2011年11月11日金曜日

極私的2000年代考(仮)……ダニエル・ジョンストンとの対話

1980年代後半から90年代前半のアメリカのインディ・シーンをリアルタイムで体験したリスナーであれば、彼の偉大さについて、あらためて触れるまでもないと思う。カート・コバーンを虜にし、パステルズやヨ・ラ・テンゴ、バットホール・サーファーズやソニック・ユースといった同時代のミュージシャンから熱烈な支持を得たダニエル・ジョンストン。いびつだが愛と温もりにあふれた歌声とメロディに、今も多くのファンが魅了されてやまないSSWである。

一時は健康上の理由により、多作で知られる創作活動もストップしていたダニエルだが、前作『リジェクティッド・アンノウン』を機に再開。新バンドでの活動やジャド・フェアらとの共作をへて、先頃ニュー・アルバム『フィア・ユアセルフ』がリリースされた。そして今月末には、ファンにとって夢にまで見た初来日公演が行われる。しかもダニエルたっての希望により、今回は特別にピアノが用意されるそうだ。


●まずは一ファンとして、こうしてあなたに話を伺える機会に恵まれたことに心から感謝しています。

「うん」


●というのも、80年代後半から90年代前半のアメリカのインディ・シーンに音楽リスナーとしての原体験を持つ自分にとって、カート・コバーンやジャド・フェアやソニック・ユースと並んで、あなたは今も憧れの存在なもので……。

「へえ」


●さて。新作『FEAR YOURSELF』が先日リリースされたばかりですが、最近はどんな生活を送っているのですか? 

「えっと、でも、こっちでの発売はもうあと何週間か先なんだ。今、ようやく見本盤が届いてきてるから、もうすぐリリースできると思うんだけど…………それで、今、もうドキドキドキドキしてるんだよ。今度のアルバムはスパークルホースのマーク・リンカスのプロデュースにしてもらってて、出来にも本当に満足してるんだ……うん、だから、たくさんの人に気に入ってもらえるといいなって思ってるよ」


●じゃあ、今はプロモーションで大忙しってですか。

「うん。こないだも、ロンドンに行って帰ってきたばっかりなんだよ。ぼくとお父さんとでロンドンに行って、インタヴューだのフォト・セッションだので、まるでスター並みに忙しかったよ(笑)。それはそれで楽しかったんだけどね。うん、ロンドンは本当に楽しかったよ。買い物したり、観光したり、ビートルズゆかりの場所を訪ねたりしてね。道を歩いてるときも、『もしかして、ビートルズがここを通ったかもしれない』なんてドキドキしながら(笑)」


●プロモーションの後はツアーでまた忙しかったりするんですか。

「もちろん、ツアーもするし、そう、それに今回は日本にも行くんだよ! 今から本当に楽しみにしてるんだ。日本は、ぼくが今まで行ったどの国とも違ってるだろうし、きっとものすごく貴重な体験になるんじゃないかなあ……それに、日本ではピアノを弾くから、それも楽しみにね! 普通は、コンサートではピアノを弾けないんだけど、今回、ピアノが用意できることになって、今からすごく楽しみにしてるんだ。何しろ、初めての日本だし、今からドキドキしてるよ。本当はバンドも連れていけたらいいんだけど、それにはお金がかかりすぎるから、ツアーはいつもひとりなんだよね……うーん、でも、もしかして、来年頃にはバンドでツアーできるかもしれない。うん、来年こそ、きっと! でも、来年じゃなくても、いつかぼくがバンドと一緒にツアーできるくらい有名になって、バンドを連れて日本に行けるようになったら最高だよね」


●今回の『FEAR YOURSELF(己を恐れよ)』というタイトルには、どんな意味が込められているのですか? ジャケットの中にあるイラストには、「FEAR YOURSELF」という言葉と一緒に「LOVE YOUR ENEMIES(汝の敵を愛せ)」という言葉も添えられていますが。

「えっと、たとえば、誰かが何かをするときに……何かを達成しようとして一生懸命になってるときって、自分のことしか見えなくなりがちだよね。中には、自分は何をやっても許されるんだって思って、まわりのことなんかお構いなしに、自分のやりたいことだけをどんどんやっちゃう人もいるんだよ。ただ、僕が思うのは、何て言うか、もうちょっと……もうちょっと、自分の行動に気をつけたほうがいいよっていう」


●ちなみに、ジャケットのイラスト、今回の一連のアート・ワークのモチーフは?

