まとめてリリースされた〈Sic Sic〉の中から一本。BRANNTEN SCHNÜREとAGNES BEILのふたりによって録音された、まるでヴェルナー・ヘルツォークの映画を思わせる厳粛なドローン・アンビエント。
◎Bass Clef/Acid Tracts E.P.
「ヘ音記号」を名のるUK(?)のビートメイカー。モジュラー・シンセを弄りアシッド・ハウスのモーフィングを重ねる。エスノな感覚も併せ持ち、LAのAhnnuっぽい展開もあったり、なかったり。
◎Gimu/Countryside Summer Nightmares
ブラジルのレイム。そう頭に浮かんだイメージがなかなか離れなかったが(サンクラに上げられててあ音源の方がそれっぽいが)、とにかく広がるのは漠とした漆黒のサウンドトラック。“田舎の夏の悪夢”ってタイトルもまさに。
◎Blue Christ Track/Traps
ジャケットに映るのは妹なのか姉なのか。米郊外のベッドルームで日夜誰かが掻き鳴らすローファイ・フォークの、その大勢の中の一風景。別のカヴァー作品で聴いたダニエル・ジョンストンのカヴァーも染みた。
◎Hobo Cubes/Mono Music Vol.
モントリオールに樹勢するホームグロウン(自家栽培)・ノイズ。底流するドローンやアンビエントの中にダンスへの欲動も滲ませた、アルバム一本を通して美しい起伏を感じさせる構成。多作ではあるがけっして衝動的ではない。曲のタイトルにもコンセプチュアルな姿勢が感じられる。
◎C L E A N E R S/REAL RAGA SHIT VOL.1
存在感を増す〈Bootleg Tapes〉から。リゾートか秘境か現地録音のフィールド・レコーディングスをゆるやかなアンビエントでくるんだような前半から、後半はクリスチャン・マクークレイも彷彿させるカットアップ&コラージュへと移行するスムースさ。ループと逆回転を執拗に繰り返すB面もかなり頭がおかしい。。
◎Bobb Trimble/The Flying Spiders in Brooklyn
近年の再評価も記憶に新しいアシッド・フォーク・シンガー。2009年に録音されたライヴ音源。サーストン・ムーアからアリエル・ピンクまで数多寄せられるリスペクトの声。去年フォーク・アルバムを出したタイ・セガールもきっと賛辞を惜しまないひとりのはず。
◎drainbow////
フェニックスの〈Tagobella〉から。13thフロア・エレヴェイターズやホークウィンド直系の、というほどヘヴィでもなく少々ライトなインストゥルメンタル・ストーナー・ガレージ・ロック。
◎BLACK KASPAR/SCHIZO-TECH
ルイヴィルの〈Seepage〉から。そういえばマジック・マーカーズも最初ルイヴィル出身という情報だったけど、第一印象はこんな感じだったような。ベースとドラムを中心としたインプロにサックスやテルミンやらが絡みつくジャンク・サウンド。ローファイ=90年代リヴァイヴァルの後にはジャンク=80年代末リヴァイヴァルが……来るわけない。けど、ポスト・インダストリアルっていってしまえば2000年代に流行ったあれとは形を変えた80年代リヴァイヴァルの一形態ですよね。
◎Angelo Harmsworth/Fluxus Rainbow
個人的には〈Bathetic〉からのリリースでお馴染みのアンビエント作家。夜明け直前の空を写したような美しいグラデーションのジャケット。おだやかに広がるアンビエントの情景と、タイトルに冠せられたフルクサスとの間に何か関係があるのだろうかそれは知らない。
◎Rug/All Neck / Get Plished
と、同じ〈Patient Sounds〉から。チョップド&スクリュード、ヴェイパーウェイヴ、カットアップ&コンクレートでスキゾでモンドに戯れるサウンドは〈Bootleg Tapes〉にこっそり紛れ込まれても違和感なさそう。
◎Téléphone Maison/Toujours Partout
モントリオールの〈Not Not Fun〉こと某レーベルを主宰するYlangYlangもシンセを弾いているヴォーカル入りのダブ・アンビエント。辺境ものも忍ばせた目配せは、ありそうでなかったギャング・ギャング・ダンスの浮女子ヴァージョン、といった場面も。
◎PHORK/American Tao
〈NNA Tapes〉や〈Opal Tapes〉からもリリースがあるLAのNeil Reinaldaによるプロジェクト。「slow-rave」を謳う(名義?)ミニマル・テクノは、数多のミックス・テープから受ける印象とは裏腹に抑制されていて、LAビート・シーンとシンセ・ウェイヴの邂逅を示すひとつのサンプルとして興味深い。サウンドを聴けばUSのアンダーグラウンドのみならずUKでも支持を広げている理由がわかる気も。しかしミックステープで見せる表情はまったく異なるのな。https://soundcloud.com/jux-ta-pose-org/juxtape-033-phork
◎Croatian Amor/Vagina Sword
