01. Beru/Fire Eyes Gather Souls
02. Je Suis Le Petit Chevalier/A Guide To The Sun
03. Crippling/Fleeting Talisman
04. Felicia Atkinson/A River
05. Aloonaluna/Bunny
06. Motion Sickness Of Time Travel/A Marbled Youth
07. Lantern/Dream Mine
08. Bitchin Bajas/Vibraquatic
09. Former Selves/Many Moons
10. Eagle Altar/Cut America
11.~30.
Transmuteo/Dreamsphere Megamix
The Exhalers/Wave Reader I.O, II.O & III.O
Buchikamashi/Super Mind
Stephen Molyneux/The Stars Are The Light Show
Sparkling Wide Pressure/Covered In Blue Colors
Run DMT/Dreams
Laser Disc/Visions New Dreams LTD
Netherfriends/Alap
Bernard Femminielli/Telenovelas Mentales
Miami Angels In America/a Public Ranking
Angelo Harmsworth/Silent Orgasm
Ossining/Trike
Imperial Topaz/Imperial
Dolphins Into The Future/Canto Arquipélago
The Aloha Spirit/Under Wild Skies
Mohave Triangles/Eternal Light Of The Desert Plateaus
Thoughts On Air/Glow On
Euglossine/Floridian Abstract
Black Eagle Child/Two Moods
Femminielli/Carte Blanche Aux Desirs
31.~
Merryl/Towel Crown
Ectoplasm/Featuring Denmother
Cube/Bride of Walk man
Bedroom/Solipsist
Nag Dolly/Pomander
Cankun/Isalo Waterfall
Nuojuva/Otavaiset Otsakkaha
Sashash Ulz/Ornamentika
Sylvia Monnier/Never More Camellias
Inez Lightfoot/Three Weaving At The Well
Kyle Landstra/Thought Conjurer
Annie Shaw/Shanty Awe
Indignant Senility/Blemished Breasts
Niggas With Guitars/Continent Gods
MACINTOSH PLUS/FLORAL SHOPPE
LX Sweat/Sweat Sweat Sweat
N.213/Bastard
Cuticle/I Want You
Coppertone/Best of the first six months
Samantha Glass/Midnight Arrival
Polymer Slug/Simple Displays Control
Polluted Water/Nature Man Woman
FEATURELESS GHOST/Biologically-Sound Cyber-Bodies
Kon Tiki Gemini/Azure Maze
Blue Angels/Isidora
White Poppy/I Have A Dream
Nuojuva/Otavaiset Otsakkaha
ABSINTHE MINDS/THE SONG OF RETURNING LIGHT
Napolian/Computer Dreams/Split
Father Sound/Harpoon Pole Vault/Split
The Garment District:/Melody Elder
Piotr Kurek/Heat
Telecult Powers/Stars Are The Eyes Of God
MALIBU FALCON/How Is Hell Fact Met? All Of Them
上位10傑はわりかしすんなりと。以下は順不同、ということで済ませたかったのだけど、とりあえずベスト30まで絞る。それから下は順不同。全部で60本ちょいか。今年は趣味でカセットのレヴュー、といっても空き時間に携帯でピコピコやる程度のものなのだけれど、を始めたこともあり聴く本数が増え、選ぶのが面倒になり正直やめようかと思ったのだけど、後々まとめて何かの形にしたいと考えていたこともあり、頑張って選んでみた。レヴューで取り上げた総本数は250本前後か。取り上げていないものも含めれば400本近いかと。実際にカセットを買ったものもあれば、何しろ生産本数が二桁前半とか異様に少なかったりするものもあるので、そういう場合はサンクラやbandcampで試聴したり落としたり、またyoutubeに丸々上がっていたりするものを見つけたりしながら、赴くままに聴き漁った。そのへんは去年同様にまちまちで、そもそもレヴューの対象もかなり適当に選んでいる部分があり、なかには今年のリリース作品じゃないものも交じっている可能性大です(なのでリスト内の作品でもレヴューしてないものもある)。だから当然聴き漏らしもかなりあるだろうし、というか聴ききれるわけもなく、じゃあ何かチャートなりメディアによるクリティック・ポール的な見取り図もないのだから網羅することなど到底無理な話。リスト内の作品については、個々に調べていただくか、この一年間のレヴュー内で触れていると思うので参照されたい。
雑感としては、Not Not Fun及び100%Silk周辺に対する自分の中での興味が薄れ、いや実際に今年Not Not Fun及び100%Silkからリリースされた作品はカセットに限らずすべてのフォーマットで退屈なものが多かったし、悪い意味でレーベルの色が固まってきてしまったなーというか、一方でブルース・コントロールやピーキング・ライツといった顔役がブレイクスルーしたというのもあるかもしれないけど、それこそ2000年代後半のフリー・フォーク終盤から続いた異種混交に沸くUS西海岸のアンダーグラウンドのピークはひとつの沈静化を迎えたのかな、という印象も。アマンダ・ブラウンは今年も相変わらず多忙だったけど、個人的にはどれも単調で刺激に乏しく感じられた。ただアイタルだけはその、いろんな影響や潮目が混じり合う過渡期や踊り場みたいなところで音楽を作り続けているような緊張感があり、今年出たニュー・アルバムもよいなと思ったけれど。
その代わりに、というわけでもないが今年は、いや今年もHooker Visionや老舗Digitalisが豊作だった。それと様々な名義でリリースを続けたFelicia Atkinson。Hooker Visionを運営するMotion Sickness Of Time Travelも(生産数が少なくてファン泣かせだが)多作で楽しませてくれた。
しかし、このご時世にカセットで作品をリリースする、それもロットが100に満たなかったり、極端なケースは5本限定……とかって、いったいどういう意図なのだろうかと考えさせられることもあり、でもそれはけっして大量生産されたプロダクトやテクノロジーへのアンチというわけでもなく、むしろ彼らはサンクラやbandcampを通じて作品が聴かれることに対しては積極的で、戦略的でもあるわけだけど、つまり音楽を“消費”ではなく、“所有”するという行為に対する何かしらの投げかけなのかも……とか。もちろんデジタルでも“所有”することは一応可能だけど、そこには“物(ブツ)”であることへのこだわりみたいなものが――それこそあるアーティストが以前、愛犬に噛みしだかれてよだれまみれになり欠損したテープで聴いたU2のテープがマイブラのデモのように聴こえて興奮した、というエピソードをカセットをめぐる思い入れとして熱く語っていたように、あるのかもしれない。そういえばNot Not Funも最初期のリリースは、パッケージから包装・梱包までハンドメイドの装飾を凝らしたものだったと聞く。
話は変わるがベックが、楽譜でリリースされたニュー・アルバム『Beck Hansen's Song Reader』についてのインタヴューの中で、自分が子供の頃は、レコードを買い求めるため市街までバスで移動するという行為まで含めて、ひとつの音楽体験=作品だった、と語っていた。もしかしたらカセット・テープで発表することにこだわりを見せる彼らには、それをブツで聴くのかデジタルで聴くのかでは、大きな違いがあるのかもしれない。
まあともあれ、近年のカセット・リリースをめぐる動き、並びにアメリカのアンダーグラウンド・シーンの状況については、一度何かのかたちでちゃんとまとめようと考えているので、追々。
(※2012年12月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年11月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年10月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
(※極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
2012年12月29日土曜日
2012年12月24日月曜日
2012年の熟聴盤⑫
・ 豊田道倫/幻の水族館
・ Mushy/Breathless
・ Broadcast/Berberian Sound Studio
・ LE TON MITÉ/Kumokokudo
・ Love Cult/Fingers Crossed
・ X-TG/Desertshore / The Final Report
・ Peaking Lights/Lucifer In Dub
・ Twigs/EP
・ Monopoly Child Star Searchers/The Garnet Toucan
・ Jon Mueller/Death Blues
・ Glacial/On Jones Beach
・ Lee Gamble/Dutch Tvashtar Plumes
・ 大野まどか/わたしの眼のせい
・ マミミフォークソング/マミミフォークソング2
・ 森ゆに/シューベルト歌曲集
・ Yo La Tengo/Fade
・ Burial/Truant
・ Darkstar/News From Nowhere
・ Ra Ra Rio/tBeta Love
・ Toro Y Moi/Anything In Return
・ Unknown Mortal Orchestra/Ⅱ
・ アナホールクラブバンド/泥笛
・ 空気公団/夜はそのまなざしの先に流れる
・ Loren Connors & Suzanne Langille/I Wish I Didn't Dream
・ Muffin/LIVE 2012 "LAST APPLE" RELEASE PARTY COLLECTIONS +BONUS TRACK
・ N-16/INHERIT
・ 非常階段 starring 初音ミク/初音階段
(※2012年の熟聴盤⑪)
(※2012年の熟聴盤⑩)
(※2012年の熟聴盤⑨)
(※2012年の熟聴盤⑧)
(※2012年の熟聴盤⑦)
(※2012年の熟聴盤⑥)
(※2012年の熟聴盤⑤)
(※2012年の熟聴盤④)
(※2012年の熟聴盤③)
(※2012年の熟聴盤②)
(※2012年の熟聴盤①)
・ Mushy/Breathless
・ Broadcast/Berberian Sound Studio
・ LE TON MITÉ/Kumokokudo
・ Love Cult/Fingers Crossed
・ X-TG/Desertshore / The Final Report
・ Peaking Lights/Lucifer In Dub
・ Twigs/EP
・ Monopoly Child Star Searchers/The Garnet Toucan
・ Jon Mueller/Death Blues
・ Glacial/On Jones Beach
・ Lee Gamble/Dutch Tvashtar Plumes
・ 大野まどか/わたしの眼のせい
・ マミミフォークソング/マミミフォークソング2
・ 森ゆに/シューベルト歌曲集
・ Yo La Tengo/Fade
・ Burial/Truant
・ Darkstar/News From Nowhere
・ Ra Ra Rio/tBeta Love
・ Toro Y Moi/Anything In Return
・ Unknown Mortal Orchestra/Ⅱ
・ アナホールクラブバンド/泥笛
・ 空気公団/夜はそのまなざしの先に流れる
・ Loren Connors & Suzanne Langille/I Wish I Didn't Dream
・ Muffin/LIVE 2012 "LAST APPLE" RELEASE PARTY COLLECTIONS +BONUS TRACK
・ N-16/INHERIT
・ 非常階段 starring 初音ミク/初音階段
(※2012年の熟聴盤⑪)
(※2012年の熟聴盤⑩)
(※2012年の熟聴盤⑨)
(※2012年の熟聴盤⑧)
(※2012年の熟聴盤⑦)
(※2012年の熟聴盤⑥)
(※2012年の熟聴盤⑤)
(※2012年の熟聴盤④)
(※2012年の熟聴盤③)
(※2012年の熟聴盤②)
(※2012年の熟聴盤①)
2012年12月20日木曜日
極私的2010年代考(仮)……アニマル・コレクティヴ『Centipede Hz』
アニマル・コレクティヴのメンバーは、自分たちのことを「バンド」ではなく「コミュニティ(共同体)」という言葉で呼ぶことを好む。それは彼らの関係が、単なる音楽仲間ではなく、高校生の頃から青春時代の多くを共にした親友同士だから、というのもあるのかもしれない。
