2012年5月29日火曜日

2012年の熟聴盤⑤

・ Dirty Projectors/Swing Lo Magellan
・ Factory Floor/TBA
・ POP ETC/POP ETC
・ Peaking Lights/Lucifer
・ Sigur Ros/Valtari
・ Heavy Blanket/Heavy Blanket
・ Geoff Barrow and Ben Salisbury/DROKK
・ ゑでぃまぁこん/回る
・ Kindness/World, You Need A Change Of Mind
・ TOPS/TENDER OPPOSITES
・ Animal Collective/Transverse Temporal Gyrus
・ Animal Collective/Honeycomb & Gotham
・ globe/15YEARS -BEST HIT SELECTION
・ Simone White/Silver Silver
・ Laurel Halo/Quarantine
・ Damon Albarn/Dr Dee
・ 洞/発見
・ ホライズン山下宅配便/りぼん
・ Jesse Ruins/Dream Analysis
・ Dylan Ettinger/Lifetime of Romance
・ The Men/Open Your Heart
・ Lower Dens/Nootropics
・ Broadcast/Mother is the MIlky Way
・ City Center/Redeemer
・ Colin Stetson/New History Warfare Vol. 2: Judges
・ Rocket Juice & the Moon/Rocket Juice & the Moon
・ KTL/V
・ Sun Araw & M. Geddes Gengras meet The Congos/Icon Give Thank
・ Ty Segall & White Fence/Hair
・ Lorn/Ask The Dust




(2012年の熟聴盤④)

(2012年の熟聴盤③)
(2012年の熟聴盤②)
(2012年の熟聴盤①)



2012年5月27日日曜日

極私的2010年代考(仮)……UKからUSインディーへの応答:バンジョー・オブ・フリークアウト


ここ数年のアメリカのインディ・ロックの目覚しい活況と作品の充実ぶりについて、とりわけ本作を手にする音楽ファンにとってはあらためて記すまでもないだろう。なかでも昨年、多くのメディアで年間ベスト・アルバムに選出されたアニマル・コレクティヴの『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』を筆頭に、たとえばグリズリー・ベアやダーティ・プロジェクターズの新作が、その音楽的な評価とともにセールス的にも好成績を収めるなど幅広いリスナーの支持を集めた様子は、それが2000年代の最後の年というタイミングの妙とも相まって、この10年のアメリカの音楽シーンの変化を物語る象徴的な出来事として伝えられた。

UNCUT誌は昨年末号の記事で、冒頭に挙げたバンドのメンバーの証言を交えながら、2009年を「アメリカのラディカルなアンダーグラウンドのインディ・ロックがメインストリームを侵略した年」と報じている。また、そうした目に見える形の“成功”以外にも、アメリカ各地の郊外や都市の周辺を舞台にしたローカルなインディ・シーンが近年盛り上がりを見せているのはご存知の通り。ディアハンターやブラック・リップスを輩出したアトランタや、ウェーヴスやクリスマス・アイランドが注目を集めるサンディエゴ。そしてノー・エイジを始め、ヘルスやナイト・ジュエルらが集うロサンゼスルのアート・スペース「スメル」周辺のシーンなどが代表的だが、彼らは自らレーベルを運営したり、友人同士でバンドをシェアしたりスプリット盤を共同リリースしたりと、地元のコミュニティを拠点にグラス・ルーツ的な活動を積極的に展開している。そうした多様で多彩なレイヤーからなるアメリカのインディ・ロックは、もっとも2009年に限らずこの10年を通して話題が途絶えることなく、相変わらずホットなブルックリン界隈や、フリート・フォクシーズやボン・イヴェールに代表されるフォーク・ミュージックの台頭など、その「シーン」としての面白さを伝えるエピソードには事欠かない。

対して、イギリスのインディ・ロックは、そうしたアメリカの盛況ぶりと比べると、近年はどうしても魅力に欠けてしまうのが現状ではないだろうか。たとえばクラクソンズやフォールズといった一連のニュー・レイヴ~ニュー・エキセントリックの流れ。ケイジャン・ダンス・パーティが象徴したアンダー・エイジ・ムーヴメント。ライトスピード・チャンピオンやエミー・ザ・グレートのネオ・アコースティックや、ファック・ボタンズのバレアリックなサイケデリック・ノイズ。そしてジ・エックス・エックスやジェイミー・T、ミカチューといったニューカマーなど、個別に興味深いトピックはあるものの、それらはシーンというより「トレンド」に近く、アメリカのインディ・ロックのような“層の厚み”とは状況が異なる。むしろイギリスの2000年代は、それこそオアシスやレディオヘッドやU2といった大物バンドが依然と存在感を示し続けた10年だった、という印象が強い。

そんな最近のイギリスの新人アーティストで、アメリカのインディ・ロック・シーンに置かれてもまったく違和感のない存在――それがこのバンジョー・オア・フリークアウト(以下、BOF)のサウンドを聴いた第一印象だった。


ロンドンのカムデン在住の31歳、アレッシオ・ナタリジアによるソロ・ユニット。出身はアドリア海に面したイタリアの小都市ヴァストで、大学進学のために引っ越したトリノでディスコ・ドライヴというロック・バンドを結成し、レコードを出したりヨーロッパ・ツアーを経験したりした後、2年前にロンドンに移住し、BOFの結成に至ったという。
「BOFが生まれたのは、ロンドンはハックニーにあるアパートで、ガールフレンドを待っていたある晩の事だった。彼女は働いていて、僕はアパートにいた他の人達と話をしたくなかったので、ガールフレンドのPCを立ち上げて、音楽のソフトで色々遊び始めたんだ。僕は28歳になるまでラップトップなんで持ってなかったし、ましてや、コンピューターとかサンプラーで音楽を作ったり出来なかった。それで、この新しいアプローチが信じられないくらいエキサイティングだったんだよね。それからというもの、ぼくはレコーディングし続け、音楽をオンラインで発表するようになったってわけ。そしたら、興味を持ってくれた人々から、『ショーをやらないか?』って言われてね……。気づけば、これは僕がやりたいことじゃんか、ってね!」

