2011年3月9日水曜日

極私的2000年代考(仮)……Yeasayerとの対話

2000年代も半ばを過ぎた辺りからか、ニューヨークのミュージシャンの一部に、そのエクスペリメンタルな創造性をトライバルなリズムや非西欧音楽的なコンポーズのなかに解き放ち、個性的なサウンドを創り出す動きが顕在化し始めた。そうしたいわば文化横断的な音楽実験のひとつの達成が、昨年のギャング・ギャング・ダンスの新作『セイント・ディンフナ』だとするなら、このイェーセイヤーの一昨年のアルバム『オール・アワー・シンバルズ』もまた、その素晴らしき成果といえるに違いない。

“Middle Eastern psych snap Gospel”と自称するそれは、文字どおり多彩なルーツや意匠の歌と音が木霊するゴスペルであり、異境のサイケデリック・ロックである。そしてその放埓な多様性とは、ギャング・ギャング・ダンスやアニマル・コレクティヴがそうであるように、この世界への何かしらの批評たり得ていることも、また然るべき事実だろう。
2006年にブルックリンで結成。2007年秋にデビュー・アルバムとなる『オール・アワー・シンバルズ』をリリースし注目を集め、昨年はMGMTとのアメリカ~ヨーロッパ・ツアーを皮切りにロラパルーザやレディングへの出演も果たした。そして今回、その『オール・アワー・シンバルズ』の国内盤化が決定(同レーベル「WE ARE FREE」所属のインディアン・ジュエリーとポニー・テイルの新作も併せて)。それを機に、中核メンバーの一人、クリス・キーティング(Vo)に話を訊いた。


●バンドを結成した経緯は?

「メンバーの一人のアナンドと僕は幼馴染で、僕らはボルチモア出身なんだけど、一緒の学校に通っていたんだ(※ちなみにアニコレのメンバーも出会いはボルチモアの高校時代)。だから小さい頃から彼とはよく遊んでいて、高校生の頃に一緒にバンドを組んだりしていたんだ。大学はそれぞれ別の学校に行ったんだけど、お互いバンドやいろんなプロジェクトに取り組んでいたんだけど、どれも大して上手く行かなくて、それでまたお互い一緒にちゃんとしたバンドを始めようって事になったんだ。それで、アナンドの従兄弟のアイラを誘ってバンドを結成して、いろんなパーカッショニストやドラマーを誘って、今に至るって感じかな」


●イェーセイヤーとして音作りを始めるに際して、何か音楽的な青写真のようなものはありましたか。

「そうだなぁ……『これがやりたい!』っていうサウンドのイメージは無かったけど、『こんなサウンドにだけはしたくない!』っていうイメージだけはハッキリしていたね(笑)。とにかくユニークで、常に実験的で、ジャンルの垣根を越えたサウンドを目指して始めたんだ。結成当初から、いろんなスタイルの音楽の融合を試みようとはしていたよ。例えば、エレクトロな楽曲にヒップホップのビートを乗せて、それにクラシックなロック・サウンドを加えてみたりとかね。とにかく、人とは違う、今までに無いバンドがやりたくて……1度聴いただけで『あいつらはニューオーダーみたいだな』っていわれちゃうようなバンドにだけはなりたくなかったんだ。もちろん、ニューオーダーは好きなバンドだけどね」


●どんな音楽が好きなんですか。

「ジャンルの壁を押し広げたアーティストはどれも好きだよ。ビートルズやウータン・クラン、DJシャドウみたいにね。彼らは偉大なアーティストだと思うよ」


●では、“Middle Eastern psych snap Gospel”とも評される現在のサウンドは、いかにして生まれたのでしょうか。

「あはは! そういえばそう呼んでいたね(笑)。いや、もう2年も前のアルバムのことを今また説明するのがちょっと面白くてね。実はもう今のバンドサウンドはこの頃とは大分違うんだ。当時はヴォーカル・ハーモニーやグループ・ヴォーカルが凄く僕らには新鮮で、4人しか居ないバンドなのに、ハーモニーで凄い厚みのあるサウンドを創り上げることが出来ると思ったんだ。さらにこのアルバムでは、僕らが次に出すアルバムがエレクトロになろうが、ロックになろうが、フォーキーなアルバムになろうが、どう転がっても良い様な土台を作って置きたかったんだ。そういう意味では、ファースト・アルバムとしての思惑は達成出来たと思うよ」


