2016年2月7日日曜日

2016年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Rkss/Cell(SEAGRAVE)
設立まもないイギリスのレーベルから。メタルパーカッシヴな工業ダンスは昨今の〈PAN〉周辺のシンクロした仕上がり。トランシーなハウストラックにも鉄粉やノイズがまぶされ耳触りはきめの細かい紙やすりで撫でられたよう。

◎Patricia/Bem Inventory(Opal Tapes)
とくればコチラのレーベルにも触れればなるまい。聴取が常態化したところもあり個人的に刺激を受けることはかつてに比べれば少なくなったものの、やはり安定のクオリティ、さすがのレーベル・カラーというか。ブルックリンのインダス・テクノ・ユニット。ロウななかにもシンセ~鍵盤フレーズが奇妙な抒情を醸し出す場面も。

◎Blush Response/Rebirthed In The Sprawl(Total Black)
ベルリン在住のダーク・アンビエント。ミニマルだが起伏に富み、15分弱の間にしっかりと展開を用意している。今様のニュー・インダストリアルなビート&クラスターで三半規管を研磨。レイムの沈降とアンディ・ストットの浮揚をバランスよく。ただ甘美さはなくストイック。

◎Molly Drag/Tethered Rendering
ロンドンとオンタリオをまたぐベッドルーム・フォーク作家。さしずめチルウェイヴ~ヴェイヴァーウェイヴ以降の耳を持ったコナー・オバースト(ブライト・アイズ)、といった印象も。最近、「フォーク」という表現/スタイルに再び個人的な関心が向いている。

◎Blithe Field/Face Always Toward The Sun(ORCHID TAPES)
ニューヨークの〈ORCHID TAPES〉から。生活音と相性のよいグリッチ・フォークトロニカとしても聞き流すこともできるし、なるほど、“ネット・コンクレート”とも呼ぶべきオンライン・アンダーグラウンドな環境以降のアンビエント・エレクトロニカとして音の端々に時代性・現代性を見いだせる代物なのかもしれない。ともあれ、ある種の揺り戻し、というか、ここでも「フォーキィ」という感覚の更新をうかがうことができる。エイフェックス・ツインの『ドラックス』を聴いたときのような。

◎LNS/Maligne Range(1080p)
カナダはヴァンクーヴァーの女性プロデューサー。初期の〈1080p〉のリリース作品には、いい意味でまがいもの感というか来歴不明の禍々しさというか、ネット発のアンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックの風潮や温度を反映したテンションが感じられたものだけど、最近の12インチも切るようになってからのそれは、ミニマル&ベーシック、つまりはクラブ向けな作りで、どこか面白みに欠けているような。

◎Grier Edward Carson/MECHANICAL STATES(Clean Error)
工業音、グリッチ、メディア・ハック、マイクロ・ノイズ、ASMR……等々のフェチなサウンド・ピースを溶接、梁を巡らせることで建築された脳内シムシティ。OPNよりむき出しなサウンプリングマナー、一頃のジャイアント・クロウよりも下世話。あくまでリズミックなので耳愉しい。

◎Droid Daughter/Elm Mind(Us Natives)
ざっくりと言えばジャジーなインスト・ヒップホップ。2000年代の前半に盛り上がった〈Anticon〉周辺、〈Chocolate Industries〉に代表される西海岸のシーンは現在どうなっているんだろう?とか聴きながら思いをはせたり。




◎HANZ/REDUCER(Tri Angle)
一昨年から自身のBancampで投げ銭されていたらしい作品が改めて〈Tri Angle〉と手を組み自身のサイトから再・投げ銭。折しもデス・グリップスの新曲が突如発表された直後ということもあり、ポスト・パンクのテクスチャーにインダストリアル・ノイズやダブ、ブレイクビーツ~全盛期のアンクルとフライング・ロータス周辺のLAビート周辺を結ぶ云々~などなどがぶち込まれたようなこの騒々しさ、猥雑さがなんだかとってもタイムリーに耳になじむ。北カリフォルニアのアラサープロデューサーのデビュー作。

◎Nový Svět/Mono(Reue Um Reue)
リリースはブリアル・ヘックスのカタログも抱える〈Reue Um Reue〉。90年代から活動するドイツのデュオ。アンビエント、ゴシック、加えてフォーキーなヴォーカルも擁しつつスロウに交わるリズムにはほのかなジャズの趣向も。

