2011年11月23日水曜日

極私的2000年代考(仮)……「レコード盤中毒者の匿名トリオ」による即興考

3月下旬、先のテロ事件の影響で延期となっていたディスカホリック・アノニマス・トリオの来日公演が行われた。

「レコード盤中毒者の匿名トリオ」とはよく名付けたもので、メンバーのサーストン・ムーア、ジム・オルーク、フリー・ジャズ奏者のマッツ・グスタフソンは3人とも無類のレコード・コレクター。しかも結成の目的は「レコード屋が充実している街を旅しながら演奏すること」……冗談のような話だが、しかしそうして音源を掘り続け得た様々な意匠が彼らの創作をインスパイアし、ラディカルかつ独創的なサウンドを生みだしているのだと、今宵のライヴは証明していた。


●ストロークスってどう思います?

サーストン(以下T)「すごい、かわいいんじゃない。もし、ぼくが少しでも若ければ、食っちゃってたかも」


●(笑)音の方はいかがでしょうか。

T「ちゃんと聴いたことないんだ、実は。テレビでちらっと見たことあるし、あとストロークス好きも周りにいるんだけど。でも、なんだろう、ちょっと使い捨てポップスって気もするけどね。まあ、使い捨ての音楽は好きだから、別にいいんじゃないの。批判するつもりはないし、ザ・ストロークスがやりたいこともわかるし。ただ、個人的には熱狂するような音楽じゃないよね」


●そうですか。

T「ニルヴァーナの方が良かったよ(笑)」


●(笑)。他にニューヨークで活きのいいバンドはありますか。

T「うん。最近ニューヨークのバンドが結構注目を浴びるようになったよね。ストロークスはもちろんのこと、ヤー・ヤー・ヤーズってバンドも人気あるし。あと、ちょっと毛色は違うけどブラック・ダイスとかいて。今はニューヨークで活動してるけど、ロードアイランド州のプロビデンスのバンドなんだ。あと、それに近いバンドでライトニング・ボルトっていうのも気に入ってる」


●ブラック・ダイスとライトニング・ボルトは1月頃に一緒に来日してましたよ。

T「そうだったんだ。良かったでしょ?」


●ええ。

ジム(以下J)「うん、ブラック・ダイスはいいバンドだよ。ライトニング・ボルトもね」

T「その2つはどっちかっていうとノイズっぽくって、ちょっとマニアックな感じで、ヤー・ヤー・ヤーズとかはもっとわかりやすいパンクなポップなんだよね。あと、まだちゃんと聴いてはいないんだけどライアーズっていうバンドの評判も結構いいらしい。最近ニューヨークから出てくる若いバンドってみんな要領がいいんだよね」

J「でも、ニューヨークでこいつら(とストロークスを指す)のことを知ってる人はいなかったじゃん」

T「そうそう。それがストロークスの面白いところで、彼らのプレス・エージェントはかなりのやり手で、アルバムが出てもないっていうのに、イギリスとかヨーロッパでは『ニューヨークからの新星、ザ・ストロークス』みたいな感じで煽りたててさ。でも、実際にニューヨークでザ・ストロークスの存在を知ってる人はいなかったっていう。実は2ヵ月前、ジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンのラッセル・シミンズと『ストロークスって誰なの?』って話をしてたばかりなんだよね。同じニューヨーク出身ってことでしょっちゅうストロークスについて聞かれるんだけど、お互い誰のことなのかさっぱり分からなかったんだ。なにしろ1年前には存在してなかったバンドなんだから」

J「そうそう、スペインに行ったときも、インタヴューされる度に聞かれたんだけど、答えようが無かったんだよね」

T「でも、やっとその正体がわかったんだ。ストロークスはまさにニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックだよ」


●(笑)。

J「そう言えば、日本ではどっちのジャケットを使ってるんだっけ?」


●お尻のやつ。

J「そうなんだ。アメリカは違うよね」

T「アメリカではサイケがかったジャケットだよ」

J「そうだった」

T「でも、ストロークスっていまだにちゃんと聴いてないんだ。この前、お店で流れてたんだけど、なんだろう……。みんなはヴェルヴェット・アンダーグラウンドとテレヴィジョンを混ぜた感じだっていうけど、ぼくはそうとは思わないなあ。まあ、すごく洗練されてるっていうか、ある意味、狡猾にさえも感じるよね。でも、レッド・ホット・チリ・ペッパーズとかオアシスとかプライマル・スクリームのゴミ音楽よりかはマシなんじゃない」