 ●ちなみに、「Middle Eastern」、「サイケデリック」、「ゴスペル」は、あなた達のなかでどう定義されますか。

「いや、僕らがそういうフレーズを出したのは半分ジョークみたいな感じで、そんなに深い意味は無いんだ。ただ、最近やたらどのバンドも『サイケデリック』ってフレーズを使いたがるだろ? ほんの少し変ったジャンルの音楽を取り入れただけですぐに『サイケデリック』って呼ばれる。それに対するジョークのつもりだったんだ。それと「Middle Eastern」ってフレーズは、当時たまたま僕らが中東のパーカッションがガンガンに入った音楽を夢中で聴いていて、僕のイラク音楽CDコレクションや、アイラの産まれたインドの音楽や、ボリウッド映画のスコアを手に入れて、アルバムのレコーディング中はそういう中東風なメロディやリズムの要素を取りいれようとしていた時期だったんだ。「ゴスペル」に関しては、あの一体感というか、『全員が歌う』っていう美しさだね。それをバンドでやってみたかったんだ」


●アラビアやアフリカなど、いわゆる非西欧圏の音楽と自由に混交を果たすようなイェーセイヤーの音楽的な文化横断性・雑食性は、音楽に対するどんな哲学なり理念が反映されているといえるのでしょうか。

「うーん……例えば年上の、自分の親くらいの年齢の人達は『今の世代の音楽は何も新しくない。全て昔の焼きまわしだ』ってよく言うだろ? 60年代、70年代にすべて出尽くしたみたいな。僕はあの考えが本当にくだらなくて、大嫌いなんだ。だって、当時のアーティストだってフォークとブルースを融合させたり、ブルースをパクってそこにエレクトロニックの要素を持ち込んだだけであって、そういうジャンルの融合は今後もまだまだ可能だし、これからも続いていくし、今でも新たな物は絶えず生まれてきて、そうした新しい音楽から僕らは刺激を受け続けるんだ。いろんなジャンルと出会い、それをいかに自分の手で融合していくか、それが新しいものをクリエイトする原動力だと思っているよ」


●そこには例えば、近代的な合理主義や、西欧中心主義的な価値観みたいなものへの違和感やリアクションも、自ずと反映されているといえますか。

「間違いなく僕は西洋の音楽に影響を受けて育って、特に西洋のロックの影響が強くあるけど、 今の自分はもっと開けていると思う。特にインターネットのおかげで世界は随分と狭くなった。例えばマイスペースにアクセスすれば、世界中の音楽、自分の気になる国の音楽を簡単に聞くことが出来る。それが、アフリカであろうが、カタールであろうが、それこそ日本であろうが。僕達の音楽はそれを体現しているんだと思うんだ。『世界は昔よりもずっと狭くなった』ということをね」






●先ほども少し映画音楽について話が出ましたが、他にどんなものから創作のインスピレーションを得ますか。

「僕は、自分の身近に鳴っている音や、世界中のパーカッションの音からインスパイアされる事が多いね。つい最近もブラジルに行って来たんだけど、彼らのサンバなんかで使われるパーカッションやドラムの音にはぶっ飛ばされたよ! もう、それこそドラムの音だけじゃなくて、建物の壁やコンクリートから跳ね返ってくる音がとにかく凄くて……どうにかその音を録音しようとしたんだけど、難しかったね。けど、常に日常生活でも耳をすませて、いろんな音を聴くようにしている」


●ちなみに、『All Hour Cymbals』というアルバム・タイトルの意味は?

「これは言葉遊びだったんだけど、イメージとしては『24時間開いているドラムショップ』があって、ずっとシンバルの音が鳴り響いていて、凄く耳障りな感じ(笑)。日本にもギターセンターとかデカい楽器屋があると思うけど、そういう楽器屋に行くと必ずへったくそなのに爆音で試奏してる奴っているでしょ! ヴァン・ヘイレンのソロだとかAC/DCのリフとかを永遠に弾いてて、凄くウザいのに耳にこびり付いちゃう感じ(苦笑)。そのイメージを出したかったんだ」


●(笑)。そのアルバムには、“2080”や“No Need To Woorry”といったタイトルの曲がありますけど――大統領の交代や世界的な経済不安など、世界は今、その価値観やシステムの大きな転換期を迎えているわけですが、自分たちが暮らす世界のこれからについては、漠然とどのように考えていますか。

