2014年3月4日火曜日

極私的2010年代考(仮)……Black DIceは転がり続ける



本作『ミスター・インポッシブル』は、2009年の『Repo』に続く6作目のスタジオ・アルバムになる。前作から約3年というブランクは、多作を誇る彼らにおいてじつは最長のものとなるが、もちろん、彼らは活動の手を休めていたわけではない。その間も彼らはツアーやフェスへの出演で世界中を周り、たくさんの数のライヴをこなしてきた。そして、メンバー個々の活動も旺盛で、音楽に限らず映像やアートにいたるまで多岐にわたる。なかでも、エリック・コープランドはソロ名義のリリースを活発化させ、複数の7インチやEPとともに、昨年の『Waco Taco Combo』を始め3枚のアルバムを発表。また、今年に入ってからも7インチ『Car Alarm』を、ノー・エイジのディーン・スパントが運営する「PPM(Post Present Medium)」からリリースするなど、この3年間は彼らにとって多忙を極めた時間だったといえるに違いない。



本作『ミスター・インポッシブル』は、本国では名門「Domino」の北米支部が傘下に置くサブ・レーベル「Ribbon Music」からリリースされる。「Ribbon Music」は昨年ジョン・マウスやローラ・マーリングのアルバムをリリースした、まだ設立間もない新興レーベルだが、もっとも彼らはこれまでも様々なレーベルからリリースしてきた実績を持つ。今年で結成15周年を迎える彼らだが、その間彼らは、「Gravity」「Troubleman Unlimited」「American Tapes」「Tigerbeat6」「DFA(※UKはFat Cat)」、アニマル・コレクティヴが主宰する「Paw Tracks」と、錚々たるレーベルを渡り歩いてきた。その上さらに、前述の「PPM」も含めてそこに並ぶ名前はいずれも、彼らの15年間――つまり90年代の終わりから2000年代を通じて現在にいたるまで、インディ・ミュージック/アンダーグラウンド・シーンを牽引し続けた重要なレーベルである。そして事実、彼らのディスコグラフィーとは結果的に、この15年間におけるレフトフィールドな音楽表現の変遷を捉えたドキュメントにほかならない、といえるだろう。


アニマル・コレクティヴやライトニング・ボルトといった盟友関係と呼べるバンドとともに、ローファイやスカムからUSジャンクやジャパニーズ・ノイズまで貪り尽くした、『Number 3』を始めとするファストでハーシュな最初期の作品群。一転、10分を超えるロングセットを組み、スロッビング・グリッスルやホワイトハウスもかくやたるノイズ・アンサンブルをドラッギーなサイケデリアでくるんだファースト・アルバム『Beaches and Canyons』。ノイ!やクラスター等のクラウト・ロックを掘り起し、音響エレクトロニカやドローンと接合を試みたアブストラクトなセカンド・アルバム『Creature Comforts』をへて、アシッドなエレクトロニクスとノイズ/サウンド・コラージュが極彩色に溶け出したカオティックでユーモア感覚満載のサード・アルバム『Broken Ear Record』。カートゥーン・ミュージックを思わすスラップスティックな遊戯性が、ミニマルだが過剰で果てなきループとエレクトロニクスのアマルガメイションを繰り広げた前々作『Load Blown』。そして、野放図のようなサウンド・エクスペリメントの背後に、2000年代後半のブルックリンとアラン・ビショップ(サン・シティ・ガールズ)の「Sublime Frequencies」を結ぶトライバルな嗜好、さらにはフライング・ロータスやLow End Theory周辺とも共鳴するビートやエディット感覚といった同時代的な参照点も窺わせた、強烈にドープな前作『Repo』。他にも数々の7インチやEP、リミックス・ワークを始め、彼らはリリースの度にユニーク極まる独創的なヴィジョンを提示しながら、しかし作品同士には文脈を補完し合うような関連性があり、時間軸に沿った変化や深化の足跡がそのディスコグラフィーには刻まれている。また、それぞれの作品は、並行するメンバー個々の活動や、あるいはエリックがアニマル・コレクティヴのエイヴィ・テアと始めたテレストリアル・トーンズといったユニットを通じて樹形図の枝葉を広げてきた彼らの創作(※サウンドのみならずアートワークやPV等のヴィジュアル・コンセプトも含めた)における段階的な集約点をその都度示してきたといえる。それはまさに量が質を生むがごとく、作品を重ねるごとに濃縮されたエッセンスが、新たな源泉として反芻され次の作品へと連鎖を導く――そんな永久機関のようなサイクルを、ブラック・ダイスという生態系は想起させるようだ。
 




さて、本作『ミスター・インポッシブル』についてだが、先行公開されたリード・シングル“Pigs”――スーサイドも連想させる無機質なビート&ベース・サウンドが印象的なブラック・ダイス流ブレイクコアと呼べそうなナンバーにおいて、まずは本作のひとつの特徴が示されている、といえるかもしれない。