「えーっと、あれはただ、ぼくが書き貯めたイラストの中から、お気に入りのを選んだだけなんだ。ジャケットになってるあのキャラクターも、キュートでかわいいなって思って……。実は、もともと別の絵をジャケットにする予定だったんだけど、レコード会社の人に『怖い』って言われちゃったんだよね。男が猛犬に囲まれて恐怖におののいてるっていう絵だったんだけど、レコード会社の人が『これじゃ、怖すぎるから』って言って、代わりに内ジャケに使う予定だったあのイラストをカバーにできないかって言ってきて、それで、あのおかしなキャラクターの顔がアルバム・ジャケットになったんだ。だから、あの絵は、レコード会社の人が選んだんだよ」


●あのキャラクターは、何を象徴してるんですか。

「というか、本当にただのイラストで、ぼくが子供の頃に好きだったTVアニメのキャラクターとか、要はディズニーのキャラクターみたいなものなんだけど……というか、ぼくが自分で発明したディズニーのキャラクターみたいなものなんだけどね(笑)。ジャケットのあのイラストも、もともとはあの黄色のモンスターが“アイ・ラヴ・エヴリバディ(ぼくはみんなが大好き)”って書いてある風船を持ってる絵だったんだけど、レコード会社の人が風船ははずして、モンスターの顔だけを切り取ってジャケットにしちゃったんだよ」


●へえ、もったいないですね。

「ふふふふふふふ、ねえ、残念だよね(笑)」


●あなたの描く絵には、キャスパーやキャプテン・アメリカといったコミックのキャラクターが多く登場しますが、彼らのどんなところに惹かれるのですか。 

「うん。っていうのも、子供の頃はずっとコミック作家になりたいと思ってて。それで、ヒマさえあればキャプテン・アメリカの絵ばっかり描いてたんだよ。だから、そのときの癖がいまだに抜けないのかなあ……それに、ぼくはキャプテン・アメリカと同じ、アメリカ出身だし……へへへへへへへ。うん、それにアメリカ人だから、もともとコミック好きなんだよ。ジョン・カービー(※キャプテン・アメリカの作者)が好きで、気がつくとジョン・カービーのコミック本ばかり買い漁ってたよ。キャスパーもぼくのお気に入りのキャラクターで、よく真似して描いてたんだ」


●絵を書き始めたのは何歳ごろから?

「えーっと、もうずーっと、ぼくの生涯を通じてだよ。小さい頃から、ヒマさえあれば落書きを描いたり、イラストを描いてたりしてたし……最近では、アート・ギャラリーで個展を開いたりもしてるんだよ。アメリカ中をくまなく廻ったし、それにヨーロッパにも行ったし。あと、インターネットで、イラストの販売もしていて、今ではイラストでも生計が立つまでなってるんだ」


●(『FUN』から)5年ぶりの新作となった前作『REJECTED UNKNOWN』を聴いたときにも感じたのですが、今回の『FEAR YOURSELF』を聴いて一番強く感じたのは、(ふたたび)歌をうたえることへのあなたのピュアな喜びです。90年代の終わり頃から数年、しばらく体調が優れない時期がつづいたと聞きますが、このアルバムには、あなたのどんな思いが込められているといえますか。

「うん、何て言うか、今、すごく調子がいいんだよ。前に比べてずいぶん楽になったし、いろいろ活発に動いてるんだ。ダニエル・ジョンストン名義のほかにも、ダニー・アンド・ザ・ナイトメアズっていうバンドをやってるんだけど、バンドで演奏するのがすごく楽しくてね。今回のアルバムも、バンドの空き時間に、自分の楽しみとして曲を書きはじめたんだ。そしたら、突然、マーク・リンカスとアルバムを作る話が舞い込んできて、ただ、そのときにはアルバム用の曲が全部出揃ってたっていう。自分でも、いつのまにこんなにたくさんの曲を書いてたんだろうって感じでね。しかも、レコーディングがまた楽しくて、もう興奮のしっぱなしだったよ。だから、ぼくとしては、ただただ楽しかったっていうだけなんだけど、それでも、アルバムはちゃんとできちゃったんだから、すごいよね。だから、きっと楽しんで正解だったってことだよ(笑)」


