◎Euglossine/Floridian Abstract
フロリダで活動するTristan Whitehillのソロ・プロジェクト。例えるならデイデラスがチップチューンでアンビエントをやってるような場面もありつつ、アブストラクトとファンクがvaporwaveを擬態するようなあぶなっかしいBサイドもなかなか。地元では積極的にコラボレーションを重ねるシーンの要人らしい。
◎Schedelvreter/Hunker
Das Dingの活動名で知られるオランダ人の重鎮ミニマル・シンセ・プロジェクト。「Minimal Wave」というレーベル名もさもありなんだか、浅い眠りの中を曳航するような不安症的アンビエントが続き、ときおり叫び声やフィールド・レコーディングがインダストリアルなビートに混じって木霊する。
◎Compass Hour/ST
ポスト・GASことArtic HospitalやKinit Herのメンバーからなるトリオ。出自からテクノ~アンビエントを想像したが、実際はヴァイオリンやチェロなどストリングスやマンドリンといった生楽器で構成されたアコースティックなアンサンブル。Hotel2Tangoで録音されたゴッドスピード周辺の残党によるロストテープも連想させる。
◎Virgin Spirit/The Skull Tastes Like Metal
好調「No King」が誇る William Cody Watson (Pink Priest, Malibu Wands, Gremlynz)とJoe Volmer (Clearing, Police Academy 6)によるデュオ。 テープ・ヒスのよう緩いノイズ~鈍色のアンビエントが流れ、 リヴァーブの向こう側からは、マントラか何かの放送をサンプリングしたものなのか、無気味な囁きが聴こえてくる。 アートワークにはLee Nobleもいっちょ噛み。
◎Bob Blaize, Jeph Jerman, Travis Johnson/Sky Bells
即興やフリー・ジャズやら電子音楽~テープ・コラージュを出自とする、一部では名の知れたカルトによるトリオ。その活動履歴が開陳する3人の作家性が不可分なく混ぜ合わされた、なんというか、タージマハル旅行団も彷彿とさせる静謐なフリー~ミニマル・ミュージック。
◎Merryl/Towel Crown
今年も年間を通じて良作をリリースし続けたHooker Visionから。 ノース・キャロライナのWill Isenogleによるソロ・プロジェクト。A面冒頭、自助グループか催眠療法のテープからサンプリングしたような会話で幕を開け、メスメリズム全開のドローン・ラーガをへて噴霧のようなノイズ・アンビエント~ハーシュ・ノイズへ。対して、B面はひたすら深海の底を這うようなドローン・アンビエント。
◎Air Sign/In Search Of…
おなじみNo Kingsから。VxPxCのメンバーで、LAでEcho Curioというアート・スペースを運営するキーマン、Justin McInteerのソロ・プロジェクト。キーボード&ドラムマシーンによる、飽くなき弛緩したジャム・セッション。実在した古いドキュメンタリー番組がテーマだとか。ところで話は変わるが、近年になりジョン・カーペンター作品のサントラが再発され80Sホラー映画の劇中音楽のドローンやシンセ・サウンドに関心が寄せられるなど、ウィッチ・ハウス周辺のマカロニ・ホラーやロマン・ポランスキーなんかからのヴィジュアル・イメージのサンプリングのセンスとも共有する動きがしばしば散見されたり、気づかぬ間になんだか興味深い動きが起きているのも見逃せない。
◎Steve Kenney/Dawn Widow
ミシガンのノイズシーンで活動するヴェテラン。同郷のウルフ・アイズとも近しい関係かも知れない。果ての見えない重厚鈍重なシンセ・ドローンをパッケージしたライブ音源が2曲。メディテーティヴというよりメカニカルなザラつきは、アメリカ重工業のお膝元産ならでは、とか。
◎Je Suis Le Petit Chevalier/A Guide To The Sun
Felicia Atkinsonが披露する暗黒面。アブストラクトなダーク・アンビエントはFK名義とは陰陽の関係をなし、鈴の音や微細にトーンやタッチを変える電子音&ノイズには、Grouperにも通じるミスティックな余韻を。しかし、近年ますます多作に。
