2013年2月26日火曜日

2013年の熟聴盤②


・ !!!/THR!!!ER
・ うみのて/IN RAINBOW TOKYO
・ 大森靖子/魔法が使えないなら死にたい
・ Predawn/A Golden Wheel
・ Blue Hawaii/Untogether
・ Inc. /No World
・ RAZIKA/Pa Vei Hjem: On The Way Home
・ Kurt Vile/Wakin On A Pretty Daze
・ Vondelpark/Seabed
・ Dirty Beaches/CIMRE CITY
・ Dirty Beaches/Water Park OST
・ Bitchin Bajas/Krausened
・ Inga Copeland/Don't Look Back, That's Not Where You're Going
・ Endless Boogie/Endless Boogie
・ Acteurs/Acteurs
・ Dan Friel/Total Folklore
・ Angel Eyes/Final Fare
・ Autre Ne Veut/Anxiety
・ Filthy Huns/Filthy Huns
・ Profligate/Videotape



(2013年の熟聴盤①)

2013年2月14日木曜日

極私的2000年代考(仮)……イーノが未来を嘱望する気鋭、Three Trapped Tigers



「WARPレーベルの音楽、レディオヘッド、シガー・ロス、ナイン・インチ・ネイルズ、ジャズピアノ、それからミニマリズム音楽が大好きなヤツが、ファンクやメタル、そしてエレクトロニカ好きなロック・ギタリストとロック・ドラマーとバンドを組んだ。さて、どんなサウンドになるでしょう!?みたいな」
 
と語るのは、このバンドのメイン・ソングライターのトム・ロジャーソン(ピアノ、シンセ、ヴォーカル)。無邪気な言い回しながら、しかし、結論から言えば、このトムのコメントほど彼らスリー・トラップド・タイガーズ(以下TTT)のサウンドについて端的に言い表したものはないだろう。また同時に、たとえばクラクソンズやハドーケン!に象徴される、ニュー・レイヴ~ニュー・エキセントリックと呼ばれた近年の折衷主義的なシーンとも一線を画したポジションに彼らが立つことは、デビューEPとなる本作『Three Trapped Tigers』を聴けば明らかではないだろうか。
 
パンテラやスレイヤーに夢中なメタル少年として10代を過ごし、過去に5年ほどハードコア・バンドで活動していた経歴ももつアダム・ベッツ(ドラムス、エレクトロニクス)。『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』以前のレッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのファンで、トム・モレロを憧れのギタリストに挙げる傍ら、スーパーサイレントやハムクラッシュといった北欧の実験的なエレクトロニック・ミュージックのリスナーでもあったマット・カルヴァート(シンセ、ギター)。そして、16歳までクラシックや現代音楽しか聴いたことがなく(「ドビュッシーは僕のヒーローの一人なんだ」)、その後、レディオヘッドやエイフェックス・ツインを通じてロックやダンス・ミュージックに目覚めていったトム。

現在はこの3人で活動するTTTだが、そのスタートにいたる経緯は、トムとアダムと別の2人のメンバーで結成された前身のバンド時代にさかのぼる。「すごく小さくて、かなり排他的だった」とトムが振り返るロンドンのジャズ/即興音楽シーンを拠点に、サックスやオルガン、ピアノを織り交ぜた「ライヴ・プロセッシングやサンプリングを全面的に押し出した、即興エレクトロ・アコースティックをやっていた」という彼らは、2000年代の半ば頃から1年ほど活動した後、メンバー・チェンジを機に「Three Trapped Tigers」とバンド名を改名。ベース、ドラム、サックスにピアノという編成で、インプロヴィゼーションとハードコアを掛け合わせた「超絶技巧で、フラストレーションから発生したような音」を鳴らし始めたが、「でも結局、それでは不誠実な感じがして、自分自身に正直でない感じがした」と試行錯誤が続き、ほどなくサックス奏者と入れ替わる形でマットの加入をへて(マットとトムは以前にエレクトロニック系のバンドで一緒に活動していたらしい)、現在の編成に定着した。


