2011年2月9日水曜日

極私的2000年代考(仮)……...And You Will Know Us By the Trail of Dead

...And You Will Know Us By the Trail of Deadの6作目『ザ・センチュリー・オブ・セルフ』は、「すごくノイジーなレコードになると思うよ」と予告した前作『ソー・ディヴァイデッド』完成時のコンラッドの言葉通り、初期の作品群を彷彿させるハードコアな衝動性とエピックな世界観が純度高く結実した傑作となった。

デジタル・テクノロジーへの傾倒~音響処理や器楽構成に凝った近作とは一転、今作は基本ライヴ・レコーディングで制作され、過去の曲を即興で演奏するなどしてアイディアが練られたという。敏腕クリス・コーディ(TV ON THE RADIO、グリズリー・ベア、!!!etc)を迎え、新天地ニューヨークで得た刺激をインスピレーションに完成された今作は、単にインディーズ復帰作という以上に、彼らのキャリアの新たな起点を刻む一枚となるに違いない。以下、コンラッドとのメール・インタヴュー。


●まず、最新アルバム『ザ・センチュリー~』を完成させた現在の心境を教えてください。今作はあらゆる面でバンドにとってのターニング・ポイントを意味する作品になると思いますが。

「もう過去のものになっているよ。次のアルバムの作業を始めたからね」

●前作は「自分をさらけ出すことがテーマだった」と話していました。対して今作を創らせたモチベーションとは、どのようなものだったのでしょうか。

「不思議なことに、このアルバムの制作中のエモーションはすごくポジティブなものが多かったんだ。自分達のアイディアは魔法のようにスムーズに流れ出してくれて、レコーディングで多少の難関はあったものの、演奏自体は難なくできたよ。経験からくるものなのかもしれないけど。モチベーションも凄くポジティブだったよ。それは新しい環境(ニューヨーク)に移ったという点もあるし、その時よく聴いてたりしたアーティストからもらったインスピレーションも大きかったな。(フリート・フォクシズ、サイキック・イルズ、ブラック・マウンテン、イェイセイヤー、ダーティ・プロジェクターズ、スクール・オブ・セヴン・ベルズ、ドラゴンズ・オブ・ズィンス、ミッドナイト・マッシズ、ホワイト・マジック、ワルシャワ・ヴィレッジ・バンド、アニマル・コレクティヴ、セレブレーション)。世の中にはスーパーに入る度に聞かされるあの非人間的でくだらないもの以外に素晴らしいものがあるんだって、希望をもらえたと思う。とはいえ、いつものように隠れた毒はたくさん入っていると思うよ。なるべくメロディやリズムで少し優しくしようとしたけどね。だから社会が進んだ道に対する健康的な怒りや、それを壊して新しい世の中を作りたいという想いからのモチベーションもあったよ。でもそれは僕らのレコードすべてにおいて言えることかな」

●サウンドについては、どのようなヴィジョンがあなたの頭の中にはあったのでしょうか。今作には初期の作品を彷彿させるようなラウドで、ハードコアな手触りを強く感じます。

「バンドを始めた時とほぼ同じヴィジョンかな。物事は美しくできるけど、それにはカオスが伴ってても良いというアイディアだね。台風の壮大な美や雪崩が小屋をつぶす様の詩的な部分を捉えようとしたんだ。でも満足はしていない。次はもっとうまくできるようにしたいな」

●今作はライヴ・レコーディングで制作されたそうですが、その理由とは?

「最近の僕らのライブの感じを捉えたかったという意図はあったね。特に即興があるブレイクダウンの部分などでは、新しいメンバーとの感情の行き来はとても一体感のあるものだし。こうした破壊的な音のパーツを曲にするという手法を考え出さなければならなかったんだ。一方で、完全に技術面の話でもあるんだ。MIDI情報をライブ・トラックにシークエンスする方法を生み出して、今までに比べてメソッド式にならなくてよかったんだ」

●今作については、『ソース・タグス&コーズ』に並ぶ作品だ、という声も聞きます。少なくともここ数作とは一線を隠すものを今作には感じますが。 

「多分唯一違いがあるとしたら、僕らは歳を重ねたことかな。時に『ソース・タグス&コーズ』が賞賛されるのに疲れることがあるんだ。あれは人々が言うほど金字塔的なアルバムではなかったと思うし、絶対ピッチフォークで10点満点をもらうはずではなかった。あの点数で、その後僕らがやろうとしてきたことに過度の期待が掛けられてしまった気がするんだ。でも変えられないことはしょうがないし、受け入れるしかないんだけどね。自分にとって価値のないことに気が向かないように、もっとたくさん気が散るようなことが起きてくれればいいんだけどね」