●(笑)。

T「あとコーンとか、ウィーザーとか、ぜ~んぶ最低だぁ~」


●(笑)。

J「(手もとの音楽誌を見ながら)シャーラタンズの人って見付かったんだっけ?」


●失踪したのはマニック・ストリート・プリーチャーズですよ。

J「そっか(笑)」


●ニューヨークの若いバンドと交流があったりするんですか。

T「うーん、ある程度はね。でもぼくたちってもう古株なんだよ。だから、別にシーンと密接な関わりがあるってわけじゃないんだ。もし、そういうバンドと交流することがあるとすれば、それはたまたま一緒にライヴをやったりする時ぐらいで。例えば、ロサンゼルスでオール・トゥモローズ・パーティーズをやったばっかりなんだけど、あれは若いバンドと接するいい機会だった。ブラック・ダイスとかさ、ぼくにしてみればまだキッズって感じで。普段だったら、あまり仲良くならないかもしれないよね。なにしろ、オヤジだからさ、ぼく」


●(笑)。

T「だから、みんないい連中なんだけど、特に仲が良かったりするわけじゃないよ」


●マッツもロック・バンドを聴いたりするんですか。


マッツ(以下M)「ロックしか聴かない」


●(笑)そうなの。

M「買うのはジャズのレコードばっかりだけど、聴くのはロックだけ」

J「ひゃははは」


●(笑)若いジャズの即興のミュージシャンはいたりするのでしょうか。 日本にはあまりそういう情報が伝わってこないんですけど?

M「え、それってどこのこと?」


●スウェーデン。

M「うんうん、いっぱいいるよ。その話だったらもう延々とできるから。ちょっと前までは、ぼくとか一握りの人しかインプロヴィゼーションをやってなかったんだけど、最近は若い世代のミュージシャンも増えてきて。しかも、最近の連中はロック・シーンやクラブ・シーンから出てきてるもんで、ジャズが主体のミュージシャンばっかりの時代に比べてかなり多様性があるシーンになったんだよね。だからちょっと前に比べて、盛り上がってるし、すごく刺激的だよ」


●なるほど。では、ここでディスカホリック・アノニマス・トリオについてお聞きしたいのですが、昨日のライヴはいかがでしたか。

M「買い物の時間を削られてしまった」

T「そうそう。本当はレコード屋を周ってるはずの時間だったのにさ」


●(笑)。

T「でも、まあ、ライヴ自体は良かったよ。実は昨日は3人で演る初めてのライヴだったんだ」


●そうだったんだ。

M「うん、まだこの3人ではアルバムを作っただけなんだ」

T「だから、昨日はどう転んでもおかしくなかったんだよね。思ったよりエレクトロニカルな傾向が強いライヴだったかも。でも、楽しかったよ。とにかく即興音楽なんだから、一つ一つのライヴを個性的なものにしたいんだ。自分たちだって実際にどういうサウンドだったのかはわからないわけだし」
M「そうだよね。でも、すごく上手くいったんじゃない? で、明日はまた全然違うものになってるはずだよ」


●録音したんですか?

T「うんうん。ライヴを録音したし、ビデオも撮った」

M「2週間後に12インチとしてリリースするつもりだよ」


●そうなんだ。

J「このグループは最も細かく記録された即興音楽集団になるはずさ」

M「(笑)そうなんだよね。ぼくたちが鳴らすサウンドは一つ残らず記録するから」

T「一音一音を金にしてやるんだ」

全員「(爆笑)」


●(笑)実際に音を出してる時はどういう精神状態なんでしょうか。昨日のステージを見てると、気持ち良さそうなんだけど、緊張感もかなりあるように見えたんですが。

T「そうだね、普通のロック・バンドでやってるのとはだいぶ違うよ。なにしろ決まり事が一切ないんだからさ」

J「時間の感覚もぜんぜん違うんだよね。普通の曲を演奏してる場合は、自分のやってることと、バンドのやってることに、集中力を分散することができるけど、インプロヴィゼーションの場合はすべてのことに終始、気を配らなきゃいけないわけだからさ」

