2012年9月28日金曜日

2012年の熟聴盤⑨

SEEKERSINTERNATIONAL/The Call From Below
トクマルシューゴ/In Focus?
Maria Minerva/Will Happiness Find Me?
Panabrite/The Baroque Atrium
Egyptian Hip Hop/Good Don't Sleep
How To Dress Well/Love Remains
Benjamin Gibbard/Former Lives
Ultraísta/Ultraísta
Astral Social Club/Magic Smile
Holy Balm/It's You
Corin Tucker Band/Kill My Blues
Mirror to Mirror/Body Moving Slowly
SUN ARAW BAND V/FORMATTING FORMANTS: ADELAIDE 2012
DEEP MAGIC/CLOSED EYES
Jessie Ware/Devotion
Samara Lubelski/Wavelengths
Dan Deacon/America
P!nk/The Truth About Love
The Killers/Battle Born
Paul Banks/Banks
tofubeats/summer dreams
OGRE YOU ASSHOLE/100年後
John Frusciante/PBX Funicular Intaglio Zone
Gofish/とてもいいこと
cero/My Lost City
XINLISUPREME/4 Bombs
Angel Olsen/Strange Cacti
The Gaslamp Killer/Breakthrough
Stars/The North
Nguzunguzu/Mirage EP
Chromatics/Kill for Love
Beat Connection/The Palace Garden
METZ/METZ




(2012年の熟聴盤⑧)

(2012年の熟聴盤⑦)
(2012年の熟聴盤⑥)
(2012年の熟聴盤⑤)
(2012年の熟聴盤④)
(2012年の熟聴盤③)
(2012年の熟聴盤②)
(2012年の熟聴盤①)



2012年9月25日火曜日

極私的2000年代考(仮)……トレイル・オブ・デッド、虚実入り交るバイオグラフィー


●今回のニュー・アルバム『ソース・タグス&コーズ』は、“初のメジャー・アルバム”というのとはまったく別の意味で、バンドにとって新たな歴史を切り開く重要な作品になったと思います。
「そうだなあ……ある程度の達成感はあるけど、でもこれが僕達からの最終声明ってわけでも何でもないし、より凄まじい作品はまだこれから作る予定だからね。つまり、今作は布石のようなもので、さらなる実験とさらなる暴走、つまり究極に向かうためのものなんだよ。前作から発展した結果としてこの作品を捉えるとするなら非常に満足してるんだけどね。うん……だから自分達はまだまだ成長段階にあると思ってるんだ。僕達は他の誰かの栄光にあやかって音楽を作ってるんじゃなくて、あくまで自分達なりの業績を残したいんだよ。ナポレオンとかアレキサンダー大王みたいなさ。大志を抱くのなら、そのくらいのことは考えなきゃいけないと思うんだ。『真の偉大な革新者は誰なのか』っていうことをね」

●あらためて今作で実現したかったテーマとは何だったのでしょう?
「このアルバムだけのために、っていうのはなかったな。究極に目指すところとしては、過去最高のバンドになるって目標があるんだけど(と冗談めかして)。でもサウンドに関しては山ほどコンセプトがあったんだ。今回のテーマは『多面的』であることで、僕達が1人1人違う個性を持ってるように、曲も多様であること。だから僕達の興味、情熱、それから僕達の心を動かすもの全てが反映されてるアルバムになってるんだ」

●具体的にはどんなものに心を動かされるのですか?
「つまり一言でいえば『アート』ってことになるかな。それと『ヒューマニティ』だね。それからこの作品は特にいろんな場所に行ったり旅をしたりっていう経験に影響されてると思う。“動いてる”感覚というか“旅をしてる”感じ。旅をしてる時の、静かに物思いにふけるような瞑想しているような感覚というかさ。あとは、これを作るまでに出会ったバンドとか、ライヴを観たバンドからも大きく影響を受けてるね。モグワイとかエレクトロニック・ミュージックとか。今回の僕達は、ありとあらゆる刺激に対してオープンであってよし、っていう許可を自分達に与えたんだ。そうすることによって、自分達の周りでどんなことが起こっているのか、自分達はどんな経験をしてどんな影響を受けているのかってことを、より正確にアルバムに反映させることができたと思うよ」