エリックは完成直後の最新のインタヴューに応えて、その中で今回のアルバムについて「いくつかの点でパンク・バンドっぽい」と語っている。そして制作工程に関しては、「プログラミングは控えめ」で、より「手作り感がある」と説明していた。もちろん、“パンク”というのは彼らなりのたとえであり、それでもプログラミングされたサウンドは多用されているわけだが、基本として今回はシンプルなアプローチを心掛けたのだという。そうした背景には、いわく昨今のインディ・シーン/アンダーグラウンドで日常化した感のあるディレイやリヴァーブ・サウンド、あるいはドローンに対する嫌悪感があったようで(※「そうした“要素”は好きなんだけど」と断りつつも)、その反動がよりダイレクトで“パンク”なスタイルへとエリックを向かわせたらしい。

そして実際、エリックが語るとおり本作は、たとえば複雑に練られた構築性とサイケデリックなポップ・センスを誇った前作『Repo』と比べると、とくに前半に関していえば、それこそライヴ・セットも思わせるロウでラフな手触りが際立っている。“Pinball Wizard”のレジデンツ的ユーモア精神とブレイクビーツのシャッフルや、“Rodriguez”の人を食ったようなループとチップチューンを意訳翻案したようなエレクトロニクス。さらに“The Jacker”のブギーなベースから唐突なバングラ・ビート~エスノ・ファンク調。独自のカスタムメイドが施されたサンプラーやペダル、アナログ・シンセが繰り出すサウンドはどれも一筋縄ではいかないものばかりだが、そこには近作とは趣を変えたハードコアなテンションや即興的なノリが感じられておもしろい。それはまたエリックが最近のソロ・ワークで披露するドープなコラージュ・センスとも異なる。あるいは、タイトルがジョン・ゾーンの爆音ジャズ・アルバムを連想させる“Spy Vs. Spy”には、流行りのチルウェイヴやヒプナゴジック・ポップに対する諧謔精神に満ちた返答らしきものも窺える(※ちなみにエリックは自身の音楽もまた“hypnagogic(睡眠誘発)”と評されることがあることについて「バカげてるし、その手の音楽についてはまったく知らない」と一笑に付す)。彼らはその15年間のキャリアを通じて、最初期のノイズ・パンクからエレクトロニックなスタイルへとサウンドを徐々に変化させてきたといえるが、なるほど「手作り感」というか「手弾き感」にも溢れた本作は、彼らの中でどこか原点回帰的な意味合いも持った作品なのかもしれない。




レーベルからの資料の中でインタヴューに答えたメンバーのアーロン・ウォーレンは、「ブラック・ダイスを再発明すること(Reinventing Black Dice)」が本作の重要なテーマだったと語っている。そのためには強力な曲を書き上げ、それらをアルバムというかたちにまとめ、かつオーディエンスと共有できるようなものにすることが大事だったという。それはおそらく、先のエリックの発言とも関わるものだろうが、しかし、このことは本作がこれまでのスタイルの転換やディスコグラフィーと切り離されたものであるということを意味するものではない。むしろ、まさにマニュアル操作によってサウンドのフォーカスを絞り直すことで、ブラック・ダイスのらしさや醍醐味はより露わにされたような印象を受ける。それは“Pigs”を始めすでに触れたナンバーもそうだが、“Outer Body Drifter”のガジェット感満載のミュータント・ファンクや、“Shithouse Drifter”の譫言を繰り返すようなアナログ・シンセのオノマトペ、あるいは、まるでシルヴァー・アップルズ・ミーツ・チョップド&スクリュードのような“Brunswick Sludge”もまた然り。さらには、かつての“Endless Happiness”や “Creature”も彷彿させる“Carnitas”の引き延ばされた持続感――背後にはハドソン・モホークやラスティといったウォンキーの反響やサン・アロウのサイケデリックなダブ、それこそジェームズ・フェラーロにも通じるヒプノティックな感覚も聴き取れる――などは、やはり彼らならではの境地のものだろう。今回の楽曲はどれも、事前にライヴ・セットで試され練り上げられた末にレコーディングされたものだそうだが、そうしたプロセスの選択も、「再発明」という本作のテーマとおそらく無関係ではない。そしてそれらのもろもろが、結果的にブラック・ダイスという特異性をあらためて浮き彫りにしたという点において、本作はこれまでの方法論を推し進めながらディスコグラフィーの延長線上に新たに駒を進めた作品、と位置付けるのがふさわしいだろう。





海外でのリリース・タイミングに合せて行われるブルックリンでのショウを皮切りに、彼らは広範囲を周るUSツアーを敢行。最近は移動中や移動先での機材トラブルを考慮して、必要最低限の機材のみ持ち運んでライヴが行われているそうだが、今回の『ミスター・インポッシブル』は、そうしたある種削ぎ落とされた演奏の賜物として生まれた面もあるのかもしれない。はたして今回のツアーやライヴも、さらなる新たな楽曲が試され披露される場となるのか。実現すれば2003年以来となる来日公演の知らせとともに、新たな報告を期待して待ちたい。


(2012/03)

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