2011年12月28日水曜日

2000年代の極私的“ビッチ”考……キム・ゴードン、語る

現在のロック・シーンにおいて、メンバーの課外活動の多さでは右に出るバンドがいないソニック・ユース。なかでも量・質的に最大規模を誇るのはサーストン・ムーアなわけだが、しかし「活動範囲の広さ」となると、それはもう断然キム・ゴードンになるだろう。

音楽はもちろん、ドローイングやビデオ作品といったヴィジュアル・アートから、詩の朗読やパフォーマンスにいたるまで、彼女の活動はジャンルの枠を越えてアート全般に多岐にわたる。記憶に新しいところでは、3年前に日本でも開催されて話題を呼んだ『Kim’s Bedroom』展(※キムがキュレイターを務めたグループ・アート展。彼女を始めソフィア・コッポラやリタ・アッカーマンらが参加)が挙げられるが、今年も春にニューヨークで個展を、10月にドイツ人アーティストと共同展を行うなど、彼女のアート熱は留まるところを知らない。そんなキムが、元プッシー・ガロアのジェフリー・カフリッツらと組んだフリー・キトゥンに続いて新たに結成したバンドが、今回OOIOOのツアー・サポートという形で来日した「キム・ゴードン&ザ・スウィート・ライド」だ。

メンバーはキムとジム・オルーク、先頃アルバム『BODEGA』をリリースしたブルックリンのDJオリーヴ、そしてノー・ウェイヴの伝説的グループDNAの元ドラマー、イクエ・モリの4人。実はこのメンバーでは2000年にアルバム『Kim Gordon/Ikue Mori/DJ Olive』という作品を発表しているのだが、この日初めて観たライヴは、作品で聴かれたいかにも“作品然”とした印象とはがらりと変わり、緊張感と熱気を帯びたかなりアグレッシヴなものだった。即興演奏をメインとした抽象的で、ある種の「沈黙」を強いるような実験的なサウンドながら、エゴに堕した「停滞」を誘うものにあらず。各プレイヤーの白熱した演奏は圧倒的で、特にDJオリーヴが繰り出すブレイクビーツやノイズ等のエレクトロニクス、そこにキムの咆哮が絡みつき渾然一体となって巨大な騒音の建造物を作り上げた中盤以降の展開は、鳥肌ものだった。

インタヴューが行われたのは、その東京でのライヴを夜に控えた昼下がりの渋谷の喫茶店にて。初めて言葉を交わす機会に恵まれたキムは、想像していた通りのかっこいい(そして凄みのある)女性で、インタヴューの最中も何度と見惚れてしまった。急きょジムとDJオリーヴも同席することになり、思いのほかリラックスしたインタヴューになってしまったのは想定外だったが、しかしキムが何気なく呟いた「とにかくやってみる方が性に合ってるのよ」という一言は、彼女の本質を言い当てているようで興味深かった。


●まず、今回のメンバーが集まってバンドを始めた経緯を伺えますか?
キム(以下K)「そうね……よくわからないけど、とにかくいいアイデアだと思ったから(笑)。それぞれが他のいろんなバンドで演奏してるのを観てきてたし……(DJオリーヴの方を見て)彼はとにかく最高のDJで、他のミュージシャンと一緒に音楽をできる感性を持った人だと思ったのよね。それに、イクエがもっとこう、くだらない音楽をやる人たちと共演するのを見たいと思って(笑)。つまり私みたいな(笑)。で、ジムには私たちがレコーディングした音のミクシングをお願いしたのが始まりだった。それから一緒に演奏もするようになったのよね」

●ジムとオリーヴはどういう思いで参加したんですか?
DJオリーヴ(以下O)「『ノー』なんて言えると思う(笑)?」
全員「(爆笑)」
O「イクエとは以前共演したことがあったし……で、キムに誘われたから、『ぜひ、お願いします!』って言ったんだ(笑)」
K「初めてオリーヴと共演した時は、ヨシミと一緒だったのよね」