●“Bells of Creation”というナンバーもありますが、そうした新たな創造の始まりを告げるような瞬間はレコーディング中にありましたか。

「それは新しい大型ハドロン衝突型加速器(※高エネルギー物理実験を目的とした世界最大の装置)が教えてくれることを願っているよ。もっと原子をぶち壊していけば、創造と神の理解が見えてくるんじゃないかな。あの曲は実はスクール・オブ・セヴン・ベルズのショーを見てインスパイアされたんだ」

●今作にはイェイセイヤーとドラゴンズ・オブ・ズィンスのメンバー、そしてクリス・コーディが制作に参加しています。こうしたニューヨーク・シーンとの交流はどんな経験でしたか。

「ドラゴンズ~のメンバーとコーディは近所で友達としてつるんでるんだ。クリスのスタジオにはなるべく立ち寄れる時立ち寄ってたな。ソフトウェアのシンセについて一番知ってるんだ、あいつは。イェイセイヤーは会ったことなかったけど、彼らのアルバムはすごく聴いてて、ヴォーカルも良いし、パーカッションの使い方も気に入ってたんだ。あれはスタジオで上手くやるのに時間がかかる作業だからね。本当はダーティ・プロジェクターズも参加してもらいたっかんだ。彼らのヴォーカルはとにかく素晴らしいからね。いつかそんな光栄なことが起きればいいな」

●『The Century Of Self』というアルバム・タイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか。

「アダム・カーティスの同名のドキュメンタリーを見て、自分なりの結論が見えたんだ。何か閃いたというか、何で今の世の中がこんな状態にあって、なんで音楽が今こんなに分離されているのかとかね。ジャンル分けとかはマーケティングの戦略であって、企業が大衆をコントロールし鎮静しようという策なんじゃないかってね。人間の知性ではなく、感情に訴えかけてきたし。だから彼らは無知でマテリアリスティック(物欲だけの)な社会を作りあげてしまったんだ。でも情報はそこにあるんだ(例えばそのドキュメンタリーはYouTubeで見れる)。そこがインターネットの二面性だよね。それに麻痺されるか、情報を得ていくか。あとは自分の選択次第っていうことだからね」

●今作のアート・ワークのイラストは、あなたが青のボールペンのみで描いたものだそうですが、これを書いてる時はどんな心理状態だったのでしょうか。

「正直言うとすごくピースフルでリラックスした状態だったよ。今南に向いている窓があって、冬でもたくさんの日差しを入れてくれるんだ。外で雪が降っている中、一日中絵を描きながら自分の猫達と戯れているのは最高だよ。あと、消防局が近くにあって、それは音楽的にもインスピレーションになるだけなく、敵対的で恐ろしい都会でどこか安心感をもらえるんだ。一人で作業する時とかに一匹動物がいる大切さは強調したいな。犬や猫の知恵は自分達の中にある種のテレパシーみたいな形で伝わってくると思うし、色んな考えを自分達の中で掻き立ててくれる。それは現代社会の人間が忘れてきたことだし、スピリチュアルな面でないと伝わらない話だと思う。でもこうした意識に敏感でいることは芸術や作曲をやる上で欠かせないと思うんだ」

●今作の制作に際して、特別何かインスピレーションを与えてくれたものがあれば教えてください。

「インスピレーションはどこにでもあるよ。テレビのドキュメンタリーでもいいし、地下鉄で聞こえた会話、面白い宣伝、古い友情が悪い方向に行ったこと、新しい友情が生まれたこと、などなど。インスピレーションを求めて彷徨うこともあったかもしれないけど、実は身近なところにあるものなんだって最近あらためて感じたよ」

●今年で2000年代の最初の10年が終わろうとしています。大雑把な訊き方になりますが、この10年の音楽シーンについてはどんな印象をお持ちですか。 

「音楽をすぐ消費して、ノヴェルティーに対する異常な欲に今傾いているのが本当に心配だね。昔は、気に入ったアルバムは何度も何度も聴いて、ある種自分達の体の一部にするくらいの感覚だった。でも今は今週何が出るかだけが気になって、その後はすぐ次の週に何が出るかを気にしている。もう前のことは忘れているんだ。これが続くと、やはり多くのミュージシャンがそれに合わせて、くだらない、ギミックで、ノヴェルティーな楽曲を吐き出し続けると思う。人の注意を一瞬捉えるものだけで、次世代、その次の世代に残るような音楽ではないよ。衣類や電気製品や車もそんな道を歩んできたんじゃないかな。質にこだわるのがなくなって、ライフスタイルに合わせたマーケティングばかりだよ。でも幸いにもこの消費に耐えられるリソースはもうすぐ尽きるだろうし、その時には大きく、そして激しい退屈に襲われるんじゃないかな」

