2012年9月1日土曜日

2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Bedroom/Solipsist
ブルックリンのMichael Chauによる2本目。Fuck ButtonsやGROWINGにも通じるバレアリックなA面が秀逸。ムーグがうねる天空のシンセ・ドローン。



◎Vermillion Father/Go-Kart Kamp
新興Space Slave Editionsから。生産性と採算性の狭間で増殖し続ける有象無象のカセット・リリース。素性は不明。というか、そうした情報的な部分はもはやどうでもよくなっているというか、アングラにありがちな匿名的な活動というのとも異なり、どこか投げやりな感もあるダダ漏れ感がこの界隈の魅力で、明日には聴いたことも忘れてしまいそうな記名性の希薄な態度が昨今のニッチなアンビエント~シンセ・ドローン周りの作品にはある。



◎Transmuteo/Dreamsphere Megamix
ニューオリンズの2人組。「Dreams are gateways to other dimensions(夢とは異次元への出入り口である)…」という文句がさもありなん。浅い眠りをたゆたうような薄明りの浮遊感。ループの波をドラッギーなシンセが漂泊…


◎Sashash Ulz/Ornamentika
Hooker Visionからリリースするロシアの気鋭。名機(?)Casio VL-1が奏でるウォーミーでヒプノティックなコズミック・ドローン。前作はDigitalis Limitedから。ロシア~東欧圏のアンビエント/ドローン~ベッドルーム・ミュージックの盛り上がりはアメリカ西海岸の向こうを張る勢いが。プッシー・ライオットはパンク・バンドだけど、あちら側では何か新しい動きが起きつつあるのかもしれない。


◎Cankun/Isalo Waterfall

Archers By The SeaやPistil Cosmosなど多名義を操るVincent Caylet。快調にリリースを続けるCankun名義の新作としては久しぶりのNot Not Funから。サイケでエスノ風味のコズミック・シンセ・ポップという路線は、ここ日本でも100%Silkが好事家の間でプチ・ハイプ化している今では殊更ナウで心地よくも響くが、如何せん、たとえば近作のSun Arawだったりd'Eonとかと比較しちゃうとやや薄味にも感じられ……というか食傷気味にも。100%Silkが本作始動後のNNFは、カラーの打ち出しにやや迷いが感じられなくもなく、従来のノイズ~ドローン路線へと振り切るのか、それとも100%Silkとの連携を模索しながら中庸を目指すのか、そのへんの舵切りはアマンダ・ブラウン、いやここは旦那のブリット・ブラウンの手腕に期待したいところ。

◎Bitchin Bajas/Vibraquatic
最近ではMoon DuoやPeaking Lightsの片割れAaron CoyesのプロジェクトFace Plantとのスプリットも記憶に新しい元CAVEのCooper Crainによるソロ・プロジェクト。シンセにダブラ・ビートも交えたラーガ調~辺境趣味のドローン・アンビエントはこの界隈が音楽的にはフリーク・フォークと地続きであることを示す好サンプルであり、LP盤にはSublime FrequenciesのOlivia Wyattが手がけたDVDが付属というのも納得。2000年代末から2010年代初頭にかけてのUSアンダーグラウンドにおける様々な結節点を示す一例。



◎Deep Earth/House of Mighty
この手の――という言い方は乱暴な括りだが、この類の(同じか、、、)ニューエイジ・テイストのサイケデリック・ミュージックのプロジェクトは名前からしてそれっぽいのが多いというか、Dolphins Into The Futureもそうだけど、センスがNational Geographic系な感じで。。。もっともこちらはルーツにカン等のクラウト・ロックを感じさせ、ぼってりとしたギターとドラムの絡みにトリッピーなシンセが潤色を与えている。


◎Sagan Genesis/Waxy Tomb/split
西海岸はNNFのみにあらず。インダストリアルからノイズ~コラージュで塗り固めた禍々しいアブストラクト音響を誇る2組によるスプリット。白眉は、初期アマンダ・ブラウン~キャントことジェシカ・ライアン(※クリス・コルサーノやNYのNo Fun周辺との交流でもお馴染み)も彷彿させる女性ノイジシャンの後者。