BOFの名前が広く認知されたきっかけは、昨年リリースされたブロック・パーティーのアルバム『インティマシー・リミックスト』。モグワイやノー・エイジ、ゴールド・パンダらとともに参加し、“Ion Square”のリミックスを披露した――というのが彼のバイオグラフィーを語る際の“通説”だろうが、それ以前から彼は、自身のブログ上に次々とアップされる音源が評判を呼び、耳が早いインディ・ファンの間では密かに知られた存在だった。そのブログは2008年に始まり、デモ・トラックやカヴァー曲、果ては自作のミックス・テープまで、発表された音源の内容は多岐にわたる。なかでもヴァラエティ豊富なカヴァー曲群は、その目利きの効いたセレクトもさることながら(レディオヘッド、バトルス、ヴァンパイア・ウィークエンド、ペイヴメント、ソニック・ユース、TV・オン・ザ・レディオ、ブリアル、スペースメン3、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ボブ・ディランetc)、BOFというアーティストの魅力を名刺代わりに伝える格好の“プロモ”として好評を博した。とくにアレッシオのお気に入りがカニエの“Love Lockdown”とロネッツの“Baby I Love You”のカヴァーらしく、BFOの音楽的な立ち位置を象徴する秀逸な出来栄えで、ファンの間でも人気が高い(※その後、カヴァー曲だけを集めたアルバム『Covers』が150枚限定で自主リリースされた)。

そうしたユニークな創作活動がアーティストや音楽関係者の目に留まり、前述のブロック・パーティーのリミックスの依頼を始め、BOFは昨年3枚の作品を発表しデビューを飾る。デビュー7インチ『Mr No』をロンドンの「No Pain No Pop」(ヘルス、ナイト・ジュエルetc)から、そして12インチ『Upside Down』と7インチ『Left It Alone』を同じくロンドンの「Half Machine」(ウッズ、リアル・エステイトetc)からリリース。ちなみに『Upside Down』は、ネオン・インディアンが所属するサンフランシスコの「Lefse」からもリリースされ、アメリカでも話題を呼んだ。また、秋にはファイアリー・ファーナセスとタイムス・ニュー・ヴァイキングのヨーロッパ・ツアーに同行し、メディアの露出も増えるなど、2009年はBOFにとって飛躍の年となった。


今回リリースされた『アップサイド・ダウン』は、その3枚の作品をコンパイルした日本限定盤。構成的には、①②が『Left It Alone』、③~⑦が『Upside Down』、そして⑧⑨が『Mr No』のそれぞれ収録曲になっている(②“Someone Great”はLCDサウンドシステムのカヴァー)。

スペースメン3やマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン等のサイケデリック・ミュージックからの影響が窺える⑤。コンガのアフロ・ビートが低音を飾るエスノなファズ・ポップ⑧。オーガニックなアコギのフレーズが印象的な③。70年代のジャマイカのレゲエ・バンド、コンゴスの曲からドラムを拝借した④や、古いアフリカ音楽からボンゴのループを作った⑥。あるいは、アラン・ビショップ(サン・シティ・ガールズ)のレーベル「Sublime Frequencies」のチベット音楽のコンピレーションCDから女性ヴォーカルをサンプリングしたという②や、ラップトップに溜まっていた最初期の曲を再レコーディングしたというメロディアスな“歌もの”①。

彼のマイスペースには、「影響を受けたアーティスト」として、たびたび引合いに出されるアーサー・ラッセルやカンと並んで、デニス・ウィルソンやローバート・ワイアット、ボブ・ディランやロイ・オビンソンから、J・ディラやブリアル、ディス・ヒートやジョー・ミークの名前が挙げられている。つまり、1960~70年代のサイケデリック・ロックと、ポップ/ルーツを踏まえたソングライティング、そしてアヴァンギャルドからディスコ~ダンス・ミュージックまで通過したマニエリスティックな音響造形の融合がBOFというアーティストの個性であり、そのリストは見事な自己分析というほかない。また、ループやサンプリングを多用したアプローチや、随所に顕著なワールド・ミュージック嗜好、さらには全編に溢れるユーフォリックなサイケデリック感覚は、それこそアニマル・コレクティヴ~パンダ・ベアやアトラス・サウンドを筆頭に、ネオン・インディオアンやウォッシュド・アウトのようなエレクトロニック・ミュージックから、イート・スカルやウェーヴスあたりのポップなローファイ・パンクまでと通じ合う、むしろ昨今のアメリカのインディ・ロックと同時代性を共有するものだろう。そうしたBOFの音楽性は、前述のカヴァー曲のセレクトやレーベル・メイトの顔ぶれとも密接にリンクしていておもしろい。


最後に、「バンジョー・オア・フリークアウト」というユニークなユニット名について、アレッシオ自身が語ったエピソードを紹介しよう。一見、何気ないエピソードのように見えて、案外BOFの性格や音楽性をまさに言い当てているようにも思えてくるから、不思議だ。

「昔、僕がイタリアに住んでた頃、親友とショウのブッキングをしてたんだ。ある晩、カリフォルニアから来たバンドをブッキングしたんだけど、彼らは最高に素晴らしかったんだ! 彼らの音楽は、ポストパンク、クラウトロック、フォークを合わせた変わった感じだった。メンバーには、バンジョー奏者もいてさ。30人くらいのオーディエンスの前で一通りプレイした後、アンコールでステージに戻ってきて、メンバーの1人が『so, you guys want banjo or freakout?(バンジョーがいいかい?それともフリークアウトしたい?)』って言ったんだよ。それがすごく可笑しく聞こえてさ」

追記:前述のBOFのブログからは、昨年末に公開されたクリスマス・カヴァー・アルバムをフリー・ダウンロードできる。
(http://banjoorfreakout.blogspot.com/)



(2010/01)


極私的2000年代考(仮)……回り始めたUKとUSの両輪)