M「そう、インプロヴィゼーションだと、いつ音楽の流れが変わってもおかしくないわけで、普通のバンドだとそういう不安はないもんね」

T「本当に自由なんだよ。だけど、自由である反面、それだけ責任もあるわけで。他のメンバーに迷惑かけないように、ずっと音楽に集中してなきゃいけないんだ。だから、緊張感が生まれるんだよ。他のメンバーとお客さんにとって常に刺激的なサウンドを奏でなきゃいけないわけだから」

M「テンションはいつだってあるんだ。ただ、そのエネルギーに自分が乗っかって盛り上がるか、そのエネルギーを他のメンバーに譲るかって感じで。すべてはコミュニケーションなんだよ」

T「(音楽誌のロジャー・ウォーターズの広告を指して)げっ。いつか、ストロークスの連中もこうなっちゃうんだよ。オッサンにね」


●(笑)結成の経緯はどんな感じだったんですか。

T「全員、レコード・マニアだから。3人でバンドをやって、レコード屋の充実してる色んな街で演奏するのが、ぼくたちの目的なんだ。そういう街じゃなきゃライヴはやらない。もちろん、音楽も重要なんだけど……。えーと、世界中のレコード屋を周る理由になるからね」

J「きゃはははは」


●(笑)それだけが結成の理由なんですか。

J「まあ、お互い他で一緒に演ったことはあるんだけど、この3人で集まって本格的に活動しようってなった時、ニュージャージーのど真ん中みたいに何もないところで演ってもしょうがないってことになって」

T「そう3人とも昔からの知り合いだし、ソニック・ユースや他のインプロヴィゼーションのセッションを通して、一緒に演奏することはよくあった。その上に、お互いが屈指のレコード・マニアだってことも知っていた」


●(笑)。

T「いや、マジな話、この3人はコアなレコード・オタクなんだよ。レコードを買う人は大勢いるけど、ぼくたちほどの人はなかなかいないって。ピーター・ブラウスマン(?)もリー・ラナルドだってレコード・マニアではない。確かにレコードを集めてるミュージシャンは他にもいるけど、ここまで極端なマニアは少ないと思うよ。マジで狂ってるんだから、この3人は」

M「それはこのツアーで必要以上に証明できたと思うよ」

T「そうなんだよ。だから、最初っからコンセプトはあったんだ。人前で演奏しながら、素晴らしいレコード屋がいっぱいある街を旅するっていうね。東京や大阪はもちろんのこと、ストックホルムとかにもこれから行く予定だよ」

M「でも、レコードってインスピレーションの源になるし、そういう意味でも、面白いんだ。今回のツアーは必ずしも買い物ツアーってわけじゃないんだよ。ぼくの場合はレコードを聴いて、それに影響を受けることが大切なんだ。なにしろ、ぼくみたいにラップランドみたいな所に住んでると滅多にライヴなんか見ることができないからね」

T「ぼくもライヴよりレコード聴いてる方が好きなんだ。だってライヴって、いつも混んでるし、隣のやつがタバコ吸ってたりするし……」

M「レコードだと、いつ何を聴きたいか自分で決められるからね」


●では、具体的な音楽のコンセプトがあったわけではないのですか。

M「音楽のことは話し合わなかったなあ」


●(笑)やっぱり、そうなんですか。

T「でも、トリオでインプロヴィゼーションに取り組みたかってのは元々あったよ。で、スウェーデンで3人でレコーディングをしたんだけど、それをリリースしようって決めた時、このプロジェクトのコンセプトを決めたんだ。つまり、レコードがいっぱい手に入るところでしかツアーしないってこと(笑)」

M「すぐ決まったよな、それ(笑)」

T「確かにどこでもライヴを演るインプロヴィゼーション・トリオでもよかったわけだけど、それよりか、しっかりしたルールみたいなのがあった方が面白いと思ってね」

M「あと、滑り出しが絶好調だったっていうか、スウェーデンでレコーディングした直後、3人でそのままバスでコペンハーゲンに行ったんだけど、そのバスがいっぱいになるほどレコードを買い漁ったんだよね(笑)。素晴らしかったなあ、あれは」