●特にジムはいろんな人たちとバンドを組んでいるわけですが、このメンバーで特別なところ、他と違うところはどんな部分でしょう?
ジム(以下J)「今までで一番奇妙なメンツだよね(笑)。それに、一番難しいのは間違いないよ。楽器のコンビネーションもそうだし、それぞれの演奏の仕方も普通と違うから、即興演奏する時にはいつもにも増して集中しないといけないんだ。だからこそやりがいがあるし、それっていいことだと思うよ」

●ソニック・ユースのサウンドと比べて、このバンドでは実験的で即興的な要素が前面に出ていると思うのですが、そういった要素はもともとミュージシャンとしてのあなたにとって重要な位置をしめてきたものなのですか?
K「そうね。私は小さい頃からフリー・ジャズを聴いて育ったから。兄とふたりで、自宅のリビングでいろいろ即興で弾いてみたりしたりして(笑)。それはともかく、私は基本的に自由な音楽が好きなのよね。どういうサウンドにしなくてはいけないとか、頭で考えるのは好きじゃない。とにかくやってみる方が性に合ってるのよ……このバンドの音楽には、映画のようなところがあると思う。歌詞もアドリブが多くて……言ってみれば、ハリウッド映画じゃなくて、フランスやヨーロッパの映画みたいな感じ。会話も何もない場面が延々と続くっていうような(笑)」
J「話に一貫性もなくて」
K「そう、古典的な物語のように、起承転結がはっきりしてないの。普通なら、曲にも始まりと中間と終わりの部分があるものだけど、私たちの場合はそうじゃないのよね」

●ソニック・ユースでの活動と、今回のバンドでの活動は、あなたの中でどういうふうにつながっているのでしょう? フィードバックしあう関係ですか?
K「そうだと思う……それぞれ違うメンバーと演奏するわけだから、違いが生まれて当然よね。曲のスタイルにはいろいろあって、たとえばソニック・ユースでは、ひとりが中心になって作った曲をメンバー全員で完成させていくことが多いけど、一方では即興演奏から生まれて形になっていく曲もある。だから、そうね、それぞれのバンドでの経験からアイデアを持ち込むといえると思うわ」

●そしてもうひとつ、あなたはミュージシャンとして以外にも、ドローイングやヴィジュアル・アートなどアートの分野でも活動されているわけですが、そうしたアートの部分での活動と音楽活動との関係性についてはどうですか?
K「そうね、関係あるんじゃないかしら。うまく説明できないけど、たとえば、主題や題材って意味ではつながりがあると思うし。でも……あなたが思ってるような意味ではないかも(笑)。抽象的でわかりづらいけど(笑)」

●たとえば、絵を描いている時に、音楽のアイデアを思いついたりとか?
K「うーん、それはないかな。私のアートはコンセプチュアルだから、まずアイデアが先にあって、そこから進んでいくのよね」

●以前にオノ・ヨーコさんが何かの雑誌で「アーティストの仕事は作品を創ることではなく、物の価値を変えることです」と話していて、とても感動したのを覚えています。あなたはコンセプトから始めるとのことですが、あなたにとって音楽とは別にアートの分野で表現すること、創作することはどんな意味を持つのでしょうか?
K「そうね、確かにある意味、何かを創るっていうよりは、もっとこう……いろんなものをごちゃ混ぜにしてるっていうか(笑)、ちょっと変わった物の見方を提示しようとしている部分はあると思う。いつも引き裂かれるような感じがするのよね。アートにおけるフォーマリズムを追求したいという思いと、自分が個人的に興味があるものとの間でね」
●あなたがアートで表現したいものと、音楽で表現したいものは別ですか?