2012年5月25日金曜日

極私的2000年代考(仮)……カナディアン・インディーの一例


カナダの音楽シーンが世界中のインディー・ファンの熱視線を集めるようになって久しい。2000年代も今年で最初の10年が幕を閉じるが、この10年における彼の地の活況は、ニューヨークのそれに並ぶといっても過言ではない。ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーやニュー・ポルノグラファーズらがオルタナティヴな個性を示した90年代に対し、2000年代のカナダは、その層の厚さと多様な音楽性から、いまや“インディーズにおけるメインストリーム”と呼ぶにふさわしい存在感を示す。

なかでも、そんなカナダの“ブランド力”を牽引した顔役的バンドを挙げるとするなら、ブロークン・ソーシャル・シーンとアーケイド・ファイアの2組に異論はあるまい。かたや、KCアクシデンタルやドゥ・メイク・セイ・シンクといった前身にあたるバンドを通じて90年代と地続きに立ち、カナダのインディー・シーンの旗艦的レーベル=アーツ&クラフツと緊密な関係を築きながら、地元のさまざまなバンド(スターズ、メトリック、ファイストetc)のメンバーが相互に乗り入れるかたちで独創的なサウンドを展開するBSS。かたや、同じく大所帯からなるコレクティヴな編成を執り、デビュー以来、作品がグラミー賞やブリット・アウォードにノミネートされるなど国内外で高評価を得る一方、同世代はもちろんデヴィッド・ボウイやU2からも支持を集め、中心人物ウィン・バトラーの政治的な言動も含めてオピニオン・リーダー的な影響力も増すアーケイド・ファイア。共に、地元の音楽シーンに深くコミットする傍ら、アクティヴな活動でカナダ国内に留まらず存在感を示す両者は、2000年代のインディーズにカナダのイメージを決定づけた最たる象徴といえるだろう。

そして、このベル・オルケストルもまた、そんな両者と縁の深い、2000年代のカナディアン・インディーズを体現する存在にほかならない。


ベル・オルケストルが結成されたのは2003年。2005年にリリースされたデビュー・アルバム『Recording a Tape the Colour of the Light』の制作を機に、彼らは「バンド」として活動をスタートさせた。しかし、そもそものキャリアの原点は、中心人物のリチャード・リード・パリー(ベース/キーボードetc)とサラ・ニューフェルド(ヴァイオリン)、そしてステファン・シュナイダー(ドラムス/パーカッション)の3人が10年前に始めた、コンテンポラリー・ダンス作品のための音楽制作にさかのぼるという。

「リチャードとあたしは一緒に曲を作っていたの。とくに何のためということはなかったけど、そこにドラマーのステファンが加わって、コンテンポラリー・ダンス作品のための音楽を作ることになったの。ダンスの振付師がステファンを加えたんで、会ったこともないステファンと組んでやることになったのよ。だから、あれはまさに偶然に起きた不思議な出来事だったの。それからまた別のダンス・プロジェクトのコラボレーションをやったり、マリオネットのための音楽もいくつか手がけたの。そうしてコラボレーションをいろいろとやっていたんだけど、2003年にアルバム作りを始めたのよ。それまではレコーディングなんてしたことなくて、ヴィジュアルやアートとのコラボレーションをしていただけだったけど、これからはバンドとしてやって行こうと思ってアルバムを作ることにしたの。ダンスやシアターを抜きにして、音楽だけのパフォーマンスをやって行こうと思ったのよ」(サラ・ニューフェルド、以下同)

現在のベル・オルケストルは6人編成。リチャードとサラ、ステファンの3人に、ダンス音楽の制作にも参加していたピエトロ・アマト(フレンチ・ホルン/エレクトロニクス)とカーヴェイ・ナバティアン(トランペット/メロディカ)、そしてマイク・フェウアスタック(ラップ・スティール・ギター)を加えたラインナップとなる。

また、BSSやアーケイド・ファイアしかり、ニュー・ポルノグラファーズやウルフ・パレードといったカナダのインディー・バンドに特徴的なように、ベル・オルケストルの場合も、複数のバンドを掛け持つ多才なミュージシャンがメンバーに揃う。共にアーケイド・ファイアにおいて、マルチ・インスト奏者&ヴァイオリニストとして辣腕を振るうリチャードとサラ。地元モントリオールのポスト・パンク・バンド、The Luyasで活動するステファン。そのThe Luyasと平行して、Alien8に所属するインスト・ロック・バンド、Torngatのメンバーも兼ねるピエトロ。そして、オタワを拠点に90年代から活動するウッデン・スターズでギターを弾く傍ら、ソロ・ユニットのスネイルホースを始め、ジュリー・ドワロンやアーケイド・ファイアのジェレミー・ガラと共作も果たすマイク。いずれもカナディアン・インディーズの磁場に深く精通した実力派であり、こうしたメンバー各々のキャリアからもバンドの際立つ個性が窺い知れて興味深い。


そんな多才なキャリアを誇る彼らにとって、「ベル・オルケストル」たる音楽的な青写真を描く上でメンバー共通の“指標”となったバンドを挙げるとするなら、それはレイチェルズとトータスだという

「最初、リチャードと音楽についていろいろと話をしていたら、2人ともステレオラブやエイフェックス・ツインが大好きなことに気がついたの。そこから2人で一緒に曲作りを始めたのよ。あと、2人ともレイチェルズが大好きだったわね。レイチェルズが一番の共通項だったかしら。彼らはクラシックにすごい影響を受けていたけど、インディー・ロックの世界にもいたし、ポスト・ロックとも呼ばれていた。そして、あたしたちもまさにそういう風に形容されているから、彼らがあたしたちのお手本だったと言えるんじゃないかしら。あと、トータス。すごくユニークなインストゥルメンタルを生み出して素晴らしいアルバムを作っていたから、あたしたちにそのことを教えてくれた……。あたしたちがやりたいと興味を持っていたことを彼らは見事にやっていたのよ」

