2013年5月28日火曜日

2013年の熟聴盤⑤

・ Boards of Canada/Tomorrow's Harvest
・ Scout Niblett/It's Up to Emma
・ LES ANARCHO/OKANE WO MOYASOU
・ IKEBANA/when you arrive there
・ Majical Cloudz/Impersonator
・ CSS/Planta
・ RP BOO/Legacy
・ Baths/Obsidian
・ Mark McGuire/Along The WAy

(※編集中、、)


(2013年の熟聴盤④)
(2013年の熟聴盤③)
(2013年の熟聴盤②)
(2013年の熟聴盤①)

2013年5月19日日曜日

極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンドからの証言:The Psychic Paramount



ザ・サイキック・パラマウント(以下、TPP)は2002年、ギタリストのドリュー・セント・イヴァニーが滞在していたフランスで結成された。前身にあたるバンド、ラッディオ・ボロッコが2001年に解散すると、元メンバーのドリューとベーシストのベン・アームストロングは新たなプロジェクトの構想を立ち上げ、フランスとイタリアを周るツアー(※スーサイド、アシッド・マザーズ・テンプルらと共演)を計画した。現代/即興音楽の日本人演奏家、中谷達也(※大友良英や山本精一、ピーター・ボルツマンやマーク・リボーらと共演)をドラマーに迎えてツアーを敢行後、そのラインナップは実質2週間ほどで散開してしまうが、2004年にサーベルズ(※ニューロシスのメンバーが主宰する「Neurot」からリリースするインダストリアル~ノイズ・ロック・バンド)のジェフ・コナウェイを新たなドラマーに迎えてバンドを再編。地元ニューヨークを拠点に活動をリスタートさせて……現在にいたる。


TPPの背景には、1990年代以降、アメリカのインディ・シーンで台頭したインストゥルメンタル・ロックの潮流を指摘できる。大雑把にいえば――1980年代末のバストロやスクイレル・ベイト/スリントを源流としたポスト・ハードコア~USジャンクの流れを汲み、そこから派生したトータスやガスター・デル・ソル、あるいはドン・キャバレロやアンワウンドらを契機に浮上したポスト・ロック~マス・ロックを総称するインストゥルメンタル・ロックの系譜だが、1996年にニューヨークで結成されたTPPの前身にあたるラッディオ・ボロッコとは、まさにその系譜の同一線上に位置づけられる個性派だった。

デイジリング・キルメンやパニックスヴィルの元メンバーを含むポスト・ハードコア~ノイズにルーツを引きながら、クラウト・ロックやフリー・ジャズを参照するプログレッシヴなサウンドは、ファウストやディス・ヒート、キング・クリムゾンからアルバート・アイラーまで引き合いに出された異形の代物だった。その記録は、2003年にフィラデルフィアのレーベル「No Quarter」からリリースされた編集盤『The Life & Times of Laddio Bolocko』で聴けるが、当時の音源からは、かたやプロトゥールズの導入等により音楽性が洗練され、ジャンルとして固定化していくインストゥルメンタル・ロックの「本流」に対して、かたや同レーベルのコプティック・ライト(※ドラマーのケヴィン・シアは、バトルスのイアン・ウィリアムスも当時ドン・キャバレロと掛け持ちしていたストーム&ストレスの元メンバー。現在は解散)らとともに音楽性を拡張させ、系譜を逸脱していく――いわば「支流」を担った彼らの軌跡を再確認できる。そしてTPPは、同じくラッディオ・ボロッコの元メンバーが結成したもう一組、エレクトリック・ターン・トゥ・ミー(※元デイジリング・キルメンの中心人物ブレイク・フレミングは一時期マーズ・ヴォルタでドラムを叩いていた)が女性ヴォーカリストを立ててポップ路線に進んだのとは対照的に、そのスタイルをよりラディカルに発展させたプロジェクトと捉えるのが正しい。


TPPの評価について、海外のレヴュー等ではバトルスと比較されるケースが多い。同じくニューヨークを拠点とし、ヘルメットやドン・キャバレロの元メンバーで結成されたポスト・ハードコア~マス・ロックに出自を持ちながら、ジャンルを脱構築した先鋭的なアプローチを披露するインストゥルメンタル・ロック――というバトルスとTPPは共通点を挙げることができる。しかし、実際に音源を聴けば明白なように、両者はバックグラウンドの部分でスタイルを異にする。

ハードコアとフリー・ジャズを止揚したアグレッシヴな演奏だが、ダンス・ミュージック~DJカルチャーを通過したエディット感覚やミニマリズムがアンサンブルを通奏するバトルスに対して、TPPは前身時代からサイケデリックやノイズ~メタルの文脈を色濃く受け継いだジャムを主体とし、同じミニマリズムでもクラウト・ロック的な重厚感を帯びたそれに近い。ギタリストのドリューは、バトルスらと並べてマス(=mathematics/数学的)・ロックにカテゴライズしたがる評価に対して「alchemy(錬金術)に近い」とTPPについて語り、そのサウンドを「ラウド・ロック」とさえ自称する。もっとも、ラウド・ロックといってもそれはヘヴィ・メタルのサブジャンルを指すものではなく、ドリューによれば「ジミ・ヘンドリックスが40分間フィードバック・ギターをやるようなもの」であり、いわくマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスワンズを音楽的指標とする。TPPの「ラウド・ロック」は、それこそドゥームやストーナー~スラッジも射程に収めたヘヴィネスを誇る音塊といえよう。

