ラプチャーのライヴを観た一週間後、恵比寿Guiltyでブラック・ダイスのライヴを観る機会に恵まれた。
ブラック・ダイスもまた、ラプチャーを始めヤー・ヤー・ヤーズやライアーズなどと同じく現在ニューヨークのブルックリンに活動拠点を置くバンドだ。しかし、そのサウンドは今名前を挙げたバンドとは明らかに一線を画するもので、ギターとドラム、エレクトロニック・パーカッションとエレクトロニクスによる超絶的なアンサンブルから放たれるのは、初期ボアダムスやミッシング・ファウンデーションにも通じるウルトラヴァイオレンスなノイズ・ジャンク・コア。15曲10分の猛スピードで駆け抜けるデビューEP『Black Dice』(2000年)、セカンドEP『Cold Hands』(2001年)をへて昨年リリースされたフル・アルバム『Beaches & Canyons』では、一転してサイケデリックで奥行きある音響世界を披露するが、ハイヴォルテージな演奏と緻密なサウンド構成は圧倒的で、ブルックリンにおいてのみならず異端中の異端といえる代物だろう。ちなみに『Beaches & Canyons』のアメリカでのリリース元はDFA(※UKではファット・キャット)となり、つまりラプチャーとはレーベル・メイトの関係にある(※最近DFAからリリースされた12インチにはボアダムスのEYEによるリミックスが収録)。さらにゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーからホット・ホット・ヒート、ヤー・ヤー・ヤーズといった最近のツアー共演バンドの顔ぶれもまた、彼らの音楽的背景の広さを物語るようで興味深い。
その日のライヴは、そもそも別件で来日が決定していた彼らにオファーして急遽スケジュールが組まれたエキストラなものだったらしく、そのせいか音響の面で会場との相性がいまいちよくなかった気もするが(もう少し音が大きければよかった……)、それでも十二分に彼らの類まれな音楽世界を堪能できる体験だった。昨年1月にクアトロでライトニング・ボルトと共演したときの狂乱ノイズ地獄とは打って変わり、『Beaches & Canyons』の流れを汲んだインプロヴィゼーション主体の張りつめたアヴァンギャルドなステージで、現在の彼らのモードが窺える内容。一音一音の打撃力で圧倒するのではなく、起伏のゆるやかなサウンドスケープを描きながら、構築と解体、静寂と喧騒を自在に操る展開は、いわゆるハードコア的なショックとは異なる瞑想的な全能感を誘うものだった(※演奏は基本的に40分切れ目なしの数珠繋ぎの構成)。それは、かつてであればフリー・ジャズやいわゆる「即興音楽」が有していた音楽表現における前衛性や実験精神みたいなものを、現在は彼らのようなバンドが受け継ぎ、代行さえしているのではないか――とあらためて実感させられたライヴだった。
唐突だが、そんなブラック・ダイスが来年5月に行われるスロッビング・グリッスルの再結成ライヴに出演するのだという。
TGは、言わずと知れたポスト・パンク/ニューウェーヴ期のイギリスを代表するグループだ。中心メンバーのジェネシス・P・オリッジ(※後にサイキックTVを結成)率いるパフォーマンス・アート集団「Coum Transmissions」が発展するかたちで1970年代中頃に誕生し、キャバレー・ヴォルテールやSPKなどと並んで実験的エレクトロニクス/インダストリアル・ミュージックの旗手として注目を集めた存在である。
彼らのレコーディング・スタジオから取られた“Music From The Death Factory(死の工場の音楽)”というスローガンそのままに、禍々しい電子音とテープ・コラージュ、チープなリズム・ボックスとマシーン・ノイズと気のふれたヴォイス・パフォーマンスが奏でるサウンドは、どこかバカバカしくも背筋が凍るような代物で、一般的に彼らの名盤とされる『20 Jazz Funk Greats』は、まさにその最たる例と言える異端極まりない前衛精神が炸裂した作品だ。最近リリースされたコンピ『In The Beginning There Was Rhythm』(※ポップ・グループ、ギャング・オブ・フォー、スリッツ、ディス・ヒートetc)にも収録された表題曲“20 Jazz Funk Greats”を筆頭に、屈折したエレ・ポップというか、まるで現代音楽の残骸のような楽曲が累々並ぶ……。バンドは1981年にサイキックTVとコイルの二つのグループに引き裂かれるかたちで解散を迎えてしまうが、しかし、彼らが作り出した「ポップ・ミュージックの終末」のごとき異形のマシーン・エイジ・ミュージックが、同時代や後世のアーティストにいかに支持され影響を与えたかは、ブラック・ダイス以外にも再結成ライヴに出演予定の顔ぶれ……アレック・エンパイア、ジム・オルーク、アンドリュー・ウェザオール、マトモス、パンソニック、メルツバウ、リディア・ランチ……からも窺えるだろう。
ブラック・ダイスとTGとの間に、これといった音楽上の共通点は見当たらないように思える。たしかに両者とも騒音嗜好な面があるが(それとシルヴァー・アップルズの影響を感じる)、その成り立ちは前者がパンク/ハードコア的なのに対して、後者はもっとアート主義的というか、コンセプチュアルな色合いが強い。さらにブラック・ダイスの、「音響」と「音像」で空間を構成していく『Beaches & Canyons』以降のサウンドにいたっては、もはやその目指すところはTGとはまったくの別物だといっていいだろう。
この一年近く、いわゆるポスト・パンク/ニューウェーヴ期のバンドを集中的に聴いてきた。そして、それと同じぐらいの量の“ポスト・パンク・リヴァイヴァル”と呼ばれるようなニューヨークのバンドを聴いてきて気付いたのは、たしかに後者の中には、前者に属するバンドを具体名まで連想させるほど共通点を多く感じさせるものも多いわけだが、実はそんな表面的なレベルの話は瑣末な問題でしかなく、もっと本質的な部分で両世代の間を通底する“気分”のようなものと、それを醸成する“状況”があるんじゃないか、ということだ。たとえば、かつての“ポスト”という言葉が象徴していたところのアティチュードと現在のそれは、どう違う/一致するのか。あるいは、そうしたアティチュードが共有される背景にはどんな要因が絡んでいるのか。つまり、どうして今ふたたび“ポスト・パンク”な音と精神が求められているのか。
だからブラック・ダイスとTGの場合も、逆に両者の音楽性がそれほど似ていないがゆえに、そのめぐり合わせの妙に胸騒ぎを覚えてしまった、というか(まあブラック・ダイスの場合はポスト・パンク/ニューウェイヴというよりノー・ウェイヴの方が近似性は妥当かもしれないが)。もちろん、今回の共演の決定をめぐって両者の間でどんなコミュニケーションがあったのか現時点で知る由もないが、個人的な推測を言わせてもらえば、おそらくTGの、あの時代も批評も意に介さぬような孤立した有りようにブラック・ダイスの面々の共鳴するところがあったのではないか。いわゆるジャンル名ではないポスト・パンクの基本態度とは、センスや直感を手がかりにあらゆる音楽表現の越境と横断、混交を試みるオープンマインドな思想性を指す(と理解する)が、それを実行するうえでもっとも大事であろう遊戯性、遊び心みたいなものを両者のサウンドには強烈に感じる。そのどこか非常なまでの痛快さは、まるでトビー・プーパーやサム・ライミのスプラッター・フィルムのように、勢い余って“笑い”さえ起こさせるものだ。