彼らのデビュー・アルバム『Recording a Tape~』は、なるほど、クラシックや室内楽にも通じる流麗で多彩なインストゥルメンテーションと、ポスト・ロック以降の精緻なサウンド・プロダクション、アグレッシヴで構築的なバンド・アンサンブルが黄金比で融合を見せたような作品だった。元GY!BEのエフリムらが運営するスタジオ「Hotel2Tango」でレコーディングされ、さまざまな音楽的意匠を昇華し壮大なサウンドスケープを描き出した同作品は、同時期に発表されたアーケイド・ファイア『フューネラル』やBSS『ブロークン・ソーシャル・シーン』と並んで、2000年代のカナディアン・インディーズを代表するクラシックスと呼ぶにふさわしい作品だろう。結果、同アルバムは翌2006年、カナダにおけるグラミー賞にあたるジュノー賞のベスト・インストゥルメンタル・アルバムにノミネートされるなど、各方面で高い評価を得た。

本作『As Seen Through Windows』は、その『Recording a Tape~』に続くセカンド・アルバムとなる。

本作を聴いて、前作と比較した上でまず何より耳を奪われるのは、そのドラムや低音の際立つサウンドの立体的な質感、メリハリの効いた音像の生々しさではないだろうか。バンド・アンサンブルはより緊密に練り上げられ、多彩な器楽演奏が織りなす優雅な音色のなかにも、リズム・セクションが生みだす躍動感やプリミティヴなトーンが印象的だ。

たとえば“Elephants”の、さながら象の嘶きのごときホルンの勇壮な響きと、アフリカの大草原を彷彿させる霊妙な音響のアトモスフィア。“The Gaze”のカーニヴァルのような狂騒感。エイフェックス・ツインのカヴァーという“Bucephalus Bouncing Bell”の、スティーヴ・ライヒを連想させるミニマルな打楽器の刻みとトライバルなドラム・ビート。あるいはタイトルからフランク・ロイド・ライトの建築を思わせる“Water/Light/Shifts”のノーブルな美しさ。ダンス・コラボレーション時代の曲を発展させた“Dark Lights”の、ジャジーで深い陰影をたたえた夜のムード。そして、ストリングスの厳かな調べで幕を開け、静から動へとダイナミックな構成を展開しながら、やがてすべての楽器が混沌とうねるようなオーケストレーションに至る最終曲“Air Lines/Land Lines”の壮大なクライマックス――。


本作のレコーディングは、シカゴに構えるトータスのジョン・マッケンタイアのスタジオ「SOMA」で行われた。サラが語るように、彼らにとってトータスは音楽的指標ともいうべき重要な存在であり、そのジョンとのコラボレーションが、本作のサウンド作りにおいて決定的な役割を果たしたという。

「ジョンは、素晴らしいアナログ・サウンドを作ることで有名だったから。温かみがあってクレイジーなすごく古いアナログ機材を山ほど持っているんで、それですごいものを作ってくれるの。このアルバムがああいうサウンドになったのは、彼に負うところが大きいわね。コンプレッションを思いっきりかけて、全てをザクザクした感じ(クランチー)にして歪ませたかったけど、まさにそうなったと思うわ。ジョンはそういう音作りがとても得意だったから、ドラムは強烈になったし、ディストーションも満載よ。彼は、あたしたちが想像した以上に、あたしたちが進みたかった方向にあたしたちをプッシュしてくれたのよ。彼がアートのレベルにまで引き上げてくれたの」

なお、彼らは本作のリリースにあたり、前作時のラフ・トレードからアーツ&クラフツへレーベルを移籍した。単なるレーベルという以上に、BSSをはじめクリエイティヴな才能が集い、活発な交流を繰り広げるコミュニティでもあるアーツ&クラフツの存在は、今後の彼らの活動において大きな支えとなるにはずだ。

「彼らはこのアルバムを本当に気に入ってくれているし、とても楽観的にとらえていて、大きな期待を抱いてくれている。自分たちを支持してくれる人達がバックにいると思えるのはうれしいことよ。このアルバムを信じてくれて、あたしたちが思っていた以上に出来るだけ大勢の人の耳に届けようとしてくれている。本当に素晴らしいアティチュードを持っている人たちよ」


レーベルのアナウンスによれば、目下、本作を引っ提げて行われているツアーでは、ヤー・ヤー・ヤーズのドラマーのブライアン・チェイスやアンティバラスのメンバーが参加するバンド、ザ・スウェイ・マシーナリーに名を連ねるマルチ・インスト奏者のコリン・ステットソンがサポートを務めている模様。現在モントリオールとニューヨークで生活しているというサラならではのコネクションでは?と想像されるが、ともあれ、アルバムの世界観をより華やかに演出する素晴らしいライヴ・パフォーマンスとなるにちがいない。ここ日本でも、その光景を目の当たりに出来る日が来ることを切に願う。


(2009/04)