「ちょうど僕らがバンドを結成したのが、ブッシュが2期目に入った04年だったんだけど、その時から僕は政治には絶望していたし、ちょうどこのアルバムを作って、ツアーを廻っていた頃がアメリカの若い世代が最もネガティブな状態に陥っていて、クリエイティブな人々はその現状に本当に憤りを感じていた。必然的に、このアルバムは僕らのネガティブな側面を多く表している作品にはなったと思うよ。ともかく、間違いなく僕らは、というかアメリカは変化を迎えることになると思う。でも、まだまだ問題は山ほどあるし、一部の人間が代わっただけで、果たしてどれほどこの国が変ることが出来るのかはまだ僕らにもわからない。それくらい、この国はブッシュにメチャメチャにされてしまったんだ。でも、今は希望があることを信じるようにしているし、僕らも前向きな音になっていくと思う。僕は良い意味での『新しい波』が起こりつつあると思うし、世界中も『新しい波』が起こりつつある事を感じていると思うんだ。ブッシュ政権の頃は、正直自分がアメリカ人でいることが凄く恥ずかしく思えたくらいだったからね。でも、今は『本当に何かが変るかもしれない』って思うようにしているし、どうなるのかが楽しみなんだ。ちなみに日本ではオバマはどういう風に思われているのかな?」


●期待はしていますが、正直彼が日本に対してどういう態度を取るのか、まだ全く未知数なので、心配している人もいるんじゃないでしょうか。

「なるほどね。確かに心配な気持ちはわかるよ」


●自分たちが創る音楽と、日々の現実や周りの世界で起きている出来事との間には、どのような関係性が結ばれているといえますか。あるいは、どういう関係性でありたいと考えますか。

「そうだなぁ、僕は常に新聞で目にしたことや自分が体験したり聞いたこと、そして旅をすることからインスパイアされているんだ。凄くプライベートな人間関係も含めてね。実は次のアルバムは多くのラブソングが入る予定なんだけど、それも僕達それぞれにそういう相手ができて、少しずつ大人になってきているからだと思うんだ。そういうパワーが作品を創る上で入ってくるのは良いことだと思っている。それに、個人的には『ダンス・アルバム』が創りたいんだ。僕はどこの国を訪れても、出来る限りその国のダンスパーティーに行くようにしていて、そこから凄くインスパイアされるんだ。『人を踊らせる』というのは凄くパワフルなことだからね。そういうパワフルな作品を創りたいと思っているよ」


●ちなみに、漠然とでも構いませんが、2000年代の音楽シーンについてどのような印象をお持ちですか。なかでもニューヨークは、2000年代を通じて絶えず刺激的な音楽を生み出し続けてきたといえるわけですが。

「僕は、今まさに何か新しいことが起こっているのを目撃しているような感覚があるから、この10年を振り返るのはちょっとまだ難しいね。アニマル・コレクティブやブラック・ダイスみたいなバンドが現れて、ラジオでもかかるようになってから何かが動き始めたような感じがして、ニューヨークそのものが音楽を創るのに凄く良い雰囲気に包まれている気がするよ。レコードの売り上げが落ちてメジャー・レーベルが崩壊して、インターネットのシステムが生まれて、きっとこの新しいシステムの未来は、より素晴しいものになると思うんだ。この00年代を振り返っていうならば、『音楽業界の古いシステムが完全に終わり、より人々が好きなように、やりたいようにやれる、新たな時代の幕開け』じゃないかな」


●最後に、今後の活動やニュー・アルバムの構想について教えてください。

「まだレコーディングには取り掛かっていなくて、2月から始める予定なんだ。というのも、アナンドがソロ・アルバムの製作にちょうど今取り掛かっていて、僕もこれからスタジオに遊びに行くんだけど、それがもう少しかかりそうなんだ。だけどそれが終わったら、ニューヨーク北部のウッドストックにあるスタジオに合宿しながらレコーディングをするんだ。だから、夏までには出来上がると思うよ。リリースはきっと秋か……ちょうど来年の今頃になるかもしれないね。だけど、夏にはまたライブでいろんな所に行くと思うよ。もしかしたらこの夏には初のジャパン・ツアーが実現するかもしれないね。日本には絶対に行きたいから、遅かれ早かれ必ず行くよ!」
(※補足:彼らはコンピレーション・アルバム『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』に参加。また、来るトレイル・オブ・デッドのニュー・アルバム『ザ・センチュリー・オブ・セルフ』に、デイヴ・シーテックとも縁の深いドラゴンズ・オブ・ジンスのメンバーと共にゲスト参加している)


●楽しみです! ところで、「Yeasayer」というバンド名の由来は?

「僕の友達に、自分で考えたバンド名が100個以上は書かれているバイブルみたいな小さなノートを持っている奴がいて、そいつのそのノートにこの名前が書いてあったんだ。そもそもこれは造語で、「Naysayer(ネイセイヤー、いつも否定する人)」の反対の意味で造った言葉で、ポジティブなヴァイブを持ったバンドにしたかったから、ちょうど良いなと思ったんだよ」


(2009/03)

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