●今作は、これまでの2枚のアルバムの流れを汲みながら、さらに自分達の限界と可能性に挑戦したアルバムと言えると思いますが、一方で、インディとメジャー、アヴァンギャルドとポップ、あるいはロックンロールと「それ以外」とを隔てるさまざまな境界線を打ち破る、優れて批評的なアルバムだと思います。
「うん。僕達は、そういう境界線だとか概念だとかっていうのはすごく独善的で、ただただクソだと思ってるんだよね。僕達の音楽っていうのは純粋に、そして唯一、音楽のために、音楽というアートそのもののために存在してるんだ。そういう括りっていうのは退化した知識人達のためにのみ存在している用語であって、そんな人種に限って音楽がどんなものか何1つわかっちゃいないんだよ。何が大切なのかを見失ってるんだ。大切なのは作品のクオリティや、その音楽の優れている点、その音楽の美、そしてその音楽がいかに精錬されてるかってことなんだ。アーティストが成すべき仕事っていうのは、己の能力を最大限に活かして自分が作りたいものを作ることで、そこに自分が見出せる限りのあらゆる意味を見つけることなんだ。僕達のメジャー・レーベルに対する考え方だって、単純に銀行として捉えてるんだよ。つまりルネッサンス期のパトロンと同じことなんだよ。貴族がアーティストに金銭的援助をして芸術を創造するっていうさ。もちろんメジャー・レーベルは金を生み出す機械のようなものなわけだけど、その罪深さって要するにミケランジェロのパトロンだったメディチ家と同じことなんだ。つまり、メディチ家なくしてはダビデ像もこの世に存在してないしピエタ像もないっていう」

●ところで、あなた方がバンドを始めたのは、いわゆる「オルタナティヴ」と呼ばれたギター・ロックの大きなムーヴメントが生まれた時期だったわけですが、当時のそうした状況についてはどう見ていましたか。
「うーん、他のバンドが何やってるかなんて、それほど気にかけてないかったしなあ。その頃僕達が影響を受けてもいいなって思ったバンドって、当時一緒にツアーしたりライヴやったりしてたバンドだったんだけど、そのほとんどがイギリスのバンドだったんだよね。モグワイとかクリニック、スーパー・ファーリー・アニマルズ、それにプライマル・スクリームとかさ。実際、長い間アメリカの音楽シーンとはほとんど無関係だったって言ってもいいくらいなんだ。アメリカのシーンを知り始めたのって本当にここ最近なんだよ。アメリカっていうのはモノを知らない田舎者ばっかりいるとこだと思ってたからさ」

●現在のようなロックンロール・バンドを始める前は、メンバーの4人は地元テキサスの聖歌隊に入っていたそうですが、そこから自分達をロックンロールに引き寄せた、あるいは自分達でバンドを始めることに向かわせたきっかけは?
「きっかけもなにも、僕達はロックンロールを聴いて育ったんだから。ロックンロールっていうのは1つの表現手段なんだってことをその頃に理解したしね。つまり自分達を表現する最適な方法としてロックンロールがあったんだ。しかもロック・ミュージシャンっていうのは同時にアーティストでもあるってことだからね。ロックンロールにはそれだけ多面的な性格があると思うし、ヴィジュアルでも音楽でも何でもロックを通して表現することができる。しかもロックンロールこそが、今の、僕達が生きてる時代に最も適した表現方法だと思うんだ。実際にロックンロールの歴史っていうのがずっと続いてきてるわけだし、それはこれからも続いていくと思ってるから。70年代の音楽があって、その次はパンクがあって……聴いてきたもの全てに僕達は影響されてるって言っていいんじゃないかな。それと僕達の親ってめちゃくちゃ音楽の趣味がよかったんだよ。みんな音楽的には恵まれた環境で育ったね。それもロックに限ったことではなくて民族音楽とかクラシックとかジャズもそうだし、凄く豊かな音楽環境があって、僕達はその中で育って呼吸をしてきて、それで今に至ってるっていう。それから僕達は、何かを聴かないうちからそれを否定したりは絶対にしないんだ。いい音楽を聴きまくってそれを肯定することで忙しくって、否定してる暇なんてないんだよ!」

●音楽以外にも、映像や絵画、そしてマヤ文明に対する関心にはじまって考古学や人類学などさまざまな学問を含めた、広い意味でのアート全域に渡って各メンバーとも造詣が深いと聞きますが……。
「もちろん。いかなる表現方法もいかなるアートも密接に結びついてるものだからね。全ての表現のひらめきっていうのは同じ起点から発せられるもので、全てはミューズが司る、おんなじ源泉から湧いてくるものなんだよ。そのひらめきを一旦手にしたら、レコードを作ることだってできるし、壁画を描くことだってできるし、神殿を建てることだってできる。何だってやれるんだ」