T「そうそう、コペンハーゲンにはかなりいけてるレコード屋が何軒もあるからさ。それがキッカケとなってこのグループはレコードを死ぬほど入荷できるところじゃないと、演奏しないっていうコンセプトが生まれたんだ。そうじゃない場所では、オファーがあっても断ることにしたんだよ」

M「その通り」


●普通の音楽にはない即興演奏の魅力とは3人にとって何なのでしょうか。

T「その前に、こっちから質問したいんだけど、売りたいレコードある?」


●いやいや。

T「そうなんだ。わかった。でも、即興音楽の魅力とはって聞かれても。えーと、昔、デレク・ベイリーが『みんなが即興音楽に熱狂しないのが理解できない。これほど魅力的な音楽はないのに』って言ってたけど、本当にその通りなんだよね。まったく展開の予想できない音楽だし、ミュージシャン同士のインタラクションを観察できて、面白いし。で、インプロヴィゼーションっていわゆる“ジャム”とは違って、ノリだけで演奏してるんじゃないんだよね。演奏に全神経を集中させて、まさにインプロヴァイズしてるんだ。それって本当に面白いことだと思うし、このスタイルがあまり人気ないのはぼくも不思議だよ。だって、即興音楽こそ人生に最も忠実な音楽っていうか。だって人生っていくら整理しようとしても、結局は予想不可能な要素にしょっちゅう左右されてるわけだから。そういう意味で即興演奏は人生にすごく似てるんだよね」

M「もう一つ引用を使わせてもらうけど、イスラエル人の作曲家とサックス奏者のドワーラー・ワイラー(?)が『自由で自立した演奏、または自由で自立したリスニングは、自由で自立した思想に繋がって、それは自由で自立した活動に繋がる』と言ってたんだよね。サーストンにこのプロジェクトの話を聞いた時、すごくそれがぴんときて。アートも文学も美術もパフォーマンスも、すべてがそれに繋がってるんだと思う」

J「ぼくは単純にジャムりたいだけ(笑)」

M「(笑)なんか、違うなあ~」

T「そう、こいつは女にもてたいだけなんだよ」

J「(笑)あまり知られてないらしいけど、インプロヴィゼーションにはいい女が寄ってくるんだよ」


●(笑)マッツは元々ジャズから即興音楽の世界に入ってきたってことですけど、サーストンやジムはこういう音楽に興味を持つキッカケになった作品はあるんでしょうか。

J「ぼくだってインプロヴィゼーション畑の出身だよ。そもそもマッツと出会ったのは、1990年にロンドンで開催されたデレク・ベイリーのフェスティバルにお互いが出演したからなんだから。で、そのデリック・ベイリーの音楽こそ、ぼくが即興音楽に興味を持つようになったキッカケだったんだ。高校の先生が、実は牧師で、何でだか知らないんだけど、すべてのジャンルの音楽から各1枚、アルバムをピックアップしたコレクションを教室に置いてて――」

T「すごいな、それ」

M「(サーストンに)この話、聞いたことある?」

T「いや、初めて聞くよ」


●(笑)。

J「その頃はジャズに興味があったんで、色々と教えてもらってさ。ある時、アンソニー・ブラクストンのアルバムを貸してもらったんだけど、先生はあまり気に入ってなかったらしいんだ。でも、ぼくは他のものに比べてかなり気に入っちゃって。そのアルバムを軸に自分の好みを言ってみると、今度はジョン・ケージのアルバムを貸してくれて、それがまた、かなりの衝撃でさ。だから、そういう音楽にすごく興味が湧いて、図書館で色々と調べてみたんだ。そしたら、『ローリング・ストーン』誌のアルバム・ガイドみたいなのにジョン・ケージの『インデターミナンシー』のアルバム評が載ってて、何故か5ツ星だったんだよね、ロック誌だっていうのに(笑)。その記事にデレク・ベイリーの名前があって、すぐにその名前の正体を探ったんだよ。なにしろ、その頃は狂信的にそういう音楽を追求してたからさ。その図書館でデレク・ベイリーとデイヴ・ホーランドが一緒にやってるアルバムを探したんだけど、そのアルバムこそぼくが求めてたもので。昆虫としか思えないような音が延々と収録されてるんだよね。クチャクチャクチャって感じなんだけど、『これメチャクチャいけてる!』って思って。その頃は、即興音楽の概念なんか全然なくて、ただ、ひたすらデレク・ベイリーの音楽を聴きまくってただけなんだ。それから、そういう音楽のルーツも探るようになったんだよね」


