2012年2月19日日曜日

極私的2010年代考(仮)……MGMT以後のニューヨーク、その一例

ヴァイオレンズの名前を初めて意識したのは、去年の秋頃にピッチフォークで紹介されたザ・ヴェリー・ベストのリミックスがきっかけだった。ザ・ヴェリー・ベストとは、メトロノミーやシット・ディスコのリミックスを手掛け、スウィッチなどM.I.A.周辺の人脈とも交流が深いロンドンのプロデューサー・チーム=レディオクリットと、アフリカのマラウイ共和国出身のシンガー=エサウ・ムワムワイヤが結成したユニット。ヴァイオレンズがリミックスしたのは、彼らのデビュー・アルバムの表題曲“Warm Heart of Africa”で、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグをフィーチャーした原曲の軽妙なアフロ・ポップを、スティングの“Englishman In New York”も連想させるグルーミーなエスノ・サイケに衣装替えさせた、その手捌きの鮮やかさが印象に残った。記事にはバンドの紹介として「グリズリー・ベアやMGMT、ディアハンターとツアーで共演」とあり、なるほど、60年代風のサイケデリックや4AD系の耽美主義といった、今様のブルックリンらしいセンスを感じさせる。加えて、たとえばハーキュリーズ&ラヴ・アフェアやホット・チップのようなニューロマ~ゲイ・ディスコ的なデカダンもあり――というのが、たった1曲のリミックスから受けたヴァイオレンズのファースト・インプレッションだった。
 

ヴァイオレンズが結成されたのは2007年の夏。ボルヘ・エルブレヒト(Vo/G)、イッド・アラド(Vo/Synth)、ベン・ブラントリー(B)、クリス・キング(Dr)の4人組で、ニューヨークを拠点に活動をスタートさせた。
[※現在はボルヘ、イド、マイルズ・マセニー(G/Vo)の3人組]

しかし、じつは彼らには「前歴」がある。中心人物のボルヘをはじめメンバーの何人かは、ヴァイオレンズの結成以前にランジング‐ドレイデンというグループで活動していた。ランジング‐ドレイデンはボルヘが育ったフロリダのマイアミで2000年に結成され、その後ニューヨークに移り、これまでに数枚のアルバムとEPを発表している(※レーベルはドゥンエンやソフト・パックをリリースするブルックリンのKemado)。また、音楽活動と並行して映像作品やドローイングを制作して発表するなど、単なるバンドではなくアート・プロジェクト的な性格のユニットでもあったという。ボルヘが語るところによれば、次第に音楽にフォーカスを絞った活動を模索し始めた彼が、レコーディングやライヴのヘルプに他のメンバーを誘うようになり、その過程がヴァイオレンズの結成へと発展していったのだそうだ。

「『Nuggets』(※60年代のUSガレージ・パンク/サイケのコンピレーション)から『No New York』、さらにニュー・オーダーへ」とは、ランジング‐ドレイデンを評したピッチフォークのレヴューだが、70年代のグラム・ロックやオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク辺りのシンセ・ポップの影響も窺わせるそのサウンドは、じつに多様な音楽的バックグラウンドを想像させるものだ。ボルヘはあるインタヴューに応えて、マイナー・スレットやクラスなど初期ハードコア・パンクとの出会いに始まり、ステレオラブやセイント・エティエンヌ、とくに大きな影響を受けたというマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやモノクローム・セット、さらにスミスやプリファブ・スプラウトから、バーズやゾンビーズへと溯っていった自身のリスナー遍歴を明かしている。また、あるインタヴューでボルヘは、アメリカのバンドのウィーンを例に挙げて「自分達も1枚のアルバムのなかに様々なスタイルのサウンドを詰め込むタイプ」であり、「曲ごとに異なる意識を持ってレコーディングに臨むのが好き」だと語っている。先日、ヴァイオレンズのオフィシャル・サイトで公開されたフリー・ダウンロードのミックス・テープには、チェアリフトやナイト・ジュエルに交じって、デッド・カン・ダンスやチャプターハウス、アンレスト、さらにマリン・ガールズのカヴァーなんかも収録されていて、そのジャンルレスな感覚はあらためて面白い。
2007年にニューヨークの「Static Recital」からリリースされたシングル“Doomed”“Violent Sensation Descends”や、その2曲を含む2008年リリースのEP『Violens』の時点ですでに、彼らのスタンダードともいえる、スミスやペイル・ファウンテンズを連想させるネオアコ~ニュー・ウェイヴ調のメランコリックなギター・ポップ――それこそドラムスとも共通する志向性を披露していたヴァイオレンズ。そうしたテイストは、ファースト・アルバムとなる本作『エイモラル』においても、オープニングを飾る“The Dawn of Your Happiness Is Rising”や“Full Collision”をはじめ作品の基調をなしている。