デイヴ・ポートナー(エイヴィ・テア)、ブライアン・ウェイツ(ジオロジスト)、ノア・レノックス(パンダ・ベア)、ジョシュ・デイヴ(ディーケン)。彼らは、地元のメリーランド州ボルチモア郊外の森林と農地に囲まれた田園風景のなか、学校の昼休みには自然を散策したり、夜は星空の下で一緒に音楽を聴いたりしながら、美しく牧歌的な時間を過ごしてきた。なかでもノアとジョシュは、小学生の頃からの幼なじみで、創造性や芸術的探求心を共有する深い友情で結ばれた仲だった。
一方で、アニマル・コレクティヴは、作品ごとに「バンド」のかたちを変える自由度の高いメンバー編成で知られる。
メイン・ソングライターのデイヴとノアのデュオで制作された2000年のファースト・アルバム『Spirit They're Gone, Spirit They've Vanished』。対して、ブライアンを加えたトリオによるセカンド・アルバム『Danse Manatee』に続き、ブライアンに替わってジョシュが参加して野外録音された『Campfire Songs』。2003年の『Here Comes the Indian』は初めて4人で制作されたアルバムで、再びデイヴとノアがデュオを組んだ『Sung Tongs』を挟み、『Feels』『Strawberry Jam』と4人編成によるアルバムが並ぶ。そして、2008年の前作『Merriweather Post Pavilion』はジョシュを除く3人で制作と、つまり彼らの場合、いわゆる「バンド」というよりは、もっと縛りのゆるい、即興的なプロジェクトに近い感覚で創作活動が営まれていることが想像できる。
もっとも、彼らはアニマル・コレクティヴと名乗る以前の、90年代の中頃に自然発生的に4人で音作りを始めた当初から、メンバー同士の様々な組み合わせを試しながら演奏を重ねてきた過去があり、その移動や入れ替えの自由な形態は、なるほど「コミュニティ」や「コレクティヴ(集合・集団)」と呼ぶのがふさわしいものだろう。
「友達としてこれだけ長く作り続けてこられたことに対する感謝の気持ちをリニューアルする、みたいな感じがあったと思う。みんなで今回のこのレコードを作ったことも本当にスペシャルなことだと思えたし、なぜこれだけ長くやってこれたのかとか、このバンドをやっていることが依然としてエキサイティングで楽しいっていうことが、あらためて表現されているんだ」(ジョシュ)
今回のニュー・アルバム『Centipede Hz』のトピックのひとつとして、久しぶりに4人が揃って制作されたアルバムであることが挙げられる。2007年の『Strawberry Jam』完成後、休養をとりバンドを離れていたジョシュが、昨年のツアーへの参加を機にバンドに復帰。フル・メンバーによるアルバムとしては5年ぶりになる。とはいえ、触れたとおり流動的なメンバー編成はアニマル・コレクティヴの常であり、これまでのディスコグラフィーを振り返ればなんら特別なことではない。バンドを離れていた間も、2年前には4人が長年取り組んでいた映像プロジェクト『ODDSAC』のDVDがリリースされたり、またデイヴのソロ・アルバム『Down There』の録音をジョシュが手がけるなど、メンバー同士の関係が途絶えていたわけではなかった。
ただ、今回の『Centipede Hz』に関しては、制作中から4人の心には特別に去来するものがあったようだ。
「このレコードには感謝がすごく込められている」とノアは語る。
それは想像するに、前作『Merriweather』の世界的な成功を受けてバンドを取り巻く環境が大きく変わるなかで、自分たちの原点を再確認するような特別な感情が、彼らの内を満たしていたのかもしれない。
そして、まさに『Centipede Hz』のサウンドも、そうして4人が集まったならではのモードが反映されたものといえるようだ。「とにかく4人で演奏しまくってノイズを発しまくって曲作りしたっていう、そこから来る演奏スタイルの強度がこれだけ大量のエネルギーの放出に繋がったんじゃないかと思う。今回は基本的に3ヶ月間、1日8時間、毎日みんなで演奏してたからね。こんなに時間をかけるなんて、すごく久しぶりのことなんだ。だからもう単純にそういう、毎日アンプを繋いでノアがドラムを叩いてみんなでみっちり弾くっていうことから、大量のエネルギーが生まれたんだと思う」とはジョシュの弁。ノアも「実際にライヴで音を出しながら曲作りをやったのは大きかったかもね。ヘッドホンで作るのとアンプを繋げてデカい音を出して作るのとでは全然違うからさ」と語る。
ちなみに、レコーディングでノアがドラム・キットに座って演奏するのは『Here Comes』以来のことらしい。
そもそも彼らは、これまでもその都度のメンバー編成に応じてサウンドのベクトルを変化させてきた経緯がある。かたやデュオで制作された『Spirit They're Gone』や『Sung Tongs』では、アコースティック・ギターやパーカッションを軸にオーガニックなサイケデリック・サウンドを披露し、かたやバンド・セットで制作された『Here Comes』や『Feels』では、実験的で混沌としたスタジオ・ワークから祝祭感あふれるウォール・オブ・サウンドまで、手数を活かした振れ幅の大きいバンド・アンサンブルを展開。そして前作『Merriweather』では、ギタリストのジョシュが不在であることも機に、エレクトロニクスやサンプラーを使った音作りを推し進めるなど、これまでディスコグラフィーを通じて多彩な音楽性を提示してきた。
そうしたなかでも『Centipede Hz』が、「バンド」として特別な手応えを実感させる仕上がりとなった背景には、レコーディングの期間はもちろん、昨年のツアーを経験して4人が再び長い時間を共有できたことが大きいのだろう。
完成直後にPitchforkのインタヴューに答えたデイヴによれば、今回のレコーディングではライヴ感が重視されたとのことだが、そもそもアニマル・コレクティヴの場合、ライヴのフィーリングを作品に落とし込むことは今作に限らず一貫したコンセプトだといえる。以前にノアは「ライヴとレコーディングは合わせ鏡みたいにお互いを映し出して影響し合ってる」と話してくれたことがあったが、彼らにとってライヴとは、単なる既成曲の発表の場ではなく、未精製のアイディアを拡張させサウンドを練り上げていく創作のプロセスの一部という意味合いが大きい。実際、今作の楽曲の大半のリズム・トラックはノアによってライヴで録音されたものだという。
それを踏まえた上でノアは、「これまでのライヴ感はスタジオで捏造した部分が多かったんだよね。全部の楽器を同時に演奏するんじゃなくて、パズルみたいに音をひとつずつはめ込んでいくような作業だった。けど今回は各パートをしっかり弾きこんでからレコーディングに臨んだんだ。後からスタジオで音を足しまくって元々の演奏をごまかすんじゃなくてさ。これだけ一貫性のあるアルバムを作ったことはなかったと思う。車のエンジンをかけたらすぐに6速に入れて、あとはモーテルに到着するまで一気に走りきるっていう感じだった(笑)」と話す。
はたして『Centipede Hz』は、アニマル・コレクティヴ史上、最もハイ・テンションで、渾然一体と化した「バンド」の演奏が記録されたアルバムに間違いない。サウンドの大雑把な感触は、『Merriweather』の方向性――当時のブライアンの言葉を借りれば「100%エレクトロニックでもなければ、100%アコースティックでもない、エレクトロニックとアコースティックの境界線に存在するような音……」――を発展させ深化させた印象だが、「イメージとしては、水の中というか……水の中っていっても、深い水の底じゃなくて浅瀬みたいな。水の中なんだけど太陽の光も感じられるくらいの浅い水の中っていう……ミックスの段階で、そういう感覚を思い描いてたかな」とノアが語るメロウでアトモスフェリックなヴァイヴが満たした前作と比べると、冒頭から強烈にアップリフティングで、まさしく4人でジャムりながら一気呵成に作り上げたようなダイナミズムが漲る。ちなみに、デイヴはPitchforkのインタヴューで両作品の違いについて、『Merriweather』が地上から空や宇宙を見上げる感覚なら、『Centipede Hz』は宇宙船に乗って宇宙にいるような感覚、という表現でコメントしている。
あるいは、サウンドの一貫性や演奏の強度ということでいえば、これまでのディスコグラフィーが凝縮されたような集大成的なものも感じさせるし、それこそ『Danse Manatee』や『Here Comes』のカオティックでコラージュめいたサイケデリアを、『Feels』以降のポップに振り切れたフリー・スタイルでアップデートさせたような感覚もある。「そこにどっぷり漬かる時間が長かったというか……しばらく奇妙なところに入り込んでたんだ。すごく密度が濃くて、情報量が多いんだけど、それを何らかの意味で口当たりのいいものに翻訳するというか、特にミックスの部分でその方法を探るのに時間がかかったんだよね」とはノアの弁だが、今回の制作過程が、当の本人たちでさえ没頭しすぎて作品の全体像を見失いかねないほどの強烈な体験だったというのも、なるほど頷ける。
そんな『Centipede Hz』のインスピレーション源のひとつに、ノアは「80年代終わり頃のアメリカのカルチャーの影響」を挙げる。とくに自分たちが子供の頃にボルチモアで聴いていたラジオ。番組でかかる曲をカセットに録音したり、それをみんなで聴いたりした記憶、あるいは当時遊んでたゲームといった、そうしたノスタルジックな感覚がアルバムのイメージに投影されているという。「あと、単に当時ラジオでかかってた曲だけじゃなくて、たとえば番組のキャッチフレーズみたいなのがあるでしょ。変な声で番組名をいって、そのあとにピロロロロ〜みたいな効果音が入るっていう。そういうところからもアイデアをもらってると思う。何というか、ラジオ・コラージュみたいなね」。そうしたイメージは、今作には未収録だがイントロダクション的に先行リリースされたシングル“Honeycomb”でも聴けるものだ。
その上で、ジョシュがアルバムのトーテム的な存在の曲と語るのが、ノアいわく「エイリアンのロック(笑)」という“Today’s Supernatural”。「デイヴのメロディに宿っている、切迫した感情みたいな、彼の歌い方、あの曲で使ったヴォーカル・エフェクト……そのエフェクトの感じが狂ったラジオ・コラージュにすごく合ってる気がするんだ。ピッチもレイヤーもぐちゃぐちゃになるエフェクトで、とにかく感情が迫ってくる感じがすごいパワフルなんだ。それとあの曲って、この4人で一緒に演奏する時の感じがすごい新しいなって思った最初の曲のひとつだったんだよね」。一方ノアは、ユーフォリックなヴォーカル・コーラスとレゲエ/ダブのウェットなヴァイヴが織りなす“Pulleys”を、個人的なフェイヴァリットの曲として挙げる。他にも、オープニングを飾る強烈にイクレクティックな“Moonjock”や、ジョシュが歌うドープな“Wide Eyed”、“Father Time”のサン・ラも彷彿させるスピリチュアリズムや“Monkey Riches”のトランシーなエレクトロニックのジャム……など、押し寄せるハイライトの連続は枚挙に暇がない。アニマル・コレクティヴのサウンドには常々、「メンバーそれぞれがその時期に聴いていた音楽の傾向が重なり合う分岐点」が映し出されているとのことだが、『Centipede Hz』には、『Merriweather Post Pavilion』以降にデイヴとノアが互いのソロ・アルバムで披露したアニミスティックなプリコラージュやダビーでヒプノティックな感覚、あるいは昨年のミックステープ(※スニーカーブランド「KEEP」とのコラボ企画)に収録されたブライアンのアンビエントなテクスチャーや、それこそバンドを離れていた間にジョシュがプリンス・ラマ等のプロデュース・ワークで手がけたニューエイジ~ヒッピー的なヴァイヴも聴くことができるだろう。加えて、先の“Today’s Supernatural”や“New Town Burnout”で聴けるインドネシアや東南アジア風のメロディやギター・サウンドには、ジョシュいわく彼らが普段からよく聴いている「Sublime Frequencies」(※元サン・シティ・ガールズのアラン・ビショップが運営する辺境音楽専門レーベル)のレコードの影響も大きいらしい。
今作のプロデューサーには、『Merriweather』に引き続きベン・アレンを起用。今回のライヴ・サウンドを意識したレコーディングには、実際に彼らのライヴに足を運び、その上で得たベンのアイディアやアドヴァイスが活かされたようだ。全編に脈打つ低音やボトムを強調したプロダクションはベンならではであり、まさに狙い通りだろう。またゲストとして、先日11年ぶりのニュー・アルバム『The Tarnished Gold』をリリースしたビーチウッド・スパークスのデイヴ・シェアがラップスティール・ギター/メロディカで参加している。
ちなみに、今回の『Centipede Hz』というタイトルについては、次のようにジョシュが語る。「いくつものアイデアを表わしてる、すごく抽象化されたタイトルだと思う。僕たちのイメージとしては、エイリアンのラジオ局が縦横無尽にカオス的に発信してて、それが宇宙を駆け巡る、みたいな。“Hz”の部分は単純に波形とかそういうものを表わしてて、“Centipede(ムカデ)”の部分はエイリアンっぽい生物、昆虫的なエイリアン世界みたいなものを表わしてる」。ビーチやラグーンといった自然環境を思い描いた『Merriweather』のイメージとは対照的で、そんなところにも前作との違いが感じられておもしろい。
イギリスの音楽誌UNCUTは2009年の最後の号で、『Merriweather』をはじめ、その年リリースされたグリズリー・ベアやダーティー・プロジェクターズのアルバムの批評的成功と一定の商業的成功を例に挙げて、2009年を「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」と伝えた。それから3年。インディ・シーンのさらなる活況を背景に、奇しくも、その時のバンドが揃ってニュー・アルバムをリリースするタイミングを迎えた。
アニマル・コレクティヴの登場は、2000年代以降のあらゆるレヴェルのインディ・ミュージックに決定的な影響を与え、またそのディスコグラフィーの歩みは多くのアーティストやバンドに対してある種の音楽的指標を示してきた。そんなまさに“アニマル・コレクティヴ以降”、ともいうべき2000年代が終わり、4人にとって2010年代の幕開けを飾るニュー・アルバム『Centipede Hz』が完成した。はたして2012年は、アメリカの音楽史にどんな瞬間が刻まれる年になるのだろうか――。最後に、ノアとジョシュの言葉を紹介して、本稿の結びとしたい。