●そうなんだ。それって高校時代の話なんですよね?

J「そうだよ。あと、フランク・ザッパの影響も大きかったよ。ザッパの自筆ライナー・ノーツとかを読むと、インプロヴィゼーションの話とかがよく出てきたから、興味が湧いたってのもある。だけど、その頃は、フリー・ジャズだとか、インプロヴィゼーションだとか、識別してなくて、全部を同列のものとして聴いてたんだよね。こっちのほうがこっちよりウルサイって程度で(笑)」


●(笑)。サーストンはどうだったんでしょうか。きっかけになった作品かアーティストはありましたか。

T「んー、恐らくデレク・ベイリーのライヴを見た時になるかなあ。それまでは、ジョン・ゾーンの世界を通して即興音楽の存在とかは知ってたんだけど。ジョン・ゾーンがやってたザ・セイントっていうライヴハウスがあって、たまに行ってたんだけど、あまり興味は湧かなかったんだよね。なんか、髭のオッサン達が難解ことやってるって感じでさ。それよりか、リディア・ランチとか、グレン・ブランカとか、身近な人達がやってた実験音楽のほうが面白かったんだ。だからインプロヴィゼーションのことはなんとなく分かってたんだけど、いまいち理解できてなかったんだよね。本格的にそういう音楽を追求し始めたのは、ジャズを聴き出してからなんだ。奥さん(※キム・ゴードン)がすごくジャズが好きで、(ジョン)コルトレーンとかアルバート・アイラーを紹介してくれて。それからバード(チャーリー・パーカー)やレスター(ヤング)とか、ジャズのルーツを探るようになって、ジャズの歴史やアーティストの人脈を理解するようになったんだ。そうなったら、もう本格的に面白くなってね。『最近はどんどんジャズそのものから離れて、レーベルだとかそういう関係性ばっかりに集中しがちだ』ってブラウッツマン(?)が言ってたけど、ぼくも実際に音楽そのものよりかは、ムーヴメントの方に興味があったんだよね。そういうミュージシャンから、自分たちで伝統を作り上げてるっていう意志を感じて、パンクなんかよりずっとアンダーグラウンドで、過激に思えたんだ。実はその頃、デレク・ベイリーのアルバムを一枚通して聴くほどの忍耐力が自分にあると思わなかったんだよね。でも、ある時ライヴを見に行って。人が全然入ってない小さなクラブで、ポール・モーションと演ってて――」

M「それって2人だけで?」

T「そうだよ。そのライヴは本当に衝撃で、今まで聴いたことないくらい崇高で、洗練された音楽を耳にしたんだよね。同時に革新的で、過激だったし。そう言えば、そのライヴでポール・モーションがドラムをセッティングしてたら、PA担当がドラムにマイクをつけ始めたんだけど、ポール・モーションが『余計なことをするな!』っていきなり怒鳴り出してさ。びっくりしたよ。どうやら、アンプとドラムと、オーガニックなサウンドだけを使って演奏したかったらしくて、それ以外のサウンドの操作はマジで嫌がってたんだよね」

J「伝説的なライヴじゃん、それ。その2人が一緒に演ったのって、その時だけだよ」

T「そうなんだよね。アラン・リヒトも客席にいたよ」

J「(ヘンリー)カイザーもいたはずだよ」

T「そうなんだ。でも、とにかく、その時点では、最高に衝撃的なパフォーマンスだったよ。それまでも、かなり凄い音楽を体験してるはずなのに。だから、あのライヴのおかげで、インプロヴィゼーションの世界のことをもっと知りたくなって、あと、ミュージシャンとしてもすごく興味を持つようになってさ。でも、前から正しいギターの弾き方なんか知らなかったから、基本的にはずっとインプロヴィゼーションしてたようなもんなんだよね。どっちかっていうと、ノイズとかに傾倒してたかもしれないけど。ノイズをインプロヴィゼーションだと認めない、トラディショナルな即興音楽家はいるかもしれないけど、ぼくはそうだとは思わない。あの、ルーマニアの作曲家、えーと――」