(2002/06)

2012年9月19日水曜日

極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンド白書:Eternal Tapestry & Sun Araw


LAのイーグルロックに拠点を置くレコード・レーベル「Not Not Fun(以下、NNF)」は、今のアメリカのアンダーグラウンド・シーンを語るうえで外せないレーベルのひとつだろう。

自身もミュージシャンである一組の男女、ブリット&アマンダ・ブラウンによって2000年代の半ばに設立されたNNFは、80年代のハードコア・シーン~ジン・カルチャーやライオット・ガールに影響を受けたDIYな活動/運営スタイルで知られ、手作りのアートワークが飾られた初期のCDRを皮切りに同レーベルの作品は、アナログやカセット・テープを中心に現在まで300点に迫るリリース数を誇る。先日もイギリスの音楽誌WIREで特集が組まれていたが、アメリカのみならずアンダーグラウンド・シーンに示すNNFの存在感の大きさは、そのカタログに並ぶアーティストのラインナップを見れば一目瞭然だ。ブリットやアマンダが関わるロブドアーやポカハウンテッド(※現在は解散。ちなみに元メンバーのベサニー・コセンティーノはベスト・コーストとして活動中)を筆頭に、ハイ・ウルフ、ウェット・ヘアー、サン・アロウ、エターナル・タペストリー、マジック・ランタン、ブランク・レルム、ダックテイルズ、US・ガールズ、そしてアマンダのソロ・プロジェクト=LA・ヴァンパイアズなど、現在のUSアンダーグラウンド・シーンの顔役クラスの名前が並ぶ。そこに浮かび上がるのは――大雑把にいって、フリー・フォークやアニマル・コレクティヴ後のエクスペリメンタル・ロックを入り口にアメリカの地下層へと広がるノイズやサイケデリック・ミュージックの新たな潮流であり、NNFはその水脈を束ねる要衝と呼ぶにふさわしい。あるいは、その水脈から枝分かれしてアメリカを縦断中の、シットゲイズと呼ばれるローファイなガレージ・ロックやチルウェイヴ/グローファイ等のシンセ・ポップとも共同戦線を張るインディ・ロック・シーンの旗艦的なレーベルとして、NNFのポジションは重要かつ興味深い。そこに集うアーティストたちは、たとえば同じLAでノー・エイジが運営するアート・スペース「The Smell」でも見られるように、メンバーをシェアしてバンドを複数立ち上げたり、また「Woodsist」や「Night People」等とレーベルを跨いで音源制作を行ったりとゆるやかに連帯しながら、人脈やローカリティの複雑に入り組んだコミュニティを形成している。最近ではディスコ~ダンス・ミュージック専門のサブ・レーベル「100% Silk」を新たにスタートさせるなど、NNFを基点とする音楽地図の模様は、実験主義が氾濫し多層化をきわめる2010年代のアンダーグラウンド・シーンの縮図といっていいものだろう。

そして、前記の通りNNFを代表するアーティストとして挙げられるのが、本作『ナイト・ギャラリー』で共演を果たしたエターナル・タペストリーとサン・アロウである。かたやグループと、かたやソロ・プロジェクトという違いはあるものの、両者とも多彩な人脈が交わるバックグラウンドと多作な創作活動を誇り、音楽的な趣向/アプローチも似通う部分が多い。そして、その経歴を辿ることはおのずと、NNFを介して拡張を続けるアンダーグラウンド・シーンの現在を紐解く作業にも等しいといえる。


エターナル・タペストリーは、創設メンバーのニック・バインドマンとディウェイ・マホッドの2人と、ニックの弟のジェドを中核としたポートランドのグループだ(結成は2005年)。しかしその形態は流動的で、いわゆるバンドというより一種のミュージシャン・コレクティヴと呼んだほうが正しいかもしれない。

