2014年8月19日火曜日

極私的2010年代考(仮)……Spoon × Wolf Parade = Divine Fits




スプーンのブリット・ダニエルと、現在は活動休止中のウルフ・パレードのダン・ベックナー。ふたりが新たにバンド――本作『A Thing Called Divine Fits』がデビュー・アルバムとなるディヴァイン・フィッツ――を始めるというニュースに、両バンドをよく知るファンは大いに頷き、快哉を上げたに違いない。かたや、90年代前半から活動を続けるヴェテランで、2007年の『Ga Ga Ga Ga Ga』を始め近作がビルボードの上位にランクされるなど商業的成果を収め、同世代のモデスト・マウスやザ・シンズと共に2000年代後半にかけてのUSインディ・シーンの台頭のとば口を開いたスプーン。かたや、アーケイド・ファイアやニュー・ポルノグラファーズと並んで2000年代以降のカナダのインディ・シーンを牽引したバンドであり、また両名と同じくメンバーがサイド・プロジェクトを掛け持ちする多才揃いのミュージシャン・コレクティヴでもあるウルフ・パレード。バンドとしては一回りほど世代が異なるが、昨今の北米インディ・シーンの活況を象徴する2組であり、むしろ同時代性を共有する間柄というべきか。実際に両バンドは、これまでもライヴで共演したり曲をカヴァーしたりなど交流が伝えられる機会があり、互いにリスペクトし合う関係であったことは知られた話だろう。


そうした中で、ダニエルとベックナーがどういう経緯から一緒にバンドを始める話になったのか。詳細については本人のコメントを待ちたいところだが、想像するに近年に入り両バンドが親交を深める過程で(※2010年のロラパルーザではスプーンがウルフ・パレードの“Modern World”をカヴァー。同年のスプーンのツアーではベックナーがゲストで飛び入り参加した)、ふたりがコンタクトを取り水面下で話を進めてきたのでは。ちなみに、ベックナーは過去のインタヴューで高校生の頃からスプーンのファンだったと明かしていて、ダニエルもウルフ・パレードの“Apologies To The Queen Mary”をフェイヴァリットに挙げるなど、ふたりの近しい関係はファンの間で周知の事実だった。



加えていえば、タイミングの問題も大きかったのだろう。ベックナーはウルフ・パレードの活動休止に続き、妻のアレクセイ・ペリーとのユニットであるハンサム・ファーズの解散を今年5月に発表。またスプーンも、2010年にアルバム『Transference』をリリースしてツアーを終えた後、バンドとしては休暇期間にあり、個々の活動はフリーハンドの状態にあった(※ベースのロブ・ポープはゲット・アップ・キッズのメンバーとして活動。ドラムのジム・イーノは同郷のストレンジ・ボーイズやターボ・フルーツのアルバムをプロデュース。キーボードのエリック・ハーヴェイは今年3月にソロ・アルバム『Lake Disappointment』を発表)。つまりふたりにとってはスケジュール的に自由が利き、新たな活動を始めるには最適のタイミングだったといえる。


ちなみに、ふたりと共にバンドのドラマーを務めるのは、90年代からオハイオを拠点にニュー・ボム・タークスやザ・サンなどのバンドで活動してきたサム・ブラウン。ブラウンとふたりの間にはどのような縁があったのか知らないが、そうしたさまざまな巡り合わせが今回のコラボレーションを実現させたことが窺える。そして、ザ・シンズのジェイムズ・マーサーとデンジャー・マウスのブロークン・ベルズや、ブライト・アイズのコナー・オバーストとマイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームスらが組んだモンスターズ・オブ・フォークなどの例を挙げるまでもなく、繰り返すが近年のインディ・シーンの活況により促されたアーティスト同士のゆるやかな連帯意識が、一連の背景には重要な契機としてあることはいうまでもない。