◎A Story Of Rats/Hellvete/split
乱暴に言ってしまうとBarn OwlとSunn O)))を掛け合せたようなサイケ・ドローンを奏でる前者と、Silvester Anfang IIのメンバーも兼ねる多才による、バンジョーやハーモニウムも絡めたジャッキー・O的な宇宙も描くフォーキー・ドローンの後者。いわば、テリー・ライリーとヘンリー・フリントの邂逅による現代的展開。
◎Sparkling Wide Pressure/Covered in Blue Colors
個性的なコラージュ・アートワークが好評なWatery Starveから。テネシーのFrank Baughによるプロジェクト。アメリカーナとホーミーとドローンがたおやかにクロスフェードするような悠久のアンビエンス。なんとなくだがテープが回転するタイム感とサウンドが絶妙にマッチングしていて心地よい。
◎Stephen Molyneux/The Stars Are The Light Show
No Kingsからのリリースでも知られる作家のWatery Starve作品。イヌイットやモンゴル遊牧民のフォルクローレを思わせるアコースティックから、オルガンやエレクトロニクスが厳かに重なり音色を広げる至福のアンビエントへ。フィールド・レコーディングスを得意の作風とするが、ポスト・クラシカルとも接続するモダンな美意識も感じさせる。個人的には近作のFelicia Atkinsonとも並びうるポテンシャルを秘めた才能だと思う。
◎Brian Clark Miller/Old Souls & Empty Hollers
日本でも演歌“シーン”ではカセットがまだまだ現役のメディアであるように、たとえばアメリカでもカントリーやブルースやフォークといったルーツ・ミュージックの伝播と流通においてカセットがまだまだ有効であったりとかするのだろうか。ついついカセットをインディ・ロックやアンダーグラウンドとの関わりで捉えてしまいがちだが、じつはそっちの方にも私の関心は向かいつつある。まあ日本の場合、演歌とカセットの関係にはカラオケ=マメカラというハード?の側面もあると思うのだが、さすがにかの国でカセットデッキにテープを入れて酒場や居間でカントリーやブルースを歌う光景は、想像しがたい……が、はたして。
◎MIKE BRUNO + THE BLACK MAGIC FAMILY BAND/THE WILLING OF THE WISPS
イギリスはニューブランズウィックのアシッド・フォーク歌手のバンド編成作品。一聴して連想したのは初期のデヴェンドラだが、他にもグレイヴンハーストやウィリー・メンソンやニック・カストロ、他にも名前は思い出せないが2000年代の中頃にフリー・フォーク~ウィアード・アメリカ絡みでグローズアップされた男性歌手をさまざま思い起こさせる。バンドのアー写を見るとまるでココロジーやエスパースやヴェティヴァーを迎えたデヴェンドラ・ファミリーの一座のよう。
◎Fill Spectre/Scare Your Friends
フィル・スペクターなのかラモーンズなのか、それともマッシュルームカットのクランプスなのか。まあ少なくともウォール・オブ・サウンドではない。麗しき女性のヴォーカル&コーラス・ハーモニーもない。ベタベタなガレージ・ポップやサイコビリーといった感じで、よく言えばブラック・リップスや彼らとディアハンターのメンバーが組んだ覆面バンドのサーフ・ロックも連想させる。地元はトロント。
◎Jonathan James Carr/Well Tempered Ignorance
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Loaded』も連想させるジャケット。そういえばブルース・コントロールにもこのようなモクモクのジャケがあったかもしれない。地元はポートランドということで、なるほどジャッキー・O周辺のフリー・ミュージックと親和性が高い。しかしアコースティックというよりシンセがみょんみょんとうねるドローン・マターのクラスター~クラウト・ロック系で、そういう意味ではブルース・コントロールの方に近いのかなとも思う。
◎Andreas Brandal/Staying Is Nowhere