ジャッキー・O・マザーファッカーやタンネルズでギターを弾くニック、ソロ・ユニットのプランクトン・ワットやジェドとのデュオ=ガーデン・サウンドとしても活動するディウェイをはじめ、メンバーの大半が複数のプロジェクトを掛け持ち、さらには客演やミキシング等の裏方(US・ガールズ、インカ・オレetc)も務めたりしている。各々のプロジェクトで音楽性も多岐にわたり、フリー・フォーク~サイケデリック・ロックからダブ、ドローン~ノイズ、ミニマルまで、つまり冒頭で記した近年のUSアンダーグラウンド・シーンの音楽潮流を網羅したかのような様相を呈している。

一言でいえばエターナル・タペストリーのサウンドとは、そうした幾重にも重なるレイヤーを凝縮したような代物であり、それは、そもそもノイ!やクラウト・ロック愛好家のニックとジャズ・ファンのディウェイが始めた、即興とアンビエントの実験が独自の発展を遂げてきた過程として今日の形がある。初期の作品では、メンバーの出入りを繰り返しながらも中核の3人によるジャムの記録という性格が強かったが、サックス/シンセのライアン・カーリルとベースのクラグ・リキンスが加入してメンバーが固定した2009年以降の作品では、サウンドに方向性とまとまりが増し、ホークウィンドやアモン・デュール的な重厚なグルーヴのサイケデリック・ロックを展開してみせる。目下の最新作は、本作のリリース元でもある「Thrill Jockey」から今年リリースされたアルバム『Beyond The 4 th Door』になる。


かたや、サン・アロウもまた、そうしたUSアンダーグラウンド・シーンの坩堝的現況の極めつけのようなアーティストだ。サン・アロウとはLAのロングビーチ在住のキャメロン・スタローンズによるソロ・ユニットなのだが、たとえばエターナル・タペストリーが音楽的なバックグラウンドの多岐に跨る個性が結集したコレクティヴなら、キャメロンの場合はその複雑系が一人の個性の中でモザイク状に凝縮されたような、とにかく多芸多才で多作を誇る。

キャメロンが関わるプロジェクトはサン・アロウの他に、ジャーマン・ロックを踏襲したストーナー・サイケを聴かせるマジック・ランタン、ダーク・アンビエントな音響デュオのスーパー・ミネラルズ、ブリットとアマンダも関わるサイケデリック・ガレージ・ソウル・バンドのヴァイブスなど(※一時期ポカハウンテッドにも参加)。客演等も含めればその活動範囲はさらに広がるが、加えてキャメロンは映像作家としての顔も持ち、作品のアートワークやPVまで手がける。サン・アロウとしての活動に限ってみても、作品単位で数多のアプローチがコラージュのように打ち出されていて、一概にその音楽性を括ることは難しい。曲作りは基本的にインプロヴィゼーション中心で、プロジェクト名の由来でもあるサン・ラのフリー/スピリチュアル・ジャズ、ダブやファンク等のアフロ・ミュージックやクラウト・ロックからの影響を強く滲ませるが、実態はとても混沌としている。マジック・ランタン用のデモ音源から生まれたファースト『The Phynx』(2008年)はサイケ・ドローンのようなリチュアルなムードも漂うが、続く『Beach Head』は本人いわくニール・ヤングの『ズマ』を意識した作品で、2009年の『Heavy Deeds』はフェラ・クティとスティーヴ・ライヒ『For Organs』のミュータント!?、とも。「Woodsist」からリリースされた『Off Duty』ではスライ&ザ・ファミリー・ストーンとジミヘンとダブを濃縮させ、最新の7インチ『Houston Abstros』ではティーンエイジ・ファン・クラブのカヴァーも披露している。レコーディングとは「引用・参照元をラッピングして新たなテリトリーを探すこと」とキャメロンが語るサン・アロウのサウンドは、無尽蔵で捉えがたく、作品を追うごとに濃度とトリップ感を増しながら、現代サイケデリック・ミュージックの最深部へと深化のベクトルを更新し続けているようだ。


そんなエターナル・タペストリーとサン・アロウが本作『ナイト・ギャラリー』を共作するにいたったきっかけは、2007年にイーグルロックで行われたNNF主催のイヴェント「Neon Commune Fest」だった。そこで両者(※キャメロンはマジック・ランタンの一員として出演)は同日にライヴを行い、その後も一緒にLAでショウを行うなど意気投合。それからしばらくして昨年、SXSWに両者が出演した際、エターナル・タペストリーがラジオで生放送のスタジオ・セッションを企画し、そこにキャメロンを誘ったことが本作の始まりとなる。つまり本作は、そのスタジオ・セッションを記録したライヴ・アルバムということになる。