「音楽で表現できることには、まだ余白や可能性は残されていると思うよ。作り手それぞれの人生は続いていくわけだし、そういう意味では“もう何もいうことがない”“もう何も表現することはない”という状態になるのは不可能なんじゃないかな。いや、もう本当にこれだけ大勢の人間が音楽を作っているから、時には、すべてはやり尽くされた、もう何もすることがないと感じるかもしれない。でももし自分がそう感じてしまったら、作っても意味ないし、たぶん作るのを止めると思う。でもまだ新しい場所があるっていうことを僕は確信してるよ」(ノア)
「このあいだ誰かが話してて、そのポストモダン的状況みたいな、すべては出尽くして新しいことなんか何もない、すべてはすでに創造されていて、残されたことといえばいろんなものをいろんな組み合わせ方で見せるだけだっていうようなことをいってたんだよね。でも僕にとっては、自分の芸術観みたいなもの、アートを好きな気持ちの核の部分っていうのは常に、それがひとりの人間もしくはひとつのグループの経験を表現したものであるっていうことなんだよ。最終的にはそれがその表現をスペシャルなものにしていると思うんだ。だから僕にとってはある意味で、たとえそれが見覚えのある表現方法だったとしても、僕らは誰でもそれぞれにユニークな方法で世界を受け止めて独特の方法でそれを処理しているから、その特定の誰かによって表現されたものっていうのは、やっぱり新しいんだよ」(ジョシュ)
(2012/07)
(※極私的2000年代考(仮)……アニマル・コレクティヴという奇跡)
(※極私的2000年代考(仮)……アニマル・コレクティヴとトロピカリズモ)
(※極私的2000年代考(仮)……地質学者が語るアニマル・コレクティヴについて(増補版))
(※極私的2000年代考(仮)……アニマル・コレクティヴとディアハンター、あるいはアニマル・コレクティヴからディアハンターへ)
デイヴ・ポートナー(エイヴィ・テア)、ブライアン・ウェイツ(ジオロジスト)、ノア・レノックス(パンダ・ベア)、ジョシュ・デイヴ(ディーケン)。彼らは、地元のメリーランド州ボルチモア郊外の森林と農地に囲まれた田園風景のなか、学校の昼休みには自然を散策したり、夜は星空の下で一緒に音楽を聴いたりしながら、美しく牧歌的な時間を過ごしてきた。なかでもノアとジョシュは、小学生の頃からの幼なじみで、創造性や芸術的探求心を共有する深い友情で結ばれた仲だった。
一方で、アニマル・コレクティヴは、作品ごとに「バンド」のかたちを変える自由度の高いメンバー編成で知られる。
メイン・ソングライターのデイヴとノアのデュオで制作された2000年のファースト・アルバム『Spirit They're Gone, Spirit They've Vanished』。対して、ブライアンを加えたトリオによるセカンド・アルバム『Danse Manatee』に続き、ブライアンに替わってジョシュが参加して野外録音された『Campfire Songs』。2003年の『Here Comes the Indian』は初めて4人で制作されたアルバムで、再びデイヴとノアがデュオを組んだ『Sung Tongs』を挟み、『Feels』『Strawberry Jam』と4人編成によるアルバムが並ぶ。そして、2008年の前作『Merriweather Post Pavilion』はジョシュを除く3人で制作と、つまり彼らの場合、いわゆる「バンド」というよりは、もっと縛りのゆるい、即興的なプロジェクトに近い感覚で創作活動が営まれていることが想像できる。
もっとも、彼らはアニマル・コレクティヴと名乗る以前の、90年代の中頃に自然発生的に4人で音作りを始めた当初から、メンバー同士の様々な組み合わせを試しながら演奏を重ねてきた過去があり、その移動や入れ替えの自由な形態は、なるほど「コミュニティ」や「コレクティヴ(集合・集団)」と呼ぶのがふさわしいものだろう。
「友達としてこれだけ長く作り続けてこられたことに対する感謝の気持ちをリニューアルする、みたいな感じがあったと思う。みんなで今回のこのレコードを作ったことも本当にスペシャルなことだと思えたし、なぜこれだけ長くやってこれたのかとか、このバンドをやっていることが依然としてエキサイティングで楽しいっていうことが、あらためて表現されているんだ」(ジョシュ)
今回のニュー・アルバム『Centipede Hz』のトピックのひとつとして、久しぶりに4人が揃って制作されたアルバムであることが挙げられる。2007年の『Strawberry Jam』完成後、休養をとりバンドを離れていたジョシュが、昨年のツアーへの参加を機にバンドに復帰。フル・メンバーによるアルバムとしては5年ぶりになる。とはいえ、触れたとおり流動的なメンバー編成はアニマル・コレクティヴの常であり、これまでのディスコグラフィーを振り返ればなんら特別なことではない。バンドを離れていた間も、2年前には4人が長年取り組んでいた映像プロジェクト『ODDSAC』のDVDがリリースされたり、またデイヴのソロ・アルバム『Down There』の録音をジョシュが手がけるなど、メンバー同士の関係が途絶えていたわけではなかった。
ただ、今回の『Centipede Hz』に関しては、制作中から4人の心には特別に去来するものがあったようだ。
「このレコードには感謝がすごく込められている」とノアは語る。
それは想像するに、前作『Merriweather』の世界的な成功を受けてバンドを取り巻く環境が大きく変わるなかで、自分たちの原点を再確認するような特別な感情が、彼らの内を満たしていたのかもしれない。
そして、まさに『Centipede Hz』のサウンドも、そうして4人が集まったならではのモードが反映されたものといえるようだ。「とにかく4人で演奏しまくってノイズを発しまくって曲作りしたっていう、そこから来る演奏スタイルの強度がこれだけ大量のエネルギーの放出に繋がったんじゃないかと思う。今回は基本的に3ヶ月間、1日8時間、毎日みんなで演奏してたからね。こんなに時間をかけるなんて、すごく久しぶりのことなんだ。だからもう単純にそういう、毎日アンプを繋いでノアがドラムを叩いてみんなでみっちり弾くっていうことから、大量のエネルギーが生まれたんだと思う」とはジョシュの弁。ノアも「実際にライヴで音を出しながら曲作りをやったのは大きかったかもね。ヘッドホンで作るのとアンプを繋げてデカい音を出して作るのとでは全然違うからさ」と語る。
ちなみに、レコーディングでノアがドラム・キットに座って演奏するのは『Here Comes』以来のことらしい。
そもそも彼らは、これまでもその都度のメンバー編成に応じてサウンドのベクトルを変化させてきた経緯がある。かたやデュオで制作された『Spirit They're Gone』や『Sung Tongs』では、アコースティック・ギターやパーカッションを軸にオーガニックなサイケデリック・サウンドを披露し、かたやバンド・セットで制作された『Here Comes』や『Feels』では、実験的で混沌としたスタジオ・ワークから祝祭感あふれるウォール・オブ・サウンドまで、手数を活かした振れ幅の大きいバンド・アンサンブルを展開。そして前作『Merriweather』では、ギタリストのジョシュが不在であることも機に、エレクトロニクスやサンプラーを使った音作りを推し進めるなど、これまでディスコグラフィーを通じて多彩な音楽性を提示してきた。
そうしたなかでも『Centipede Hz』が、「バンド」として特別な手応えを実感させる仕上がりとなった背景には、レコーディングの期間はもちろん、昨年のツアーを経験して4人が再び長い時間を共有できたことが大きいのだろう。
完成直後にPitchforkのインタヴューに答えたデイヴによれば、今回のレコーディングではライヴ感が重視されたとのことだが、そもそもアニマル・コレクティヴの場合、ライヴのフィーリングを作品に落とし込むことは今作に限らず一貫したコンセプトだといえる。以前にノアは「ライヴとレコーディングは合わせ鏡みたいにお互いを映し出して影響し合ってる」と話してくれたことがあったが、彼らにとってライヴとは、単なる既成曲の発表の場ではなく、未精製のアイディアを拡張させサウンドを練り上げていく創作のプロセスの一部という意味合いが大きい。実際、今作の楽曲の大半のリズム・トラックはノアによってライヴで録音されたものだという。
それを踏まえた上でノアは、「これまでのライヴ感はスタジオで捏造した部分が多かったんだよね。全部の楽器を同時に演奏するんじゃなくて、パズルみたいに音をひとつずつはめ込んでいくような作業だった。けど今回は各パートをしっかり弾きこんでからレコーディングに臨んだんだ。後からスタジオで音を足しまくって元々の演奏をごまかすんじゃなくてさ。これだけ一貫性のあるアルバムを作ったことはなかったと思う。車のエンジンをかけたらすぐに6速に入れて、あとはモーテルに到着するまで一気に走りきるっていう感じだった(笑)」と話す。
はたして『Centipede Hz』は、アニマル・コレクティヴ史上、最もハイ・テンションで、渾然一体と化した「バンド」の演奏が記録されたアルバムに間違いない。サウンドの大雑把な感触は、『Merriweather』の方向性――当時のブライアンの言葉を借りれば「100%エレクトロニックでもなければ、100%アコースティックでもない、エレクトロニックとアコースティックの境界線に存在するような音……」――を発展させ深化させた印象だが、「イメージとしては、水の中というか……水の中っていっても、深い水の底じゃなくて浅瀬みたいな。水の中なんだけど太陽の光も感じられるくらいの浅い水の中っていう……ミックスの段階で、そういう感覚を思い描いてたかな」とノアが語るメロウでアトモスフェリックなヴァイヴが満たした前作と比べると、冒頭から強烈にアップリフティングで、まさしく4人でジャムりながら一気呵成に作り上げたようなダイナミズムが漲る。ちなみに、デイヴはPitchforkのインタヴューで両作品の違いについて、『Merriweather』が地上から空や宇宙を見上げる感覚なら、『Centipede Hz』は宇宙船に乗って宇宙にいるような感覚、という表現でコメントしている。
あるいは、サウンドの一貫性や演奏の強度ということでいえば、これまでのディスコグラフィーが凝縮されたような集大成的なものも感じさせるし、それこそ『Danse Manatee』や『Here Comes』のカオティックでコラージュめいたサイケデリアを、『Feels』以降のポップに振り切れたフリー・スタイルでアップデートさせたような感覚もある。「そこにどっぷり漬かる時間が長かったというか……しばらく奇妙なところに入り込んでたんだ。すごく密度が濃くて、情報量が多いんだけど、それを何らかの意味で口当たりのいいものに翻訳するというか、特にミックスの部分でその方法を探るのに時間がかかったんだよね」とはノアの弁だが、今回の制作過程が、当の本人たちでさえ没頭しすぎて作品の全体像を見失いかねないほどの強烈な体験だったというのも、なるほど頷ける。
そんな『Centipede Hz』のインスピレーション源のひとつに、ノアは「80年代終わり頃のアメリカのカルチャーの影響」を挙げる。とくに自分たちが子供の頃にボルチモアで聴いていたラジオ。番組でかかる曲をカセットに録音したり、それをみんなで聴いたりした記憶、あるいは当時遊んでたゲームといった、そうしたノスタルジックな感覚がアルバムのイメージに投影されているという。「あと、単に当時ラジオでかかってた曲だけじゃなくて、たとえば番組のキャッチフレーズみたいなのがあるでしょ。変な声で番組名をいって、そのあとにピロロロロ〜みたいな効果音が入るっていう。そういうところからもアイデアをもらってると思う。何というか、ラジオ・コラージュみたいなね」。そうしたイメージは、今作には未収録だがイントロダクション的に先行リリースされたシングル“Honeycomb”でも聴けるものだ。
その上で、ジョシュがアルバムのトーテム的な存在の曲と語るのが、ノアいわく「エイリアンのロック(笑)」という“Today’s Supernatural”。「デイヴのメロディに宿っている、切迫した感情みたいな、彼の歌い方、あの曲で使ったヴォーカル・エフェクト……そのエフェクトの感じが狂ったラジオ・コラージュにすごく合ってる気がするんだ。ピッチもレイヤーもぐちゃぐちゃになるエフェクトで、とにかく感情が迫ってくる感じがすごいパワフルなんだ。それとあの曲って、この4人で一緒に演奏する時の感じがすごい新しいなって思った最初の曲のひとつだったんだよね」。一方ノアは、ユーフォリックなヴォーカル・コーラスとレゲエ/ダブのウェットなヴァイヴが織りなす“Pulleys”を、個人的なフェイヴァリットの曲として挙げる。他にも、オープニングを飾る強烈にイクレクティックな“Moonjock”や、ジョシュが歌うドープな“Wide Eyed”、“Father Time”のサン・ラも彷彿させるスピリチュアリズムや“Monkey Riches”のトランシーなエレクトロニックのジャム……など、押し寄せるハイライトの連続は枚挙に暇がない。アニマル・コレクティヴのサウンドには常々、「メンバーそれぞれがその時期に聴いていた音楽の傾向が重なり合う分岐点」が映し出されているとのことだが、『Centipede Hz』には、『Merriweather Post Pavilion』以降にデイヴとノアが互いのソロ・アルバムで披露したアニミスティックなプリコラージュやダビーでヒプノティックな感覚、あるいは昨年のミックステープ(※スニーカーブランド「KEEP」とのコラボ企画)に収録されたブライアンのアンビエントなテクスチャーや、それこそバンドを離れていた間にジョシュがプリンス・ラマ等のプロデュース・ワークで手がけたニューエイジ~ヒッピー的なヴァイヴも聴くことができるだろう。加えて、先の“Today’s Supernatural”や“New Town Burnout”で聴けるインドネシアや東南アジア風のメロディやギター・サウンドには、ジョシュいわく彼らが普段からよく聴いている「Sublime Frequencies」(※元サン・シティ・ガールズのアラン・ビショップが運営する辺境音楽専門レーベル)のレコードの影響も大きいらしい。
今作のプロデューサーには、『Merriweather』に引き続きベン・アレンを起用。今回のライヴ・サウンドを意識したレコーディングには、実際に彼らのライヴに足を運び、その上で得たベンのアイディアやアドヴァイスが活かされたようだ。全編に脈打つ低音やボトムを強調したプロダクションはベンならではであり、まさに狙い通りだろう。またゲストとして、先日11年ぶりのニュー・アルバム『The Tarnished Gold』をリリースしたビーチウッド・スパークスのデイヴ・シェアがラップスティール・ギター/メロディカで参加している。
