◎Twin Peaks/Sunken
最近CDでリイシューされたシカゴの19歳ズ。ストレンジ・ボーイズとかタイタス・アンドロニカスやスミス・ウェスタンズが登場した2009年とか2010年とか、あのほんの束の間を過ぎたピークの記憶を思い起こさせる。フレッシュで向う見ずなリヴァーブ・ガレージ・ポップ。
◎Filthy Huns/S/T
Not Not Funのお家芸、と言っていいだろうダスティーなダブ・サイケ。サウス・ダコタのNick Koenigsによるソロ・プロジェクトで、歌心と抜き差しに、音や遠雷のサンプリングも交える情感あふれた演出に心憎さを。その深い音像からはロキー・エリクソンやレッド・クレイオラの木霊も聴こえてきそうだ。
◎Jan Matthé/Musik Für Gotteskinder 1
ラス・メイヤー風のジャケが目を引くベルギー産のカルト。シンセ、サイケ、ニューエイジ、ピアノ……bandcampのダグを集めても参考にならず、聴き終えた第一印象は「ファンタスティック・プラネットなエル・トポのサウンドトラック」、、。
◎ANGEL EYES/Dire Dish
今春〈Bedroom Suck〉からアルバムをリリースしたAndrew Cowieのソロ。あれとこのNNFからリリースされたカセットが最初うまく結びつかなかったのだが、当時はなんとも形容しがたかったサウンドに「Vapawave」という言葉を与えられて以降、その手の音楽に対して思考も聴覚も能動的なリアクションを止めてしまったようなところが自分にはあり、うーん、、と思うことが最近多々。ノスタルジアとオプティミズムをこじらせてしまったような音楽…余談だが「Vaparwave」と「Sea Punk」についてはエリック・セラの音楽(※90年代のリュック・ベンソンの映画)を聴けばある程度のイメージを掴めるんじゃないかと思っている。『フィフス・エレメント』のヒロインなんてウルトラデーモンみたいなファッションだし。
◎Devonwho/Perfect Strangers
フェネスの『エンドレス・サマー』もWunderも今年の夏は効き目がなかった。暑過ぎたのか、それとも彼らの音楽への関心が薄れたのか。代わりに聴いていたのは、Airheadのアルバムと、モントリオールは〈Arbutus〉の漬物石TONSTARTSSBANDHTの片割れEolaの白目を剥いたゴスペル、そしてこのポートランドのトラックメイカー。フィーチャリングされているzeroh、SWARVYとのトライアングルも今後が楽しみ。
◎p. grimes*/Untitled
一部で話題のデュオ。Von Himmelの片割れということから成り行きで手にした一本。Von Himmelのクラウト・ロックにも振れたコスミッシェなジャム・サウンドと比べると、まあノーマルな部類と言っていいだろうミニマル・ドローンを展開。可もなく不可もなく、というわけではないけども。。
◎Gnomeadze/Gnomeadze
〈Bathetic〉のMerrylことWill Isenogleと、EneaのDavid Grubbaによるユニット。前者はゴッドスピード的な黙示録的響きもたたえたドローンをやっていたことを考えると、もしかした後者に近いテイストなのかもしれないが、あいにくEnea自体を聴いたことがなく、、ノンビートのまま無重力の空間を回遊するようなシンセのピュア・ドローンは、恰好の安眠効果でもってアンビエントの淵へと手ぐすね手ぐすね。
◎Tereshkova/Intergalactic Letdown
シカゴのベッドルーム・アンビエント。たとえばカーラ・ボズリッヒがグルーパーやジュリアナ・バーウィックのやり方を真似ているような、抗いがたく魅惑的なドローンとはやや異質なハスキー・ヴォイスのレイヤーが独特。ギター・ソロのアメリカン・オルタナティヴ感。しかしこれは素晴らしい。。
◎Strange Mountain/Slow Midnight
インドネシアはジャカルタのMarcel Theeによる、数あるプロジェクトの中のひとつ。テープ・マニュピレイターを操り、丹精込めて重ねられたシンセ・スケープ。聳え立つスディルマン山脈から吹き降ろされるまばゆい音の風紋。。
◎Josh Mason/Timecode Beach
好調〈Digitalis〉から。Celer(彼らも相変わらず多作だ…)をローファイなビットで再生したような、粒子が粗くもみずみずしい余韻を引くギター・アンビエント。どこかの南国だろうか、静寂をたたえたような砂浜の写真を天地逆にレイアウトしたアートワークが美しく、なんだかとても象徴的。
◎Mind Over Mirrors/The Voice Rolling