2012年5月15日火曜日

極私的2000年代考(仮)……4AD社長サイモン・ハリデーに訊く


「僕の名前はサイモンで、4ADを世界規模で経営している。拠点はロンドンだけど東京やフランスやドイツにもオフィスがあるし、特にニューヨークのオフィスは60人もの従業員を抱えてるんだ。アメリカは世界最大のマーケットだからね。だからロンドンから出発したレーベルだけど、すごくワールドワイドな視点で活動してるし、ワールドワイドな視点を持ちたいと思ってるんだ。基本的に僕がやってるのは、レーベルがちゃんと機能してるか見守ることで(笑)、つまり4ADにふさわしい音楽を選んで、それが正しい方法でプロモーションされるように目を光らせてるんだ。すごく単純な仕事だよ。日々の業務は結構複雑だけど、総体的に見るとすごくシンプルなことをやってるんだ。いい音楽を探してきてちゃんとプロモーションして、しかるべきリスナーたちにその音楽を届けて、リスナーたちとの間に絆を作るっていうね。実際にはなかなかそう単純に事は運んでくれないんだけど、本来はそうあるべきなんだ。4ADに関わるようになって2年近くになるけど、その前はワープ・レコードにいたんだよ。ロンドンとニューヨークで、6年間ね。4ADと似た美学を持ったレーベルで、オリジナルで革新的な音楽とセンスのいい、素晴らしいアートワークを追求する。実際ワープでの6年間は本当に楽しかったよ。最高に格好いいアクトとも契約できたし、日本でも大成功したしね。バトルスやプレフューズ73、エイフェックス・ツイン、スクエアプッシャー、フライング・ロータスは、日本でも大ヒットしただろ。そこが4ADとの違いで、4ADはここ8年ほどの間、日本で昔のような成功を収められずにいるんだ。かつてはコクトー・ツインズなんかが人気を集めてたけど、その後はたぶんTVオン・ザ・レディオの登場あたりまで、ほとんど大きなブレイクがなかったと言っていいと思う。そこで今力を入れてるのが、日本のマーケットに再びアピールできるようなアーティストと契約することで……というか、それって日本のマーケットだけの話じゃないんだよね。本当に素晴らしいアクトなら、世界中のどのマーケットにもアピールするはずだからさ。簡単にそうに聞こえるだろうけど、そこが肝心なところなんだ。すごくいいアクト、オリジナルなアクトって、どの国でも売れてるもんなんだよ。そういうわけで、日本は4ADの将来に向けての戦略の中心地になってるんだ」

●そもそもこの業界に入るきっかけは、ワープに入ったことだった? それともそれ以前にもどこかで勤めていた?
「その前にもいろいろやってたんだ。僕はマンチェスター出身なんだけど、もともとは地元のクラブのプロモーターをやってたんだよ。それって当時のマンチェスターでは、すごく危ない仕事だったんだけどね」

●(笑)。
「その後ロンドンに引っ越して、いくつかのプロモーション会社で働いて、それからトミー・ボーイに入って、ワープに移って、そしてさらに4ADに移ったんだ。そんなふうに、常にエキサイティングなレーベルで仕事しようとしてきたって感じだね。もうかれこれ20年になるよ。トミー・ボーイに入る前は、基本的に流通の仕事をやったり、プロモーション、ラジオ広告、プレス、ツアー・マネジャーの仕事をやったり、業界のありとあらゆる仕事に携わってたんだけど、すべて今の仕事にプラスになってると思う。今は最高経営責任者として、主にA&Rとしてアーティストと契約することを仕事にしてるわけだけど、これまでの現場経験のお陰で契約に至るまでの流れや仕組みを知り尽くしてるっていうのが、今の僕にとってすごく助けになってるんだ。たとえばマクドナルドも……僕は別にマクドナルドは好きでも何でもないけど(笑)、あそこのスタッフってすごくよく訓練されてるだろ」


●ええ。
「マクドナルドの店長は全員、自分で実際フライドポテトを揚げたりハンバーガーを焼いた経験があるんだよ。あの会社は従業員全員に、現場のプロセスを一通りすべて経験させるからね。音楽の世界でも、会社のトップになるのは並大抵のことじゃないしすごく時間がかかることだけど、だからこそそこに至るまでにいろんな仕事を経験することができるわけで、そこでの経験は必ずトップに立ったとき役に立つと思うし、実際そうであってほしいと思ってるんだ。ま、本当のところは部下に聞いてもらわないとわかんないけどね(笑)」

●ワープも4ADも確固とした美学を持っている、というお話でしたが、一般的なイメージとして両者のレーベルのカラーはちょっと違うと思うんです。どういったきっかけで、どういうところに惹かれて4ADに移ることにしたんでしょうか。
「4ADのほうが、自分も気に入ってるもっとビッグなアーティストと、契約できる可能性が高くなるってことだね。たとえばワープではグリズリー・ベアやバトルスといったバンドと契約したりしたけど、あれ以上のレベルのバンドになると、たぶんほかの大きなレーベルに持っていかれちゃってると思うんだよね。人気のあるバンドは世界規模で活躍したいと思うものだからさ。そういう意味で4ADはベガーズ・グループの傘下にあるし、世界中にしっかり組織展開してるから、ワープよりもたくさんの国でより多くレコードを売ることができると思ったんだ」

●今の意見は仕事人としての意見だと思うんですが、いち音楽ファンとしての4ADとの関係は? 昔から所属アーティストの音楽を聴いていた?
「んー、何人かはね。一人残らずというわけじゃないよ。別に4ADの熱狂的ファンってわけじゃなかったからね。コクトー・ツインズは僕も大好きだったし、ディス・モータル・コイルなんかも大好きだったけど……あと、ピクシーズのシングルもよく聴いてたけど、でもクレイジーなファンってわけじゃなかったんだ。でもそれはワープも同じで、僕ってもともとはかなりポップな音楽が好きなんだよね。アデルやビヨンセ的な意味でのポップではなくて……でもビヨンセは僕も結構好きだけど」


●(笑)。
「でももっとトーキング・ヘッズとかニュー・オーダーとかビョークとか、ああいう感じのポップ・ミュージックが好きなんだ。だからもともとは結構コマーシャルなテイストをしてて、100%アンダーグラウンドな音楽っていうのは好きじゃないんだよ。だから……ごめん、話がそれちゃったね。つまり確かに4ADのファンではあったけれど、むしろあのレーベルの一定のアクトのファンだった、と言ったほうが正しい、と。僕はもともと、レーベル名でレコードを選ぶタイプじゃないんだよ。いつも強力なアイデンティティを持ったレーベルと仕事をしてる僕がこんなこと言うなんて、ある意味皮肉だし偽善的なんだけど、レーベルの前にアーティストのことを信じてるんだよね。レーベルはあくまで業界の一部で、ジャーナリストやプロモーターやプロデューサーにとっては意味のある存在だけど、レコード購買層の大半にとっては、アーティストの所属レーベルなんてどうでもいいことなんだ。ほとんどのリスナーは、レディオヘッドがXLと仕事するためにEMIを離れたなんて、知りもしなかったしね。普通のファンは、ビートルズの所属レーベルがパーロフォンだってことも知らなかったし。こんなこと言うと、自分の仕事を卑下してるみたいに聞こえるかもしれないけど、普通の人のほとんどは単に音楽が好きなだけで、レーベルのことなんてあまり気にしてないと思うんだ」