TTTを“再起動”させる際に彼らが目指したサウンドは、「ポスト・ロックやハードコア、エレクトロニカの中間で、それにインプロヴィゼーションの要素もあるというものだったんだ」。そのアイディアを得るためにトムは、スクウェアプッシャーやエイフェックス・ツイン、オウテカ、ナイン・インチ・ネイルズ、シガー・ロス、それにライトニング・ボルトやロカストなどのノイズ系バンドといった、メンバー3人が共通して好きなバンドの音をミックスしたようなサウンドを青写真として描いたのだという。そして、2007年3月に最初のデモ音源をレコーディングし、本格的に活動をスタート。いわば、その最初の成果といえるのが、本国では昨年11月にリリース(ロンドンの新興レーベル「blood and biscuits」から)されたデビューEP『Three Trapped Tigers』収録の楽曲ということになる。

まず、トムが楽曲のベースとなる部分を作り、それを3人で一度解体した上で、マットとアダムが自らのパートを加えつつ再構築していく。ソングライティングの要は「構成」であり、そのイメージを描きながらギター、ドラム、キーボード……と楽器を重ねていき、最後にメロディを乗せる。そうして創り上げられるTTTのサウンドは、細密なアレンジメントと立体的なバンド・アンサンブルに、メンバー個々の多彩な音楽的バックボーンを濃縮した、その圧倒的な演奏スキルと情報量で聴く者を魅了してやまない。


幾何学的なシンセ・ループとギター・リフのミニマルな応酬から、キーボードが彩る中間部を挟み、バトルスとも比せられる複雑巧緻なバンド・アンサンブルを展開するM①。ポスト・ロック/マス・ロックを下書きに、トムの流麗なピアノ&ヴォーカルとエレクトリック・ドラムが絡み合う、“『KID A』以降のレディオヘッド”的なスケールを秘めたM②。ベッツのドラム・サンプルを発展させ、ジャムとプログラミングに没頭し完成まで1年が費やされたという、彼らのエレクトロ嗜好(スクウェアプッシャー、スーパーサイレントetc)が如実に反映された“TTT流ブレイクコア”M③。一転、ブライアン・イーノのそれを彷彿させる静謐なピアノ演奏がイントロを飾り、次第に熱を帯び始めるように重厚なインストゥルメンテーションが隆起を見せ、やがてモグワイやシガー・ロスのようなアンセミックなサウンドスケープへと結実するM④。そして、「初期のエイフェックス・ツインの楽曲のピアノ・ヴァージョンみたいな」と語るスネアとのドラムンベース風の伴奏をへて、ノイジーなギター・リフを予兆に荒れ狂うインプロヴィゼーションへとなだれ込み、混沌の渦の中でクライマックスを迎える最終曲のM⑤――。「コンセプトと呼べるものはないんだ」とEPの内容について断るが、しかし、ここにはストーリーを紡ぐような美学的な“流れ”があり、何より演奏集団/ライヴ・バンドとしての類稀なエネルギーが凝縮されている。このわずか5曲のみで、彼らはその“大器の片鱗”を雄弁に示し得ていると言えるだろう。

「構成」を起点とするプログレッシヴな構築と、インプロヴィゼーションが持ち込む荒々しい解体。ハードコアとミニマリズムの止揚――。なるほど、多くの海外メディアがバトルスのそれに準え、あるいは同世代のイギリスのバンドの中ではフォールズに近いセンス(トム自身も認めるスティーヴ・ライヒの影響など)を感じさせるが、一方でトムは「僕らの音楽はもっとエモーショナル。僕らは人々とつながること、そして人々の心を動かすことを目指しているんだ」と語る。そのルーツやキャリアの出発点こそエクスペリメンタルで高踏的ながら、むしろそのマインドや感覚は、冒頭の発言からも窺えるようにピュアで屈託がない。ライトニング・ボルトのライヴのエネルギーとポジティヴな情熱、そしてディアフーフのDIY精神に共感とリスペクトを示す彼らは、「iPodをシャッフル・モードで聴いている時に、大体1日に一回くらい最高に良い曲の繋ぎに出くわす。それが僕(トム)に、音楽におけるコントラストのアイディアをたくさん教えてくれる」ともさらりと語り、いかなるシーンにも属さぬスタンスのまま自由で旺盛なサウンド・クリエイションを謳歌している。