本作『A Thing Called Divine Fits』が制作されたのは今年の3月から5月にかけて。バンドのHPに掲載されたインフォによれば、ロスのスタジオで行われたレコーディングには、メンバーの3人に加えてアレックス・フィッシェルがキーボードで参加している。フィッシェルは、ガールズのドラマーを務めるダレン・ワイスのソロ・プロジェクト、パパ(Papa)にも参加するキーボーディスト。アルバムの全編に参加していることに加えて、最近行われたライヴでもバンド・メンバーを務めており、その貢献度から実質“第4のメンバー”といっていい存在だ。ダニエルとベックナーが収録曲の半分ずつリード・ヴォーカルを担当していて、ソングライティングもほとんどふたりで行われていると見て間違いない。なお、バンドと共にアルバムの共同プロデューサーを務めるのは、80年代にはPiLやニック・ケイヴからエリック・クラプトンやケイト・ブッシュなど大物を始め、近年はアーケイド・ファイアやヤー・ヤー・ヤーズの諸作を手がけた敏腕ニック・ローネイ。


現時点でクレジットの詳細が不明なので確かなことはわからないが、サウンドは楽曲ごとにダニエルとベックナーのカラーできれいに色分けされているといっていい。つまり、かたやスプーンを連想させるソリッドなロック・サウンドやR&B~ソウルを昇華したモダン・ポップと、かたやハンサム・ファーズを連想させるシンセやドラム・マシーンをフィーチャーしたエレポップやニュー・ウェイヴ~コールド・ウェイヴのテイスト。具体的には前者にあたるのが“Flaggin A RIde”や“Civilian Stripes”や“Like Ice Cream”で、後者にあたるのが“My Love Is Real”や“The Salton Sea”や“For Your Heart”だろうか。とくにベックナーはハンサム・ファーズを始めて以降、キーボードやドラム・マシーンを使って曲作りをする頻度が増えたとも話していて(※ウルフ・パレードではギターで作曲していた)、後者の楽曲についてはその傾向が顕著に表れているようにも思える。実際にレコーディングの現場ではダニエルとベックナーの間やバンド内でどのようなやり取りが行われアレンジ等のアイディアが交わされたのか想像の域を出ないが、音を聴くかぎり楽曲ごとにソングライターの個性が主導権を握るかたちでクオリティ・コントロールの行き届いた成果が、本作『A Thing Called Divine Fits』の11曲ということなのだろう。




一方で、“What Gets You Alone”や“Would That Not Be Nice”といった、いわばふたりのカラーの“中間色”に近いようなナンバーもある。たとえばベックナーはウルフ・パレードを始める以前にドライヴ・ライク・ジェフーやアンワウンドのようなポスト・ハードコア・バンドで活動していた経歴があり、ダニエルもルーツにワイヤーやキュアーといったポスト・パンク/ニュー・ウェイヴの影響が色濃くあることを自身が認めるところである。とくにダニエルにとっては、そうしたスプーンの近作においては影を潜めがちだった志向が、その2曲には象徴されているといえるのではないか。また、本作にはローランド・S・ハワードのカヴァー“Shivers”が収録されているが、それ以外にも最近のライヴではワイパーズやトム・ペティなんかのカヴァーも披露していて、ふたりの音楽的バックボーンや趣味が垣間見えるようで興味深い(※先行シングルの7インチにはキャンパー・ヴァン・ベートーヴェンのカヴァー“I Was Born in a Laundromat”を収録)。ちなみに、前記のインフォによれば、本作のテーマは「真実の愛の死、ヒッチハイク、感情的な距離……」とある。一種のロードムーヴィー的な光景を想像させるが、とりわけダニエルは現在のUSインディ・シーン屈指の文学的素養を感じさせるリリシストなだけに、歌詞の世界と併せてじっくり堪能してもらいたい。




はたしてディヴァイン・フィッツは、一回限りのプロジェクトで終わるのか、それともパーマネントなバンドに発展するのか。現在フリーハンドのベックナーはともかく、この先の展開はブリット~スプーンのスケジュール次第、というところが大きいかもしれない。とりあえず年内は、現時点で本作のリリースに伴うライヴと本国でのフェスへの出演の予定されている。日本のファンにとっては、最新作『Transference』でのスプーンの来日が叶わなかっただけに、今回はぜひ期待したいところだがどうだろう。

来たるべきスプーンのニュー・アルバム、そしてウルフ・パレード/ハンサム・ファーズに続くベックナーのネクスト・プロジェクトも含めて、今後の展開を注視したい。

(2012/08)

0 件のコメント:

コメントを投稿