ちなみに、今回の『Centipede Hz』というタイトルについては、次のようにジョシュが語る。「いくつものアイデアを表わしてる、すごく抽象化されたタイトルだと思う。僕たちのイメージとしては、エイリアンのラジオ局が縦横無尽にカオス的に発信してて、それが宇宙を駆け巡る、みたいな。“Hz”の部分は単純に波形とかそういうものを表わしてて、“Centipede(ムカデ)”の部分はエイリアンっぽい生物、昆虫的なエイリアン世界みたいなものを表わしてる」。ビーチやラグーンといった自然環境を思い描いた『Merriweather』のイメージとは対照的で、そんなところにも前作との違いが感じられておもしろい。
イギリスの音楽誌UNCUTは2009年の最後の号で、『Merriweather』をはじめ、その年リリースされたグリズリー・ベアやダーティー・プロジェクターズのアルバムの批評的成功と一定の商業的成功を例に挙げて、2009年を「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」と伝えた。それから3年。インディ・シーンのさらなる活況を背景に、奇しくも、その時のバンドが揃ってニュー・アルバムをリリースするタイミングを迎えた。
アニマル・コレクティヴの登場は、2000年代以降のあらゆるレヴェルのインディ・ミュージックに決定的な影響を与え、またそのディスコグラフィーの歩みは多くのアーティストやバンドに対してある種の音楽的指標を示してきた。そんなまさに“アニマル・コレクティヴ以降”、ともいうべき2000年代が終わり、4人にとって2010年代の幕開けを飾るニュー・アルバム『Centipede Hz』が完成した。はたして2012年は、アメリカの音楽史にどんな瞬間が刻まれる年になるのだろうか――。最後に、ノアとジョシュの言葉を紹介して、本稿の結びとしたい。
「音楽で表現できることには、まだ余白や可能性は残されていると思うよ。作り手それぞれの人生は続いていくわけだし、そういう意味では“もう何もいうことがない”“もう何も表現することはない”という状態になるのは不可能なんじゃないかな。いや、もう本当にこれだけ大勢の人間が音楽を作っているから、時には、すべてはやり尽くされた、もう何もすることがないと感じるかもしれない。でももし自分がそう感じてしまったら、作っても意味ないし、たぶん作るのを止めると思う。でもまだ新しい場所があるっていうことを僕は確信してるよ」(ノア)
「このあいだ誰かが話してて、そのポストモダン的状況みたいな、すべては出尽くして新しいことなんか何もない、すべてはすでに創造されていて、残されたことといえばいろんなものをいろんな組み合わせ方で見せるだけだっていうようなことをいってたんだよね。でも僕にとっては、自分の芸術観みたいなもの、アートを好きな気持ちの核の部分っていうのは常に、それがひとりの人間もしくはひとつのグループの経験を表現したものであるっていうことなんだよ。最終的にはそれがその表現をスペシャルなものにしていると思うんだ。だから僕にとってはある意味で、たとえそれが見覚えのある表現方法だったとしても、僕らは誰でもそれぞれにユニークな方法で世界を受け止めて独特の方法でそれを処理しているから、その特定の誰かによって表現されたものっていうのは、やっぱり新しいんだよ」(ジョシュ)
(2012/07)
(※極私的2000年代考(仮)……アニマル・コレクティヴという奇跡)
(※極私的2000年代考(仮)……アニマル・コレクティヴとトロピカリズモ)
(※極私的2000年代考(仮)……地質学者が語るアニマル・コレクティヴについて(増補版))
(※極私的2000年代考(仮)……アニマル・コレクティヴとディアハンター、あるいはアニマル・コレクティヴからディアハンターへ)
2012年12月4日火曜日
2012年12月のカセット・レヴュー(随時更新予定)
◎Euglossine/Floridian Abstract
フロリダで活動するTristan Whitehillのソロ・プロジェクト。例えるならデイデラスがチップチューンでアンビエントをやってるような場面もありつつ、アブストラクトとファンクがvaporwaveを擬態するようなあぶなっかしいBサイドもなかなか。地元では積極的にコラボレーションを重ねるシーンの要人らしい。
◎Schedelvreter/Hunker
Das Dingの活動名で知られるオランダ人の重鎮ミニマル・シンセ・プロジェクト。「Minimal Wave」というレーベル名もさもありなんだか、浅い眠りの中を曳航するような不安症的アンビエントが続き、ときおり叫び声やフィールド・レコーディングがインダストリアルなビートに混じって木霊する。
◎Compass Hour/ST
ポスト・GASことArtic HospitalやKinit Herのメンバーからなるトリオ。出自からテクノ~アンビエントを想像したが、実際はヴァイオリンやチェロなどストリングスやマンドリンといった生楽器で構成されたアコースティックなアンサンブル。Hotel2Tangoで録音されたゴッドスピード周辺の残党によるロストテープも連想させる。
◎Virgin Spirit/The Skull Tastes Like Metal
好調「No King」が誇る William Cody Watson (Pink Priest, Malibu Wands, Gremlynz)とJoe Volmer (Clearing, Police Academy 6)によるデュオ。 テープ・ヒスのよう緩いノイズ~鈍色のアンビエントが流れ、 リヴァーブの向こう側からは、マントラか何かの放送をサンプリングしたものなのか、無気味な囁きが聴こえてくる。 アートワークにはLee Nobleもいっちょ噛み。
◎Bob Blaize, Jeph Jerman, Travis Johnson/Sky Bells
即興やフリー・ジャズやら電子音楽~テープ・コラージュを出自とする、一部では名の知れたカルトによるトリオ。その活動履歴が開陳する3人の作家性が不可分なく混ぜ合わされた、なんというか、タージマハル旅行団も彷彿とさせる静謐なフリー~ミニマル・ミュージック。
◎Merryl/Towel Crown
今年も年間を通じて良作をリリースし続けたHooker Visionから。 ノース・キャロライナのWill Isenogleによるソロ・プロジェクト。A面冒頭、自助グループか催眠療法のテープからサンプリングしたような会話で幕を開け、メスメリズム全開のドローン・ラーガをへて噴霧のようなノイズ・アンビエント~ハーシュ・ノイズへ。対して、B面はひたすら深海の底を這うようなドローン・アンビエント。
◎Air Sign/In Search Of…
おなじみNo Kingsから。VxPxCのメンバーで、LAでEcho Curioというアート・スペースを運営するキーマン、Justin McInteerのソロ・プロジェクト。キーボード&ドラムマシーンによる、飽くなき弛緩したジャム・セッション。実在した古いドキュメンタリー番組がテーマだとか。ところで話は変わるが、近年になりジョン・カーペンター作品のサントラが再発され80Sホラー映画の劇中音楽のドローンやシンセ・サウンドに関心が寄せられるなど、ウィッチ・ハウス周辺のマカロニ・ホラーやロマン・ポランスキーなんかからのヴィジュアル・イメージのサンプリングのセンスとも共有する動きがしばしば散見されたり、気づかぬ間になんだか興味深い動きが起きているのも見逃せない。
◎Steve Kenney/Dawn Widow
ミシガンのノイズシーンで活動するヴェテラン。同郷のウルフ・アイズとも近しい関係かも知れない。果ての見えない重厚鈍重なシンセ・ドローンをパッケージしたライブ音源が2曲。メディテーティヴというよりメカニカルなザラつきは、アメリカ重工業のお膝元産ならでは、とか。
◎Je Suis Le Petit Chevalier/A Guide To The Sun
Felicia Atkinsonが披露する暗黒面。アブストラクトなダーク・アンビエントはFK名義とは陰陽の関係をなし、鈴の音や微細にトーンやタッチを変える電子音&ノイズには、Grouperにも通じるミスティックな余韻を。しかし、近年ますます多作に。
◎A Story Of Rats/Hellvete/split
乱暴に言ってしまうとBarn OwlとSunn O)))を掛け合せたようなサイケ・ドローンを奏でる前者と、Silvester Anfang IIのメンバーも兼ねる多才による、バンジョーやハーモニウムも絡めたジャッキー・O的な宇宙も描くフォーキー・ドローンの後者。いわば、テリー・ライリーとヘンリー・フリントの邂逅による現代的展開。
◎Sparkling Wide Pressure/Covered in Blue Colors
個性的なコラージュ・アートワークが好評なWatery Starveから。テネシーのFrank Baughによるプロジェクト。アメリカーナとホーミーとドローンがたおやかにクロスフェードするような悠久のアンビエンス。なんとなくだがテープが回転するタイム感とサウンドが絶妙にマッチングしていて心地よい。
◎Stephen Molyneux/The Stars Are The Light Show
No Kingsからのリリースでも知られる作家のWatery Starve作品。イヌイットやモンゴル遊牧民のフォルクローレを思わせるアコースティックから、オルガンやエレクトロニクスが厳かに重なり音色を広げる至福のアンビエントへ。フィールド・レコーディングスを得意の作風とするが、ポスト・クラシカルとも接続するモダンな美意識も感じさせる。個人的には近作のFelicia Atkinsonとも並びうるポテンシャルを秘めた才能だと思う。
◎Brian Clark Miller/Old Souls & Empty Hollers
日本でも演歌“シーン”ではカセットがまだまだ現役のメディアであるように、たとえばアメリカでもカントリーやブルースやフォークといったルーツ・ミュージックの伝播と流通においてカセットがまだまだ有効であったりとかするのだろうか。ついついカセットをインディ・ロックやアンダーグラウンドとの関わりで捉えてしまいがちだが、じつはそっちの方にも私の関心は向かいつつある。まあ日本の場合、演歌とカセットの関係にはカラオケ=マメカラというハード?の側面もあると思うのだが、さすがにかの国でカセットデッキにテープを入れて酒場や居間でカントリーやブルースを歌う光景は、想像しがたい……が、はたして。
◎MIKE BRUNO + THE BLACK MAGIC FAMILY BAND/THE WILLING OF THE WISPS
イギリスはニューブランズウィックのアシッド・フォーク歌手のバンド編成作品。一聴して連想したのは初期のデヴェンドラだが、他にもグレイヴンハーストやウィリー・メンソンやニック・カストロ、他にも名前は思い出せないが2000年代の中頃にフリー・フォーク~ウィアード・アメリカ絡みでグローズアップされた男性歌手をさまざま思い起こさせる。バンドのアー写を見るとまるでココロジーやエスパースやヴェティヴァーを迎えたデヴェンドラ・ファミリーの一座のよう。
◎Fill Spectre/Scare Your Friends
フィル・スペクターなのかラモーンズなのか、それともマッシュルームカットのクランプスなのか。まあ少なくともウォール・オブ・サウンドではない。麗しき女性のヴォーカル&コーラス・ハーモニーもない。ベタベタなガレージ・ポップやサイコビリーといった感じで、よく言えばブラック・リップスや彼らとディアハンターのメンバーが組んだ覆面バンドのサーフ・ロックも連想させる。地元はトロント。
◎Jonathan James Carr/Well Tempered Ignorance
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Loaded』も連想させるジャケット。そういえばブルース・コントロールにもこのようなモクモクのジャケがあったかもしれない。地元はポートランドということで、なるほどジャッキー・O周辺のフリー・ミュージックと親和性が高い。しかしアコースティックというよりシンセがみょんみょんとうねるドローン・マターのクラスター~クラウト・ロック系で、そういう意味ではブルース・コントロールの方に近いのかなとも思う。
◎Andreas Brandal/Staying Is Nowhere
同じくポートランドから、Jonathan James Carrとレーベル・メイトのシンセ・ドローン。栄養源はクラウト・ロックや80年代のニュー・エイジ音楽に間違いないが、Map Of Africaにも通じるコズミックなスタイルはジャッキー・OというよりはAstral Social Clubと距離が近いかもしれない。性的なメタファーも窺わせるアート・ワークといい、まあどことなく時代がかっているとこもなくはないが、ご愛嬌。
◎Eureka California/Lame Drivers/split
アセンズとブルックリンの2組によるスプリット。由緒正しきローファイ・ポップ~ガレージ・ロックといった佇まい。ガイデッドやペイヴメントがお好きな方はどうぞ。
◎Crippling/Fleeting Talisman
今もっとも信頼できるレーベルのひとつ、Hooker Visionから、Nova Scotian ArmsことGrant Evansの新プロジェクト。L.A.F.M.S.や後期デストロイ・オール・モンスターズ(with トニー・アウスラー)直伝のLAアンダーグラウンド・フリー・ミュージックの伝統を受け継ぐような禍々しいコラージュ/ミュージック・コンクレート。廃材や不良品を寄せ集めて価値転倒することで無二のアートと見立てるような、ある意味ではフルクサス的なアルケミーも彷彿させるモダン・ドローン/アンビエントのNO WAVE。
◎Father Finger/Father Finger
早い話がアマンダ・ブラウンやマリア・ミネルヴァの妹というか末娘的な位置付けの通称“親指姫”。現在のNot Not Funと100%Silkの関係性よくわかるローファイ・ダンス・ポップ。正直この手のサウンドは食傷気味な気もするが、ビキニ・キルのキャスリーン・ハナがル・ティグラを始めたように、またゴシップのベス・ディットーの例を挙げるまでもなく、ダンスとパンクとノイズの交点から現在のライオット・ガール的表現は立ち上がるという好例かも。
◎Nodolby/s/t
ノー・ドルビー・サウンド=ローファイ、という主張なのだろうか。細々としたノイズやサンプリングをコラージュしたシークエンスは、フォークトロニカなブラック・ダイスともいうべき牧歌性も覗かせ、けだし鼓膜にさざ波を立てるような騒々しさに、ノイジシャンとしての沽券のようなものを感じたり。
◎/PLEASE//.2.