◎Guenter Schlienz/Urban Tapes
90年代にはロック・バンドのギタリストとして活動していたらしい。自作のモジュラー・シンセを操り幽玄なドローンを奏でる現在のスタイルからは想像もつかないが、 それこそEarthやThe Dead C、あるいは例は違うかもしれないがJozef Van Wissemとの共演が話題を呼んだ映画監督のジム・ジャームッシュとか、ある種のギター・サウンド/ミュージックを追求した先にドローン~アンビエントのヘヴィネスの扉が開く……というケースも往々にあるからして、現在この界隈で活動しているアーティストの経歴を紐解くと意外なキャリアが顔を見せる、というのもじつは多くあるのかもしれない。純粋なドローン~アンビエントとは異なるが、あのクリスチャン・フェネスもそもそもはMaischeというロック・バンドのギタリストとして活動していたわけで。



◎Code Sap/S/T
これでジャケットがカラーならだいぶ印象が変わる気も。モノクロの強みというかベライチの凄みというか……。砂嵐のようなノイズの向こう側から叫び声が聴こえるような刹那。こういう作品を世にリリースする、しかも20本だけ……というところに何かただならぬものを感じなくもないが、たとえばダビングの過程で機材の不良から何本かにいっぽん、こういう作品が不可抗力的に生まれてもおかしくないような気にもさせられる。Shores Of Infinityから。


◎Dr. Sean Gadoury/Sky Burial
Hobo CubesやSun Drips等々をリリースするOld Frontiersから。宗教的モチーフも漂わすアンビエント~ドローン・ラーガ。ダークで黙示録風な……昨今、GY!BE界隈のカナダのアンダーグラウンド・シーンがドローンやアンビエントのメッカとして再クローズアップされているが、思い起こせば初期のGY!BE自体もこんな感じだったよなあ、と。たしかファーストのリリースは33本だったかのカセットだったはずだし。


◎Ypotryll/Solar Tongues
「Ypotryll」とは空想上の動物らしく、ラクダの身体にイノシシの頭で足はヤギ……とか、巨大なペニスがどうのこうの……とかいう(※ジャケット参照)。目下アンダーグラウンドにうごめく有象無象のイーノの奇形児たちのなかから、Super MineralsやDriphouseのラインに続くブルックリンのシンセ・ドローン作家。


◎Komodo Haunts/Low Winged, Silken Plumes
“tropical drone” とも評される。ギター・ループやサンプリングを重ねた奥深く謎めいた音響は、Sylvester Anfang IIやStarving WeirdosからSun Arawやノー・ネック・ブルース・バンドまで通底するトリッピーなサイケデリアを抽出。



◎Imperial Topaz/Imperial
私的浮女子の筆頭、Caroline Teagleのプロジェクト。艶気のあるシンセ・ポップで、クールなベースラインとミニマルなギター・フレーズの交差がなんともいえず。歌声にもヘタなアングラ感や思わせぶりなそぶりもなく、Ze Recordsの歌姫Lioを思わせる場面も。



◎Aloonaluna/Diadem Or Halo?
お馴染みMotion Sickness of Time TravelのGrant Evansが運営するレーベルHooker Visionから。これだけ注目を集めながらも一貫した運営方針、クオリティー・コントロールを徹底する姿勢はさすが。MSOTTのアンビエント~ドローンには実験音楽の正統を継ごうとする意識も感じさせるが、Lynn Fisterのドローン・ポップにはダンス・カルチャーへの色気と目配せがある。


◎Russian Tsarlag/Classic Dog Control Booth
Not Not Funのはぐれ悪魔超人ことカルロス・ゴンザレス。コラージュにシンセやペナペナのギターを重ねて譫言のようなヴォーカルを呟く露悪的ダウナー音響はジェームス・フェラーロさえヘルシーでポップに感じられてしまうほど。90年代ジャンクやスカムの正しき後継者。



◎Lantern/Dream Mine
Angel Olsenのアルバム・リリースも控えるBatheticから。「ストゥージズのロスト・テープのよう」と評されるのも頷けるのは何も“I Wanna Be Your Dog”のカバーが収録されているからだけではなく、ロウでダーティでフリークアウトした歌いっぷり・鳴らしっぷりはTy Segallよりも粗暴でWavvesよりもスラッカーでKurt Vileよりもロックンロール。Dirty Beaches級の逸材かも……とさえ思わせるフィラデルフィアの3ピース。かつてGang Gang Danceのリジーとペインターのリタ・アッカーマンらがやってたAngel Bloodを軽く凌ぐ。