●インディからメジャー、そしてインディへと再び立ち戻ったこの10年の自身の活動については、どう総括することができますか。

「あんまり過去のことは振り返りたくないんだけど、確かに今まではあまりちゃんとした情報を得ずに選んでしまった道もあるね。でもメジャーに行ったのもある種の実験だったし、何を期待していいのか分からなかった。僕は結構理想を追い求めている部分が強くて、それは常識によって動かされているというよりは、夢を現実にしたいという欲で動いているんだ。それによって、常に訳の分からない世界に入り込んでしまっているけどね」

●以前は「ロックンロールの新しい歴史を創ってやる」と理想を謳っていたあなたですが、前回のインタヴューでは「そういう考えはあまり健全じゃない。今の自分はもっと現実的なんだ」と話していました。現時点の認識も、後者に近い感じなのでしょうか。あるいは、今はまた新たな理想に燃えている感じなのでしょうか。

「インタースコープを離れたのは確かに理想を追い求める気持ちを再熱させてくれているよ。でもシニカルな部分は変わってないかな。新しいロックの歴史はもう創られるのか? 時に心配するよ。今、それはバンドによるものじゃなくて、大衆が何を求めているかによってきてしまっていると思うんだ。僕らの芸術は彼らに合わせられている。でも彼らが僕の冒険を支援してくれるなら、今まで通り、前に進んでいきたいと思っている。今バンドとしてのヴィジョンは常に進化しているし、大衆の支援がなくても、どこかにその吐き口が見つけられることを願っているよ」

●また、前回のインタヴューでは「今は音楽のこと以上に、人類に未来はあるのかって考えることが増えた。ロックンロールの未来よりもはるかに重要だと思う」と話していました。今の世界に対する現状認識、未来の展望とはどのようなものなのでしょうか。

「もちろんエンターテインメントの未来より、人類の未来の方が大切だというのは言うまでもない話だね。でも、より状況が深刻になるにつれ、芸術というものが様々なメッセージや理想を人に届ける役割を果たして欲しいという気持ちはあるよ。不思議なのが、人に何かをお願いしたり、これをやって欲しいと伝えたい時は、曲という形でやった方が簡単だったりするんだ。人々の潜在する感情に訴えかけるというか、それが芸術の果たせる役割なんだ。でもそれを使って人々をコントロールするというよりは、人々をインスパイアし、個々が活発に動いてくれる刺激になれればと思うよ」

●そうした現状認識、あるいは未来の展望が、今回のアルバムに反映されている部分もあるといえますか。

「“Insatiable”という曲で質問の答えを言えてると思うよ」

●最後に、あえて伺います。今のあなたは、「ロックンロールの未来」についてどのように考えていますか。

「ロックでは今後デジタルでの音の彫像やソフトウェア・ベースのシンセの役割がどんどん重要になってくると思うよ。技術がどんどん進化する中、職人芸というものに対する敬意も増しているから、実在するアナログなシンセとデジタルでヴァーチャルの次元で操られるインターフェイスの融合がこれから進んでいくと思う。ギターとかも今携帯電話がスマートフォンになって、どんどん色んな機能がついているように、コンピューターが内臓されたものや“スマートギター”という種も出てくるんじゃないかな。どんどん主流の世間が陳腐で質に全くこだわらない中身のないものばかりに寄り添う反面、インディペンデントな精神を持つアーティストたちはその空いた空洞を自分達で埋められるとに気付くだろうし、新たな音の冒険とかを試みていくだろう。かつてのニコライ・テスラのように、科学的な音の操作とかも増えるか もしれないね。ただ、我々はこの新しい知識を慎重に使わないと自分達を傷つけてしまうだろう。とはいえ、いくら技術が進歩しようと、アコースティックな音と本当の音楽の替わりになるものはないと思う。新しいことを試みる反動で、フォークなルーツに戻ることも必至だろう。フィドルのシンプルな美くしさ、ピアノの魔法のような壮大さ、管楽器の緊迫感、リード楽器の神秘性などなど、今の音楽の基盤になっているものばかりだ。あと、もちろん打楽器だね。骨で切り株を叩いて時代から続いているだけあって、永遠に忘れさられることのない要素だろう」

(2009/05)


※追記:2011年2月、ニュー・アルバム『Tao of the Dead』をリリース(

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