同じくポートランドから、Jonathan James Carrとレーベル・メイトのシンセ・ドローン。栄養源はクラウト・ロックや80年代のニュー・エイジ音楽に間違いないが、Map Of Africaにも通じるコズミックなスタイルはジャッキー・OというよりはAstral Social Clubと距離が近いかもしれない。性的なメタファーも窺わせるアート・ワークといい、まあどことなく時代がかっているとこもなくはないが、ご愛嬌。
◎Eureka California/Lame Drivers/split
アセンズとブルックリンの2組によるスプリット。由緒正しきローファイ・ポップ~ガレージ・ロックといった佇まい。ガイデッドやペイヴメントがお好きな方はどうぞ。
◎Crippling/Fleeting Talisman
今もっとも信頼できるレーベルのひとつ、Hooker Visionから、Nova Scotian ArmsことGrant Evansの新プロジェクト。L.A.F.M.S.や後期デストロイ・オール・モンスターズ(with トニー・アウスラー)直伝のLAアンダーグラウンド・フリー・ミュージックの伝統を受け継ぐような禍々しいコラージュ/ミュージック・コンクレート。廃材や不良品を寄せ集めて価値転倒することで無二のアートと見立てるような、ある意味ではフルクサス的なアルケミーも彷彿させるモダン・ドローン/アンビエントのNO WAVE。
◎Father Finger/Father Finger
早い話がアマンダ・ブラウンやマリア・ミネルヴァの妹というか末娘的な位置付けの通称“親指姫”。現在のNot Not Funと100%Silkの関係性よくわかるローファイ・ダンス・ポップ。正直この手のサウンドは食傷気味な気もするが、ビキニ・キルのキャスリーン・ハナがル・ティグラを始めたように、またゴシップのベス・ディットーの例を挙げるまでもなく、ダンスとパンクとノイズの交点から現在のライオット・ガール的表現は立ち上がるという好例かも。
◎Nodolby/s/t
ノー・ドルビー・サウンド=ローファイ、という主張なのだろうか。細々としたノイズやサンプリングをコラージュしたシークエンスは、フォークトロニカなブラック・ダイスともいうべき牧歌性も覗かせ、けだし鼓膜にさざ波を立てるような騒々しさに、ノイジシャンとしての沽券のようなものを感じたり。
◎/PLEASE//.2.
新興Sewage Tapesの顔役。バレアリックでファジーなイマドキのエレクトロニック・ミュージックを得意とするブリストルの彼女?彼?だが、そんなゴーストリーでウィッチーなヴォイスもありつつ、フィールド・レコーディングや生音も絡めながらオーガニックな音作りにシフトした印象も。装飾的なレイヤーは控えめに、時おり覗く爪弾くようなギターのメロディーが思いのほか様になっている。
◎Amasa•Gana/untitled
フィールド・レコーディングを下絵に、アコースティックとシンセを塗り重ねモノローグのようなサウンドスケープを描く。ドローンと不協和音のオーケストラはゴッドスピードのそれに感触が近い。アートワークも印象的なオースティンの5人組。
◎Beru/Fire Eyes Gather Souls
今年のベストに入る一本。例えばポーティスヘッドはサード・アルバムでドローンに反応したが、B面などまるで「Machine Gun」をUSアンダーグラウンドのサイケデリック・ノイズに転写したような衝撃。ゴーストリーというよりはホリブルという形容がふさわしいヴォーカルは、ヴァシュティ・バニアンからディアマンダ・ギャラス、果てはクラウス・ノミへと変幻自在な魔性を孕み、ドローニッシュなギター・サウンドはリチャード・ヤングスや灰野敬二からの影響を昇華したもの、とか。ユダヤとキューバの血を引くエキゾチックな才媛、LAのJessica Nicole Collinsによるソロ・プロジェクト。しかしDigitalisは今年も豊作だな。
(※2012年11月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年10月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
(※極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
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