K「やっぱりアートより音楽の方が、もっと幅広い表現ができる余地があると思う。私にとって、アートはもっと分析的で概念的なものだから。でも、たとえばジムはそういう分析的な部分を音楽に取り入れられる人だと思うわ。曲作りにおいてって意味でね。そうじゃない?」
J「そうだね」
K「で、私はちょっと違うのよね。昔からやってきてることだし、ヴィジュアル・アートを作るのは好きよ。でも、音楽のいいところは、もっと……無意識でいられるところかな。とにかくアートとは違うのよね。音楽はもっと本能や直感に基づいている気がする」

●ちなみにオリーヴは以前彫刻家もやっていたと聞いたのですが。
O「僕が(笑)? うーん、彫刻家ってわけじゃなかったけど――」
K「でも視覚芸術のアーティストではあるわよね」
O「そうだね。絵画と写真を勉強してたし」

●ではあなたも、アートと音楽で表現できることは別のものだと思いますか?
O「うーん、そうでもないかも。DJっていうのは、ある意味絵を描いてるのと同じだと思うからね。特に僕は絵を勉強した経験があるから、音楽を説明する時にもアートの用語を使うし……」
K「もともと視覚的なタイプなんじゃない? それが音楽にも表われてるのかもよ」
O「そうだね。大学で習ったことが今でも頭から離れないっていうか、頭の中でいろいろ声がするんだよね(笑)」

●音楽でそれを発散しているとか?
O「まあ、発散する必要もないと思うけど(笑)……『頭がおかしくなる~』って感じ(笑)」

●では、ここでソニック・ユースの話をさせていただきますが、ソニック・ユースとしては昨年でデビューからちょうど20年目の節目を迎えたということで――。
K「そうだっけ(笑)?」

●(笑)今年に入って『GOO』のリマスター盤がリリースされたり、バンド・ヒストリーを追ったDVDがリリースされたりと総括的な動きもあるわけですが、振り返ってみて、あなたにとってソニック・ユースとしての20年はどんな20年だったといえますか?
K「うわ~(笑)」
J「もう30年は経った気がする(笑)?」
K「わからない……なんかこう、いろんなロック・スターの名言が頭をよぎるんだけど(笑)……そうね、言ってみれば、ソニック・ユースはユニークだったっていうか、たとえばドラッグに溺れたり、身を隠してみたり、一度解散して復活してみたりとか、そういうのが私たちには全くなかったから(笑)」
J「テレビ番組のネタにはならないね(笑)」
K「だから……何て言ったらいいのかわからないわ(笑)」

●じゃあたとえば、バンド活動の中で手にした最大の財産といえば?
K「それは……日本まで来てライヴができたり、大勢の優れたミュージシャンに出会えたり、ステージ袖からすごいライヴ・パフォーマンスを目撃したりっていう経験ね。いろんなバンドの最盛期もリアルタイムで見てきたし。ニルヴァーナ、ペイヴメント、ボアダムズの素晴らしいギグ……そういうことかな。ねえ、ジム?」
J「(不意を突かれて驚く)えっ(笑)?」
K「(笑)……そう、やっぱりそうやっていろんな偉大なバンドや音楽に触れることができたのは、ソニック・ユースにいたおかげだと思うわ。あとは……よくある話だけど、ステージでの魔法のような瞬間とか(笑)?」

●(笑)では逆に、最大の挫折とは?
K「挫折? ……(ジムの方を見る)」
J「(自分を指差して)僕(笑)?」
O「はははは。誰かが生贄にならないとね(笑)」
K「何だろう……(長い沈黙)……重大なものは何もないわ……私たちには、その後の作品がかすんでしまうほどヒットしてしまったアルバムなんてないし。結構よくあることよね。初めの1、2枚が大ヒットしちゃって、その後は忘れられてしまうってこと。そういうことにならなかったのはよかったと思う。私たちは、プロセスを大切にしてるっていうのかな。どこかにたどり着くのが目的なんじゃなくて、それまでの道のりを大事にするっていう。そんな感じだと思うけど」

●ちなみに、最新作を含めた16枚のアルバムの中で、一番好きなアルバム、一番思い入れの深いアルバムは何ですか?
K「それは……次の作品よ」

●いい答えですね(笑)。
K「(笑)。実際、それぞれのアルバムのいろんな曲に好きな部分があるのよね。だからどのアルバムも好きなんだけど、そうね、最新作は結構気に入ってる。それに、『ウォッシング・マシーン』、『デイドリーム・ネイション』も好き。『シスター』もそうだし……もうよくわからなくなってきた(笑)」