テキサス大学構内のTVスタジオで行われた、45分間ノンストップのセッション。全編インプロヴィゼーションで演奏された本作は、レーベルからの資料によれば「アメリカで50年代末~60年代に放映されたSFドラマ『トワイライト・ゾーン』をプロデュースしたロッド・サーリングが、70年代初頭に手がけたTV番組『四次元への招待(原題:Night Gallery)』へのオマージュ作品」ということらしい。そのコンセプトについて詳細は不明だが、ともあれ、本作は現在のUSアンダーグラウンド・シーンが誇る屈指のサイケデリック・ミュージックを堪能できる一枚といえるだろう。

ラインナップは、エターナル・タペストリーの通常編成(※ベースは最新作『Beyond The 4 th Door』にゲスト参加したヨニ・キフレが担当)に、キャメロンがキーボードとフルートという仕様。サウンドの全体的な印象は、コラボとはいえ構成のバランスからも見た通り、主導権はエターナル・タペストリー側にあるといった感じだろうか。クラウト・ロック直系の粘性強いジャムをベースに長尺のインストゥルメンテーションを展開する、深遠で茫洋たるサイケデリック・ミュージック。作品化にあたって4つのセクションに分ける編集がされているが、章立てのような起承転結はなく、しかし、全編を通して海洋がゆっくりと表情を変えるような音のうねりと満ち引きがある。幽玄なギター・サウンドとエレクトリック・ドローンのようなシンセの音響が導くM①から、ドラムのアタックが迫り出しフルートやヴォーカルも交えた怒涛の合奏へとなだれ込むM②。そして、凪のようなアンビエンスのなか独唱的なギター・ソロが棚引くM③をへて、その余韻を引き摺りながら、再び燃え盛るようなアンサンブルを聴かせるM④へ――。音楽的なバックグラウンドを共有する両者の相性はいうまでもなく抜群で、けっして新たなテリトリーを開拓するような作品ではないものの、それをはるかに凌駕する圧倒的な音像の深度がある。とりわけキャメロンが操作するエレクトロニクスのアプローチは、本作のサウンド・スケールをラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリー等のミニマル・サイケデリアの領域にまで引き伸ばすことに成功しているといっていい。


なお、本作『ナイト・ギャラリー』は前記の通り、本国アメリカではシカゴの「Thrill Jockey」からリリースされる。近年はエターナル・タペストリーの最新作『Beyond The 4 th Door』を始め、アーボリタムやウッデン・シップス、あるいはKTLなど、従来の音響~ポスト・ロック的なイメージを超えて独自の審美眼からサイケデリック・ミュージックを供給する「Thrill Jockey」だが、本作はその象徴といえる作品だろう。また、この9月には、本作の両者と同じくNNFと縁の深いLAのデュオ、バーン・オウルの、「Thrill Jockey」からは2作目となるアルバム『Lost in the Glare』のリリースが控える。NNFから「Thrill Jockey」へ、という流れをUSアンダーグラウンド・シーンのひとつのブレイクスルーと見るなら、その先にはどんな展開が待っているのか。拡張を続けるノイズ~サイケデリック・ミュージックの行方を含め、2010年代の動向を注視したい。


(2011/06)


極私的2010年代考(仮)……USアンダーグラウンドからの証言:Barn Owl インタビュー)

2012年9月1日土曜日

2012年9月のカセット・レヴュー(随時更新予定)

◎Bedroom/Solipsist
ブルックリンのMichael Chauによる2本目。Fuck ButtonsやGROWINGにも通じるバレアリックなA面が秀逸。ムーグがうねる天空のシンセ・ドローン。



◎Vermillion Father/Go-Kart Kamp
新興Space Slave Editionsから。生産性と採算性の狭間で増殖し続ける有象無象のカセット・リリース。素性は不明。というか、そうした情報的な部分はもはやどうでもよくなっているというか、アングラにありがちな匿名的な活動というのとも異なり、どこか投げやりな感もあるダダ漏れ感がこの界隈の魅力で、明日には聴いたことも忘れてしまいそうな記名性の希薄な態度が昨今のニッチなアンビエント~シンセ・ドローン周りの作品にはある。