その上でドリューは、TPPのサウンドを規定する要素として「repetition(反復)」、「motor(≒演奏力)」、「minimalism」の3つを挙げる。アメリカの中西部で育ったメンバーにとって、音楽体験は1960/70年代のクラシック・ロックからマイルス・デイヴィスやジェームス・ブラウンまで多岐にわたるものだったが、TPPの方向性に直接的な影響を与えたという点では、以上の3要素の模範例となったクラウト・ロックとの出会いが大きかったという。ドラムのジェフはカンやファウスト、クラフトワークの名前を挙げて、彼らのレコードを初めて聴いたときの感触を「ダンス・ミュージックの到来、電子音楽に起きたリズムやグルーヴの様々な変化の到来を予感させた」と語っている。


編集盤『Origins and Primitives Vol. 1 & 2』(※初期のデモ・トラックや2002年のツアー音源を収録)を含めると3作目、オリジナル・アルバムとしては2作目になる本作『Ⅱ』は、メンバーが明かすレコーディング過程によれば、それら3要素に基づくアプローチをより意識的に実践した作品といえる。ライヴ・セットを軸に楽曲のアイディアが練られ、ギターで作曲されたナンバーが大半を占めた前作『Gamelan Into The Mink Supernatural』(2005年)に対して、本作の曲作りはまずドラム・ビートのパターンを用意し、それを基にサウンドをビルドアップしていく方法が採られた。本作のレコーディングは2008年の夏にスタートしたが、技術的な問題もあり中断を余儀なくされ、あらためて2009年の終わりにゼロから作り直すかたちでレコーディングを再開し、ようやく完成に漕ぎ着けたのだという。その2度目のレコーディングに際してメンバーが意識したのは、「more composed(より“作曲”された)」なサウンドを作ることだった、とドリューは語る。

ドリューは本作のサウンドについて、前作『Gamelan Into The Mink Supernatural』の「論理的な延長」と語るが、一方で“N6”のように、中盤からピークを見せる「ラウド」な合奏の中にも微分的なアンサンブルの際立つミニマルなアプローチこそ、本作のポイントだと指摘する。それはたとえば、前作収録の“Echoh Air”のような、空間が楽器で埋め尽くされたようなナンバーと比較すれば明白だが、つまり、従来のライヴにおけるインプロ的な演奏をレコーディングに落とし込むかたちではなく、スタジオ・ワークに重点の置かれた、文字通り「more composed」なプロセスへと曲作りに対する関心が変化したことが窺える。あるいは、同じドラム・テクスチュアーを用いて異なるヴァージョンを制作した“N5”“N5 Coda”のように、たとえば初期のバトルスの作品に見られたような(”TRAS“”TRAS2“”TRAS3“)ある種のコンセプチュアルな試みも打ち出されていて興味深い。

そして同時に、本作にはTPPの醍醐味であるハードコアなジャムやフィードバック・ノイズも余すところなく記録されている。とりわけ序盤の3曲が強烈だが、圧巻なのはオープニングを飾る “Intro/SP”だろう。冒頭から全パートが燃え盛るように応酬を繰り広げながら分厚い音の壁を築き上げ、ここでは前作の路線を敷衍した「ラウド・ロック」としての真骨頂を聴くことができる(※この曲でベンはエア・オルガンも弾いている)。その高度な演奏技術と構築性に支えられたレンジと強度は、マーズ・ヴォルタからライトニング・ボルトまで対照可能なポテンシャルを感じさせるものだ。あるいはまた、“RW”で魅せる、ディス・ヒートやスケルトン・クルーも連想させる緊迫感に満ちたインタープレイも得難い。ミニマリズムとマキシマリズムがせめぎ合い、フリー・フォームとコンポジションがコントラストを描く本作の楽曲群は、まさにドリューの語る「論理的な延長」が帰結した到達点を伝えるものであり、また同時代のインストゥルメンタル・ロックにおいて傑出した個性を示す成果といえるだろう。ちなみに、本作は前作と同様にバンドによるセルフ・プロデュースだが、レコーディングのスタッフとして、バトルスやタイヨンダイ・ブラクストンからクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーの作品も手がけるキース・ソウザとセス・マンチェスターが参加している。

なお、本作のアメリカでのリリースは、前作に引き続き「No Quarter」からとなる。前記のラッディオ・ボロッコやコプティック・ライトを始め、アースの作品も過去にリリースし、現在もバーニング・スター・コアやサークルなどノイズ~アヴァン・ロック系のアクトを擁する。リリースはマイペースながら、アメリカのアンダーグラウンド・シーンの活況を伝える個性的なレーベルのひとつだ。
 