そんなブラック・ダイスに負けず闇雲で、底なしのパワーと潜在能力を感じさせるバンドがもう一組。それがミシガンのウルフ・アイズだ。彼らとブラック・ダイスの面々はしばしばライヴで共演する仲であり、また今月末にロンドンで行われるアヴァンギャルド・ミュージックの祭典「ノー・ミュージック・フェスティヴァル」にも揃って出演(※日本からは非常階段とインキャパシタンツ)と、個人的に今もっとも気になるバンドのひとつだ。
地元ミシガン州アナーバーで1990年代半ばから個別にバンド活動をしていた2人によって1998年に結成されたウルフ・アイズ(※その後トリオに)。メンバー全員がエレクトロニクスを操り、そこにギターやテープ・コラージュ、ハーシュ・ノイズや絶叫が即興的かつ勢い任せに重ねられる暴力音響は、TGはもちろん、さらにはスーサイドやシルヴァー・アップルズの域にまで突き抜けてしまったようなクレイジー極まりない代物だ。同時に、一発一発の音の破壊力を身上とするようなハードコア/ジャンク的なノリも旺盛で、そのあたりはホワイトハウスやスワンズなんかを連想させる場面も多い。2001年リリースの『Wolf Eyes』では、ほとんどの楽曲が3分前後でまとめられた“パンク”な特徴が目立つが、昨年リリースの『Dread』では10分を超える長尺のナンバーが占めるようになり、より実験的な性格を全面に押し出していくようになる。このあたりの流れはブラック・ダイスの近作を思わせるところもあるが、彼らの場合はあくまで“破壊”にこだわるのが主義、というか。徹底的にヴァイオレントで、引き攣り笑いを誘うように「実験」に興じるさまは、音楽というよりまるで黎明期のアンダーグラウンドなパフォーマンス・アートのようでさえある。彼らもまた、そんな“極限までクリエイティヴィティを暴走させる”ギリギリの遊戯性を持ち込むことで、音楽表現の強度を築き上げるようなバンドだろう。
彼ら以外にも、新作『Absolutes』をリリースしたニューヨークのサイティングスや、名前の通りピンクと茶色の全身タイツでギター&ドラムのノイズ漫談を繰り広げるピンク・アンド・ブラウン(※ともにライトニング・ボルトと同じLoad所属)など、何かを“反転”させる可能性を予感させるバンドは、まだたくさんいる。
(※極私的2000年代考(仮)……ポスト・ノー・ウェイヴはアンダーグラウンドを疾駆する)
(2003/8)
2012年1月27日金曜日
極私的2000年代考(仮)……ジョン・ケイル、語る。
ルー・リードの軌跡を追うことは、すなわちロックンロールの歴史を辿ることを意味する。同じようにイギー・ポップの軌跡を追うことはパンクの、デヴィッド・ボウイの軌跡を追うことはポップ・ミュージックの歴史を辿ることを意味する、と言えるかもしれない。だとした場合、ジョン・ケイルの軌跡を追うことははたしてどんな歴史を辿ることを意味するのだろう。
ロンドンの大学でクラシック音楽の修士号を取得し、ニューヨークに渡りトニー・コンラッドやラ・モンテ・ヤングと親交を深め現代音楽の世界に没頭した後、1960年代中頃にルー・リードらと共にヴェルヴェット・アンダーグラウンドを結成。脱退してソロとして活動を始めた彼は、ストゥージズやパティ・スミスのプロデュースを手がける一方、様々なレーベルを渡り歩きながら音楽表現のフォーマリズムに挑戦する野心的な作品を数多く発表してきた。そうした彼の創作活動の多くは得てして「実験的」と形容されるものだが、しかしその内実は、現代音楽からロックンロール、エレクトロニック・ミュージック、クラシック、オペラ/モダン・ダンスに至るまで、縦横無尽にジャンルの垣根を越え、アプローチも即興/インストゥルメンタルにヴォーカル・スタイルと多才を極める。その様子・道程は、まるで「音楽」と言うものが持つ可能性を探る旅のように思索に溢れて深遠なものだ。
ヴォーカル・アルバムとしては7年ぶりとなる新作『ホウボウサピエンス』は、そんな彼の「音楽の探求者」たる資質を存分に堪能できる作品である。共同プロデューサーにレモンジェリーのニック・フラングリンを迎え、これまでの彼の音楽体験を集大成したかのようなクラシカルでモダンな音楽世界が展開されている。彼の中にあるシンガー・ソングライターとしての正統的な魅力と、実験音楽家としての先鋭性がバランスよく、かつポップなかたちで音像化された作品と言えるだろう。近年は寡作の傾向にある彼だが、一昨年には同郷ウェールズのスーパー・ファーリー・アニマルズの『リングス・アラウンド~』に参加、さらには来日公演も果たし、また今年はグラストンベリー・フェスティヴァルのヘッドライナーを務めるなど精力的な活動を見せている。今もっとも“脂が乗っている”齢62歳の稀代の音楽家の動向に注目したい。
●ふだんもこんな早い時間(インタビュー時、NYは朝の6時)から起きていらっしゃるんですか?
「いや、いつも起きるのは大体6時半だから、30分は早いね」
●そうでしたか。わざわざ早く起きていただいて、恐縮です。
「いや、いいんだよ」
●さて、早速ですが新作の『ホウボウサピエンス』を聴かせていただきまして、まず感じたのは、サウンドやあなたの歌声にみなぎるアグレッシヴな躍動感です。
「なるほど」
●ご自身ではどう評価していますか?
「いい雰囲気の作品が作れたね。とても満足しているよ。今回は、最初はニューヨークで作業を始めて、それからロンドンへ持っていって完成させたんだ。レコーディングそのものはニューヨークで済ませていたのだけれど、その素材を持ってロンドンへ向かう時には、このアルバムが自分と切り離せないもののような気がしていた。どちらかというと、近づきすぎていたといったほうが正しいくらいでね。そこで、客観的にこのアルバムを見て、ミックスについてアイディアを出してくれる人が必要だと思うようになって、誰かやってくれる人がいないかと、探して回ったんだ。ミックスは、このアルバムにとってはとても大事な要素だった。なぜ大事だったかというと、レコーディングした素材を、もっとシンプルにしたかったからなんだ。レコーディングしたときの素材のままでは、いろいろな要素が詰め込まれすぎている気がしてね。それで、結局(※レモンジェリーの)ニック・フラングレンに頼むことに決めたんだ。僕は作業を早く進めるのが好きなのだけれど、ニックもとても仕事が早くてね。だから、彼の仕事ぶりにはとても満足しているし……元の素材から何を削って、何を残すかを、彼に決めてもらったところもある。ニックに手伝ってもらえて、とても助かったよ」
●今回はニック・フラングレンが共同プロデューサーとして名を連ねています。彼とはどうやって知り合って、こうして参加してもらうことになったんでしょうか?
「彼にはミックスを手伝ってもらったんだ。レコーディング自体は、ニューヨークで僕が1人で済ませてしまっていたからね。今回のアルバムは、僕が実際に演奏したものがほとんどなんだ。一部、ギターだけは例外的に他の人にやってもらった部分もあるけれど。それで、ニックに頼んだのは、レモンジェリーの曲を聴いてみて、どこかこう、曲の世界に引きずり込まれるような感じがするのが気に入ったからなんだ。それに、音楽に対するアプローチの仕方が、とてもイギリス的なのもいいと思った。ニューヨークでレモンジェリーを聴いているだけで、僕は紅茶をいれてクリケットの試合を見たい気分になってしまう(笑)。それで声をかけたんだ。実際に一緒に仕事をしてみて、彼に入ってもらったのは正解だったと思うよ。いい人選だったね」
●なるほど。それと、今作はヴォーカル・アルバムとしては96年の『ウォーキング・オン・ローカスツ』以来7年ぶりの作品になるわけですが、そのことに関して特別な思い入れのようなものはありますか?