●もう大忙しですね。

「うん。でも、レコーディングがあるなしに関係なく、曲はいつも書いてるし、そうでなければ絵を描いてるから、結局、年中無休になっちゃうんだよ(笑)。ただ、一時期、曲も書かないし、絵も描いてない時期があったけど……でも、今では、曲を書いたり絵を描いたりすることで生計を立ててるし、これが自分の一番やりたいことでもあるんだよね。それに、お金がもらえれば、レコードを買ったり、コミック本を買ったりもできるしさ。ぼくは……100万長者とは決して言わないけど、(小声で)……10万長者なんだよ。(照れながら)そうだ、ぼくは10万長者なんだ!」


●あははははは。

「へへへへへへへ。うん、だって、マクドナルドの店員だった頃とは比べものにならないくらいお金持ちになったし。あの頃なんか、マクドナルドのバイト代が唯一の収入源だったんだよ? それが今ではさ……うーん、我ながら、大したもんだと思うよ。だって、86年から、仕事らしき仕事もしてないのに、こうして立派に生活できてるんだから、夢みたいな話だよ。ぼくにしてみれば、ものすごく大金持ちになった気分で……もう、『車でも買っちゃおうかな』っていうくらいの、『ついでに、今すぐガールフレンドも作っちゃおうかな』っていうくらい大船に乗った気持ちで(笑)。もしかしたら、両方手に入れられるかもしれない。そうでなくても、今、ほんとに幸せで、毎日が楽しくて、薬物療法もうまくいってるし、ようやく鬱状態からも解放されたんだ。ぼくは長いこと鬱病に悩まされてて、5年も鬱状態が続いたこともあったんだよ。それが、父さんがぼくのマネージャーになってくれてからは、徐々に回復してきたというか、父さんがいろんなお医者さんのところをまわって、ぼくに合う薬を探してきてくれたんだ。体調が良くなってからは、父さんと一緒にあちこち旅行して、ドイツや南アフリカにも行ったんだよ。ツアーもいっぱいやったし、ロスやニューヨークやロンドンみたいな大きな街でショウをやったりして、すごくいい経験になったよ。ツアーをしたり、曲を書いたり、音楽をやることが本当に楽しくて、自分がずっとやりたいって思ってることを、今ようやくできるようになったんだ。だから、出だしは遅れちゃったけど……っていうのも、ぼくがツアーをするようになったのって、ここ5年ぐらいのことだし。それでも、こうしていろいろやってることが、すごく楽しくて、子供の頃からの夢を、今になって実現してるような気持ちなんだ。スターでも、ミュージシャンでも、アーティストでも、肩書きは何であれ、なりたい自分に近づいてるような気がするんだよね。今は毎日が楽しくて、その上、こうしてニュー・アルバムまでリリースされるんだから、ほんとに恵まれてるよね。あとは、みんなが気に入ってもらえさえすれば……って、そのことばかり、日々祈ってるよ。しかも、新曲もどんどんできてて、毎日のようにレコーディングしてるし、自分のまわりでいろいろまわり始めてる気がするんだ。今度のアルバムは、本当にみんなに気に入ってもらえるといいと思うんだ。まだまだ続きがあるし、ぼくとしては、これからももっと、アルバムをリリースしていくつもりなんだよ。今でも新曲をいっぱい書いてるし、それから、前に自主制作でリリースしたテープも今度CDの形にして発表する予定もあるんだ。『Song OF Pain』っていう、もともとテープで出してた作品なんだけど、こないだCD化が決まって、レコード会社とも契約済みなんだ。それは2枚組みになる予定で、もうすぐにでもリリースできると思うよ。それに、ダニー・アンド・ザ・ナイトメアズのアルバムも出していきたいし……でも、ダニー・アンド・ザ・ナイトメアズは、ライヴ活動のほうが忙しくて、なかなかアルバムを作るまで手がまわらないんだけど、とりあえず、曲だけはいつも作ってるから、今すぐにではなくても、いつか実現できるといいよね。ただ、ぼくもメンバーも同じ町に住んでるから、スケジュールさえ合えばすぐにでも出せるかもしれない。だから、今、自分のまわりで、いろいろ動き始めてる感じなんだよね」