◎Transmuteo/Dreamsphere Megamix
ニューオリンズの2人組。「Dreams are gateways to other dimensions(夢とは異次元への出入り口である)…」という文句がさもありなん。浅い眠りをたゆたうような薄明りの浮遊感。ループの波をドラッギーなシンセが漂泊…


◎Sashash Ulz/Ornamentika
Hooker Visionからリリースするロシアの気鋭。名機(?)Casio VL-1が奏でるウォーミーでヒプノティックなコズミック・ドローン。前作はDigitalis Limitedから。ロシア~東欧圏のアンビエント/ドローン~ベッドルーム・ミュージックの盛り上がりはアメリカ西海岸の向こうを張る勢いが。プッシー・ライオットはパンク・バンドだけど、あちら側では何か新しい動きが起きつつあるのかもしれない。


◎Cankun/Isalo Waterfall

Archers By The SeaやPistil Cosmosなど多名義を操るVincent Caylet。快調にリリースを続けるCankun名義の新作としては久しぶりのNot Not Funから。サイケでエスノ風味のコズミック・シンセ・ポップという路線は、ここ日本でも100%Silkが好事家の間でプチ・ハイプ化している今では殊更ナウで心地よくも響くが、如何せん、たとえば近作のSun Arawだったりd'Eonとかと比較しちゃうとやや薄味にも感じられ……というか食傷気味にも。100%Silkが本作始動後のNNFは、カラーの打ち出しにやや迷いが感じられなくもなく、従来のノイズ~ドローン路線へと振り切るのか、それとも100%Silkとの連携を模索しながら中庸を目指すのか、そのへんの舵切りはアマンダ・ブラウン、いやここは旦那のブリット・ブラウンの手腕に期待したいところ。

◎Bitchin Bajas/Vibraquatic
最近ではMoon DuoやPeaking Lightsの片割れAaron CoyesのプロジェクトFace Plantとのスプリットも記憶に新しい元CAVEのCooper Crainによるソロ・プロジェクト。シンセにダブラ・ビートも交えたラーガ調~辺境趣味のドローン・アンビエントはこの界隈が音楽的にはフリーク・フォークと地続きであることを示す好サンプルであり、LP盤にはSublime FrequenciesのOlivia Wyattが手がけたDVDが付属というのも納得。2000年代末から2010年代初頭にかけてのUSアンダーグラウンドにおける様々な結節点を示す一例。



◎Deep Earth/House of Mighty
この手の――という言い方は乱暴な括りだが、この類の(同じか、、、)ニューエイジ・テイストのサイケデリック・ミュージックのプロジェクトは名前からしてそれっぽいのが多いというか、Dolphins Into The Futureもそうだけど、センスがNational Geographic系な感じで。。。もっともこちらはルーツにカン等のクラウト・ロックを感じさせ、ぼってりとしたギターとドラムの絡みにトリッピーなシンセが潤色を与えている。


◎Sagan Genesis/Waxy Tomb/split
西海岸はNNFのみにあらず。インダストリアルからノイズ~コラージュで塗り固めた禍々しいアブストラクト音響を誇る2組によるスプリット。白眉は、初期アマンダ・ブラウン~キャントことジェシカ・ライアン(※クリス・コルサーノやNYのNo Fun周辺との交流でもお馴染み)も彷彿させる女性ノイジシャンの後者。



◎Guenter Schlienz/Urban Tapes
90年代にはロック・バンドのギタリストとして活動していたらしい。自作のモジュラー・シンセを操り幽玄なドローンを奏でる現在のスタイルからは想像もつかないが、 それこそEarthやThe Dead C、あるいは例は違うかもしれないがJozef Van Wissemとの共演が話題を呼んだ映画監督のジム・ジャームッシュとか、ある種のギター・サウンド/ミュージックを追求した先にドローン~アンビエントのヘヴィネスの扉が開く……というケースも往々にあるからして、現在この界隈で活動しているアーティストの経歴を紐解くと意外なキャリアが顔を見せる、というのもじつは多くあるのかもしれない。純粋なドローン~アンビエントとは異なるが、あのクリスチャン・フェネスもそもそもはMaischeというロック・バンドのギタリストとして活動していたわけで。



◎Code Sap/S/T
これでジャケットがカラーならだいぶ印象が変わる気も。モノクロの強みというかベライチの凄みというか……。砂嵐のようなノイズの向こう側から叫び声が聴こえるような刹那。こういう作品を世にリリースする、しかも20本だけ……というところに何かただならぬものを感じなくもないが、たとえばダビングの過程で機材の不良から何本かにいっぽん、こういう作品が不可抗力的に生まれてもおかしくないような気にもさせられる。Shores Of Infinityから。