なお、本作のプロデュースを務めたのは、ストロークスを手掛けて(ファースト&セカンド)名を上げたゴードン・ラファエル。トムの古いルームメイトがゴードンと顔見知りらしく、その縁で彼らのライヴを見に来た際に紹介され、プロデュースの話に至ったのだという。「ゴードンは明らかにその場(※ライヴは北ロンドンにあるトムの古い家で開かれたハウス・パーティーで行われた)にいた人たちと比べると、結構歳もいってるから、すごく奇妙な感じでね。『あのオッサン、ここで何してるんだろう?』って。その後、紹介を受けた時に、自分自身を愚かに感じたよ。それから、彼は僕らをベルリンのスタジオに連れて行ってくれたんだ。レコーディングは、すべて3日間で終わったよ」。

「バンドにとって大切なのは、何かとコミュニケートするってこと。それから、印象的なライヴをやることかな。ラップトップ上でプレイボタンを押すだけのライヴ、派手なライトショーをやっているエレクトロニカのアーティストが増えているけど、すべてライヴで演奏するという僕らのようなバンドにもチャンスはあると思うんだ。僕らは自分たちが求めているようなエレクトロニカ・サウンドをライヴでできなくても、もっと面白いものを創り出している。それは自由であるということだと思うし、他とは違うってことの美学でもある。可能性はいくらでもあるってことだよ」
 

目下、彼らは年内に2枚の新しいEPのリリースを計画中。そして、来年の2010年にはフル・アルバムのリリースを予定、とのこと。トムいわく「もっとプロデュースされて、もっと内容が練られたもの。もっとバンドそのものを実験的なものではなく、一貫性のあるものにしたいんだ」。彼らにとって、このデビューEPは“習作”であり、まだまだイントロダクションに過ぎない。はたして、ここからいかなる音楽的飛躍を遂げてみせるか。その報告が届けられる日を――来日公演の実現の報せと併せて、期待して待ちたい。


(2009/?)

2013年2月8日金曜日

2013年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定)


◎Motion Sickness Of Time Travel/A Marbled Youth
昨年も年間通じて繁忙期を過ごしたMSOTT。シンセ・アンビエントの代表的な女性作家となった彼女だけど、いずれクリスティーナ・カーターのような境地に行き着くのでは?とも思わせる近作とはやや趣の変えた一本。




◎Bernard Femminielli
/Telenovelas Mentales
アクトレスとドリップハウスを繋ぐニューエイジ・ハウス? ピート・スワンソあたりが引っ張るこの界隈の末席に着くであろう奇才で、シンセ・ポップとシンセ・アンビエント~ドローンのあいだを飄々と。 話は変わるが90年代にこのあたりのレトロ・フューチャーな感覚を掘り起こしたトランザムが近年ハードコアやノイズ~サイケの意匠をかりてUSアンダーグラウンドに接近を見せる傾向は個人的に興味深く観測している。

◎Ossining/Trike
“Happiness is the smell of a new car. It's freedom from fear. It's a billboard on the side of the road that screams reassurance that whatever you are doing is okay. You are okay. ” という矜持なのかコピーなのかが効いている。あわく引き延ばされたシンセ・アンビエンスの向こう側からうっすらと朧げながら歌声のようなものも聞こえてくる。ジュリアンナ・バーウィックのようなポリフォニーとは違うが、“It's freedom from fear”とも謳うある種の祈りにも似た瞑想も感じさせる。

◎Black Eagle Child/Two Moods
一頃のFonal周辺とも共鳴するフリー・フォークの流れを組みながら、昨今のモダン・アンビエントの潮流とも合流した多作極まるアメリカ人ギター奏者Michael Jantz。具体音を織り交ぜた饒舌かつインティメイトなアコースティック・エレクトロは、名前は思い出せないがシカゴ音響派の最良の果実や竹村延和との共通因子も頷わせる。