またも〈Digitalis〉リリース作品。Peeesseyeを始めとする数々のプロジェクトや、Acid Birds等での制作で知られるJaime Fennellyのソロ・プロジェクト。Barn Owlからエスニック~中近東趣味を灰汁抜きしてインダストリアルをまぶしたような、脈打つビートやドローンのうねりが伝える金属的な触感。マスタリングがサン・シティ・ガールズ周辺~アニマル・コレクティヴの初期作品も手がけたスコット・コルバーンというのもミソ。
◎Brandon Hurtado/Hotel
風景写真が飾られたアートワークを眺めながら、かつてグローイングやHoodだったり、〈Kranky〉や〈Constellation〉の一時期の作品に同じく風景写真が飾られたアートワークが多く目についたことを思い出す。Hoodはタイプが異なるが、その対象はやはりドローンやアンビエント系のサウンドが多かったような気がするが、それらはそれを環境音楽として聴くことを明示しているというか、そういえばブライアン・イーノの作品にはあからさまに風景写真が飾られれた作品はあまりなかったのでは……という気がするのだが実際はどうなんだろう。調べればすぐわかることだけど、まあ、どうでもいっか。
◎Paco Sala/Ro-me-ro
シンセ・ポップやイタロの影響も窺えるエレクトロニックは、最近の〈Digitalis〉のリリースの中では色気があるというか、ポップへの目配せもそこはかとなくチラホラ。ダウン・テンポの美しさにトリップホップ・リヴァイヴァルの反響を聴くことができるが、聴こえるか聴こえないかといった感じになかなか顔を見せない、女性ヴォーカルの艶めかしさに強く焦らされる。ゾラ・ジーザスもナイト・ジュエルもジュリア・ホルターも、最近はみんな過剰に(※あくまでキャリア比だが)ポップに走る傾向にあるが、個人的にはやはりこれくらいの温度感が好み。この按配がじつに難しいし、際どい。
◎Magnétophonique/Lush Islands - Illusion of Paradise
オリエンタルな音色を奏でるシンセのアルペジオ。鳥なのかイルカなのか動物の鳴き声、雨音のようなミュージック・コンクレートがサンプリングされている。トイトロニカというか、ゆりかごの中で聴くガラガラ、吊るされたメリーモービルを眺めるような感覚。退行を誘うチル、ねんねんころりやおころりやのヒプナゴジア。。
◎Raju Arara/004
ベルギーはアントワープの女性エレクトロ奏者。モジュラー・シンセによる点描とうねり。その端整な反復。アントワープといえば若手デザイナーへの政府からの積極的な助成で知られているが、それは音楽も含めたアート全般に対して手厚い制度なのだろうか。たとえばカナダもそうだけど、公金が将来有望な若手アーティストをサポートしている、という仕組みについてはいろいろな意見があるだろうけど実際にモントリオールのアンダーグラウンド・シーンの活況なんか見ると、それがどの程度助成の影響があるものなのか知らないけど、悪くはない話なのかなとも思う。
◎Discoverer/Mind Deco
ピッツバーグ在住(ではないか?)のBrandon Knockeによるシンセ・ウェイヴ。隙間を多く含んだレイヤーはDolphins Into The Futureほどのフローティング感とまではいかないものの、よりアンビエントに拠った/寄った/酔ったシンセの繊細なタッチにうっとり。しかし思うのだけど、こういう音楽というのは、本来はカセットのようなローファイなメディアよりも高品質な記録媒体の方が作品としてリリースされる場合は作り手として好まれるものなのではないだろうか、という疑問が常々。まあ、だからこそデジタルでも同時配信するのだろうけど、80年代のノイズやハードコア、90年代のギター・ロックならいざ知らず。。
◎Paul Lawler/ Opus
タンジェリン・ドリームのZlatko Pericaが数曲でギターを演奏。バレアリックとドローンとインダストリアル、そしてジョルジオ・モロダーを繋ぐような、旬といえば旬の音のような気も。“Post Apocalyptic”なんていうハッタリ感満載なナンバーも。しかし、この界隈の音楽で、マニュエル・ゲッチング的なギター・ミニマルとは異なるハードロック的なギター・ソロが堂々と挿入されるというのも、なんともシュールで面白いといえば面白い。ピッツバーグの〈VCO〉から。
◎Beynon Archival/Works From The Beynon School Of Audio Architecture
「The sounds of ghosts.」とある。役所広司が音効技師を演じた黒沢清の『降霊』を思い出した。写ってはいけない姿、録れてはいけない音。その禍々しい気配を漂わせたドローンとアンビエント、ミュージック・コンクレートのドキュメント。
◎Silver Antlers/Turquoise Dream