「いや、思い入れというより、突然何かが起きたという感じなんだ。あれは確か1年半ほど前で……いったい何だったのかは、今でもはっきりしないけれどね。でもそれがきっかけで、僕のソングライティングに対する考え方がまったく変わってしまった。それどころか、自分の中にある創造性にどう接していくか、歌詞をどうやって書いていくか、そういうところさえすっかり変わったといってもいい。それから1年半の間にも変化があって、曲作りをしていくうちに勢いがついてきて、曲が次から次に湧いてくるようになっていった。そして、スタジオで作業をするのが自分でも楽しくなってきたんだ。こんなことは、ずいぶん長い間なかったんだけれどね」
●その、1年半前に曲作りを始めた時には、具体的なコンセプトというのはあったんでしょうか? 今作は、あなたの中にある、シンガー・ソングライターとしてのクラシックな部分と、実験音楽家/サウンド・クリエイターとしてのモダンな部分がバランスよく、かつポップなかたちであらわれた作品だと思ったんですが。
「できるだけ、さまざまなムードを表現してみようとは思っていたね。そもそもどうしてそういう気になったかと言えば、曲ごとに違ったグルーヴを出したかったからなんだ。そういったアイディアは、僕にはロンドンに住んでいて、DJをやっている友達がいて、彼からヒントを得た部分が大きいね。彼はディミトリ・ティコボイといって、DJのほかにトラッシュ・パレスというバンドもやっている。彼のレコードを聴いて気に入ったのが縁で、ときどき僕にグルーヴのアイディアを送ってきてくれている。でも、ディミトリはDJで、ミュージシャンではない。だから、彼のグルーヴはドラマーが創り出すものとはまったく趣が違うんだ。なんだか、とても奇妙なところがあってね。それで、僕も、どんなアイディアが送られてきても、なんとか工夫して使えないものかと試行錯誤するようになった。変だと思っても、これはだめだ、という決断をすぐには下さないようになったということだね。この不思議なグルーヴが、どんなふうに曲に生かせるか、じっくり取り組むようになったんだ。その甲斐はあったよ。おかげで、今までとは違う新たなものを作れるようになったわけだから」
●今作はあなたのヴォーカルを軸にさまざまなスタイルの音楽が展開された「ポップ・ミュージック」としての全体像を描きながら、その細部にはあなたの本領とも言うべきさまざまな「エクスペリメンタル・ミュージック」としての要素がフィードバックされていて、作品に奥深い世界観・スケールを与えている。そういう今作を聴きながら、どこか集大成的なものも感じたのですが、あなた自身はいかがでした?
「いや、君が感じた、僕の音楽の中にある実験的要素というのは、僕にとっては捨て去ろうとしてもできないものなんだよ。僕が興味を持って取り組んできたのは、即興演奏と音楽を使った実験だからね。今回のアルバムに入っている曲にしても、最初に手をつけた時には、どんな曲になるかなんて想像もつかなかったものばかりだよ。どの曲も1分1分、細部に至るまで、とてもゆっくりと時間をかけていいって、だんだんと曲のかたちが明らかになっていくという、そういう作り方をしたんだ。曲のパーツをたくさん書きためて、時間をかけてその中から選んでいって……そうしているうちに突然、ヴォーカルのアイディアや、詞が浮かんできた。だから、ギターを抱えて、一から作曲した曲はほとんどないよ。実は、今回のアルバムの中で、部屋で机の前に座って、『さあ、曲を作ろう』と思って一から書いたものなんて、1曲しかないんだ。その曲が“シングス”だけれど。他の曲はみんな、スタジオで即興をしているうちにできたものだよ。だから、曲が自然に発展していったし、すべてが有機的につながっている。メロディにしても、歌詞にしても、すべて曲を作っていく過程の中で、自然に生まれてきたものだからね」
●ところで、一昨年前ぐらいから昨年にかけて、あなたがトニー・コンラッドやラ・モンテ・ヤングらとやられていた60年代のドローン/ミニマル・ミュージックの音源がリリースされたこともあり、「実験音楽家」としてのジョン・ケイルを再確認する機会が多かったのですが……。
「なるほど」
●あなたの創作活動の中で、そうした前衛的な音楽アプローチと、今作のようなヴォーカル・スタイルの音楽は、どのような関係性にあるのでしょうか?
「まあ、僕の場合、そもそもこの世界に入ったきっかけが実験的な音楽だったわけだからね。最初にニューヨークへ来た時には、そういう音楽をやっていたわけで。だから、実験的な部分は、すでに僕という人間の一部になってしまっていて、僕の作る音楽からそういう要素がなくなることは、これからもまずないだろうね。それに、バンドを組んで、ツアーに出るような時はいつも、メンバー全員、即興演奏ができるような形式にしておくというのが、僕にとってはとても大事なことなんだ。というのも、ツアー中、ミュージシャンに機嫌よく演奏してもらいたかったら、毎晩同じことをやらせないのが一番だからね(笑)。そんなことが続いたら、そのうち気が狂ってしまう」
●ただ、あなたの場合、そうした前衛的な音楽に関するバックグラウンドがある一方で、今回のアルバムのようにヴォーカル・スタイルの音楽をリリースしたりもしているわけですよね。この2つというのは、まったく別種の音楽として住み分けがされているのか、それとも共通の音楽的な関心の延長線上にある、同列のものとしてあるのか、どちらなんでしょうか?
「うーん、そうだな……ライヴの時には、その両方がでているんじゃないかと思う。ライヴ・パフォーマンスをやっている時は、長い間やってきた曲をまた再現するわけだけど、そのままやるわけではなくて、どこかアレンジし直して演奏しているからね。で、アレンジし直す、一番いいやり方は、即興を生かすことなんだ。でもそれには、一緒にやっている人たち、バンドとの信頼関係がないと成り立たないわけだけどね」
●ところで、ヴォーカル・アルバムを作ることは、あなたにとってどんな得難い魅力がありますか?
「それは、やっぱり自分の思いを投影できるということかな。インストゥルメンタルの場合は、やはり歌が入ってるアルバムのように、パーソナルな感じには成り得ないところがあるからね。歌があれば、人の声や歌っている内容に、聴いている側も共感できるわけだし」
●あなたにとってインストゥルメンタル・アルバムとヴォーカル・アルバムというのはまったく別物なんでしょうか?
「だと思う。インストゥルメンタル・アルバムでは、ヴォーカル・アルバムと比べて多少抽象性が高くなるんだ。歌が入ると、内容がどんなものであれ、歌っている人の声というものが確実に聞こえるわけなんだよ。でも当然、インストゥルメンタルだと人の声は入らない。人は誰かと会うと、ごく自然にその相手に話しかけてしまうものだけれど、インストゥルメンタルにはそういう要素はない。だから、曲を聴くということを人との出会いに例えるなら、人の声で話しかけてもらったほうが、楽器の音で語りかけられるよりも、人間らしい感じがするということだよ。ただ、さっき話が出た、トニー・コンラッドやラ・モンテ・ヤングと組んでいたころのアルバムは、とても昔の作品だからね。僕がニューヨークにやってきて、最初に手がけた、実験音楽の作品だから。だから、60年代という時代そのものが如実に反映されている。とにかく即興ばかりで構成されているという点でね」
●では、今のあなたはインストゥルメンタル・アルバムとヴォーカル・アルバム、どちらを作りたい気分ですか?
「作るならヴォーカル・アルバムがいいね。今は、言葉というものを使っていろいろやってみるのが楽しいから」
●なるほど。ところで、今ご自身からもお話があったように、あなたがこの世界に入ったきっかけは、アヴァンギャルド・ミュージックやフリー・ジャズとの出会いがあるわけですよね。
「そうだね」
●では逆に、あなたがヴォーカリストとして、あなたの原点と言える作品やアーティストを挙げるとするなら、誰、あるいは何になるでしょう?
「ヴォーカリストとして? だとすると、ボブ・ディランはやっぱりすべての原点にあるね。誰でも曲を書くようになった、その口火を切ったのが彼だったわけだから。そして、ずっと精力的に活動を続けてきたわけだし」
●他には?
「まあ、やっぱりボブ・ディランがあまりにも大きいのだけれど……もちろん、ジョン・レノンもとても影響力があったね。それから、最近だとベックにも影響を受けたし、あとは……レディオヘッド」
●レディオヘッドなんて聴かれるんですか?
「そう、レディオヘッドとベータ・バンドは気に入っている。曲の書き方が他のアーティストとまったく違っていて、そこが好きなんだ。曲の構成が独特で、興味をそそられるね」
●他に興味を持たれている、比較的若手のアーティストはいますか?