J「ドゥメトリスキオ(?)」

T「そうそう、ドゥメトリスキオなんか、『最近一番面白いと思う音楽はアンダーグランドのノイズ・バンド』って言ってたくらいなんだから。本当にその通りだと思うよ。別にノイズ演ってる連中だって、適当にやってるわけじゃないんだし、れっきとしたミュージシャンなんだからさ。だから、ぼくにとって、そういう革新的なサブ・ジャンルには基本的に同じような雰囲気が漂ってると思うんだ。今でもそうで、別に自分たちがやってるのがデレク・ベイリー流やメルツバウ流とかじゃなくて、全部が繋がってる感じなんだよ」

M「レコードのおかげでね」

T「そう、レコードのおかげで」


●音楽じゃなくても、50年代のビートニクの文学や詩の影響はあるのでしょうか。

T「ていうか、ビートニクの詩人がジャズ即興に影響されたことはれっきとした事実んなんだからさ。だから、別にビートニクの詩人だけが、ああいう表現をしてたわけじゃないんだ。確かにアメリカのビートニク達が、あのスタイルを人気にしたってのはあるけど、別に連中が始めたムーヴメントじゃないんだよね。ただ、ジャック・ケルアックの凄いとこは、まるでスリム・ゲイラードみたいに独奏してる感じで小説を書いてたことなんだよね。だから面白いことにケルアックってアメリカではいまだに異端扱いされてるんだ、あんなにメインストリームにおける評価が高いっていうのに。まあ、へミングウェイじゃないってことだよね(笑)」


●(笑)。そういう文学にインスピレーションを受けることはありますか。

T「うん、好きだし。ただ、あまり過大評価したくないんだよね。ビートニクって戦後、自分たちの力でカルチャーを作り上げて来た人たちなんだ。その頃のアメリカが、覆い隠そうとしてたものを曝け出し、それを表現してたんだよね。つまり不満とか疎外感を表現してたんだよ。だけど、文章そのものはクラシックなスタイルに基づいてて、洗練されてたんだよね。ビートニクが聴いてる音楽もすごく過激で、革新的だって言われてたけど、実はアフリカにルーツを持つすごく洗練された音楽だったっていう。だけど、うん、ああいう文学には影響を受けたよ」


●そうなんだ。3人とも他のプロジェクトを色々とやってますが、その中におけるディスカホリックの位置付けは? 他のプロジェクトと互いにフィードバックするものなんでしょうか。

J「まあ、そりゃあ、それぞれのプロジェクトから学ぶものはもちろんあって、プロジェクト同士も共通する点はあるわけで。以前に体験したシチュエーションをまた上手く利用してるっていう感じなんだ。インプロヴィゼーションにしても、他のメンバーと演った時のことを参考にして、新たなメンバーと挑むわけだし。だから、ぼくの場合は、いちいち一つ一つのプロジェクトを線引きするようなことはないんだ」

M「ぼくだって、そうだよ。全部のプロジェクトはぼくの中で繋がってるんだ。それこそ、さっきのビートニク詩人の話じゃないけど、自分からそういう刺激を求めて活動してるわけなんだから、何をやっても自分の大事な一部になるんだよ」

J「そうそう、何においても活動とはそういうもんなんだよ。レコード漁りにしても、自ら面白いものを探すためのわけで。別に他の人にこれは面白いと言われたレコードを探してるわけじゃないんだ。もちろん、他人にレコードを勧められることは歓迎するけど、基本的には自ら積極的に探してるわけで」