新興Sewage Tapesの顔役。バレアリックでファジーなイマドキのエレクトロニック・ミュージックを得意とするブリストルの彼女?彼?だが、そんなゴーストリーでウィッチーなヴォイスもありつつ、フィールド・レコーディングや生音も絡めながらオーガニックな音作りにシフトした印象も。装飾的なレイヤーは控えめに、時おり覗く爪弾くようなギターのメロディーが思いのほか様になっている。
◎Amasa•Gana/untitled
フィールド・レコーディングを下絵に、アコースティックとシンセを塗り重ねモノローグのようなサウンドスケープを描く。ドローンと不協和音のオーケストラはゴッドスピードのそれに感触が近い。アートワークも印象的なオースティンの5人組。
◎Beru/Fire Eyes Gather Souls
今年のベストに入る一本。例えばポーティスヘッドはサード・アルバムでドローンに反応したが、B面などまるで「Machine Gun」をUSアンダーグラウンドのサイケデリック・ノイズに転写したような衝撃。ゴーストリーというよりはホリブルという形容がふさわしいヴォーカルは、ヴァシュティ・バニアンからディアマンダ・ギャラス、果てはクラウス・ノミへと変幻自在な魔性を孕み、ドローニッシュなギター・サウンドはリチャード・ヤングスや灰野敬二からの影響を昇華したもの、とか。ユダヤとキューバの血を引くエキゾチックな才媛、LAのJessica Nicole Collinsによるソロ・プロジェクト。しかしDigitalisは今年も豊作だな。
(※2012年11月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年10月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
(※極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
2012年11月30日金曜日
2012年の熟聴盤⑪
・ Nosaj Thing/Home
・ Sir Stephen/House Of Regalia
・ Raime/Quarter Turns Over a Living Line
・ Mushy/My Life So Far
・ 柴田聡子/しばたさとこ島
・ ミツメ/eye
・ Andy Stott/Luxury Problems
・ Ital/Dream On
・ Rites Wild/Ways Of Being
・ The Weeknd/Trilogy
・ Lau Nau/Valohiukkanen
・ The Yours/The Way We Were
・ Halls/Ark
・ Emeralds - Just To Feel Anything
・ Chilly Gonzales/Solo Piano Ⅱ
・ Andrew Bird/Hands of Glory
・ Pelt/Effigy
・ Diane Cluck/Fall. Tour. Songs.
・ Crystal Castles(III)
・ The Evens/The Odds
・ Diva Dompe/Moon Moods
・ Mystical Weapons/Mystical Weapons
・ Talk Normal/Sunshine
・ Blank Realm/Go Easy
・ LA Vampires with Maria Minerva/The Integration
・ ザ・なつやすみバンド/めくらまし
(※2012年の熟聴盤⑩)
(※2012年の熟聴盤⑨)
(※2012年の熟聴盤⑧)
(※2012年の熟聴盤⑦)
(※2012年の熟聴盤⑥)
(※2012年の熟聴盤⑤)
(※2012年の熟聴盤④)
(※2012年の熟聴盤③)
(※2012年の熟聴盤②)
(※2012年の熟聴盤①)
・ Sir Stephen/House Of Regalia
・ Raime/Quarter Turns Over a Living Line
・ Mushy/My Life So Far
・ 柴田聡子/しばたさとこ島
・ ミツメ/eye
・ Andy Stott/Luxury Problems
・ Ital/Dream On
・ Rites Wild/Ways Of Being
・ The Weeknd/Trilogy
・ Lau Nau/Valohiukkanen
・ The Yours/The Way We Were
・ Halls/Ark
・ Emeralds - Just To Feel Anything
・ Chilly Gonzales/Solo Piano Ⅱ
・ Andrew Bird/Hands of Glory
・ Pelt/Effigy
・ Diane Cluck/Fall. Tour. Songs.
・ Crystal Castles(III)
・ The Evens/The Odds
・ Diva Dompe/Moon Moods
・ Mystical Weapons/Mystical Weapons
・ Talk Normal/Sunshine
・ Blank Realm/Go Easy
・ LA Vampires with Maria Minerva/The Integration
・ ザ・なつやすみバンド/めくらまし
(※2012年の熟聴盤⑩)
(※2012年の熟聴盤⑨)
(※2012年の熟聴盤⑧)
(※2012年の熟聴盤⑦)
(※2012年の熟聴盤⑥)
(※2012年の熟聴盤⑤)
(※2012年の熟聴盤④)
(※2012年の熟聴盤③)
(※2012年の熟聴盤②)
(※2012年の熟聴盤①)
2012年11月21日水曜日
極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンド白書:Wooden Shjips
イリノイ州シカゴに拠点を置くレコード・レーベル「Thrill Jockey」。1992年に設立され、来年で20周年を迎えるアメリカの名門インディ・レーベルだが、「Thrill Jockey」といえば、やはりポスト・ロックや音響系を中心とした、90年代から続くイメージが今も強いかもしれない。
トータスやシー・アンド・ケイクを筆頭に、シカゴ・アンダーグラウンドやアイソトープ217等のジャズ・ミュージシャンも含めて総称された、いわゆる“シカゴ音響派”。オヴァルやマウス・オン・マーズといったエレクトロニック・ミュージック。あるいは、フリークウォーターやキャリフォンに代表されるオルタナ・カントリー~アメリカーナ。また、設立10周年を記念して制作されたDVD『Looking For A Thrill: An anthology of inspiration』には、所属アーティストの他に、サーストン・ムーアやイアン・マッケイ、ビョークをはじめ錚々たる顔ぶれのコメントが収録されていて、同レーベルの存在感の大きさをあらためて知ることができる。
そんな「Thrill Jockey」だが、近年はそのラインナップに新たな変化も窺える。従来の路線に加えて、サイケデリックやハードコア、クラウト・ロック、ノイズやブラック・メタルまで、エクストリームな趣向のアーティストを広く取り揃えるようになった。具体名を挙げれば、ホワイト・ヒルズ、スカル・デフェクツ、インボゴドム、ミ・アミ、ダブル・ダガー、サンキュー、KTL、リタジー……etc。たとえばハイ・プレイセズやフューチャー・アイランズといった、アニマル・コレクティヴ以降のポップ寄りのバンドも迎え入れる一方で、レーベルの展開としては、よりコアでエクスペリメンタルな方向へ振れたセレクトを見せている。
なかでも、今年に入り揃って新作をリリースしたエターナル・タペストリー、サン・アロウ(※エターナル・タペストリーとの共作)、バーン・オウルの3組は、そうした近年の「Thrill Jockey」のカラーを象徴する名前だろう。フリー・フォークを契機に、2000年代の終盤から続くアンダーグラウンド・シーンの氾濫と連動するように、「Thrill Jockey」は、それ以前/以後を繋ぐハブとしてジャンルを横断する多様性を示してきた。とりわけ名前を挙げた3組については、彼らの作品もリリースするLAのレーベル「Not Not Fun」を旗艦としたポスト・ノイズ・シーン、さらにはアメリカ西海岸を棲家とするサイケデリック・ミュージックのコミューンの存在も背景に指摘できるかもしれない。そしてこうした状況は、「Thrill Jockey」の例に限らず、2010年代にかけてさらに活性化の一途にあるといえる。
サンフランシスコを活動拠点とする4人組、ウッデン・シップス。彼らもまた、先の3組と並んで近年の「Thrill Jockey」を象徴するバンドであり、アメリカのアンダーグラウンド・シーンの活況を伝える名前のひとつだろう。3枚目のオリジナル・フル・アルバムである本作『ウェスト』は、「Thrill Jockey」からリリースされる初めての作品になる。
G/Voのエリック“リプリー”ジョンソンを中心にウッデン・シップスが結成されたのは2000年代の中頃。それとほぼ同時にリリースされた2006年のシングル『Dance, California』を皮切りに、バンド主宰の「Sick Thirst」をはじめ様々なレーベルをまたがり作品を発表してきた。そのディスコグラフィーは、自主制作のカセットやスプリット、コンピレーションを含めると、5年の間で20作品近いタイトルに及ぶ。
無名の状態ながら、初期のシングルがローリング・ストーン誌やイギリスのWIRE誌で取り上げられ注目を集める中、浮上のきっかけとなったのが、2007年に「Holy Mountain」からリリースされたファースト・アルバム『Wooden Shjips』。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやグル・グル、裸のラリーズまで引き合いに出し称賛された作品の評判に加えて、「Holy Mountain」という、USアンダーグラウンド・シーンの要衝を司る――シックス・オルガンズ・オブ・アドミッタンスをはじめ、オムやブルース・コントロールのドゥーム~サイケ・ロック、ジェイムス・フェラーロやヘックスラヴのドローン~アンビエント、水晶の舟といったジャパニーズ・サイケまで擁する――レーベルの後ろ盾が、彼らの出自を詳らかにし評価を正当に位置づけた点も大きいのだろう。すなわち、60年代や70年代のロックのリヴァイヴァリストではなく、フリー・フォーク以降のラディカルな実験音楽の一群として彼らはそのアルバムで認知を得た。同じ年には、13thフロア・エレヴェーターズのロキー・エリクソンと共演したNoise PopやSXSWに出演を果たし、また「Sub Pop」からシングル『Loose Lips / Start To Dreaming』もリリース。共感を寄せる同郷のハウリン・レインやシック・アルプス、スリーピー・サンらとともに、早くからアメリカのアンダーグラウンド・シーンで頭角を現していく。
「僕たちの音楽的な関心は、ギター・サウンドを幾重にも重ね、グルーヴを拡張させることで生み出される催眠的な効果にある」。そう語るリプリーにとって、自身の音楽体験をさかのぼりバンドの青写真となった作品は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』、より正しくはブートレグの『Sweet Sister Ray』だった。同作品は、ヴェルヴェッツ屈指のサイケデリック・ナンバーである“Sister Ray”を、ジョン・ケイル脱退以前/以後のヴァージョン違いで4曲収録した2枚組のレコード。リプリーは、それを友達の兄からカセットにダビングしてもらい、テープが擦り切れるまで繰り返し聴いていたという。リプリーいわく、それは「ロック・ミュージックの愛すべき要素――ディストーション、ローファイな録音の感触、絶え間ないビート――すべてを蒸留したような曲」だった。
そしてもう一枚、リプリーにとって初めて聴いた「ロックンロールのレコード」だったローリング・ストーンズの『刺青の男』。ブルースの愛好家であり、とくにマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフといった50年代以降の電化ブルースに造詣が深いリプリーだが、『刺青の男』からは、ストーンズが古いブルースのレコードを聴くことでどのように演奏方法を習得したのか、そのプロセスを学んだという。実際、そうしてリプリーはハウリン・ウルフやチャック・ベリーのレコードを聴いてギター・プレイの参考にしたそうだ(※加えて、アモン・デュールやラ・デュッセルドルフなどクラウト・ロックにも傾倒したきっかけとして、ジュリアン・コープの名著『Krautrocksampler』を挙げている)。