本国では今年2月にリリースされた本作を引っ提げて、デリンジャー・エスケイプ・プランやシカゴのディサピアーズと共演するアメリカ・ツアーを敢行したTPPは、この秋からはトランズ・アムに帯同したツアーの後半戦が予定されている。そして12月には、バトルスらが日替わりでキュレートするオール・トゥモローズ・パーティーズ「Nightmare Before Christmas」への出演も控える。前作と本作の間に6年のインターバルがあったことを考えると、次回作はまたしばらく先になりそうだが、今回の日本盤リリースを機に期待できる来日公演の可能性も含めて、今後の動向を注視したい。


(2011/09)



極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンドからの証言:Barn Owl インタビュー)
極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンドからの証言:Eternal Tapestry & Sun Araw)
極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンド白書:Wooden Shjips)

2013年5月2日木曜日

2013年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定)


◎Decimus/Glass Tetany
ノー・ネック・ブルース・バンドのPat Muranoによるプロジェクト。武満徹風な怪奇音響を奏でるAサイドから一転、インダストリアルなコズミック・オペラの様相も垣間見せるBサイドが圧巻。 USアングラ~フリー・フォーク周辺の樹形図に思いを馳せる。 絶好調NNAから。

◎Quicksails /A Fantasy in Seasons
Digitalisからのリリースに続いてNNAから。クラウト・ロック仕込みのシンセ使いはこの界隈では食傷気味だが、ライヴ・パーカッションを織り込み複雑な文様を描き出すさまは得難く魅力的。エレクトロニクスとサンプリングが迷彩柄に溶け合い、 脳髄を溶かすような最深トリップへと誘う。



◎M. Akers/Mythical Abyss

ワシントンのアンビエント作家。アナログ・シンセとギター・ループ、ドラムマシーンをねっとりと重ね、沸々と誇大=古代妄想を膨らませるニューエイジ・サイキック・アート。

◎Quartz Safari/s/t
アメリカ人とノルウェー人のデュオ。フィールド・レコーディングも編み込んだ浮遊系アンビエントで、アコギのループに映える雨音のようなノイズが美味。




◎Ypotryll/Yellow Smoke
管楽器のように鳴り響くシンセのループ。やがて電磁層に飲み込まれるようなノイズの渦をへて、オーロラを描くように光彩が翻る宇宙空間へトリップ。

◎Vasectomy Party/Sterile Daggers
フロリダのノイズ・ミュージック専門Lava Churchから。No Funから即リクルート、出演依頼が舞い込みそうなハーシュ&スラップスティックなパワー・エレクトロニクス&暴力音塊。



◎Andreas Brandal/Turning Point
吟醸派とも縁のある北欧ノルウェーのアンビエント作家。武満徹的な怪奇映画音楽をジョン・カーペンターが70sシンセ・サウンドで再構築したら、、まるで砂の女・ミーツ・ニューヨーク1997。


◎Toning/Ideas Of Visions/Stuck In Slime
今、ノリにノッてるConstellation Tatsuから。 シンセやハーモニウムとベルやヴァイオリンなど生楽器や具体音を織り交ぜ、OPNとエメラルズの間の緩衝帯を匍匐前進するようなじりじりと粘り強いトリップ・ミュージックを放出。

◎Dwellings/Don't Say Nothing
同レーベルのDRU$Sをきっかけに知ったカセット専門Tesla Tapesから。素性はともかく、 この疾走感溢れるマシーナリーなミニマル・テクノはレイムやアンディ・ストットといったポスト・インダルトリアル勢とも微妙に距離を取りながら、バレアリックなピーク・エクスペリエンスを創出する。潜り飽きて幾ばくかの光を欲する向きに。

◎Obrillos Ryebon/Classics
カセット専門Lava Churchから。典雅な響きもたたえたクリスタル・シンセ・アンビエント。根拠はないのだけど、この手の音楽を聴いているとなぜか80年代の日本映画、例えばディレクターズカンパニーの作品を想起してしまうのはなぜ?

◎Teleseen/Passages
NYとリオを往来するプロデューサー。近年のNNF~100% Silk周りの停滞感を突破する、このZE伝来のミュータント感こそキモ。カリビアン、ダンスホール、エチオピアン・ダンス、サンバ……等々、文化横断的なマッシュアップが魅せる&踊らせるトライバル・アート・ディスコ。

◎Moon Wheel/Moon Wheel
Ill Windsとのスプリットも良作だったアンビエント作家Olle Holmbergのフル。Not Not Funからのリリースということで、、まあ、それはそうと最近のNNFはどうなんでしょうか。Profligateあたりが新たなピークを作り出してくれれば、、と期待しつつ、まあ本作は既聴感ありなコスミッシェ・アンビエントですが、エレクトロニクスと民族楽器とダブを折り重ねたアニミスティックなムードが、かつてのFonal勢を思わせたり。

◎Profligate/Come Follow Me
というわけで、レイムやアンディ・ストットもいいけど、これぐらいコンシャスな方が好み。









2013年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2013年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2013年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2013年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)