「そうだね、エルボーとか……ベータ・バンドに……それから、デイヴ・マシューズ・バンドは昔からずっと好きだね。いい曲を書くと思う。今度出るソロ・アルバムはまだ聴いていないんだけど、楽しみにしているよ。それから、ベックはどのアルバムもいいね」
●そうですか。ところで、これまであなたは共演者やプロデューサーとしてさまざまなヴォーカリストと接してこられたわけですが、自分で「ヴォーカリスト:ジョン・ケイル」をどう評価しますか?
「自分のやっていることを客観的に評価するのは、とても難しいことなんだ。自分の人格と切り離せなくなっているものを見なくてはいけないわけだからね。ただ、今度のアルバム用に曲を書いていた時にめざしていたことの1つに、楽器やバッキング・トラックによってムードを創り出して、僕が歌詞で訴えたいと思っていることをさらに強めるということがあったんだ。時には、歌詞で直接的に言っていないことでも、バックに鳴っている楽器のサウンドで伝えられることもあるからね。でもやはり、自分のヴォーカルについて客観的に話をするのはすごく難しいな……曲ごとに、ムードを創り出そうとしたとだけは言えるけれど。それぞれに、違った雰囲気が出るようにしたんだ」
●その、違ったムードを出すという点にこだわったのはなぜなんでしょうか?
「いや、僕はとにかくすぐに飽きてしまうたちなんだよ。同じことをやっているとすぐに我慢できなくなってしまうというか……僕はそういう人間なんだ。何か1つ音を創り出しても、すぐにまた別のサウンドを見つけてしまう。で、そのサウンドがかたちになると、また別のサウンドが浮かんでいって、気がつくと、いつも今までとはまったく別の地点に到達してしまっている」
●なるほど。では最後に、あなたの音楽にとっての最終的なゴールとは何か、聞かせてください。
「うん、まあそれは、今回のようなアルバムをこれからも作り続けていくということだね。今回は、作っていてとても楽しかったんだ。僕のこれからは、ツアーをして、レコーディングをして、またツアーに出て、レコーディングをして、という、この繰り返しが基本になっていくと思うよ。で、それがちっとも苦痛じゃなくて、むしろ楽しいんだ。僕は仕事を早く仕上げるのが好きで、スタジオでも作業は早い。スタジオにこもりきりになるのはあまり好きじゃないんだ。このアルバムを作った時も、1日3時間以上スタジオにいたことはなかったよ」
●そうだったんですか。
「まあ、敢えてそうするように、自分に課したところもある。一度、とても限られた時間しかないのだけれど、映画のサウンドトラック用に曲を書いてくれないかと頼まれたことがあってね。それで僕は、これをどれだけ短期間で曲を作れるか、試す機会にしようと決めたんだ。曲と言っても、映画用のスコアだから、それなりに作業はたくさんあった。でも結局、スタジオを使った期間はたった3日だけでその曲は完成したんだ。1日目は基本的な構成を練って、2日目に楽器やバッキング・ヴォーカルの音入れをして、3日目に最終的な仕上げをして、できあがりだよ。こんなふうに、できるだけポイントを押さえたやり方をしていきたいんだ。僕はどちらかというと、外の空気を吸うのが好きな方だから、長い間スタジオに閉じこめられているのには耐えられないね」
●それともうひとつ最後に。これはファンを代表して伺いたいのですが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの再々結成は、将来あり得ると思いますか?
「それは……君ももちろん知っているはずだけど、メンバーの1人が亡くなっているんだ。だからもう絶対無理だよ」
●そうですね、失礼しました。
「じゃあ、これで失礼するよ」
(2003/08)
ロンドンの大学でクラシック音楽の修士号を取得し、ニューヨークに渡りトニー・コンラッドやラ・モンテ・ヤングと親交を深め現代音楽の世界に没頭した後、1960年代中頃にルー・リードらと共にヴェルヴェット・アンダーグラウンドを結成。脱退してソロとして活動を始めた彼は、ストゥージズやパティ・スミスのプロデュースを手がける一方、様々なレーベルを渡り歩きながら音楽表現のフォーマリズムに挑戦する野心的な作品を数多く発表してきた。そうした彼の創作活動の多くは得てして「実験的」と形容されるものだが、しかしその内実は、現代音楽からロックンロール、エレクトロニック・ミュージック、クラシック、オペラ/モダン・ダンスに至るまで、縦横無尽にジャンルの垣根を越え、アプローチも即興/インストゥルメンタルにヴォーカル・スタイルと多才を極める。その様子・道程は、まるで「音楽」と言うものが持つ可能性を探る旅のように思索に溢れて深遠なものだ。
ヴォーカル・アルバムとしては7年ぶりとなる新作『ホウボウサピエンス』は、そんな彼の「音楽の探求者」たる資質を存分に堪能できる作品である。共同プロデューサーにレモンジェリーのニック・フラングリンを迎え、これまでの彼の音楽体験を集大成したかのようなクラシカルでモダンな音楽世界が展開されている。彼の中にあるシンガー・ソングライターとしての正統的な魅力と、実験音楽家としての先鋭性がバランスよく、かつポップなかたちで音像化された作品と言えるだろう。近年は寡作の傾向にある彼だが、一昨年には同郷ウェールズのスーパー・ファーリー・アニマルズの『リングス・アラウンド~』に参加、さらには来日公演も果たし、また今年はグラストンベリー・フェスティヴァルのヘッドライナーを務めるなど精力的な活動を見せている。今もっとも“脂が乗っている”齢62歳の稀代の音楽家の動向に注目したい。
●ふだんもこんな早い時間(インタビュー時、NYは朝の6時)から起きていらっしゃるんですか?
「いや、いつも起きるのは大体6時半だから、30分は早いね」
●そうでしたか。わざわざ早く起きていただいて、恐縮です。
「いや、いいんだよ」
●さて、早速ですが新作の『ホウボウサピエンス』を聴かせていただきまして、まず感じたのは、サウンドやあなたの歌声にみなぎるアグレッシヴな躍動感です。
「なるほど」
●ご自身ではどう評価していますか?
「いい雰囲気の作品が作れたね。とても満足しているよ。今回は、最初はニューヨークで作業を始めて、それからロンドンへ持っていって完成させたんだ。レコーディングそのものはニューヨークで済ませていたのだけれど、その素材を持ってロンドンへ向かう時には、このアルバムが自分と切り離せないもののような気がしていた。どちらかというと、近づきすぎていたといったほうが正しいくらいでね。そこで、客観的にこのアルバムを見て、ミックスについてアイディアを出してくれる人が必要だと思うようになって、誰かやってくれる人がいないかと、探して回ったんだ。ミックスは、このアルバムにとってはとても大事な要素だった。なぜ大事だったかというと、レコーディングした素材を、もっとシンプルにしたかったからなんだ。レコーディングしたときの素材のままでは、いろいろな要素が詰め込まれすぎている気がしてね。それで、結局(※レモンジェリーの)ニック・フラングレンに頼むことに決めたんだ。僕は作業を早く進めるのが好きなのだけれど、ニックもとても仕事が早くてね。だから、彼の仕事ぶりにはとても満足しているし……元の素材から何を削って、何を残すかを、彼に決めてもらったところもある。ニックに手伝ってもらえて、とても助かったよ」
●今回はニック・フラングレンが共同プロデューサーとして名を連ねています。彼とはどうやって知り合って、こうして参加してもらうことになったんでしょうか?
「彼にはミックスを手伝ってもらったんだ。レコーディング自体は、ニューヨークで僕が1人で済ませてしまっていたからね。今回のアルバムは、僕が実際に演奏したものがほとんどなんだ。一部、ギターだけは例外的に他の人にやってもらった部分もあるけれど。それで、ニックに頼んだのは、レモンジェリーの曲を聴いてみて、どこかこう、曲の世界に引きずり込まれるような感じがするのが気に入ったからなんだ。それに、音楽に対するアプローチの仕方が、とてもイギリス的なのもいいと思った。ニューヨークでレモンジェリーを聴いているだけで、僕は紅茶をいれてクリケットの試合を見たい気分になってしまう(笑)。それで声をかけたんだ。実際に一緒に仕事をしてみて、彼に入ってもらったのは正解だったと思うよ。いい人選だったね」
●なるほど。それと、今作はヴォーカル・アルバムとしては96年の『ウォーキング・オン・ローカスツ』以来7年ぶりの作品になるわけですが、そのことに関して特別な思い入れのようなものはありますか?
