にしたいと思ってるんだ」

●歌詞を作るのはスタジオでだけじゃなくて、たとえば街を歩いてる時なんかにも思いついたりするんですか。
「そうだね。歌詞の手直しは時間がかかるし……ブレインは何十冊ものノートに歌詞を書き溜めてるんだ。俺はいつも書き留めてるわけじゃないけど、街を歩きながらいいフレーズを思いつくこともあるよ」

●ところで、“Changes”には、「Some People Just Go Insane / Nothing New in 2002(*頭がおかしい人々/2002年には珍しくないこと)」というフレーズがあります。これは、今のアメリカが進もうとしている状況や、あるいはメディアで騒がれているNYのシーンに対するあなたの皮膚感覚を綴ったものなのかな?とも感じたのですが。
「うーん、実際そういうことを言いたくて作った曲じゃないけど、あてはまるとは思う。あの曲を作ってた時は単に『みんな頭がおかしくなってる』って気がしてただけなんだ(笑)。誰も自分の頭が狂ってて間違ったことをしてるなんて認めたがらないからね(笑)。うん、君が言ったことも両方あてはまると思うよ。意図的にそうしたわけじゃないにしても」

●たとえばライアーズやヤー・ヤー・ヤーズ、ラプチャーやレディオ4にブラック・ダイスを筆頭に、今のNYの音楽シーンは稀に見る盛り上がりを見せていますが、そうした状況については正直どう見てます?
「それは……メディアが狂ってるだけだと思う。NYっていうのは昔からクリエイティヴな人達が集まる場所なんだ。表現する自由を手に入れて、世界中に自分の存在を知らしめたいような人達がね。だからNYには今までだってものすごい数のバンドがいたわけで、いいバンドも少なくなかった。まあ、そんなによくない時期もあったけど……今騒がれてるようなバンドにはそんなに興味ないよ(笑)。あんまり意識してない。今NYの音楽シーンが注目されてるのだって、俺にしてみれば変な感じだよ。いかにも、あー……ルネッサンスがどうのって言う人もいるけどさ、あいつらが取り上げてるのは白人のキッズだけなんだからね。NYで新しいトレンドが生まれたってことで、ヤー・ヤー・ヤーズやライアーズ、それに俺達までいろいろ言われるようになったけど、実際チャートのトップにいるNYのアーティストはJAY‐Zや50セントだっていう事実を無視してるんだよ。彼らだってNY出身なのにさ」

●音楽に限らず、アート・シーンやいろんなフィールドにあなた方は顔が広いような印象があるのですが、ふだんはどんな連中とツルんでるんですか?
「あーんと……正直言って、ほとんどブレインとポールとだけなんだよな。他に友達っていうと……フリー・ライターとかスケーターの連中とか……ミュージシャン、DJ、ヒップホップ・キッズ……有名な人は誰も思いつかないんだけど(笑)」

●仲のいいバンドとかいます?
「仲がいいのは……そうだな……付き合いが長い友達がラプチャーでサックス吹いてるけど……だからって別にバンドとして仲がいいわけじゃないんだ(笑)。その友達っていうのがもともとあのバンドでも浮いてる存在だからさ(笑)。そいつと一緒のバンドにいたこともあるんだけどね。DCにいた頃からの友達だからさ」


●音楽的に一番共感できるバンドは?
「音楽的にはたぶん……NYから出てきたミュージシャンでいうと、アンドリューW.K.だね。さっき君が挙げたNY出身バンドと比べても一番好きだよ。ブラック・ミュージックを含めないなら、だけど(笑)。うん、彼は今メディアで騒がれてるNYシーンからは外されてるけど、実際俺が聴いてるいわゆるNYアーティストはアンドリューだけなんだ(笑)」

●ちなみに、グループ名の「A.R.E.」は「Atomic・Revenge・ Extreme」の略で、特に意味はないとのことですが――。
「まあ、好きな意味にとってくれて構わないよ。この名前はブレインのアイデアで、あいつは将来私立探偵になるのを夢見ててさ、コードネームはA.R.E.ウェポンズにしようって決めてあったんだ(笑)。でもクールな名前だからバンド名に使わせてもらったんだよ。今回のアルバムに“A.R.E.”って曲があって、そこでは“Attitude, Raw Energy”の略なんだよね。だから場合によって意味も変わるし、特に決まった意味はないんだ」

●では、今の自分たちが新たに「A.R.E.」に意味を与えるとするなら?
「そうだな、今のところ“Attitude, Raw Energy”が一番しっくりくると思う。俺達の原動力を表わす言葉だからさ。これがなかったらバンド活動も続けられなかっただろうし、その前にストリートでくたばってたって(笑)。“Attitude, Raw Energy”があったからこそ、ここまでなんとかやってこれたんだよ」



(2003/02)

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