●でも実際、それが今のリアルなリスナー感覚ですよね。ポップなものが好きという話ですが、リスナーとして具体的にこれまでどんな音楽を聴いていたのか。
「それは簡単だよ。僕の音楽のテイストはすごく限られてるからさ(笑)。レーベルのボスというと、いろんな音楽を片っ端から聴いてる人がほとんどだけど、僕はそういうタイプじゃなくてすごく射程範囲が狭いんだ。最初に好きになったのは、エコー・アンド・ザ・バニーメンのファースト・アルバム『クロコダイルズ』で、歌詞も全部覚えてたくらいさ。で、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーと続いて、83年から84年くらいにかけて、ヒップホップとかR&Bとかアメリカの音楽にはまったんだ。アメリカのソウルとか、SOSバンドとかチェンジとか、アメリカのダンス・ミュージックにすっかり夢中になったんだよ。そういう時期が結構長く続いて、UKものはあまり聴かなくなったんだ。ラジオでかかるようなUKポップはもちろん聴いてたけど、いわゆるUKギター・バンドはほとんど聴いてなくて、主に聴いてたのはアメリカのバンドだったね。あと80年代後半にハウス/テクノ・ミュージックを聴き始めて、その後ニルヴァーナやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやザ・ヴァーヴの登場でギター・バンドが盛り返してきて……。そういえばその頃紙を取り出して、気に入ってるバンドとアルバムの名前を全部書き出してみたことがあったんだ、あくまでも当時の最新のバンドだよ。レッド・ツェッペリンとか過去のバンドじゃなくてね。そしたらトーキング・ヘッズ、プリンス、クラフトワークとかニュー・オーダー、ザ・ザ。ザ・ザの最初の3枚はすばらしかったから。そういった名前が出てきたんだけど、つまりすごくその……“普通”だったんだ(笑)。ホント、ごくごく普通の音楽ファンだったんだよ」

●リスナー経験の中で、人生を変えられた、アルバムやアーティストを敢えて挙げるとしたら?
「たくさんあるけど……たぶんクラフトワークのファーストかな。初めてクラフトワークにはまったときは“エレクトロニック・ミュージックでもこんなに感情を込められるなんてすごい”ってびっくりしたんだ。本当にエモーショナルだったからね。あとザ・ザの『ソウル・マイニング』は、それこそ何千回と聴いたよ。どの曲も全部自分のことを歌ってるみたいで、聴いた途端に“これって俺のことだ!”って(笑)」


●ええ。
「ファンが熱狂のあまり“あなたのあの曲、僕のことを歌ってるんでしょ”って勘違いしちゃって、アーティストのほうが“え、そういう意味の曲ですらないんだけど”って戸惑ってしまうっていう、あれと同じだよ」

●(笑)。
「あとは……自分より前の時代だと、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』がたぶん、史上最高のアルバムじゃないかな。ヒット・シングル向きの曲も入ってるし、プロダクションも素晴らしいし、メッセージ性も高いし。実際レーベルは“政治的すぎる”という理由で、あのアルバムのリリースを12ヶ月間渋り続けたんだよね。今でもしょっちゅう聴いてるし、“人生を変えた”とまでは言えないかもしれないけど、でも僕にとってあのアルバムが目標というか、レーベル経営者として、あれと同じくらい素晴らしいアルバムを出そうと努力してるんだ。僕があのアルバムで受けたのと同じような感動を与えてくれるような、そんなアルバムを僕もリリースしたいと思ってるんだよ」

●レーベルの社長として、CDが売れなくなっているという音楽業界の状況を、どう捉えてますか?
「前向きに捉えてるよ。しかもその手本になってるのが日本だと思うんだ。日本ではほかの国より10年も長く不景気が続いてて、そのせいでイギリスとアメリカのレーベルは、日本でリリースするレコードに関してより注意深くなったんだよね。10~20年前の日本では何を出しても売れたけど、今はいいものじゃなきゃ売れないんだよ。だから逆に不景気のときこそ……つまり、今でもみんな音楽を買ってはいるんだよ。ライヴも行ってるし、フェスティヴァルにも行ってるし、いろんなCMで音楽が使われてもいるし……ただ不景気ということがあって、みんな良いと思うものだけを選ぶようになっているから、こっちもよりよい音楽をリリースしなきゃならなくなっている、ということなんだよ。怠けていられないし、最高のクオリティの最高のテイストの音楽を届けなきゃならないんだ。だから不景気のことはそんなに心配もしてないよ。大恐慌~第一次大戦のときみたいに、世界の終わりが来そうなくらい悲惨な状況というわけでもないからね。レコードを買う人はまだまだいるし、ただその数が減ってきてるのは事実だからこそよりよいものを提供しなきゃだめだってことなんだよ」

●CDが何で売れないかっていう話になると、若い人の趣味嗜好が変わったとか、違法ダウンロードのせいだとか、携帯電話で金を使うとか、そういった意見をよく耳にするんですが、ミュージシャン自身に聞くと「逆にいいんじゃないか」、「金儲け目的じゃなく純粋に良質な音楽を求める人たちが集まってきて、いい意味で淘汰されていくんじゃないか」と。そういう意味では今のあなたの意見もそれと通じる意見だなと思いました。
「うんうん。あと、違法ダウンロードの話だけど、実際最近は勢いが衰えてきてると思うんだ。ミュージシャン自身は一切違法ダウンロードを支持してないからさ。ミュージシャンはCDの売り上げでお金を稼いでるわけだからね。だからこの問題もそのうち落ち着くんじゃないかな。たとえばうちでディアハンターのアルバムを出したときも、リリースの5ヶ月前から音が世界中に流出してたんだよね」