「いや、思い入れというより、突然何かが起きたという感じなんだ。あれは確か1年半ほど前で……いったい何だったのかは、今でもはっきりしないけれどね。でもそれがきっかけで、僕のソングライティングに対する考え方がまったく変わってしまった。それどころか、自分の中にある創造性にどう接していくか、歌詞をどうやって書いていくか、そういうところさえすっかり変わったといってもいい。それから1年半の間にも変化があって、曲作りをしていくうちに勢いがついてきて、曲が次から次に湧いてくるようになっていった。そして、スタジオで作業をするのが自分でも楽しくなってきたんだ。こんなことは、ずいぶん長い間なかったんだけれどね」
●その、1年半前に曲作りを始めた時には、具体的なコンセプトというのはあったんでしょうか? 今作は、あなたの中にある、シンガー・ソングライターとしてのクラシックな部分と、実験音楽家/サウンド・クリエイターとしてのモダンな部分がバランスよく、かつポップなかたちであらわれた作品だと思ったんですが。
「できるだけ、さまざまなムードを表現してみようとは思っていたね。そもそもどうしてそういう気になったかと言えば、曲ごとに違ったグルーヴを出したかったからなんだ。そういったアイディアは、僕にはロンドンに住んでいて、DJをやっている友達がいて、彼からヒントを得た部分が大きいね。彼はディミトリ・ティコボイといって、DJのほかにトラッシュ・パレスというバンドもやっている。彼のレコードを聴いて気に入ったのが縁で、ときどき僕にグルーヴのアイディアを送ってきてくれている。でも、ディミトリはDJで、ミュージシャンではない。だから、彼のグルーヴはドラマーが創り出すものとはまったく趣が違うんだ。なんだか、とても奇妙なところがあってね。それで、僕も、どんなアイディアが送られてきても、なんとか工夫して使えないものかと試行錯誤するようになった。変だと思っても、これはだめだ、という決断をすぐには下さないようになったということだね。この不思議なグルーヴが、どんなふうに曲に生かせるか、じっくり取り組むようになったんだ。その甲斐はあったよ。おかげで、今までとは違う新たなものを作れるようになったわけだから」
●今作はあなたのヴォーカルを軸にさまざまなスタイルの音楽が展開された「ポップ・ミュージック」としての全体像を描きながら、その細部にはあなたの本領とも言うべきさまざまな「エクスペリメンタル・ミュージック」としての要素がフィードバックされていて、作品に奥深い世界観・スケールを与えている。そういう今作を聴きながら、どこか集大成的なものも感じたのですが、あなた自身はいかがでした?
「いや、君が感じた、僕の音楽の中にある実験的要素というのは、僕にとっては捨て去ろうとしてもできないものなんだよ。僕が興味を持って取り組んできたのは、即興演奏と音楽を使った実験だからね。今回のアルバムに入っている曲にしても、最初に手をつけた時には、どんな曲になるかなんて想像もつかなかったものばかりだよ。どの曲も1分1分、細部に至るまで、とてもゆっくりと時間をかけていいって、だんだんと曲のかたちが明らかになっていくという、そういう作り方をしたんだ。曲のパーツをたくさん書きためて、時間をかけてその中から選んでいって……そうしているうちに突然、ヴォーカルのアイディアや、詞が浮かんできた。だから、ギターを抱えて、一から作曲した曲はほとんどないよ。実は、今回のアルバムの中で、部屋で机の前に座って、『さあ、曲を作ろう』と思って一から書いたものなんて、1曲しかないんだ。その曲が“シングス”だけれど。他の曲はみんな、スタジオで即興をしているうちにできたものだよ。だから、曲が自然に発展していったし、すべてが有機的につながっている。メロディにしても、歌詞にしても、すべて曲を作っていく過程の中で、自然に生まれてきたものだからね」
●ところで、一昨年前ぐらいから昨年にかけて、あなたがトニー・コンラッドやラ・モンテ・ヤングらとやられていた60年代のドローン/ミニマル・ミュージックの音源がリリースされたこともあり、「実験音楽家」としてのジョン・ケイルを再確認する機会が多かったのですが……。
「なるほど」
●あなたの創作活動の中で、そうした前衛的な音楽アプローチと、今作のようなヴォーカル・スタイルの音楽は、どのような関係性にあるのでしょうか?
「まあ、僕の場合、そもそもこの世界に入ったきっかけが実験的な音楽だったわけだからね。最初にニューヨークへ来た時には、そういう音楽をやっていたわけで。だから、実験的な部分は、すでに僕という人間の一部になってしまっていて、僕の作る音楽からそういう要素がなくなることは、これからもまずないだろうね。それに、バンドを組んで、ツアーに出るような時はいつも、メンバー全員、即興演奏ができるような形式にしておくというのが、僕にとってはとても大事なことなんだ。というのも、ツアー中、ミュージシャンに機嫌よく演奏してもらいたかったら、毎晩同じことをやらせないのが一番だからね(笑)。そんなことが続いたら、そのうち気が狂ってしまう」
●ただ、あなたの場合、そうした前衛的な音楽に関するバックグラウンドがある一方で、今回のアルバムのようにヴォーカル・スタイルの音楽をリリースしたりもしているわけですよね。この2つというのは、まったく別種の音楽として住み分けがされているのか、それとも共通の音楽的な関心の延長線上にある、同列のものとしてあるのか、どちらなんでしょうか?
「うーん、そうだな……ライヴの時には、その両方がでているんじゃないかと思う。ライヴ・パフォーマンスをやっている時は、長い間やってきた曲をまた再現するわけだけど、そのままやるわけではなくて、どこかアレンジし直して演奏しているからね。で、アレンジし直す、一番いいやり方は、即興を生かすことなんだ。でもそれには、一緒にやっている人たち、バンドとの信頼関係がないと成り立たないわけだけどね」
●ところで、ヴォーカル・アルバムを作ることは、あなたにとってどんな得難い魅力がありますか?
「それは、やっぱり自分の思いを投影できるということかな。インストゥルメンタルの場合は、やはり歌が入ってるアルバムのように、パーソナルな感じには成り得ないところがあるからね。歌があれば、人の声や歌っている内容に、聴いている側も共感できるわけだし」
●あなたにとってインストゥルメンタル・アルバムとヴォーカル・アルバムというのはまったく別物なんでしょうか?
「だと思う。インストゥルメンタル・アルバムでは、ヴォーカル・アルバムと比べて多少抽象性が高くなるんだ。歌が入ると、内容がどんなものであれ、歌っている人の声というものが確実に聞こえるわけなんだよ。でも当然、インストゥルメンタルだと人の声は入らない。人は誰かと会うと、ごく自然にその相手に話しかけてしまうものだけれど、インストゥルメンタルにはそういう要素はない。だから、曲を聴くということを人との出会いに例えるなら、人の声で話しかけてもらったほうが、楽器の音で語りかけられるよりも、人間らしい感じがするということだよ。ただ、さっき話が出た、トニー・コンラッドやラ・モンテ・ヤングと組んでいたころのアルバムは、とても昔の作品だからね。僕がニューヨークにやってきて、最初に手がけた、実験音楽の作品だから。だから、60年代という時代そのものが如実に反映されている。とにかく即興ばかりで構成されているという点でね」
●では、今のあなたはインストゥルメンタル・アルバムとヴォーカル・アルバム、どちらを作りたい気分ですか?
「作るならヴォーカル・アルバムがいいね。今は、言葉というものを使っていろいろやってみるのが楽しいから」
●なるほど。ところで、今ご自身からもお話があったように、あなたがこの世界に入ったきっかけは、アヴァンギャルド・ミュージックやフリー・ジャズとの出会いがあるわけですよね。
「そうだね」
●では逆に、あなたがヴォーカリストとして、あなたの原点と言える作品やアーティストを挙げるとするなら、誰、あるいは何になるでしょう?