M「終ることのない旅っていうか。全てが全てに繋がっていて、一つのことから新たな発見があるんだよ」


●ということは、ディスカホリックはただ単にレコード収集の旅じゃなくて、音楽的にも何か得るものはあると思いますか。

全員「もちろん」


●サーストンは何か付け加えたいことありますか。

T「すべて、いい~か~ん~じ~」


●(笑)。

T「いや、でも、もちろん楽しいと思えるプロジェクトはあるし、後悔したプロジェクトもある、ごくたまにだけどね。でも、一日の時間が少なすぎると思うほど、やりたいことはいっぱいあるんだ。本当に短すぎるよ。なにしろ、まだ買わなきゃいけないレコードが死ぬほどあるんだから」


●(笑)。

T「レコード収集ってかなり時間がかかるんだよね。しかも、そのために実際に音楽に取り組んでる時間が制限されちゃうっていう」


●聴くのも大変そうだし。

T「うん。それと整理するのもね。これが一番、時間を食う作業なんじゃないかなあ」

M「そうそう。話してるだけで気が遠くなっちゃうよな」

T「本当に何時間もかかるんだよ。でも、いつだって音楽のことは考えてるって(笑)」

J「そうそう、新たに買ったレコードを聴きながら、前に買ったレコードを仕分けるっていう」

T「へへへ、そうなんだけど。でも、色んなプロジェクトに誘われるんだけど、結構断らなくちゃいけないことが多いんだ。本当はできるだけ多くの人達と演りたいから、ウンザリするんだけど、しょうがないんだよね。もう独身じゃないからさ。家族に対する責任も果たさなきゃいけないんだよ」

M「でも、それだからこそ、さっきのように自分の決断っていうのも、すごく積極的じゃなくちゃいけないんだよね。優先順位を付けて、一番やりたいことに専念するっていう。そうじゃなくちゃ、やってられないよ」

T「そうだよね」


●では、最後にこの前終ったばかりのオール・トゥモローズ・パーティーズについて聞きたいんですけど――

M「(ATPのTシャツを見せ付けて)最高だったよ」

T「マジで楽しかったよ。本当に上手くいったと思うんだけど。で、何が知りたいって言うんだよ、君?」

全員「(爆笑)」


●(笑)いや、今回のラインアップはヒップホップとか電子音楽の最先端のアーティストがいたのと同時に――

T「電子音楽なんかあったっけ?」


●エイフェックス・ツインとかフェネズとか……

T「フェネズは出演しなかったよ」


●そうなの?

J「うん、無理だったんだ」


●あとピータ・レバーグは?

T「でも、ピータって電子音楽とは思わないよ」

J「フェネスもね」


●まあ、そういう新しい音楽と同時にジェラルド・マランガやアンガス・マクリーズが出演したことが――

T「おいおい、アンガス・マクリーズは死んでるぞ。もう70年代にとっくに死んだって」

J「はははは」

●ああ、すいません、トニー・コンラッドと間違えました……

T「トニーは最高だったよ」


●あとテレヴィジョンも。

J「テレヴィジョンは出てたよ」

T「テレヴィジョン? うん、良かったよ。ていうか、全部良かったよ。ぼくたちだって、あまりにも色んなミュージシャンが集まったもんで、どうなるか予想できなかったんだけど、みんな最高のパフォーマンスだったね。みんなリラックスしてたし、うざったいロック・スターのエゴみたいなのは皆無だった。マネージャーやエージェントやレコード会社の連中とか、そういう業界人はまったくいなかったんだ。だって、呼ばなかったもん」

M「本当にいい環境だったよなあ」

T「だから、アーティストがアーティストのために演ってるって感じで。みんなお互いのアートを尊敬していて、フェスにありがちないざこざとかなくてさ。面白いことだよね、それって。別にぼくたちはみんなにそういう態度を強制したたわけじゃなくて、自然とそういう雰囲気になったんだよね。で、音楽も最高だったから」


●ラインアップはサウーストンが選んだんですか。

T「そうだよ。すごく大変だったんだよね。だって、4日分のアーティストなんか、1年あっても選べないって。あと、ギャラもそんな払えるわけじゃないし。テレヴィジョンとかセシル・テイラーは伝説的な存在なんで、それなりのお金を払ったけど」