●(笑)。
「ところがアルバムの売り上げ自体は、日本でもアメリカでも今までより良かったくらいなんだ。つまり違法ダウンロードしてる連中って、ダウンロードできようができまいがそもそもレコードを買わないんだと思う。聴くだけで、買うつもりはもともとないんだよ。レコード購買層と違法ダウンロード利用者層はリンクしてないってこと。だから大丈夫なんじゃないかな」

●最後に、4ADの社長としてこれからのレーベルの舵取りについて、どんなふうにしていきたいかを聞かせてください。
「ちょうど今、ザ・ナショナル、ボン・イヴァー、ブロンド・レッドヘッド、ザ・ビッグ・ピンクそれにディアハンターといった素晴らしいアーティストたちを4ADは抱えてるんだけど、僕としては彼らと同じくらい優秀なバンドがあと5~6アーティストほしい、と思ってるんだ。それこそスター軍団のレアル・マドリードかマンチェスター・ユナイテッドかっていうくらいにね」


●(笑)。
「つまりどの所属アーティストにも、自分たちのやってる音楽に関してはベストであってもらいたいんだ。ジャズだろうがヒップホップだろうがダンスだろうがロックだろうが、そのジャンルではピカイチの存在であってもらいたわけ。つまり、今でもじゅうぶんいいバンド・いい音楽をリリースしてはいるんだけど、あともう少し数が増えてほしいな、と。素晴らしいクオリティのアーティストが常時15~20人いて、4ADから何かリリースされるたびに“これは聴く価値があるだろう。自分の好みとは違ってても、オリジナルでスタイリッシュで良質な音楽が聴けるはずだ”と思ってもらえるような、そんなレーベルにしたいんだよ。そうやって世界最高のレーベルのひとつに成長してほしいと思ってるんだけど、そういうのって後から振り返ってみて初めてわかることなんだよね。“思い返せばこのレーベルってすごかったんだなあ”って(笑)。でもそういう素晴らしいレーベルを経営したいと思ってるんだ、今はまだ道半ばだけどね」



(2009/08)

2012年5月1日火曜日

2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Troller/ST
オースティンのユニット。喩えるならヨンシーを暗転させたようなダーク・ウェイヴ/ウィッチ・ハウス趣味。個人的には去年のベストの一本。






◎Eternal Dreamer/Splintered Sunlight
GrouperやMotion Sickness Of Time Travelとも比較されるフィーメイル・アンビエント・ドローン。ベクトルは一時のフリー・フォーク向きだが、土着の肌触りは柔らかく、そして濡れている。



◎FEATURELESS GHOST/Biologically-Sound Cyber-Bodies
そういやCLASHの最新号の見出しに「sci-fiが云々……」とありページを捲ったが見つからず、、、というわけでBest Hits改めFEATURELESS GHOST。二人羽織で見せるゲイリー・ニューマンのロボットダンス、、、という趣。



◎Many Moons/Former Selves
先鋭的な映像手法でビデオ・アーティストとしても活動する西海岸のPaul Skomsvold。Motion Sickness Of Time Travelでもお馴染みのHooker Visionから。明鏡止水のアンビエント・ドローン。







◎K.A.N.T.N.A.G.A.N.O./Se résigner au silence extraterrestre
果たして何者か。Alexander WilsonやAlexandre St-Onge、Jonathan Parantに関わるといことからカナダ~モントリオールのアンダーグラウンドと密なコネクションがあると想像できるが、謎。ハーシュというかピーキー音が粛々と続く27分のA面、コラージュも塗した怪奇映画のサントラを展開する27分のB面。うーん、、



◎Black Velvet Stereo/Metal Rain Machine
USのSacred Phrasesから。骨が震える(Bone-chilling)ような感覚…とはレーベルいわく。アルバム・タイトルはルー・リードのギター・ノイズを連想させるが、拡張や開放ではなく、まんじりともしない緊張と持続感は聴覚をますます悪酔いさせるよう。







◎Crabskull/Jovian Black Opera

沈降と倦怠のダウンテンポ。テープヒスの彼方で木霊するオペラ声のサンプリング。スロウモーションなサード・アイ・ファウンデーションのような瞬間も。


◎Aloonaluna/Bunny
Hooker Visionから。カリフォルニアの才媛Lynn Fisterによるソロ。GrouperやMotion Sickness Of Time Travelに連なる系譜だが甘くやわらかな歌声と音色は子守唄のよう。チャイルディッシュなビートはニカな趣も。“水色のウサギ”なんて曲名も愛らしい。

◎Back to the Future the Ride/Neutrino Based Lifeforms
裸族Foot Village&Gang Wizardのメンバーによる暗黒ドローン・プロジェクト。映画『ツインピークス』にインスパイアされたという冒頭曲からさもありなん。かたや音楽家リンチのフォーキーな歌心とは、まったくもって、、、


◎Kon Tiki Gemini/Azure Maze
またもHooker Visionから。Ivan KaribとSergei Dmitrievのデュオ。パンダ・ベアの“Comfy In Nautica”をドローン・アンビエントに描き直したようなA面が至福。



◎Leslie Keffer/Kim Gordon/Thurston Moore/Keffer Gordon Moore
夫婦ユニット=Mirror/Dashを横軸方向に延長した、サーストンは両手に花のフリーノイズインプロヴィゼーション。アートワークを飾るキムのドローイングも素晴らしい。離婚してもこういう形で関係を続けて欲しいものだけど。。。


◎Raccoo-oo-oon/Death at Prospect Peak
旗艦Night Peopleを主宰するアイオワのフリーフォーム・ノイズ・パンカー。最初期のギャング・ギャング・ダンスも彷彿させるが、ブルックリンのモダンではなく、そこはやはりスリップノットと同郷なのだな……と改めて。



◎Mef Teef/Implied Brain-Flex
Night Peopleから。Andy Spore率いるフリーキー・サイケ・ジャズ・コンボ。90年代シカゴ~スリル・ジョッキーへのフリー・フォーク経由USアンダーグラウンドからの応答。ある種、ボルビトマグース風情というか。