「ヴォーカリストとして? だとすると、ボブ・ディランはやっぱりすべての原点にあるね。誰でも曲を書くようになった、その口火を切ったのが彼だったわけだから。そして、ずっと精力的に活動を続けてきたわけだし」
●他には?
「まあ、やっぱりボブ・ディランがあまりにも大きいのだけれど……もちろん、ジョン・レノンもとても影響力があったね。それから、最近だとベックにも影響を受けたし、あとは……レディオヘッド」
●レディオヘッドなんて聴かれるんですか?
「そう、レディオヘッドとベータ・バンドは気に入っている。曲の書き方が他のアーティストとまったく違っていて、そこが好きなんだ。曲の構成が独特で、興味をそそられるね」
●他に興味を持たれている、比較的若手のアーティストはいますか?
「そうだね、エルボーとか……ベータ・バンドに……それから、デイヴ・マシューズ・バンドは昔からずっと好きだね。いい曲を書くと思う。今度出るソロ・アルバムはまだ聴いていないんだけど、楽しみにしているよ。それから、ベックはどのアルバムもいいね」
●そうですか。ところで、これまであなたは共演者やプロデューサーとしてさまざまなヴォーカリストと接してこられたわけですが、自分で「ヴォーカリスト:ジョン・ケイル」をどう評価しますか?
「自分のやっていることを客観的に評価するのは、とても難しいことなんだ。自分の人格と切り離せなくなっているものを見なくてはいけないわけだからね。ただ、今度のアルバム用に曲を書いていた時にめざしていたことの1つに、楽器やバッキング・トラックによってムードを創り出して、僕が歌詞で訴えたいと思っていることをさらに強めるということがあったんだ。時には、歌詞で直接的に言っていないことでも、バックに鳴っている楽器のサウンドで伝えられることもあるからね。でもやはり、自分のヴォーカルについて客観的に話をするのはすごく難しいな……曲ごとに、ムードを創り出そうとしたとだけは言えるけれど。それぞれに、違った雰囲気が出るようにしたんだ」
●その、違ったムードを出すという点にこだわったのはなぜなんでしょうか?
「いや、僕はとにかくすぐに飽きてしまうたちなんだよ。同じことをやっているとすぐに我慢できなくなってしまうというか……僕はそういう人間なんだ。何か1つ音を創り出しても、すぐにまた別のサウンドを見つけてしまう。で、そのサウンドがかたちになると、また別のサウンドが浮かんでいって、気がつくと、いつも今までとはまったく別の地点に到達してしまっている」
●なるほど。では最後に、あなたの音楽にとっての最終的なゴールとは何か、聞かせてください。
「うん、まあそれは、今回のようなアルバムをこれからも作り続けていくということだね。今回は、作っていてとても楽しかったんだ。僕のこれからは、ツアーをして、レコーディングをして、またツアーに出て、レコーディングをして、という、この繰り返しが基本になっていくと思うよ。で、それがちっとも苦痛じゃなくて、むしろ楽しいんだ。僕は仕事を早く仕上げるのが好きで、スタジオでも作業は早い。スタジオにこもりきりになるのはあまり好きじゃないんだ。このアルバムを作った時も、1日3時間以上スタジオにいたことはなかったよ」
●そうだったんですか。
「まあ、敢えてそうするように、自分に課したところもある。一度、とても限られた時間しかないのだけれど、映画のサウンドトラック用に曲を書いてくれないかと頼まれたことがあってね。それで僕は、これをどれだけ短期間で曲を作れるか、試す機会にしようと決めたんだ。曲と言っても、映画用のスコアだから、それなりに作業はたくさんあった。でも結局、スタジオを使った期間はたった3日だけでその曲は完成したんだ。1日目は基本的な構成を練って、2日目に楽器やバッキング・ヴォーカルの音入れをして、3日目に最終的な仕上げをして、できあがりだよ。こんなふうに、できるだけポイントを押さえたやり方をしていきたいんだ。僕はどちらかというと、外の空気を吸うのが好きな方だから、長い間スタジオに閉じこめられているのには耐えられないね」
●それともうひとつ最後に。これはファンを代表して伺いたいのですが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの再々結成は、将来あり得ると思いますか?
「それは……君ももちろん知っているはずだけど、メンバーの1人が亡くなっているんだ。だからもう絶対無理だよ」
●そうですね、失礼しました。
「じゃあ、これで失礼するよ」
(2003/08)
2012年1月24日火曜日
2012年の熟聴盤①
・ Daniel Rossen/Silent Hour/Golden Mile
・ Cloud Nothings/Attack On Memory
・ Laura Gibson/Le Grande
・ The Caretaker/An Empty Bliss Beyond This World
・ Ela Orleans/Mars Is Heaven
・ mmm/ほーひ
・ Sharon Van Etten/Tramp
・ My bubba & Mi/How It's Done In Italy
・ 昆虫キッズ/ASTRA/クレイマー、クレイマー
・ Perfume Genius/It's called Put Your Back N 2 It
・ 惑星のかぞえかた/EP
・ わすれろ草/みみくりげ
・ Lindstrom/Six Cups of Rebel
・ Charles Hayward/One big atom
・ 福原希己江/おいしいうた
・ Ensemble Economique/Crossing The Pass, By Torchlight
・ Lee Noble/Horrorism
・ Elite Gymnastics/RUIN
・ Dolores/To Die No More
・ Cloud Nothings/Attack On Memory
・ Laura Gibson/Le Grande
・ The Caretaker/An Empty Bliss Beyond This World
・ Ela Orleans/Mars Is Heaven
・ mmm/ほーひ
・ Sharon Van Etten/Tramp
・ My bubba & Mi/How It's Done In Italy
・ 昆虫キッズ/ASTRA/クレイマー、クレイマー
・ Perfume Genius/It's called Put Your Back N 2 It
・ 惑星のかぞえかた/EP
・ わすれろ草/みみくりげ
・ Lindstrom/Six Cups of Rebel
・ Charles Hayward/One big atom
・ 福原希己江/おいしいうた
・ Ensemble Economique/Crossing The Pass, By Torchlight
・ Lee Noble/Horrorism
・ Elite Gymnastics/RUIN
・ Dolores/To Die No More
・ Peaking Lights/936 Remixes
・ Karen Dalton/1966
・ Xinlisupreme/Murder License
・ Deee-Lite/Sampladelic Relics & Dancefloor Oddities
・ Bill Wells/Lemondale
・ Jah Wobble & Julie Campell/Psychic Life
・ James Ferraro/Far Side Virtual
・ Nate Young/Stay Asleep (Regression Vol. 2)
・ Karen Dalton/1966
・ Xinlisupreme/Murder License
・ Deee-Lite/Sampladelic Relics & Dancefloor Oddities
・ Bill Wells/Lemondale
・ Jah Wobble & Julie Campell/Psychic Life
・ James Ferraro/Far Side Virtual
・ Nate Young/Stay Asleep (Regression Vol. 2)
2012年1月16日月曜日
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定)
個人的にはUSインディー~アンダーグラウンドの潮目の変化を感じた作品。前年(2009年)リリースの、ネオ・フォークならぬ“ネオ・アメリカーナ”とでも呼びたい2000年代USインディーによるアメリカン・ルーツ~伝承音楽のレトロスペクティヴ『Dark Was The Night』とは内容もタイトルもメンツも対照的で、Sleep ∞ OverやoOoOOによるエレクトロニックなダーク・ヒプナゴジアは2010年代の行方を暗示していた……とも。
◎Robedoor/Rock Bottom(2011)