しかし、作品を聴き進めるうちに気付かされるのは、先のエピソードや冒頭の印象が裏付けるように多彩なアレンジで魅了する、個々の楽曲の際立った存在感だろう。

たとえば、ニュー・オーダー~最近でいえばデルフィックとも感覚の近いエレクトロニックなポスト・パンクを披露する“Acid Reign”。グローファイ以降のチルアウトなディスコ・フレイヴァーと濃密なハーモニー・コーラスが交差した“Until It's Unlit”。あるいは、ザ・ナイフ/フィーヴァー・レイ辺りのダークウェーヴからゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーの“The Dead Flag Blues”も想起させるスロウコアな“Amoral”。シューゲイズなノイズを散りばめた“Another Strike Restrained”。そして、モグワイもかくやという静と動のコントラスト――ギター・アルペジオからのサイケデリックな轟音を奏でるインストゥルメンタル・ナンバー “Generational Loss”。

なかでも白眉は、まるでオアシスかキラーズのようにスケール感溢れるエピックな「ロック」を聴かせる“Could You Stand To Know?”だろうか。ランジング‐ドレイデン時代のコンセプチュアルなアート・ロックとも、デビュー当初の端正なポッピストの面影とも異なる。まさにアートワークのイメージのように、個性的な楽曲群が織りなすアマルガムなうねりが、作品全体に圧倒的なダイナミズムをもたらしているのだ。

ボーナス・ディスクの楽曲についても簡単な説明を。M①②③は、先のEP『Violens』から、アルバム本編未収録の3曲。M④はランジング‐ドレイデンによるリミックス。M⑤は、ウォッシュド・アウトの名曲“Feel It All Around”をフィーチャーした“Space Around The Feel Station (feat. Washed Out)”も話題を呼んだ今夏リリースの7インチに収録されたミックス違い。そしてM⑥⑦は、過去にローカル・ネイティヴズやエクスラヴァーズもリリースした「Chess Club」からのシングル曲と、そのデモ・ヴァージョン。
余談だが、M②にはプロモーションとは別にMVが制作されていて、監督は、ボルヘの友人で、ソニック・ユースのキム・ゴードンやデヴェンドラ・バンハート、女優のクロエ・セヴィニーとの創作でも知られる女性映像作家のアリア・ラザが務めている。ちなみに、同じニューヨークのバンドのなかでも、とくにMGMTとはツアーでの共演をはじめ、互いのリミックスを発表するなど(“Time To Pretend [Jorge Elbrecht of Violens Remix]”/Doomed [MGMT Remix])その間柄は親密なようだ。また最近では、元ブラック・ダイスのセバスチャン・ブランクのソロ・アルバムをボルヘが共同プロデュースしている。


ところで、「Violens」という、じつは奇妙な綴りのバンド名。これはボルヘいわく、「Violence」と「Violins」を合わせた造語らしい。暴力とヴァイオリン、激しさと優雅さ。その緊張と調和――まさに、彼らの音楽にふさわしいバンド名じゃないだろうか。


(2010/09)

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