◎Le Révélateur/Horizon Fears

元GY!BE/フライ・パン・アムのロジャー・テリア‐クレイグによるソロ・プロジェクト。最近は映像作家の妻も参加しているとか。“日の出の恐怖”というタイトルが醸し出す通り、アニミスティックでニューエイジなアンビエント・ドローン・サイケ。ちなみに昨今モントリオールは地元密着のドローン・シーン/コミュニティが活発で、なかでもGY!BEのマウロ・ペッツェントが運営するライヴ・スペース兼ベジ食堂のDIYヴェニュー「Casa del Popolo」に集うミュージシャン・コレクティヴの動きには要注目。サンドリップスとかホボ・キューブスとか。余談だがその辺については近日リリースされるドルドラムズの国内盤ライナーノーツに話のイントロとして書きました。

◎Magneticring/City
カナダはヴァンクーヴァーのJoshua Stevensonによるソロ・プロジェクト。ムーグ・シンセがうねり倒すアップリフティングなジャーマン式ニューエイジ・テクノ。 Gift Tapes 038 から。






◎Sinner Jim Whitney/AM Thirty-Three Thirty
異能のテープ・マニュピレイター。無調のThe Caretakerか、はたまた意識混濁したイシマルーか。退廃的なアナログ使いがダーク・ゴシックに限りなく漸近。

◎The Kevin Costner Suicide Pact/My Hand Holding a Still Photograph of the Same Scene
コロラドの4人組。具体音やサンプルを丁寧に重ね、うっとりと棚引くアンビエント~シンセ・ドローン。この手の部類ではオーソドックスなスタイルといえるが、これを4人でやっているというのは意外に珍しいかも。Hooker Visonから。

◎G. Sweems / Tricorn & Queue/Split
波の音や鳥のさえずり……といったフィールド・レコーディングスとエレクトロニクスを織り交ぜ、ノスタルジックなオルゴールを手回しするような前者。多作を誇るJeff AstinとKane Pourによる後者は、様々なシークエンスがクロスフェードを見せるドリーミーなシンセ・アンビエント。 housecraft,から。

◎Günter Schlienz/Tape Studies
モジュラー・シンセのやわらかで静謐な音色が癒しのドリップを誘う。古き良きニューエイジが夢見たコズミック・アンビエント。 基盤を模したアートワークはアナログ回帰への郷愁か。

◎Ocular Gymnastics/Vol. 1
トニー・コンラッドとZsによるアブストラクトなライヴ・セッションか。極楽鳥のようなラッパ、祭儀を飾る鐘、ドローンとミュージック・コンクレート、ニューエイジとトライバルの止揚……奇想に満ちた“音景”が立ち現われては消え、異様な聴後感を聴き手に残す。現時点で今年随一の奇盤、いや奇テープ。

◎Floating Gardens / Slag Heap/Split
シカゴのField Studiesから。 素性謎多きPopol Vuhの正嫡子とシカゴの鍵盤ドローン奏者によるスプリット。しかし……この界隈が採掘を続ける化石燃料の尽きることのなさといとたら!

◎Ralph White/Atavistic Pillow
正しくフリー・フォーキーな……といったら語弊があるか。テキサスで真夜中の星空の下、録音されたとかいう本作。カリンバやバンジョー、フィドルをポロポロと。砂漠のニック・カストロか。


◎Nite Lite/Marlene
Super Mineralsの片割れにしてMagic Lanternの一員であるPhil FrenchとMyste Frenchのプロジェクト。世界の片隅で採取蒐集したフィールド・レコーディングスをコラージュしたモダン・アニミズムのタペストリー。 リリースは2人が運営するStunned Recordsから。




◎Aphid Palisades/III
SundripsとBelariskの合体デュオ。シンセ・ドローンとノイズの濃霧の中、視界を探りながら当てどなく彷徨うような……景色は異なるがガス・ヴァン・サントの映画『ジュリー』を思わせるタクラマカン(=生きては戻れぬ……)的体験。Hooker Visionから。










2013年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)