最近した大きな後悔といえば、2月に来日していたウォー(Vår)とラスト・フォー・ユースのライヴを観逃したことで、というのも、個人的にいま最も気になる場所のひとつがデンマークのコペンハーゲンだから。近年におけるコペンハーゲンの新星といえばアイスエイジが筆頭に挙げられるが、正直サウンドに関してはあまり惹かれなかったのだけど、彼らがジンを作るなどした地元のDIYなユース・カルチャーの吹き溜まりから登場したという話を何かでチラ読みして以来、同地の音楽シーンのことが密かに気になっていたのだ。ちなみに、ウォーはアイスエイジのエリアス・ベンダー・ロネンフェルト(Vo)と、コペンハーゲンのアンダーグラウンド・シーンの旗艦レーベル〈Posh Isolation〉を主宰するローク・ラーベックがメンバーの4人組で、ラスト・フォー・ユースは新加入したロークが片割れのデュオ。そして、エリアスとロークによるプロジェクトが、このクロアチアン・アムールだ。耳障りなアンビエント、オブセッシヴな性愛のイメージ、モノローグ、こと切れたノイズ……まったくもってタイトルもタイトルだけど、彼らの作品の多くはインナースリーブに「Croatian Amor is 1989」と記されているといい、つまり、ユーゴスラビア統治下の社会主義共和国時代のクロアチアと絡めた何らかのメッセージがそこには仄めかされている、のかもしれない。「死の工場からの音楽」と謳われたのはスロッビング・グリッスルだったが、クロアチアン・アムールもまた、その音楽はどこか陰惨で退廃的な原風景を想起させるものだろう。
(※転載・一部改)
◎Circulation Realms/Mask
オースチンの〈Marmara〉から。平衡感覚を失わせるようなシンセ・アンビエントと甘いソウル・ポップが半ば確信犯的に交錯。サウンドはコンポーズの意識を感じさせ、不思議と間延びしたところはなく、かといって表現したいことがあるようにも思えないという、やはり匿名性の高い音楽なのだけど、凝ったアートワークからも窺えるように、プロダクトとしてのこだわりは強そうだ。
◎ARIZONA/NEW YORK
「お気に入り」に入れておいたBandcampを久しぶりに訪れると、思わぬ掘り出し物に巡り合うことがある。アメリカのカセット専門〈Magic Rub〉から今年初のリリース。もっと宅録系のイメージがあったが、〈100%Silk〉系のシンセ・ハウスとコールド・ファンクが相半ばした、とても今っぽい一本。
◎Taiga/The Coriolis Effect
ピッツバーグの〈VCO〉から。元アイシスのBryant Clifford Meyerによるドローン・アンビエント。轟音メタリックなイメージとは非なる、霊妙な気配が支配したシークエンス。奈落からの、穏やかなる浮上。
◎YlangYlang/Tender Freaky Sexy Moments
モントリオールのアマンダ・ブラウンによるカヴァーEP。ジャネット・ジャクソンやマライア・キャリーなどなど。この人、徹底して投げ銭の姿勢を貫き続けているけど、下手に音楽で生計を立てるという考えを持っていない人なのかも。スウィート・チルなシンセR&B。
◎Charles Barabé/Empreintes
モントリオールの〈Software〉…と呼びたいところだが、そこまでは。けれどここ、〈Jeunesse Cosmique〉が有能なシンセ・ウェイヴの原石を抱えていることは間違いなく、定点観測し続けたいレーベルのひとつであることは間違いなく。
◎CASK/CASK
ついに(?)アナログ・リリースされたImperial Topazの新作も素晴らしかった〈Tranquility Tapes〉から。Chris Gowers (Karina ESP), Alex Smalley (Pausal, Olan Mill), Simon Bainton (Pausal), and Katie English (Isnaj Dui)によるUKのドローン・ユニット。
◎New Balance/Formes De Viure
すっかりブランドを確立した感もある〈Exo Tapes〉。実際のところはクオリティにバラつきがある感も否めないような気もするが……今のところの最新作。曲タイトルの通りギター・ドローン~アンビエントで押し通すA面に対して、曲のタイトルの通りヴォイス・サンプリングらしきものをコラージュさせながらぶくぶく、ぐつぐつとした戯れを続けるB面。うーん、、、
◎Alcahest Libations/Luculent Scripture
ワルシャワの気鋭レーベルから。探せば、というか探さなくても異才鬼才の類いはネット空間にゴロゴロ存在している。インダストリアルと土俗とシンセ・ウェイヴの魔術的混淆。たとえるならシャクルトンとホーボー・キューブスが手を組み〈L.I.E.S.〉からリリースするような……。
◎Dura/Silver / Lawns
同じくワルシャワの〈Wounded Knife〉から。アメリカ合衆国中部大西洋岸の温暖な気候のイメージにインスピレーションを得た、らしいギター・アンビエント・デュオ。というかこのレーベル、アートワークが好み。
◎AyGeeTee/Eternity's Conceit
ささやかなマイブーム中の〈Reckno〉フロム・UK。開口一番、「Endless rolling modern dance music…」と銘打たれているが、肝要なのはやはりこの持続感なのだと、本作を聴きながら体感する。中空をゆっくりと旋回するようなドリーミーな音響の中、テック・ハウスとジャズのリズムとギター・ノイズがいつ果てることなく拍を刻み続ける。
(※2014年2月のカセット・レヴュー)
(※2014年1月のカセット・レヴュー)
(※2013年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
(※2012年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
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