その上で、リプリーはバンドの初期のコンセプトについて「聴き手を踊らせるような、プリミティヴで反復的(repetitive)な音楽を作ること」と語る。ロックンロールとはダンス・ミュージックであり、リズムの実験こそ最も重要である、と。バンドはライヴ・レコーディングを主体とし、即興演奏が比重を占めているが、曲作りはつねにリズム・パートから行われ、それを基にビルドアップしテクスチャーを練り上げていくスタイルが取られているという。
一方でユニークなのは、それほど明快なヴィジョンがありながら、そもそもバンドの結成にあたり彼らは、リプリーを除いて楽器の演奏については素人に近い集団だった、という点だ。リプリーによれば、むしろ「誰にでも音楽は作れる」という信念からそれは意図的に仕組まれたものらしい。アンディ・ウォーホルと共謀した初期のヴェルヴェット・アンダーグラウンドのコンセプトも彷彿させるが、つまりリプリーは、実践を通して習得される演奏に価値を見出し、それが真の表現(「true expression」)を生み出すと考えた。その意味で、ある時点までのバンドのディスコグラフィーは、彼らがアウトサイダーから音楽集団へと変貌を遂げていくドキュメントだといえるかもしれない(※結成当初は5人組だったが、現在のオリジナル・メンバーはリプリーとオルガンのナッシュ・ワーレンのみ)。
ニュー・アルバムの本作『ウェスト』だが、サウンドの全体像はこれまでの作品と大きくは変わらない。そもそも彼らは、変化というよりは深化を追求するタイプのバンドであり、当初からのコンセプト「聴き手を踊らせるような、プリミティヴで反復的な音楽」を愚直に煎じ詰めるような志向性は、本作においても従来の延長線上にあるといえる。ただ、過去の作品と大きく異なるのは、本作が本格的なスタジオで制作された初めてのアルバムであるということ。それまでは自前の練習スタジオでレコーディングからプロデュースまで自らこなしてきたが、今回は外部プロデューサーに、バーン・オウルの最新作『ロスト・イン・ザ・グレア』も手がけたトランズ・アムのフィル・マンレイを迎え、すべて一貫した工程のなかで執り行われた。そうした環境面の変化によるプロダクションの向上や作品としての完成度は、前作の『Dos』(’09)やシングル集『Vol.1』(’08)と比べて一聴瞭然だろう。バンドとしての精練とともにあった過去の作品群を「習作」とするなら、『ウェスト』は文字通り「本作」と呼ぶにふさわしい。
そして、本作の最大のトピックが、マスタリングを手がけたソニック・ブームの起用だろう。ソニック・ブーム及びスペースメン3は、同時代のループらとともにバンドの大きな影響源と指摘されるアーティストであり、実際、両者は以前にロンドンの「The Great Pop Supplement」からスプリット7インチ『Big City (Demo) / I Believe It』(’09)をリリースした経緯がある。何よりソニック・ブームとは、スペクトラム/E.A.R.名義でのシルヴァー・アップルズやケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)との交流や、近年のMGMTやパンダ・ベア(アニマル・コレクティヴ)のプロデュース・ワークが物語るように、いわばモダン・サイケデリアのルーツと現在を繋ぐ存在であり、さらにスペースメン3時代を紐解けば、そこにはストゥージズや13thフロア・エレヴェーターズへとさかのぼるガレージ・ロック~ストーナーの系譜も浮かび上がる(※加えてソニックは、リトル・リチャードやファッツ・ドミノのレコードに親しむ50年代の初期ロックンロール~ロカビリー、リズム&ブルースの愛好家でもある)。例えばM③の、まさにヴェルヴェッツの“Sister Ray”を連想させるサイケデリックな持続感や、「Sublime Frequencies」周辺の中近東~グローカルなヴァイヴも漂うM⑤。あるいは、スーサイドのロックンロール・ヴァージョンのようなM⑥、タイトルの通り天上に舞い上がるトリッピーなアンビエントを奏でるM⑦――。『ウェスト』からはそこかしこにソニック・ブームの反響を聴きとることができる。
また、今回の日本盤のボーナストラックには、そのソニック・ブームによるリミックスが収録されている。砂嵐のようなノイズを塗されたエレクトリックなサイケデリアは、E.A.R.の諸作も彷彿させて興味深い。さらにもう1曲、目を引くのは、同じくリミックスを提供したピーキング・ライツの名前。ピーキング・ライツは、サンフランシスコを拠点とする夫婦デュオで、前記の「Not Not Fun」や「Night People」からリリースされるサイケデリックなローファイ・ポップで注目を集める存在だ。ウッデン・シップスとは同郷の間柄であり、音楽的な親和性も高く、あらためて彼らとアンダーグラウンド・シーンの密接な関係を窺い知れる1曲といえるだろう(※ちなみに、リプリーはウッデン・シップスと別にムーン・デュオという男女デュオでも活動。こちらもソニック・ブームとはリミックスで縁あり)。
なお、レーベルからの資料によれば、本作のテーマは「アメリカ西部」。タイトルが示唆しているが、アメリカ西部に息づく神話、ロマン主義、そしてそれらが体現しているアメリカの理想主義についての考察が『ウェスト』ではなされているという。結成からのメンバーであるナッシュは、以前に「音楽を聴いていた場所ではなく、実際に音楽を演奏してきた場所が重要なんだ」と語り、バンドと西海岸のカルチャー/シーンとの深い関わりを認めていた。実際、彼らの作品には、彼の地が生み出してきた文学やラディカルなアートの遺産が、さまざまな形で引用され反映されているという。メンバーの多くがその場所で育った彼らにとって、本作はある意味、自身のルーツをたどる作品でもあるのかもしれない。
最後に、「Wooden Shjips」というバンド名の由来について。きっかけはリプリーと友達との会話で、「ヒッピー系のジャム・バンドにふさわしい名前を考えていた」時のこと。直接的には、地元の大御所ジェファーソン・エアプレインのナンバー“Wooden Ships”から取られたものだが、リプリーも友達もスウェーデン人の家系だったということで、それっぽいスペルに見せるジョークとして「i」の前に「j」を入れたそうだ。リプリーによれば「とくに意味はない」らしい。
(2011/08)
(※極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンドからの証言:Barn Owl インタビュー)
(※極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンドからの証言:Eternal Tapestry & Sun Araw)
2012年11月1日木曜日
2012年11月のカセット・レヴュー(随時更新予定)
◎Sleep Fern/The Ether Staircase
/Split
90年代のスカムやTigerbeat6のデモ・テープ~B級イルビエントをノイズ・コラージュしたような前者。と、似たような芸風ながら、前者がスログリならサイキックTVとでも言えそうな秘教めいたカルト性、バッドテイストやスピリチュアリズムも覗かせる後者。地続きに見えて両者の間に横たわる微妙な段差に、躓きそうななる。
◎Thickly Painted Walls/You're Just Drawings, Baby
ニュージャージーのノイジー・フォーキィ・ロッカー。タイ・セガールやカート・ヴァイル、はたまたソロ宅録時代のウェーヴスらとの同時代性も感じさせるが、とにかく……作品点数の多さ。これまで約10年の間にCDRやカセットなど60作品近くをリリースしていて、現時点で来年のリリースが6作品予定されている多作ぶりに、陽の目を見ない才能の執念にも似た叫びというか、汲み尽きぬ創作衝動の発露を感じる。
◎Quicksails/A Fantasy In Seasons
ブライトンのBen Billingtonによるプロジェクト。ニューエイジとトライバル、シンセ・アンビエントとフリー・ジャズ、あるいはヨシ・ワダとムーンドッグをコラージュしたようなビザール極まるミクストアップ。まあ、Oneohtrix Point NeverやDylan Ettingerに慣れた2012年の耳には至ってスムースであり快適なわけだが……あらためてNNAの先見性にリスペクト。
◎Zaimph/Imagine Yourself Here
ブルックリンのMarcia Bassettsが自身のレーベルからリリース。出自の詳細を知らないが、No Fun系ノイズ・ミュージックとモダン・アンビエント~ドローンとの結節点、とも。高級コンドミニアムの広告を剽窃したジャケのマテリアリスティックな空々しさが、なんだか象徴的。
◎Cloud Seeding/Ink Jar / Unquestioning
元This Ascensionというバンドで活動していたKevin Serraを中心としたアヴァン・フォーク・グループ。なぜにマイケル・ジャクソンがアートワークに飾られているのか……はさておき、ヴォーカルでフィーチャーされているマリッサ・ナドラーの存在感、に尽きる。マジー・スターと浮女子の間でグラデーションを描くようなフィーメイル・モダン・トリップ・ミュージック。
◎Long Distance Poison/Ancient Analogues
Nathan Cearley率いるブルックリンのトリオ。アナログ・シンセが奏でるスタティックで重厚なドローン。“古代に思い馳せるロマン”というより、“化石燃料となり古層から浸み出した死者の体液”とでもいえそうな、鼓膜に重くまとわりつく感じ。20分強が2曲。
◎Ectoplasm/Featuring Denmother
たぶんおそらくはカナダの女性アーティスト。流行り宅録女子のシンセ・ポップやアンビエント系と比べると、ダーク・ウェーヴというかゴス寄り。歌声はジュリアナ・バーウィック風だか、宙吊りされたような不自由さ、息苦しさが。
◎GOVT/Meanings Not Meant for Humans To Know
ニュージャージのデュオ。編成とBandcampのタグを見てライトニング・ボルトっぽいのかと想像してたら異なり、はたまたハリー・プッシーとかとも違い、ハードコアやノイズやマス・ロック云々ではなくもっと抽象度の高いサウンド。ドラミングは控えめで、不安神経症っぽい焦点の定まらないギターが全体のトーンを決定づけている。Voは女性。
◎Good Time For Dynacom/Freaky Fashion
アルゼンチンの宅録エレクトロニカ・デュオ。ダンテルのローファイ・ヴァージョンというか、ポスタル・サーヴィスのチップチューン・ヴァージョンというか。アコギでメロディーを紡いでヴォーカルを乗せていく様子は、映像で見るかぎりUSインディのありふれたSSW然とした風情も。ところでかつての“アルゼンチン音響派”以降のシーンみたいなものは、今のかの地にはないのだろうか。当時はまだぎりぎり確認できた土地柄というか国柄というか土着性みたいなものが、チルウェイヴ以降のエレクトロ・ミュージックからはすっかり漂白されてひとつのベクトルに回収・収斂されてしまった感も。
Orca Lifeというバンドの一員らしきクリス何某のドローン・プロジェクト。アートワークの文字からはサウンドトラック的なものとして制作されたらしいことが窺えるが、起伏に乏しくて唸るようなシンセ・ドローンに時おり、接続不良のようなノイズがからまりモノクロームのアンビエントを沈殿させる。はたして何物ぞ。
(※2012年10月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
(※極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
2012年10月30日火曜日
2012年の熟聴盤⑩
・ Emeralds/Just To Feel Anything
・ Tussle/Tempest
・ Lindstrøm/Smalhans
・ LOVE ME TENDER/SWEET
・ シャムキャッツ/たからじま
・ odd eyes/thinking ongaku union local 075
・ Bat For Lashes/The Haunted Man
・ Godspeed You! Black Emperor/Allelujah! Don't Bend! Ascend!