妻のアマンダ・ブラウンは相変わらずLA Vampire名義でディスコ~エセハウス路線に夢中だが、夫ブリットの方は安心のNot Not Funクオリティーというか(リリースはNight Peopleだが)、ドロドロのトリッピー。まあ、アマンダもアレで確信犯的に90年代の(アンチ・グランジ/オルタナティブロック、としての)マテリアリスティックなクラブミュージックを擬態してみせているというのだから、このダンナの方にも何かしらの象徴性があるのかも……ともあれ、この辺りはもう一度フリーフォーク以降の流れからの再考が必要かと。アマンダにはそろそろPocahauntedに代わる強烈なヤツ始めてほしいところだが。
ダーティー・ビーチズとのスプリットで知った女性ソロ・アーティスト。お国はヨーロッパの方とか。グラスゴーでバンドをやってる、とも。後付けに聞こえるかもですが、女性版ダーティー・ビーチズな色気があります。ロカビリーもあるし、男前。
◎Tom Carter/All Ahead Now(2011)
◎Diva/The Glitter End(2011)
元ボカハウンテッドと知って驚き。そして膝を打つ。アマンダのソロとは異なり後期ポカのトリッピー&トライバルなヴァイヴを継いだというか。彼女は、ボカを抜けベスト・コーストを始めたベサニーの後釜として加入したはずだから、ということは元?ブラック・ブラックのあの娘か。まあ、ブラックブラックはもう少し登場が遅ければローファイ~ゴスポップの流行りに乗れて人気者になれたのにな。
◎Monkey King/La lune se cache derriere la montagne(2009)
自分がカセット集めるきっかけになった中の一本。ダーティー・プロジェクターズの元?一員のウィル・グラスが関わるデュオ。曰く「アシュ・ラ・テンペルが動物の狐憑きの式典でアタリ2600を弾く……」とか。ちなみに片割れはGOAというユニットでトライバルな感じの音楽を。
ご存知Motion Sickness Of Time Travelとして人気爆発のレイチェル・エヴァンスによる別名義ユニット。MSOTTと比べるとエレクトロニカ~エレポップ的なフックが親しみやすい。……と思ったらそうでもなかったり。
◎Thoughts on Air/Vent(2011)
ノースカロライナのBatheticから。古風なアシッド・フォークとも言えるが、闇を引き摺りながらも可憐な輝きを見せる様子は、ジョニ・ミッチェルやフランソワーズ・アルディに喩えられるのも頷ける。
◎Stitched Vision/Fold(2011)
オーストラリアから。ブリブリ&ドローニッシュなシンセ無限地獄。ややニューエイジ寄り。
◎Indian Weapons/Labyrinth(2011)
夫妻+1人のトリオ。ブリーピーでコラージュめいたシンセ&ノイズ。コズミックなウルフ・アイズという印象も。奔放なオシレーター使いはシルヴァー・アップルズ直系か。
エクスポ70やコフ・クールら擁するSweet Lodge Guruからリリースする、西海岸のアンビエント・ドローン・マスター。寄せては返すテラー・ポップはエレアコな妙味も。Horsehair Everywhereといバンドの一員。
◎Hot & Cold/Conclusion Introduction(2011)
サイモン&ヨシュア・フランクという兄弟デュオ。早い話がローファイ?ローテク?なスーサイドというか、乾いたベースとドラムマシーンによるファジー・ポップ。
◎Geoffrey Sexton/Suburban Sun Births
実験的な映像作家でもあるらしい。ひたすらダークでゴーストリーな、ミニマル・アンビエント&ドローン。無音部分のヒスノイズさえも何かを物語るよう。
◎Octo Octa/Rough, Rugged, And Raw
LA吸血鬼のアマンダ・ブラウン率いるNot Not Fun傘下のディスコ・レーベル100%silkから。なるほどレイヴィーなテック・ハウス。いかがわしくて、確信犯的な安っぽさ。カセットリリースというのが意外だが、改めて主宰者アマンダのクオリティーコントロールは徹底している。
◎Sore Eros/Sickies Volume One
ローファイなヨンシー?アンドロジニアスなアリエル・ピンク? コネチカットの、元々はソロ・プロジェクトだったロバート・ロビンソンによるバンド作。パンダ・ベアとも交流あり。
◎Ralph White/The Hanged Man
テキサスのサイケ・カンリー。バンジョーやフィドル、アコーディオンや手製のマンドリンを、1人かバンドを従えて朴訥と奏でる。マット・ヴァレンタインほど中毒性はないが、ヘンリー・フリントのアーカイブスに所蔵されてても違和感ない。
◎Trailblazer/Successor
信頼のNight Peopleから。レキシントンのColeman Guyonによるソロ。スペクトラム~ソニック・ブームとジャーマン・エレクトロニクスの催眠的混交。惚けた歌声が、また……
◎1958-2009/1958-2009
その名やアートワーク(black&white!)が物語る、謎のMJドリビュート・デュオ。しかし中身は、シンセとギターが満ち引きを繰り返す、ただただ茫洋として美しいアンビエント・ドローン。もしかしてよくよく聴くとカバーなのかもしれないが……
◎Righteous Acid/Mellow Doses
Sun Arawことキャメロン・スタローンズ主宰のSun Arkから。The Invisible Astro Healing Rhythm Quartetで叩く西海岸のソロ・プロジェクト。Sublime Frequenciesを聴き狂ったダックテイルズというか、文化的坩堝の軒先で流れる大衆ラジオのよう。
◎Golden Retriever/Emergent Layer
スリル・ジョッキーがディストリビュートするポートランドのデュオ。モジュラーシンセとベースクラリネットが奏でるディープ・メディテーション。NNA Tapesから。
◎Heat Wave /Empty Head
何者でしょうか。テープもまた匿名性の高いメディアかもしれません。「サランラップで巻かれたような」終始モコモコと淀んだ音像。幾重もの層から継ぎ接ぎされた記憶が染み出してくる……。
◎M. Geddes Gengras/the Kiss of Life
ロスのGed Gengrasによるプロジェクト。USアンダーグラウンドのシンセ・ミュージック=「sci-fi」シーンで近年メキメキ頭角を。ロマンチックなタイトルとは裏腹にアナログ・シンセが暴れ回る。多作です。
◎Dirty Beaches/Night City
こ存じ“汚れた砂浜”。全編インストで、後発のアルバムと比べるとデモ音源集的な趣きも。近年のUSアンダーグラウンドの活況とカセット・リリースの密接な関わりについては、あらためて押さえるべきポイントだろう。
◎Hering und seine sieben Sachen/Magnetismustourismus
Autistic Argonauts名義でもリリースする、レーベル主宰者のドイツ人Daniel Voigt。アートワークとも相まってドリーミーなシンセ・ドローン。日本の吟醸派にも言えるけど、カセット作品/「sci-fi」にローカリズムはないなー。
◎JEFFRY ASTIN/GRASSES ONLY GREEN
話題のNite Liteを始め多数のプロジェクトや作品に関わるテープ・ノイジシャン/サウンド・コラージュニスト。例えば日本のVIDEOTAPEMUSICを連想させる。
◎Napolian / Computer Dreams/split
好相性のスプリット。シンセ・ポップとサンプリングのファンキー・フュージョン。“歌もの”チルウェイヴをメタorベタに茶化したような。この界隈はbandcampとも連動しながら無数の関連tagを伴い増殖&細分化が進行中。
◎Pendulums/Circular Energies
吟醸派から、米デラウェアのSacred Phrasesを主宰するデュオ。同レーベルの太陽塔やぶちかましとも相通じるニューエイジなシンセ・ドローン 。
◎Laser Disc/Visions New Dreams LTD
ビデオデッキやラジカセに死蔵されたTVCMやアナウンス、AORやらフュージョンやらファンク、具体音とか効果音とかガラクタのような音源をマッシュアップした、レトロフューチャーなネオ・トーキョーのサウンドトラック。アートワークが言わずもがな……。
奇才M. Geddes GengrasとJeremy Kellyによるユニット。「リドリー・スコットのSF映画のサントラのよう…」とも評されるが、個人的にはタルコフスキーのプラズマの海を想起。裏面はフィリップ・グラスも彷彿させるたおやかなアンビエンス。
◎EMA/Little Sketches On Tape
去年ブレイクしたエリカ様。ピアノやテープ・コラージュも交えたドローニッシュなノイズ・フォークはなるほどex Gowns。企画で披露したニルヴァーナ“Endless, Nameless”のカヴァーも最高にカッコよかった。