●何かコンセプトがあって組んだラインアップだったのでしょうか。

T「まあ、“いい音楽”を披露したかったってことだよ。確かに出演したミュージシャンは仲の良い連中が多かったけど。でも、それは音楽も好きだからなんだけどさ。もちろん、初対面のアーティストもいたよ、アレックス・チルトンとかね。だけど、全員、尊敬してるアーティストだよ。例えば、N―シンク好きだったら、呼ぶことを躊躇するとは思わないんだよね」

J「なんじゃ、それ?」

T「いや、努力はしたと思うよ。それがコンセプトだったんだよ、真に好きなパフォーマーに出演してもらうっていうのが。だから、ぼくたちの理想フェスだったわけだよ。とはいえ、チケットを売ることも念頭に置いてるわけで、あまり無名なアーティストばっかり呼ぶわけにもいかなかった。フェスとして成り立たないからね。でも、別に人気あるバンドで好きなのは多いから問題はなかったよ。ニール・ヤングにだって声をかけたんだけど、CSN&Yで忙しかったから無理だったんだ。あと、ボブ・ディランとパティ・スミスも勧誘してみたんだけど。でも、みんな忙しかったから」


●なるほど。では最後にもうひとつ、ソニック・ユースの新作についてお聞きしたいのですが、もうレコーディングが終ったと聞いてるんですが。

T「そうだよ。『ムーレイ・ストリート』っていうタイトルなんだ。ニューヨークにあるスタジオがある通りの名前なんだよ。ジャケットはぼくが撮ったその通りの標識になるんだ」


●そうなんだ。

T「うそ。実はそれは裏ジャケになる。表はイチゴ狩りをしてる2人の女の子の写真になるはずだよ」


●音はどんな感じなんでしょうか。

T「んー、なんだろう。マウンテンっていうバンド知ってる?」


●えっ、あの太った人がいたハード・ロック・バンド?

T「(笑)そうそう、超太ったレズリー・ウエストが率いてたバンド。そのマウンテンとマグマ(フランスのプログレ・バンド)が混ざったようなバンド」


●マグマってなんか独自の言語を作ってたけど、もしかして英語じゃなかったりするんですか?

T「(笑)いやいや、英語だよ。うーん、だからマグマらしくはないかも。マウンテンのことも忘れて。えーと、どっちかっていうと、モット・ザ・フープルが――」

J「クロズビー・スティルズ&ナッシュ」

T「はははは。そんな感じかも」


●(笑)別にMが頭文字のバンドにこだわってるわけじゃないんですね?

T「(笑)いやいや。7曲あるんだけど、えーと、説明し難いな。全部、新曲なんだけど、前の何作よりかロックしてるっていうか」

J「オールマン・ブラザーズは好き?」


●(笑)オールマン・ブラザーズみたいなの?

T「そうそう、そんな感じ」

J「ぎゃはははははは」

T「わかんないなあ、どういうアルバムなんだろう? でも、きっと気に入ると思うよ。ぼくたちの音楽が好きじゃない連中はみんな気に入ってるみたいだし。いいアルバムなんじゃない。少なくとも、ぼくは好きだよ」


●いつリリースされるんでしょう?

T「7月だよ。日本じゃユニバーサルからリリースされるはずだよ」


●そう言えば、9.11事件はこのアルバムのレコーディング中の出来事でしたよね?

T「ああ、そうだよ。色々と大変だったよ。2ヵ月ぐらい作業を中止しなきゃいけなかったんだ」


●音楽は影響されたんでしょうか。

T「音楽? まあ、音楽が周りの環境に影響されるのは当たり前だからね。でも、このアルバムを聴いて、あの事件を思い出させるようなことはないと思うよ。もちろん、個人としてはすごく影響されたわけだし、ぼくたちだけに限らず音楽やアートを追求してる連中はみんな影響されてるはずだよ。それがあからさまじゃないとしても」

M「一部となるんだよね」

T「別にあの事件を見て見ぬフリをしたいわけじゃないし、あれを体験したっていうヴァイブは今作で聴き取れるかもしれない。ぼくたちのライヴを見た人もそれを感じたとか言ってたし。でも、別にメソメソしたアルバムじゃないし、どっちかっていうと楽天的で、前向きなアルバムなんじゃないかなあ」



(2002/03)

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