●おふたりはどうですか?
J&O「(顔を見合わせて笑う)」
K「実は1枚も聴いたことないんでしょ(笑)?」
全員「(爆笑)」
O「僕はソニック・ユースの音楽は全体的に好きだよ」
K「DJする時に、ソニック・ユースのレコードを使ったことある?」
O「あるよ。でも、他のバンドの音楽と組み合わせるのは難しいから、そのまま流すだけっていうか、普通のDJの時にね……昔の作品はカセット・テープで持ってるよ。僕は昔スケートボードをやってて、いつもラジカセを持ち歩いてたから、カセットを買ってたんだ」
K「オリーヴはカセット好きなのよね(笑)」
O「そう(笑)。だからそうやって昔テープで聴いてた曲を聴くとなつかしい気持ちになるんだ。スケートボードをやってた若い頃を思い出してね。僕は1日のうちでもいろんな音楽を聴くのが好きなんだ。ヴァラエティが大事なんだよ。だから好きなアルバムを1枚だけ選ぶのは難しい。自分の子供からひとりだけお気に入りを選ぶみたいでさ」

●ジムはどうですか?
J「僕の答えは簡単だよ。『EVOL』と『ウォッシング・マシーン』が好きなんだ」

●ここ数年、ニューヨークに端を発する形で、ストロークスやヤー・ヤー・ヤーズといった若い世代のバンドが盛り上がっています。これはスリーター・キニーのコリンやカレン・Oとも話したことなんですが、そうした一連の動きを見ていて疑問に思うのは、その中に女性ミュージシャンの姿を見る機会がとても少ないということです。たとえばニューヨーク・パンクの時代もロンドン・パンクの時代も、あるいはオルタナティヴなんて呼ばれ方をした時代にも、女性ミュージシャンの存在は時代やシーンと密接な関わりをもっていたと思うのですが。あなたとしては、女性ミュージシャンの現在についてはどのような意見をお持ちですか?
K「スリーター・キニーはすごく重要な存在よね。それにレ・ティグラ……Quix*o*ticのクリスティーナとミラも」
J「クリスティーナ・カーターとか」
K「そう、クリスティーナ・カーターも……とにかく、今活躍してる女性ミュージシャンはたくさん知ってるけど、ただもっと……アンダーグラウンドなのよね。確かにパンクの時代には、女性のミュージシャンが大勢いたわよね。で、その後の80年代にはほとんどいなくなって……」
J「90年代の初めもいなかったよね」
K「ああ、90年代の初めは特にそうね。その頃と比べると、今の方がもっと増えたと思うけど。今までにないくらい多いんじゃない? もちろん、メインストリームでの話じゃないけどね。それでも、実験的な音楽をやってる人の中に女性は多いと思うわ」

●あなたは表現する時に性差の壁というか難しさを感じることがありますか?
K「うーん……それはないわ。特にアートを作っている時はね。というか……実はあまり考えたことがないのよね」

●あなたにとって、「女性である」ということは、ミュージシャンとしてアーティストとして、どんな意味や価値を持っていると考えますか?
K「……何をしても謝らなくていい立場にいるってことかしら(笑)」
J「はははは」
K「それはともかく(笑)、ロックといえば男性ギタリストを指すっていう見方が浸透しているのは確かだけど、女性がその役を買って出ると、そこに違った意味が付加されて、それでまた音楽がもっとおもしろいものになれるのかもしれない……とにかく、男性とは別の感性なのよ。男性と女性が全く同じだとは言えないわけだし、性差というのは確かにあるのよね。そんな中で、ひとりひとりの女性の個性が……特に型にはまらない音楽の場合は、女性ミュージシャンの方が音楽の実験性の幅を広げていると思うけど。そう思わない?」
J「そのとおりだよ」

●今日はどうもありがとうございました。
K「ありがとう」

(2004/10)


2000年代の極私的“ビッチ”考……キム・ゴードンというゴッドマザー )

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