2015年10月1日木曜日

極私的2010年代考(仮)……現代米国音楽を代表するグリズリー・ベアとは?


グリズリー・ベアは、2000年代の初頭に、そもそもはエド・ドロステのソロ・プロジェクトとして始まった。2004年のファースト・アルバム『Horn of Plenty』は、後にドラマーを務めるクリストファー・ベアをサポートに迎えて制作されたが、実質的にはエドのソロ・アルバムに等しく、弾き語りをベースとした多重録音のスタイルはシド・バレットとも比せられてカルト的な評価を得た。それは当時台頭し始めたネオ・フォーク/フリー(ク)・フォークとの共振も見せたが、かたや翌年リリースされた同作品のリミックス・アルバム(※アリエル・ピンク、オーウェン・パレット、元ブラック・ダイスのヒシャム・バルーチャ、ディンテルetcが参加)は、プライヴェートでローファイな作風とは裏腹にその幅広い音楽的背景と人脈を示す証左となった。



そして、グリズリー・ベアは、クリス・テイラーを加えたトリオでライヴを経験後、ダニエル・ロッセンの加入をへて現在の4人体制に。「バンド」としての最初の成果となったのが、2006年のセカンド・アルバム『Yellow House』だった。メンバー全員が作曲からプロダクションまで関わり、多彩な楽器が織りなすインストゥルメンテーションと、彼らの代名詞となる華麗なヴォーカル・ハーモニーを披露。フォーク・ロックの現代的展開という評価を越えて、主にクリスやダニエルに負うジャズや現代音楽の素養を散見できる奥深いサウンドは、〈WARP〉との契約がその先鋭性を証明するところだろう。高まる注目のなか行われたポール・サイモンやロサンゼルス交響楽団との共演は評判を呼び、また、2008年には熱烈なラヴコールを受けてレディオヘッドの全米ツアーのオープニング・アクトも務めた。



続くサード・アルバム『Veckatimest』は、名実ともに彼らの評価を決定づけた作品といえる。ニューヨーク北部の人里離れた山小屋や、『Yellow House』も制作されたエドの母方の生家、そして地元の教会とレコーディング場所を移動するなかで培われたアイディアやイマジネーションと、間にツアーやライヴを挟み練り上げられたバンド・アンサンブルとが融合。ニコ・マーリーがオーケストラ・アレンジを手がけ、ビーチ・ハウスのヴィクトリア・ルグランや少年合唱団をバック・ヴォーカルに迎えるなど装飾が施された一方、トライバルなフィーリングも含んだ音色やリズムは楽園的な響きを増し、その音楽世界をさらに押し広げてみせた。従来のスタイルを発展させるかたちで、室内楽やポスト・クラシカルの流れも汲む巧みな器楽構成や緻密なレイヤー・サウンド、あるいは、文化横断的なアプローチなど様々な意匠が落とし込まれた『Veckatimest』は、細分化を極め爛熟が進むアメリカのインディ・シーンの現在を縮図的に伝えた作品ともいえるだろう。また、同作品は、同じく2009年に発表されたアニマル・コレクティヴ『Merriweather Post Pavilion』やダーティー・プロジェクターズ『Bitte Orca』と並んで、2000年代を通じたアメリカのインディ・シーンの活況と躍進を締め括る大団円の一枚として称えられた。



そうしたグリズリー・ベアの創造性豊かなサウンドを支える要因としては、メンバー各自のプロジェクトやサイド・ワークが果たす部分も大きい。ダニエルはグリズリー・ベアに加入する以前からデパートメント・オブ・イーグルスとして活動し、Anticon周辺にも支持を得た初期のエレクトロ・ヒップホップをへて、近作『In Ear Park』では流麗なアシッド・フォーク的サウンドを展開。今年の春にはソングオリエンテッドな魅力溢れるソロEPを発表した。そして、以前にクリストファーとファースト・フォーティーエイトというダンス・パンク・バンドを結成していたクリスは、昨年のキャント名義のアルバム『Dreams Come True』でチルウェイヴ以降とも呼応したエレクトロニック・ポップを披露。近年はツイン・シャドウやモーニング・ベンダーズ(※現ポップ・エトセトラ)のアルバム制作に関わるなどプロデュース業にも意欲的な動きを見せる。また、ダニエルとともにヴァン・ダイク・パークスとの交流も伝えられるエドは、昨年フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドのフリーEPに参加して話題を集めた。




それらの活動がグリズリー・ベア本体の活動とフィードバックし合う関係にあることはいうまでもない。加えて、その幅広く多彩な創作を可能とする背景には、メンバー全員が複数の楽器を操るマルチ・インストゥルメンタル奏者であるというのも大きいのだろう。グリズリー・ベアのディスコグラフィとその足跡からは、この10年のアメリカのインディ・シーンが辿った軌跡と変遷が見えるようだ。

(2012/08)

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