●ちなみに、その体調が優れない状態がつづいた期間は、どのような生活を過ごしていられたのですか。 多作で知られるあなたにしては珍しくリリースの間隔が空いたので、とても心配していたのですが。

「さっき曲を書いてない時期があったって言ったけど、それが今言った時期にあたるんだ……すごいよ、だって、3ヶ月もベッドに寝てたんだから。ベッドに寝る以外には何もしてなかったし、ものすごく落ち込んでて、ベッドから起き上がることすらしようとしなかったんだ。そしたらある晩、夜中に突然目が醒めて、“Devil Town”って曲を書き上げたんだ。それが、その一年間で書いた唯一の曲になるんだけど、それがのちの『1999』っていうアルバムに繋がってるんだ。それからしばらくして、抗うつ剤を飲むんだけど、飲んだ次の日にはベッドから起き上がって、母屋からピアノの置いてある家に行って、曲を書き始めたんだ。そこで出来たのが『1999』っていうアルバムなんだよ。だから、抗うつ剤と巡り会うまでは、本当に大変だったんだよ」


●今回のアルバムにも、“LOVE ENCHANTED”や“POWER OF LOVE”、“LOVE NOT DEAD”といった愛や愛するひとを歌った曲が収められていますが、あなたの書くメロディや歌声には常に愛や温もりが溢れているにも関わらず、実際に歌われる世界は、愛の喪失感や他者とのコミュニケーション不全を描いたものが多いですよね。もちろん、そうした葛藤や悲しみは誰もが抱える普遍的なものであるわけですが、なぜあなたの歌はとりわけそうした感情に強く惹かれてしまうのだと思いますか。

「うーん、わかんない、へへへへへへへへ、どうしてなんだろうね。でも、ミュージシャンはみんなラヴ・ソングを歌ってるからさ。ラジオから流れてくる曲の半分はラヴ・ソングだと思うよ。今、きっと、ラジオをつけたら、♪オー、マイ・ラ~ヴ、ラ~~ヴ、ラ~~~ヴ、ラ~~~~~って流れてくるはずだし(笑)、それと同じで、ぼくがギターを弾きだしたら、♪ラヴ・ユア・ベイビ~、オール・ナイト・ロング~ってなっちゃうんだよ(笑)。誰かが歌をうたい始めたら、6割方がラヴ・ソングなんだよ。だから、曲を書いたらどうしたってラヴ・ソングになるというか、ラヴ・ソングを書かないでいることのほうがかえって難しいのかも……うーん、でも、君の言ってることの意味もわかるよ。ぼくもラヴ・ソング以外の曲を書こうとしてるんだけど、どうしてか最後にはラヴ・ソングになっちゃうんだ。努力はしてるんだけど、すごく難しい……どうしてなのかなあ……ははははは。ピアノの前に辞書を置いておいて、“ラヴ”って言葉が飛び出してきたら、パッと辞書を開いて別の単語を探したほうがいいのかもしれない(笑)」


●これはあくまで想像なのですが、あなたは自分の感情や思いを曲(または絵)にすることによってはじめて素直に相手に伝えることができるタイプなのではないでしょうか。

「うーん、でも、曲を書くのって、ぼくにとっては一種のセラピーみたいなところがあるんだよね。曲を書くことで、わかってくることもあるし、いろいろ考えるし……うーん、あと、映画を作ってるような気分にもなる。ぼくが映画スターにでもなって、音楽にのって♪ジャーンって登場して、『今日はこういうこと言うぞー』みたいな(笑)。だから、映画や小説を作るみたいに自分でストーリーを作り上げてる部分もあるんだけど、それと同時に、自分でもわからない部分があって……もちろん、書いてるのは自分なんだけど、でも、書かされてるっていうか……自分で曲を書きながらも、どこに向かってるんだかわからない。えーっと、だから、たとえば、ここでこういう音が鳴って、次にこういう展開が来るってときに、ぼくのほうが曲に合わせていってるっていうか……ある意味、ゲームをしてるみたいな感覚に近いのかな。いや、ゲームじゃないな……だからって、チャネリングみたいなものでもないし…………えーっと、だから、イラストを描くときと同じかもしれない。何も考えずに、ただ思いつくままに手を動かしていって、あっちこっち寄り道して、最後にはひとつの作品が完成するっていう。だから、曲を書く場合でも、まずはピアノを弾いてみなくちゃ始まらないっていうか……ぼくが曲を書いてるのって、ピアノに頼ってる部分がすごく大きいと思うんだ。実際、ピアノで曲を書くほうが、イラストを描くよりも簡単なんだよね」