◎Time Life/Gripstone
Wooden Wand & The Vanishing Voiceでお馴染みThe Vanishing Voiceの方の別働隊?的なデュオ。ギター・ループとテープ・マニュビレートを絡ませたミステリアス・セッション。フロムNY。



◎Harmonizer/s/t
片割れはGreg Davis。サンプルを噛ませたレイヤード・エレクトロニクスは流行りのシンセ・ポップにも目配せしつつ、ビート処理はテクノ経由の初期エレクトロニカ仕込みというのがGreg Davisならでは。KrankyからNNA Tapesへ、というラインにも注目。


◎Pulse Emitter/Longing Thresholds
ポートランドのヴェテラン。アナログ・シンセを塗り重ねた甘くメロディックな電子音響。しかしかの地の充実ぶりときたら……90〜2000年代とはまた異なる文脈からポートランドのアンダーグラウンドは見直されることでしょう。


◎Eklin/Onwa
オランダ発。クラウト・ロック~ジャーマン電子音響とポスト・ロック・スタイルの美しき邂逅。ドローンやアンビエントの作法も織り交ぜながら、ミニマルなビートに身を委ねて揺らぐ女性Voはジュリア・ホルターや流行りのシンセ・ポップに通じる感覚も。



◎Dead Luke/Cosmic Meltdown
近作ではブルージーなローファイ歌謡を聴かせるマジソン出身。タイトルの通りユルフワに蕩けたサウンをサイケでガレージなジャムが転がす、というか漂う。まるでカート・ヴァイルとギャリー・ウォーをミックスしたような。



◎Ryan Garbes/Endless Bummer
Night Peopleを主宰するRaccoo-oo-oonのドラマーによるソロプロジェクト。アコギのループにノイジー&パーカッションを噛ませたハードコアはライトニング・ボルトと聴き紛うピークも創出。 本体譲りのハイテンションでぶいぶいと。



◎Watersports/Natural History
ニューヨークはクイーンズの男女デュオ。その正体はブルース・コントロールの前身にあたるニューエイジ・プロジェクト。シンセやコングが鳴る鳴る静謐系ミニマル・ミュージックは禅の境地も垣間見せる。初期は喜太郎に例えられたというエピソードもさもありなん、か。



◎Dylan Ettinger/Botany Bay

最近Not Not FunからCDがリリースされたばかりのDE。同作品も然りだが、昨今のUSアンダーグラウンドはダブとニューエイジをいかんなく溶接し、あまつさえハードルをも下げる。それはしかしフリー・フォークがノイズやドローンと接続を見せたのとは対極に位置する同根異花の現象、か。ヒプナゴジックな云々諸々の相貌を衛星の位置関係に置きつつ、これはエレクトロニック・ミュージックが迎えた新たな潮流のひとつ。


◎Sand Circles/Motor City
ことMartin Herterichの2作目はNNFからリリース。マーチン・レヴとクラスターがシンセディスコをアンビエントに敷衍。タイトルはデトロイトを想起させるがガソリンや排ガスの臭いとは無縁。サイバーパンク的な光沢感は未来世紀のマシーン・ミュージックを彷彿させる。


◎Aphid Palisades/II
Ryan ConnollyとLee Tindall,のデュオによる2作目。“ニューウィアード(新しく奇妙な)・カナダ”を標榜する(と一部で話題の)コズミック・シンセ・ドローン。



◎Blue Angels/Isidora
Digitalisのリミテッドラインから。 シューゲイズを溶かし込んだ疾走感あふれるドローン・ポップ。同じUKのファック・ボタンズからバレアリックなビートを抜き、グローイングをさらにアンビエント寄りにしたような。





◎Black Zone Myth Chant/Straight cassette
High Wolfこと何某の別プロジェクト。ジェームズ・フェラーロをチョップド&スクリュード。ハイプ・ウィリアムスもかくやたるスモーキン・ドローン・ダブ。 しかし何某、フランスとブラジルのハーフ?クォーター?ってホントなのかしら。


◎Cellophane Spill,/s/t
“キャバレー・ヴォルテール・ミーツ・クラウス・ノミ”とも評されるオースティンのエレクトロニクス。 アナログ・シンセとヴォコーダーを操り、美と諧謔の黄昏へ訥々と。



◎ARBOL TRANCEMISSIONS/CODE: SUITE 104/split
BサイドはHobo Cultを仕切るFrank Ouelletteのニュープロジェクト。いわゆるシンセ~アンビエント系のスプリットだが両者の嗜好はエレクトロニカ寄り。後者はスログリ風の雑音趣味も。


◎Duck Dive/Interpolarity
そのホーボー・カルトから100本限定のリリース。アヒルの入水?なんて自然科学の教材のようなプロジェクト名だが、期待を裏切らないニューエイジ・テイストのシンセ・エクスペリメンタル。



◎Design/Hangin'
NNFから100%Silkへ、という流れは個別に好きなアーティストもいるしアンダーグラウンド史的にも興味深いと思いつつ、半分乗り切れていないところがあるのだけど、このディスコ~ダンス・ミュージックをカセットで、それも今の時代、という一連はやはり面白い。カリフォルニアのデュオによるアシッディーなディープ・ミニマル。


◎White Poppy/I Have A Dream
NNFからヴァンクーヴァーのCrystal Dorvalによるプロジェクト。ドリーム・ポップとヘヴィー・サイケのまがまがしきマリアージュ。耳あたりは甘く、オーシーズがヒプナゴジアを擬態したような感覚も。



◎Nuojuva/Otavaiset Otsakkaha
Hooker Visionからヘルシンキの鬼才。テープループを重ね、マルチ・インストゥルメンタルに編まれた美しく霊妙なアンビエント。モーション・シックネスのレイチェル・エヴァンスがゲストVoで華を添える。



◎Dolphins Into The Future/A Star Maker, Strange Dreams, And Clairvoyance
最近はFonalからもリリースする未来派イルカ群。環境音や現地録音のポリフォニーを編み込みアンビエンタルな薄明のシークエンスを演出。ニューエイジというよりはゴシックな趣も。













2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))