ユタのアンビエント/ドローン・ポップ。トライバルなビート/パーカッション、川のせせらぎや鳥の鳴き声といった具体音を織り交ぜつつ、中編的な佳作が3曲。寒い冬の季節の中、夏を待ち焦がれながら作られた音源だとか。
◎Not Waving/Redacted
"波打たない"、とでも訳されるのだろうか。いやいや。初期のOPNにも例えられるシンセ・ウェイヴは、むしろ強かに波打ち、UKの〈Tesla Tapes〉のリリースや〈Tri Angle〉のハクサン・クロークの隣に並べたいポスト・インダストリアル/ミニマルな余韻は抗いがたく魅惑的。BPMは全体的に早めで、不意に差し込まれるピアノのメロディーが美しい。
◎Lace Bows/Bows of Summer
活動拠点(?)はポルトガルのリスボン。リスボンといえばパンダ・ベアの移住先としても思い出される。フィールド・レコーディングも編み込んだモコモコとしたエレクトロニクスのレイヤーは、現実逃避のど真ん中、強烈なヒプナゴジアだ。そこにビートルズの“ロング・アンド・ワインディング・ロード”やオールドポップがスクリュー気味に巻き付けられたりする。浅い眠りに深酔いしそう。。〈Exo Tapes〉から。
◎Angel 1/Liberal
以前にも取り上げた〈Constellation Tatsu〉からの作品に続き、新たなリリースは最近じわじわと注目を集める〈Exo Tapes〉から……なのにCDRという。たとえばアリエル・ピンクがUSインディーに持ち込んだAORの再評価(というか新解釈)からヴェイパーウェイヴへ、という間に地続きとされる文脈らしきものがあるとして、その流れの上澄みを上手く掬い取った――悪い意味ではなく、いい意味で――ような“軽さ”。それこそネット空間で有象無象に量産・複製される、露悪的な手合いとは異なる整理された音の抜き差しが、この聴き心地の良さのゆえんなのだと思う。〈Constellation Tatsu〉からの作品ではA/B面という収録だったが、本作では曲ごとに頭出しがされており、その構成もリスニングの上で吉と出たようにも。
◎Bataille Solaire/Documentaires
"境界線の溶解"というコンセプトらしい。精神と物質、動物と植物、自然とデジタル、宗教、教養……などなど、あらゆる領域に引かれる境界線の溶解。まあそれはさておき、サンプリングのカットや配置/ペースト、幾何学的なリズムの構成と企みに満ちたレイヤーの耳愉しさは、第一印象でコーネリアスの『Sensuous』、もう少し砕けたユーモラスと匿名性を感じさせるが――最近だとワンオートリックス・ポイント・ネヴァーなんかも連想させる。絶好調の〈Constellation Tatsu〉からだが、いわゆるヴェイパーウェイヴ的なもののアイロニカルな戯れとは距離を取り、何かしらのリニアな文脈/歴史性にみずからを位置付けようとするような前向き(?)な意思が、音からは感じられる。
◎Grapefruit/Stolen Highway
上のBataille Solaireとともに、〈Constellation Tatsu〉がリリースする今夏の3本の内の一本。モジュラー・シンセのうねりにリズミックなベース音、ビート・プログラミングが適度に添えられ、スピリチュアル~ニューエイジ一辺倒というわけではなく程よい持続感・疾走感を得られる曲もいくつか。しかし、エレクトロニック・ミュージックにおける「高速道路(Highway)」というモチーフ/イメージは、今も健在なのだろうか。
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※2013年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2013年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
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※2012年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+α))
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※2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))
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※極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
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※極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)