●絵を描く場合と曲を書く場合とでは、やはり違った充足感が得られるものですか。 それとも、絵を描くことと曲を書くことは、あなたの表現の中で切っても切り離せない関係なのでしょうか。

「うーん…………でも、結局のところ、ぼくにとって、歌も絵も同じなんだよね。アルバムにはいつもぼくの絵を使ってるし。たしかに、イラストのほうも売れてるんだけど、でも、自分のお気に入りの絵は、いつも手元に残して置いて、アルバム用に使うことにしてるんだよ。それで、お気に入りのイラストの中から、アルバムの中身に合うのをいくつかピック・アップして使ってるんだ。だから、お気に入りの絵はアルバムに使うからって言って、売らないで自分用に取っておくんだよ。だから、すごくおかしな絵が描けたときには、『あ、これはあの曲に合うな』って、いろいろ考えたりしてね。ふふふふふふ」


●ヨ・ラ・テンゴやパステルズ、バットホール・サーファーズやソニック・ユースの面々、そしてジャド・フェアや今は亡きカート・コバーンなど、あなたの音楽のファンを公言するミュージシャンは尽きないわけですが――。

「ビートルズも、ぼくのファンなんだよ(笑)」


●(笑)、ご自身では、あなたの音楽のどんなところが彼らを惹きつけてやまないのだと思いますか。

「うーん、それは何て言うか………………ふーむ…………ぼくって歌と伴奏がちょっとズレてて、それがおかしいのかなあ……うん、おかしくて、シリアスで、でも、じーっと聴いてると、うたの中に込められた気持ちとか、ユーモアとかがじわっと滲み出てきて、それが聴く人にとっては楽しいんじゃないかな。うん、なんか、そんな感じ……きっと、何かあるんだろうね。ぼくにはわからないけど、何かあるんだよ。でも、ぼくにはそれは何なのかわからないんだ。はははは」


●自分で自分の曲を聴いてても、そういう気持ちになったりしますか。

「うん、ぼくも自分の曲はすごく好きだと思うんだ。それに、アルバムを作ること自体が好きで、いつもいつも次に出すアルバムのことばかり考えてるんだ……うーん……うーん……えーっと、そう言えば、85年のことだけど、地元のテキサス州オースティンで、ベスト・ソングライターに選ばれたことがあるよ。あははははははは。それから、92年だったかにも賞をもらったよ。そのときも、やっぱり、テキサス州オースティンの代表としてね(笑)。でも、それも今となっては、ずいぶん昔の話だよ。だって、ダニエル・ジョンストンという人はもうすでに死んでしまったんだから……」


●へ?