◎Isle of Sodor/Goshen
ドイツのSIC SIC TAPESから、Adam Millerによるスペイシー・シンセドローン。無重力のなかを漂う鉛色の飛行体。John Elliottがゲストにクレジットされているが、あのOuter SpaceのJohn Elliottなのだろうか。


◎EMME YA/EROTOGNOSIS
EROTOGNOSIS=エロとグノーシス……?ヴードゥー・ドローンというのか、ホーミー・ドローンとでもいうのかなんなのか、漆黒の染みのように広がるリチュアルでサタニックな持続音/響。美意識のありようはSun O)))とかよりNeurosisなんかの方が近いかも。


◎Horsehair Everywhere/Vol. 1
Lee Nobleが創設したNo Kingから。アンタイ・フォーキーなローファイ・ポップ。むかしむかしのベックが笑気ガスを吸ったかのような弛緩ぶり。





◎Earn/Lacewing

Rene HellやMJトリビュート・プロジェクトの1958-2009、Mirror To Mirrorなど話題作をリリースするEkheinから。 押し花を象ったような清貧なアートワークが彼の美意識を映し出している。湖水地方の朝靄を思わせる静謐なアンビエント。



◎Mohave Triangles/Smoked Mystics
過去にはDigitaliesからのリリースもあるロバート・トンプソン。まるで『イレイザー・ヘッド』のサウンドトラック~リンチの妄想系SFの世界を想起させるインナートリップのアンビエント。ハナタラシとか日本のノイズにも造詣が深いとか。


◎Brian Green/112011
南キャロライナのサウンド・アーティスト。エレクトロ/アコースティックを巧みに編み込んだ即興性の高いアンビエント&コラージュ。抽象度を増したウィリアム・バシンスキーのような気配漂うミニマリズム。


◎Misner Space/Radika Quansoon
カナダの6人組が奏でるNo Funなエキスペリメンタリズム。具体音やノイズを散乱させて不協和なサウンドスケープを演出。タージマハル旅行団のダーク・ヴァージョンのような装い。


◎The Exhalers/Wave Reader II.O
なぜかイルカやプーチンやキャメロン・ディアスがアイコンに使われている新興Exo Tapesから。João/Johnnyとしても活動するポルトガルのチルビエント・プロジェクト。アナログ・シンセに具体音を絡ませ、Dolphins into the futureや海洋ドキュメンタリー系のディープ・ブルーなアンビエント・ドローンを創出。



◎Indignant Senility/Blemished Breasts
DJ Yo-Yo Dieting名義で知られるサウンド・アーティストの別プロジェクト。ジョン・オズワルド~DJオリーヴからのUSアンダーグラウンド発ドローン/アンビエントへのアンサー……とでもいった風体。ドローンというよりドゥーミーな雰囲気も漂うダーク・アンビエントで、しかも両面2時間弱というヴォリューム、、


◎Boar/Teen Cribs
製品工程上のトラブルではない……とは思うが、一切の音楽的要素を排したノイズが延々と。起伏も展開も深みもない、同内容と思われるフラットなハーシュ・ノイズが両面にわたり続く。いやしかし、深読みすればきりがないのだけど、これはまあ、そういうものとして額面通りに受け取るべしなのかも。



◎Geoffrey Sexton/Suburban Sun Births
同レーベルのHorsehair Everywhereのメンバーによるソロ・プロジェクト。フィールド・レコーディングも交えながら鬱蒼と広がるダーク・アンビエント。映像作家の肩書きもあり、イメージの喚起性の高さはテクスチャーの構成や音像処理にもいかんなく。


◎Sparkling Wide Pressure/Some Triggers
DigitalisやHooker Visionからのリリースで評価の高いテネシーのSparkling Wide PressureことFrank Baugh。アシッド・フォーク~フリー・フォークとモダン・ドローン/アンビエントのあわいを紡ぐような、奥深く詩情豊かな音像。多様な楽器や具体音~コラージュを散りばめたサウンドスケープは複雑なうねりを見せるが、そこはかとない歌心も感じさせる。 染み出すユーモア・センスはR・スティーヴォー・ムーアや初期アリエル・ピンクの境地も。









2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))

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