・ ...And You Will Know Us By The Trail Of Dead/Lost Songs
・ Ellie Goulding/Halcyon
・ スッパバンド/KONTAKTE
・ Jessica Bailiff/At the Down-Turned Jagged Rim of the Sky
・ Sun Araw/Inner Treaty
・ Lightning Bolt/Oblivion Hunter
・ Computer Magic/Computer Magic
・ Pete Swanson/Pro Style
・ Tame Impala/Lonerism
・ People Get Ready/People Get Ready
・ Ty Segall/Twins
・ 骨架的/Reflections
・ Motion Sickness of Time Travel/A Marbled Youth
・ U.S. Girls/GEM
・ Prince Rama/Top Ten Hits Of The End Of The World
・ Yoko Ono, Kim Gordon & Thurston Moore/Yokokimthurston
・ Efterklang/Piramida
(※2012年の熟聴盤⑨)
(※2012年の熟聴盤⑧)
(※2012年の熟聴盤⑦)
(※2012年の熟聴盤⑥)
(※2012年の熟聴盤⑤)
(※2012年の熟聴盤④)
(※2012年の熟聴盤③)
(※2012年の熟聴盤②)
(※2012年の熟聴盤①)
・ Tussle/Tempest
・ Lindstrøm/Smalhans
・ LOVE ME TENDER/SWEET
・ シャムキャッツ/たからじま
・ odd eyes/thinking ongaku union local 075
・ Bat For Lashes/The Haunted Man
・ Godspeed You! Black Emperor/Allelujah! Don't Bend! Ascend!
・ ...And You Will Know Us By The Trail Of Dead/Lost Songs
・ Ellie Goulding/Halcyon
・ スッパバンド/KONTAKTE
・ Jessica Bailiff/At the Down-Turned Jagged Rim of the Sky
・ Sun Araw/Inner Treaty
・ Lightning Bolt/Oblivion Hunter
・ Computer Magic/Computer Magic
・ Pete Swanson/Pro Style
・ Tame Impala/Lonerism
・ People Get Ready/People Get Ready
・ Ty Segall/Twins
・ 骨架的/Reflections
・ Motion Sickness of Time Travel/A Marbled Youth
・ U.S. Girls/GEM
・ Prince Rama/Top Ten Hits Of The End Of The World
・ Yoko Ono, Kim Gordon & Thurston Moore/Yokokimthurston
・ Efterklang/Piramida
(※2012年の熟聴盤⑨)
(※2012年の熟聴盤⑧)
(※2012年の熟聴盤⑦)
(※2012年の熟聴盤⑥)
(※2012年の熟聴盤⑤)
(※2012年の熟聴盤④)
(※2012年の熟聴盤③)
(※2012年の熟聴盤②)
(※2012年の熟聴盤①)
2012年10月9日火曜日
極私的2010年代考(仮)……The Books解散、そしてZammuto始動へ
ブックスで一番残念に思っていることのひとつは、日本で演奏できなかったことだ。ザムートが近いうちに日本へ行って演奏できるよう願っている!
(※極私的2010年代考(仮)……The Books、ラスト・アルバム『ザ・ウェイ・アウト』)
(※極私的2010年代考(仮)……The Books、ラスト・アルバム『ザ・ウェイ・アウト』)
2012年10月6日土曜日
極私的2010年代考(仮)……グリズリー・ベア初来日時の雑談
●昨日の大阪のライヴはどうでした?
エド「すごく楽しかった」
クリス「ああ、最高だったよ」
エド「日本は今回が初めてだし、街を散策したり、初めてのお客さんたち相手にプレイしたり、ほかのゴキゲンなアーティストたちのステージを観ることができたり、楽しいことだらけだよ」
●誰のステージを観たんですか?
クリス「ビヨンセだろ……」
●おお、本当に?
クリス「うん、素晴らしかったよ。あと、ソニック・ユースもよかったし……」
エド「あとニーヨとかソランジュとか、僕らの前にやったテンバー・トラップも」
クリス「うん、あいつらもすごくよかったよね。たぶん、そんなもんかな」
エド「僕はヴァセリンズも観たけど、すごくよかったよ」
クリス「ああ、そうそう、ヴァセリンズ」
●日本のオーディエンスの反応はいかがでしたか?
エド「よかったと思うよ(笑)」
クリス「いつもとはタイプが違ってたけどね」
エド「おとなしいし(笑)」
クリス「そう、反応がうんと静かだった。ビヨンセのステージですらそうだったからね。あのビヨンセだし、“ウォーッ!”っていう反応を予想してたけど、観客が大騒ぎしたのは彼女が登場したときだけで、その後はずっと落ち着いた雰囲気だったよ。アメリカの観客に比べたらもちろんずっと静かだけど、でも悪い印象は受けなかったよ」
●これは何度もいわれていると思いますが、『ヴェッカーティメスト』のビルボード8位の快挙、おめでとうございます。
エド&クリス「サンキュー!」
●まったく予想外の出来事だった? あるいは――実際非常によくできたアルバムですし――“8位になって当然”といった感じ?
エド「まさか!」
クリス「まったくの驚きだったよ」
エド「前評判がいいことは知ってたけど、1週目であそこまで売れるなんて、思ってもいなかったからね。だからホント……」
クリス「ビックリ仰天」
エド「ああ、本当に驚いたし、スーパーエキサイティングだよ」
●『ヴェッカーティメスト』をリリースして以来、バンドを取り巻く状況に何か変化はありましたか?
エド「前よりデカい場所でライヴをやれるようになったし、もっと自分たちの音楽を知ってくれてるオーディエンスにプレイできるようになって、すごく嬉しいよ。しかも、日本みたいにこれまで行ったことのなかった場所にも行けるようになったしね。このアルバムのおかげで、新しい土地でプレイする機会に恵まれたからね。オーストラリアにも初めて行くことになってるし、『ヴェッカーティメスト』のおかげでいろんなことが可能になったのは確かだよ。すごくいい経験をさせてもらってるし、この秋にはさらにクールなプランが目白押しなんだ――ロンドン交響楽団との共演とかね。楽しいことだらけですごくワクワクしちゃうよ」
●『ヴェッカーティメスト』であなた方の音楽に初めて触れたリスナーは、このアルバムのどういった部分に惹かれたんだと思いますか? グリズリー・ベアのどんなところに魅力を感じたんでしょう?
クリス「答えるのが難しいけど、サウンドがクリアなこととか……」
エド「ドラムの音がより前面に出ていてクリアだしね。あと、曲によっては結構キャッチーでポップだったりもするし。でもすべて自然な流れでそうなったんだけどね。だけどアメリカのほうでは、このアルバムを出す前から既に安定したファンベースがあって、今回のアルバムで一晩で人気が出たって感じじゃないんだよ。徐々に、確実にファンを増やしてきたって感じなんだ。しばらく前にファンになってくれた人たちが、僕らのよさを徐々に理解してくれたんだよ」
●『ヴェッカーティメスト』はあなた方の以前のアルバムとは違った雰囲気を持っていると多くの人が思ったと思うんですが、今の話だと、自然な流れで結果的にこういうアルバムになったということですけど、何かまったく新しいものからインスピレーション受けた瞬間があったとか、そういう変化っていうのはあったんでしょうか。
エド「そうだな、4人一緒にミュージシャンとしてすごく成長したというか、成熟したとは思うよ。ずっと説得力のある力強い曲が書けるようになったしね。前のアルバムと今作の間に、レディオヘッドとのツアーとかLA交響楽団との共演とかEPの『Friend』のリリースとか、いろんな素晴らしいチャンスに恵まれて、コンスタントに着実に成長し続けることができたんだ。だから何かひとつの出来事ですべてが激変したっていうんじゃなくて、3年間のいろんな積み重ねの結果なんだよ。あと、アメリカではテレビにも結構出てたしね――深夜のトーク番組とか。だからそう、少しずつ着実にここまできたって感じなんだ……あれ、“クレイジー・イン・ラヴ”が聴こえない?」
(エドとクリス、しばしヴィジョンの渡辺直美に見入り、絶句)
クリス「コメディアンでしょ?」
●(笑)。そうそう、ビヨンセのモノマネをやってるお笑い芸人がいるんですよ、日本には。では、新たにインスピレーションを受けたアーティストなどはいましたか?
クリス「たぶんヒップホップとポップ・ミュージックとR&Bが、今回のアルバムでは一番のインスピレーション源になってるんじゃないかな。特にリズムとかに関して、クリス・ベアと僕とでよくそういう話をしてたしね。もともとその手の音楽がみんなすごく好きなんだよ――4人ともビヨンセとかジャスティン・ティンバーレイクとかR・ケリーが大好きだし、たぶんそのへんの影響はかなり音にも表れてるんじゃないかな……実際、今回初めて影響を受けたって言っていいと思うよ。『イエロー・ハウス』では、そういったものからの影響はほとんど見られないと思うしね。だからそのへんが前のアルバムとは違ってるかな。今回はリズムと音の鮮明さにより重きを置いてて、ヴォーカルとドラムが中心的な存在になってるしね」
エド「あと、よりメリハリのあるサウンドになってると思うよ」
●『ヴェッカーティメスト』には、ライヴでやるのに非常に適した曲が多く収められているように思いましたが、今作の曲のライヴでの演奏に関しては、どのように感じていますか? 以前のアルバムからのライヴと比べて、何か違いを感じたりとか。
クリス「まず、ラウドな曲が増えたね。『イエロー・ハウス』は全体的にもっとおとなしいというか、抑制された感じだったけど……」
エド「今回の曲は、もっとハードにロックすることができるんだ。全体的にはやっぱりミッドテンポな曲がほとんどなんだけど、でも新しい曲をライヴでやるのは楽しいよ。ステージ用に曲を作り直す作業って、いつやってもワクワクするしね。僕たち4人しかいないから、アルバムの音をそのままステージで再現するのって結構骨が折れるんだよ。アルバムは音を何層にも重ねて作ってるからね。でもこうしてツアーをしている最中も曲はどんどん進化していってるし、実際ステージで演奏するたびによくなってるし、新しい発見が必ずあるんだ」
●オーディエンスの反応も、前のアルバムでのライヴのときとは違っていますか?
エド「まあ……ふふ、一番違うのは、お客さんの数がうんと増えたってことと、あと今のほうがみんな曲をよく知ってくれてるってことだね」
クリス「あと、お客さんがよく動くようになったっていうのかな。演奏中に、みんなの頭が前よりよく動いてるように思うんだよ。昔はリズム的な要素がほとんどないソフトな曲をよくやってたけど、最近の曲はリズムを前面に出してるからだろうね。だからそこはちょっと自分としても嬉しいかな」
●ところで、“トゥー・ウィークス”のヴィデオについて伺いたいんですが(笑)。
エド「アハハハ」
●(笑)、実はあのヴィデオは、グリズリー・ベアのことはもちろん音楽について全然知らないような、変わった映像を集めるのが趣味な人たちの間でもひそかな話題になっていたりしまして……。
クリス「ホント?」
●ええ(笑)。
エド「ウェブサイトとかで見てってこと?」
●そうなんです。
クリス「おもしろいね」
エド「目をギョロギョロさせてたり頭が爆発したり、っていうのを見て?(笑)」
●そうそう。周りでの反応はいかがですか?