「いずれにしろ、ぼくの曲が好きな人もいれば、好きじゃない人もいるってことで、ぼくにはよくわからないよ」


●聞くところによると、10代になるかならないかの頃にはすでに作曲をされていたそうですが、いつ頃から、曲を書き始めたんですか。

「今みたいに、ちゃんとテーマを絞って曲を書き始めたのは、80年頃なんだ。ただ、その前から努力はしてたんだよ。ビートルズの曲をお手本にして、なんとか自分でも曲を書こうとしてね。そんなとき、たまたまある女の子と出会って、その子のボーイフレンドも音楽をやってたんだけど、ぼくはその子のことがすごく好きで、彼女のためにピアノで曲を書いたんだ。そしたら、その子がぼくに『(女声で)あなたの曲のほうがずっと上手よ』って言ってくれて、それからは朝から晩まで一日も欠かさずピアノに向かったよ! ぼくはその子のことが本当に好きで、ぼくにとって永遠の理想の女性なんだけど、その子のためにピアノに向かって曲を書いて、ダニエルと言えばピアノっていうくらいピアノばっかり弾いてたんだ。止めようと思っても、指が止まらないんだよ。ぼくにもどうしてかわからないんだけど、あのとき、その女の子の魔法にかかかっちゃったんだね。ほんとに、獲りつかれたようにピアノに向かって曲を作り続けて、そんな状態が3年ぐらい続いたのかなあ……そのあと85年に、ぼくの住んでるテキサスのオースティンに、MTVが取材に来たんだよ。それが、ミュージシャンとしての転機になるんだけど、今でもぼくの人生のハイライトなんだ……ふふふふ、だってさ、80年に曲を書き始めて、5年後の85年にはもうMTVに出演を果たしたんだからね、これはなかなかの出世だよ(笑)。へへへへへへへ……で、MTVに出演を果たしてから3年後に、ようやくメジャー・デビューを果たしたんだ。レコード会社と契約が決まるまでの3年間を振り返ると、よく続いてたなって思うんだけど、実際、すごく大変だったし、苦労もあったし……もちろん、音楽は作り続けてたんだけど、それでもずっとアンダーグラウンドのままだったしね。それでも、今ようやく、こうして成功を手にして……いや、成功まではあともう一歩かな(笑)。もうちょっと、がんばらないとっていうふうには思ってるんだけど……うん、いつか。いつか、ぼくも成功するといいんだけどね。うーん……でも、そのためには、まずは技術的な課題をクリアしていかないと……もっとこう、プロの何恥じない音を出せるようにならないとと思ってて……そのへんのプロ意識はちゃんとあるんだよ」


●はじめて書いた曲を覚えていますか。 それはどんな曲ですか。

「うーんと、今までにも曲はたくさん書いたけど、最初に作った曲は、ピアノで作ったインストゥルメンタルで……あとになってタイトルをつけたんだけど“Dead Dog’s Eye Balls’ Theme(死んだ犬の目玉のテーマ・ソング)”っていう曲なんだ」


●それって、悲しい歌ですか。

「そうなんだよ。ははははは」


●そのとき飼ってた犬が死んじゃったとか。

「いや、タイトルは、ビートルズの“アイ・アム・ザ・ウォレス”の歌詞に、“死んだ犬の目玉”って言葉が出てきて、そこから拝借したんだけど。でも、最初にこの曲のアイディアを思いついたのは、5歳か6歳とか、そのくらいのときなんだけど、曲の形にするのに何年もかかって……というか、実はいまだに取り組んでるんだよ。だから、はじめて書いた曲なんだけど、まだ完成してないんだよ。はははははは」


●曲作りのインスピレーションは、どんなものから得ているのですか。

「ビートルズだね。うん、一番のインスピレーションはビートルズかな。それから、聖書に、お気に入りの映画に……うん、好きな映画とか、ぼくの好きなもの全部が、ぼくにとってのインスピレーションだよ。えーっと、そろそろお別れしなくちゃ。このあと、またレコーディングをしなくちゃいけないんだ」


●最後に。今年6月にLAで行われるオール・トゥモローズ・パーティーズに出演されるそうですね。これはどういった経緯から? 主催者が『ザ・シンプソンズ』の生みの親であるマット・グロウニングであるというのも関係しているのでしょうか。

「えーーーーーー!! マット・グロウニングも、観に来てくれるって!? それ、本当?」


●だって、彼が呼びかけてるイベントだから。

「ぼく、『シンプソンズ』は大好きなんだよね! へえ! マット・グロウニングが観に来てくれるんなら、体調を整えて、何が何でも演奏しに行かなくちゃ。えーっと、今日は話を聞いてくれてありがとう。日本でまた会おうね!」


●最後の最後に。今のあなたにとって「FUN(※94年のアルバム・タイトル)」と「WISH(※今作の収録曲のタイトル)」とは何ですか。

「“FUN”ねえ……ぼくが楽しいと思うことだよね……うーん、なんだろう……ぼくはまだ本当の楽しみっていうものを知らないんじゃないかって気がするんだ。ぼくもとにはまだ訪れていないっていうか……えーっとだから“FUN”=“未来”ってことになるのかな。楽しみは未来まで取ってあるんだよ。それがぼくの夢かなあ……いつか、富と名声を手にして、初めて本当の楽しみを知るのかもしれない。だから、ぼくにとって“FUN”=“未来”だね。それから、“FUN”=“ピース&ラヴ”でもあるかな」


●あなたにとって“WISH”は?

「すべての人にとって平和が訪れますように」



(2003/2)

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