ナッシュヴィルのカセット専門No Kings RecordsからMike Haleyのソロ。ブーン、ブーン、ジジジ、ジジジ……と続くA面の曇天漆黒のシンセ・ドローンはSunn O)))のオマージュのようにも聴こえたり、聴こえなかったり……。一転、B面は雨上がりにかかる虹のようにキラキラ。
◎Cough Cool/Clausen
ニュージャージーの宅録ソロ。シンセやギターやドラムマシーンをあまく重ね、ひたすらディレイとループでシークエンスを演出する脳内麻薬のようなフローティング・ポップ。初期セバドーからスロウダイヴまで引き合いだされてローファイ~シューゲの文脈で語られるが、実態はかなりゆるい……。
◎Mind Over Mirrors/High & Upon
DigitalisからもリリースするJaime Fennellyのユニット名義。ラ・モンテ・ヤングのパイプ・オルガンも連想させるシンセ・ドローンには教会音楽からの影響も。反復、反響、ミニマリズム……。
◎Nite Lite/Marlene
ポートランドのStunned Recordsから、レーベル主宰者によるデュオ。まるで文明と野生の衝突/混交を記録したかのようなフィールド・レコーディングス。メタルノイズと鳥の声。コンガと阿鼻叫喚。片割れはスーパー・ミネラルズやマジック・ランタンとしても活動。
Grouperとコラボのテープ作品もある Jefre Cantu-Ledesmaによるデュオ。ハーモニウムとギターが描くウォーミーなドローン。60年代のジョン・ケイルの作品のような趣きも。Moholy-Nagy やIsidore Ducasseといったユニットでも活動。
◎Gypsy Treasures/Buried Goods
Sublime FrequenciesへのUSアンダーグラウンドからの返答? NNFがリリースする、RailcarsことAria Jalaliのプロジェクト。リヴァーブとエレクトロニクスで禍々しく飾られた宅録ラーガ。ちなみにbandcampで無料購入も可。
◎Angel Eyes/Dire Dish
オーストラリアはメルボルンから。ギターやキーボードが奏でるたおやかな瞑想サイケ。
◎Dustin Wong/Let It Go
近作と比べるとレイヤー度は控え目だが、まがうかたなきダスティン節。タップ&ループのひとりギター・オーケストラ。リズミックなミニマル・ギター・アンビエンス。エリック・サティ“Gymnopedie”の妖艶?なカバーも。
トロントのデュオ。シンセループ&ベース&ドラムマシーン+ゴーストリーな女性vo。USアングラ経由のジュリアンナ・バーウィックというか。100%silkからリリースも。
◎Teeth Mountain/Teeth Mountain
ボルチモアが誇る最強のコレクティブ。例えるならジャッキーOマザーファッカーにアモン・デュールⅠ&Ⅱをぶち込んだような。あるいはEPI時代のヴェルヴェット・アンダーグラウンド。ライブ・カセット『Live On』も強烈だが、まずはライブ動画を御覧あれ。
◎Bear Bones, Lay Low/Smoked The Whole Thing
◎Blank Realm/Dirty Ark
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
切り絵風のアートワークに惹かれて。アーネスト・ゴンザレスなる氏のソロ、という以外は……と調べたら、Sylvester Anfang IIの一員として重厚なストーナー・サウンドを。こちらはウネウネのシンセ・ラーガ。なるほど、煙たい、です。
◎The New Honey Shade/Ozark Dream
注目のThe Caretakerとも並び評されるMark Kuykendallのプロジェクト。フィールド・レコーディングやモノローグを織り交ぜた、映像喚起性の高いアンビエンス。Scisscor Tailから。
◎Cankun/Jaguar Dance
NNFが送るVincent Cayletのソロ=フランスからの刺客。シンセとギター・ループが奏でるモコモコのヒプナゴジアはサン・アロウや、同じくフランスのハイ・ウルフとも比較される代物。遠くでヴォーカルも聴こえる…
◎Gnod/Science & Industry
ポカハウンテッドやサン・アロウとの共演が縁でNNFと契りを交わした、マンチェスターの暗黒宇宙。スラッジとラーガを橋渡す、リチュアルでヘヴィ・ジャミーなウォール・オブ・サウンド。“Deadbeat Disco In Paper Error Shocker!”って曲名もヤバい。
◎Dylan Ettinger/New Age Outlaws
ブルーミントンの奇想音楽家。ムーグ・シンセがピーヒャラ~ピーヒャラと誘うドローン・ダブ。「ニューエイジ」はキーワードだが、その未来図はダリの画のようにひしゃげ、とろけかかっている…。彼の前ではジョン・マウスも眩しい。
◎Rangers/low cut fades
昨年のアルバムも好評だった、ポスト・アリエル・ピンクの異名もとるサンフランシスコの奇才。一向に覚める気配のない、浅い眠りを繰り返すような甘くも倦怠的なベッドルーム・ファンタジー。サン・アロウ然りだが、この手に宿る澱んだファンキー感は、ほんとケッタイな。
豪メルボルンでAlbert's Basementを運営するMichael Zulickiのプロジェクト。ジャンデックも思わすウィアードなアヴァン・フォーク。幽霊的。
◎Malibu Wands/C H D W
Mr. William Cody Watsonによる20分×4セットのドローン・エクササイズ。ウルフ・アイズがエメラルズに感化されてドローンを始めたら……と妄想も。タイトルは「Cult, Hive, Drug, Worship」の意。
◎Blank Realm/Dirty Ark
豪ブリスベンの4人組。4-trackとProToolsを駆使し録音されたインプロヴィゼーショナル・アヴァン・ロック。個人的には(活動の不定期な)マジック・マーカーズの後釜を担う逸材と期待です。
◎Blues Control/Riverboat Styx
来日を見逃したことを今も悔やむ……。スラッジーなギターとドラムマシーン、ハーモニカetcがメロと拍子をとるドローン音頭。ノー・ネック・ブルース・バンドとエクセプターを結ぶ中間点。
◎Deep Magic/Solar Meditations
Dreamcolourのドラマーでもあるアレックス・グレイのソロ。キーボードやギター、フィールドレコーディングやムーリッツピアノを交えつつ。太陽というより月面をまったり眺めるようなアンビエンス。
◎Lucky Dragons/Shape Tape
LAのアート・デュオ。時に観客まで巻き込み、様々な仕掛けを配しハプニング的なサウンド・エクスペリメンタルを創造する。……と期待するとやや肩透かし感も。どっぷり頭まで浸かったメディテーション。
◎Maria Minerva - Tallin at Dawn
NNF/100%silkが誇るシンセ・ポップ~ディスコ・クィーン。LA Vampireことアマンダとは良き姉妹的関係。エストニア生まれのエキゾチカ。
◎ Peaking Lights/Imaginary Falcons
Night PeopleとNNFからリリースというのがまた。それと片割れがexナンバーズというのも個人的にはツボ。サン・アロウやハイ・ウルフのラインだが、アニコレ辺りのサイケ・ポップとも接続可能な聴きやすさが魅力か。ちなみに去年出たアルバムのリミックスに100%silkのItalからエイドリアン・シャーウッドまで参加してるのも面白い。DOMINO経由でアンダーグラウンドから一抜け感も。
Night PeopleとNNFからリリースというのがまた。それと片割れがexナンバーズというのも個人的にはツボ。サン・アロウやハイ・ウルフのラインだが、アニコレ辺りのサイケ・ポップとも接続可能な聴きやすさが魅力か。ちなみに去年出たアルバムのリミックスに100%silkのItalからエイドリアン・シャーウッドまで参加してるのも面白い。DOMINO経由でアンダーグラウンドから一抜け感も。
◎Topping Bottoms/Towers Of Spines
一昨年にハイ・ウルフと来日公演も。というか日本人をメンバーに含むので……活動拠点はどこなんだろう? 編成は流動的だが、同じNNFで言えばエターナル・タペストリーやマジック・ランタン(~ジャッキー・O・マザーファッカー)にも近いサイケデリックなジャム・スタイル。PSF直系の和製アングラ・サイケ~ノイズの影響も言われるが、その辺りは指摘も野暮なくらい境界は曖昧というか。
(※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
(※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))