エド「あの手の変てこヴィデオって、すごく気に入るかそれとも理解できなくてウンザリするかのどっちかなんだよね。でもいずれにしても記憶に残るヴィデオだっていうのがすごいところで、気に入ろうが気に入るまいがしっかり脳裏に焼きついてしまうんだよ。僕は最後の爆発のところがやっぱり気に入ってるよ。みんな別人みたいっていうか不気味な顔してて、変なまばたきしたり光を発し始めたり……。でもそれは嬉しいな。日本であのヴィデオがそんなに認知されてるなんて、知らなかったよ。ネットで見てるってことなんだよね?」
●まあ、ユーチューブですよね(笑)。
エド「だよね(笑)」
●あのヴィデオには何かテーマがあったりするんでしょうか? というのも、僕はあのヴィデオを観て、クローネンバーグ監督の映画『スキャナーズ』を思い出したんです。
エド「あぁ~(笑)、なるほどね。あのヴィデオは、ヤー・ヤー・ヤーズやファイストやライアーズのヴィデオも手がけてるパトリック・ドーターズが監督してて、最初にヴィデオのアイディアを持って来てくれたときから基本的に、パトリックのアイディアをもとに撮影を進めていったんだ。彼としてはいびつな喜びっていうか、ハッピーなんだけど薄気味悪い、そんな雰囲気を出したかったらしいよ。そういうわけで、ああいう映像コンセプトを思いついたのは全部パトリックだったから、僕が全部代弁することもできないんだよね」
●なるほど、そうだったんですね。では、秋にはヨーロッパを回られるそうですが。
エド「この後もすぐ行くんだけどそれはフェスのためで、1ヶ月間ほどいろんなフェスに出る予定なんだ。で、秋に改めて、ロンドン公共楽団との共演やクラブ・ライヴをやりに戻ることになってるんだ」
●どんなフェスに出るんですか?
エド「この後まずノルウェーのオヤ・フェスティヴァルに出て、それからスウェーデンやドイツのフェスにも出て――多分名前を言ってもわかんないと思うけど(笑)、全部で8つのフェスに出ることになってるんだ」
●今後のライヴでの新たなプランは?
クリス「ライティングの部分をもっと凝ってみようと思ってるんだ。すごく斬新できれいでおもしろいものになるんじゃないかな」
エド「あと、アメリカでビーチ・ハウスと一緒に回ることになってるんだ。彼女(ヴィクトリア)は“トゥー・ウィークス”のバックでも歌ってくれてるから、あの曲は毎晩彼女とのジョイントになるんじゃないかな。あと、ニューヨークでの弦楽四重奏団や合唱団との共演みたいに、時にはその土地ならではの演出を加えて、スペシャルなショウにしたいと思ってるよ」
●ニューヨークといえば、最近フリー・フェスティヴァルが盛んですよね。
エド「そうそう、今度僕らも出るウィリアムズバーグ・ウォーターフロントみたいなイヴェントのことだよね」
●そうそう。いいですよね。
クリス「うん、最高だよ。水上の素晴らしいセッティングでみんなに新しい音楽に触れてもらえる、絶好のチャンスだと思う。普段お金を払ってまで聴こうとは思わないような音楽でも、無料だったら興味がわいてチェックしようかなって思ってもらえるかもしれないからね。たとえばディアハンターもこないだやったばかりだし、あとダーティ・プロジェクターズとかガール・トークとか、みんなこぞって出演してるんだよね。僕らも8月の末に出るんだけど、きっとすごく楽しいショウになると思うよ」
●おおー。では、バンドとしての今後の目標について聞かせてもらえますか?
クリス「これからしばらくはツアー生活が続くかなあ。来年の2月くらいまでずっとね」
エド「僕としてはとにかく音楽を作り続けたい」
クリス「あと、新しいアルバムを作るのも今から楽しみだよ。実際今回のアルバムを作り終えた途端に、もう次のアルバムが作りたいって思ってたんだよね。だから、まあわかんないけど、来年の春くらいには次のアルバムを作っていたいかな。とにかくもっとたくさん音楽が作りたくてたまらないんだ。で、できればまた日本に戻ってきて、フェスティヴァルじゃない単独のライヴをやれたら楽しいだろうな」
エド「マリーン・ステージに立つのが最終目標(笑)」
クリス「アハハハ」
エド「冗談だよ、冗談!」
●(笑)。単独の折には、ぜひニューヨークのバンドを連れてきてください。
エド「うんうん、そのときはかっこいい新人バンドを一緒に連れてくるよ。ビーチ・ハウスとかね。もう日本には来たことがあるのかな……多分まだだよね」
●そうですね、日本盤もまだなので……。
クリス「そうなんだ」
2012年10月3日水曜日
2012年10月のカセット・レヴュー(随時更新予定)
◎Rayon Beach/This Looks Serious
オースティンのトリオ。オーシーズとクロコダイルズの合いの子のようなピュア・サイケ・ガレージ・ロックンロール。鬱屈としたところがなく溌剌としていて誰からも好まれそう。高音のファズ・ギターと裏声のようなコーラスが、やや頭悪そうで可愛げあり。
◎Mpala Garoo/Ou Du Monde
Kon Tiki GeminiやSunbells Fennimoreとしても活動するモスクワのソロ・プロジェクト。川底を小石が叩くようなウェットなヴァイブ。プリズミックな光彩を放つシンセ・アンビエント。さしずめ初夏の小川で聴くアニマル・コレクティヴ『Campfire Songs』か。
◎Wolf Fluorescence/There is a Mirk Inside Here Which She Must Tint Brighter or Collapse
ドイツのエレクトロニクス。音自体というより音の周りの気配に耳を澄ますようなアンビエンス。「ディスクリート・ミュージック」のモードも。コラージュを交えつつ、薄皮で編まれたような繊細な音響のビブラートが心地よく。M. Geddes GengrasやQuiet EveningsもリリースするSicSicから。
◎Innercity/Another Hard New Age
ほんのりサイバーパンクな香りもするプロジェクト名といい、なんとも直截な作品タイトルがもう……。ベルギーのニューエイジ・プロジェクト。せせらぐエレクトロニクスと、うねるパルス音の波長。bandcampに無造作にUPされた音源のたたずまいがワーカホリック期のダニエル・ジョンストンを思わせて狂気、、
◎Cube/Bride of Walk man
素性不明。スクリューからMacintosh Plus風~Vaperwave(って最近呼ばれるヤツでしょうか)、ファンキー、ブラック・ノイズ、シンセ・ドローン……かと思いきや、タイ・ポップ~エスノ・ディスコがコラージュもろともドロドロと……掴みどころなく、捉えどころなし。とりあえずテープの収録時間に詰め込めるだけ詰め込んだような、脈絡なくスキゾなベッドルーム・エクスペリメンタル。
◎Élément Kuuda/Polargraph
カルフォルニアのChristian Richerによるソロ・プロジェクト。柔毛をなでるような電子音の細かな凹凸が重なり合い、なだらかな稜線のサウンドスケープを描く。優雅なるニューエイジ・ソニック・トリップ。Dry ValleysやHobo CubesもリリースするSacred Phrasesから。
◎The Savage Young Taterbug/Theme For Gasoline Weirdo
愛すべき……というかラヴリーすぎるホームメイド・ジャンク・ポップ。ヒプナゴジアなんて物々しい呼び名より子守唄のほうがぴったり。初期ベックからジェームズ・フェラーロを結ぶ導線上からこぼれ落ちた異形のピュアネス。おなじみNight Peopleから。
◎Berlenga/
Europa Rural/split
マニュエル・ゲッチング~マーク・マッガイアー~ダスティン・ウォン風のレイヤード・ギター・アンビエントをたなびかせる前者。ボンゴ・ビートにシンセ&ギター・ドローンをからませトライバルな熱気を放射冷却する後者。俯瞰で見れば同じ領土の人種だが嗜好も衣食住も異なる好スプリット。プーチンとイルカとキャメロン・ディアスが目印のExo Tapesから。
◎ANDY ORTMANN/OCCULTRONICS
Nihilistを主宰するAOがBeniffer Editionsからリリース。作品タイトルや曲名からしてさもありなんな、陰鬱で雑音に満ちたエレクトロニクス&コラージュはまるでチャネリングや降霊術の記録を思わせる。オヴァルのネガというか、No Fun系のテイストもちらほら。
◎Reighnbeau/Ashes
物憂げなアルペジオとサッドコア~スロウコアなアンサンブルにのせたマーク・コズレク系の枯淡の歌。裏アメリカーナと思いきや先入観を排せばしっとりとした歌ものとして堪能できる。要注目のKevin Greenspon(※クラウド・ナッシングスとのスプリットCSもよかった)もリリースするBridgetownから。
◎CARLTON MELTON/aQ Hits
サンフランシスコのスペース・サイケ・ロッカー。ねっとり練り上げたクラウトロッキンなジャムにブギーを吹かせたギター・ソロがもうもうと揺らめく。同郷のウッデン・シップスらと同じ穴のムジナである、カンとブルー・チアーの子供。
◎Eagle Altar/Cut America
名門Digitalisを運営するブラッド&エデン・ローズ夫妻のデュオ。「アメリカを切り取る」……同郷タルサを舞台に50年代アメリカの荒廃を活写したラリー・クラークの写真集も連想させるタイトルだが、オブスキュアな音響を束ねたドローン・アンビエントは幻想的で夢うつつな輝きを放つ。motion sickness of time travelと描き出すものは近いが、ノスタルジックであまやかな「travel」は追憶するような時間感覚をもたらす。
◎The Accidents/Demo Color
クリーヴランドの新人らしい2人組。エメラルズをあわーく引き伸ばしたような明媚なシンセ・アンビエンス。具体音やサンプリングも織り込みアヴァンな演出・展開も見せるが、魅力はメディテーションを深めたドゥルッティ・コラムを思わせる澄んだ音響の気配。……ところでこの界隈の作品よく使われる「sci-fi」というタームだが、その捉え方というか意味合いがいまいちわからず。「vaporwave」的なものとの近似性もあるのだろうか。
◎TAIYOUTOU/Japan and Japanese
ご存知、吟醸派の顔役的なユニット。「大阪万博の各パヴィリオンを音響化していく」ことがコンセプトとは、恥ずかしながら知らず聴いてました。。ゆったりと流れるシンセ・ドローンに鳥の鳴き声が響くM2“samidare”が和モダンなたおやかさも感じさせて秀逸。
◎Olympus Mons/Reflections of Bliss Lake
Sun Arawのバンド・メンバーも務めるAlex Grayが片割れのデュオ。シンセやハーモニウムが奏でるオーガニックなアンビエントに、繊細なギター・ワークのタッチがみずみずしさを添える。ドリーム・ポップ~アシッド・フォーキィなテイストは残響優美なディレイの賜物。deep tapesから。
◎Bad Chess/Untitled
レーベルいわく「実在しないAMラジオが奏でるリズミック・ソフト・テクノ……」云々。ブラスト・ビートのようなローファイ・ノイズで塗り込め、パルスの飛沫が音像の波形をかき乱す。Derek RogersもリリースするMoon Mist Musicから。
◎Salamander Wool/Espionage Briefcase
バルカン・フォーク、中東ダブ、ガムラン、スラッシュメタル、ミニマル・テクノ、コラージュ、ノイズ・コンクレート……エトセトラエトセトラ。収録時間いっぱいに圧縮&ペーストされた雑音(階)のアマルガム。
◎Western Standards/The Siren
本名をメジャー・E・ミラーという男のプロジェクト。現代音楽やミニマリストのヨーロッパ的美意識を感じさせるその奥深い音像は、端整に重ねられた環境音楽風のアンビエンスの先に、静けさを通り越し鋭敏に研ぎ澄まされた、静謐の極致を描き出す。リリース元はSweat Lodge Guruからで、Motion Sickness Of Time TravelやLee NobleやKon Tiki Geminiなど話題作多数。同じくアイオワに構えるNight Peopleとはやや毛色が異なる。
◎Raajmahal/S/T
ノー・ネック・ブルース・バンドのPat Muranoら含むサイケ・フォーク・トリオ。ハラランビデスのアンビエント・ヴァージョンのような風情もあるが、シルキーな音色のギター・ループ上に女性ヴォーカルを幾重にも重ねたスタイルはジュリアナ・バーウィックぽくもある。
◎Daniel (J D) Emmanuel/Echoes From Ancient Caves
オリジナルは30年以上前にリリースされた作品を、Sun ArawのレーベルSun Arkからリイシュー。ギターやシンセを重ねて編まれたニュー・エイジ・アンビエントはTerry RileyやPhilip Glassの流れを汲むミニマル~現代音楽の系譜を背景に華を咲かせたもので、アリス・コルトレーンをAOR化したようなスピリチュアルなチルアウトも。
◎Reedbeds/S/T
Hooker Visionからもリリースがあるサクラメントのアンビエント作家。A面は牧歌的な光が満たすギター・ミニマル。一転してB面ではディストーションも効かせたサイケ~ドローンを。ジャケのイメージといい、どこか色褪せたような音のテイストは不思議とボーズ・オブ・カナダを連想させる瞬間も。
(※2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
(※極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
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