◎High Bloom/Haloed(ORCHID TAPES)
女性のヴォーカルを擁したメリーランドのデュオ。やわらかいキックも入りつつ、アンビエンタルな操作でドリーミーな音響をつむぐローファイ・エレクトロニカ・ポップ。



◎Sven at Work/Jan(Noumenal Loom)

マスタリングをMagic Fadesが。ジャズやAORのスムースなプロダクション&コンポジションに映える、控えめなシンセやアコギ等の生楽器、あるいはトロピカルなパーカッション。と思いきや、思いきやの〈Noumenal Loom〉らしいニューエイジングな振れ幅もいかんなく。

◎Luca Sigurtà/Warm Glow(Monotype)
マスタリングはJames Plotkin。ということからも推して知るべし。低音の振動する重厚な、しかしスムースなシークエンスを形作るエレクトロニクス・ノイズにスロウなダウン・ビート。やわらかなシンセのフロウ。そして時折、差し込まれる女性ヴォーカルや暗示的なモノローグ。マッシヴ・アタックから快楽性や官能を取り除き、モントリオール・アンダーグラウンドの暗く立ち込める排煙を流し込んだような。自身はイタリア出身、レーベルはポーランド発。

◎Dying Adolescence/Dear you, It can't wait.(Z Tapes)
青年期の終わり、的な意味合いなのだろうか。ベッドルームからスタートしたプロジェクトはライヴ写真らしきものを見る限り、バンド編成での演奏も行われている模様。スロヴァキアの〈Z Tapes〉が届ける、ビター・スウィートなローファイ・ギター・ポップ。

◎Farewell/Nfumbes(Stoned To Death)
シュシュのジェイミー・スチュアートによるソロ(?)・プロジェクトらしい。シンセのクラスター音やエレクトロ・ノイズで押しまくる、なんとも無愛想なドローン・ミニマリズム。曲タイトルに付せられた数式が意味深だが、それはさて置き。個人的にはシュシュ本体で、〈Kill Rock Stars〉時代のような輝き、存在感、アヴァンとポップの緊張感ある背中合わせをまた再び見せてもらいたいところなのだけど。レーベルはチェコ発。

◎Japanese Breakfast/American Sound
フルアルバムが待たれるフィラデルフィアのMichelle Zaunerによるソロ・プロジェクト。地元でギター・ロック・バンドLittle Big Leagueも掛け持ちする彼女だが、こちとらみずみずしいベッドルーム・シンセ・ポップを。どうでもいいけどフェイ・ウォンが歌った“夢中人”を連想させる場面も。

◎Nerftoss/Prospect Endless
出身がバルチモアのメリーランド。と知りなんだか妙に納得。アニマル・コレクティヴと同郷。ユーフォリックで密教的なトライバル嗜好。バレアリックでトランシー。〈Sublime Frequencies〉というかDJモードのEYE風というかな。

◎Missing Plane Found on the Moon/Plane Found in Woods Is a Man's New Home(HASTY WAIFU MUSIC)
スペインのレーベルから、ギターとドラムの即興デュオ。ローレン・マザケインが名うてのジャズ・ドラマーと丁々発止を繰り広げるようなミステリアス・セッション。ライヴ録音。各曲10分超えの聴きごたえ。

◎Barnaby Bennett x D/P/I/ºoº (2015)
話題のコラボ。話題を集めたのか? 片割れのBarnaby Bennettはカルガリーのエレクトロニクス作家。D/P/Iらしい神出鬼没なグリッチは影をひそめ、つつもフットワークっぽいリズム、細切れのビートが要所に。フラクタルなテクスチャーに不意に差し込まれるノイズやアコギ、サウダーヂな歌などなど。ラーガな音色も聴かせるなど、やはり大胆不敵か。



◎SH-2000/『​/​​​/​​olivoil​​/​​​/​』 (2016)
で、そのBarnaby Bennettによる別名義のデュオ。モジュラー・シンセの静かなうねり。前盤と比べるとモノトナス。だが、ぐっとニューエイジ色をたたえた音色の隙間を気泡のようなノイズやインストゥルメンタルが時折顔をのぞかせる。

◎Tiger Village/Low Focus(Suite 309)
レーベルはオハイオ。聴覚を擽る小技の効いたEDM。キッド606から毒を抜きもっとチャイルディッシュにしたような。ニンテンドー、セガサターン的な8ビット・ゲーム音楽を引用したバレアリック・ヴァージョン。みたいな瞬間も。








2016年1月のカセット・レヴュー)
2015年の熟聴盤:カセット/BandcampリリースBEST 40)




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