◎Dr. Sean Gadoury/Sky Burial
Hobo CubesやSun Drips等々をリリースするOld Frontiersから。宗教的モチーフも漂わすアンビエント~ドローン・ラーガ。ダークで黙示録風な……昨今、GY!BE界隈のカナダのアンダーグラウンド・シーンがドローンやアンビエントのメッカとして再クローズアップされているが、思い起こせば初期のGY!BE自体もこんな感じだったよなあ、と。たしかファーストのリリースは33本だったかのカセットだったはずだし。


◎Ypotryll/Solar Tongues
「Ypotryll」とは空想上の動物らしく、ラクダの身体にイノシシの頭で足はヤギ……とか、巨大なペニスがどうのこうの……とかいう(※ジャケット参照)。目下アンダーグラウンドにうごめく有象無象のイーノの奇形児たちのなかから、Super MineralsやDriphouseのラインに続くブルックリンのシンセ・ドローン作家。


◎Komodo Haunts/Low Winged, Silken Plumes
“tropical drone” とも評される。ギター・ループやサンプリングを重ねた奥深く謎めいた音響は、Sylvester Anfang IIやStarving WeirdosからSun Arawやノー・ネック・ブルース・バンドまで通底するトリッピーなサイケデリアを抽出。



◎Imperial Topaz/Imperial
私的浮女子の筆頭、Caroline Teagleのプロジェクト。艶気のあるシンセ・ポップで、クールなベースラインとミニマルなギター・フレーズの交差がなんともいえず。歌声にもヘタなアングラ感や思わせぶりなそぶりもなく、Ze Recordsの歌姫Lioを思わせる場面も。



◎Aloonaluna/Diadem Or Halo?
お馴染みMotion Sickness of Time TravelのGrant Evansが運営するレーベルHooker Visionから。これだけ注目を集めながらも一貫した運営方針、クオリティー・コントロールを徹底する姿勢はさすが。MSOTTのアンビエント~ドローンには実験音楽の正統を継ごうとする意識も感じさせるが、Lynn Fisterのドローン・ポップにはダンス・カルチャーへの色気と目配せがある。


◎Russian Tsarlag/Classic Dog Control Booth
Not Not Funのはぐれ悪魔超人ことカルロス・ゴンザレス。コラージュにシンセやペナペナのギターを重ねて譫言のようなヴォーカルを呟く露悪的ダウナー音響はジェームス・フェラーロさえヘルシーでポップに感じられてしまうほど。90年代ジャンクやスカムの正しき後継者。



◎Lantern/Dream Mine
Angel Olsenのアルバム・リリースも控えるBatheticから。「ストゥージズのロスト・テープのよう」と評されるのも頷けるのは何も“I Wanna Be Your Dog”のカバーが収録されているからだけではなく、ロウでダーティでフリークアウトした歌いっぷり・鳴らしっぷりはTy Segallよりも粗暴でWavvesよりもスラッカーでKurt Vileよりもロックンロール。Dirty Beaches級の逸材かも……とさえ思わせるフィラデルフィアの3ピース。かつてGang Gang Danceのリジーとペインターのリタ・アッカーマンらがやってたAngel Bloodを軽く凌ぐ。


◎Isle of Sodor/Goshen
ドイツのSIC SIC TAPESから、Adam Millerによるスペイシー・シンセドローン。無重力のなかを漂う鉛色の飛行体。John Elliottがゲストにクレジットされているが、あのOuter SpaceのJohn Elliottなのだろうか。


◎EMME YA/EROTOGNOSIS
EROTOGNOSIS=エロとグノーシス……?ヴードゥー・ドローンというのか、ホーミー・ドローンとでもいうのかなんなのか、漆黒の染みのように広がるリチュアルでサタニックな持続音/響。美意識のありようはSun O)))とかよりNeurosisなんかの方が近いかも。


◎Horsehair Everywhere/Vol. 1
Lee Nobleが創設したNo Kingから。アンタイ・フォーキーなローファイ・ポップ。むかしむかしのベックが笑気ガスを吸ったかのような弛緩ぶり。





◎Earn/Lacewing

Rene HellやMJトリビュート・プロジェクトの1958-2009、Mirror To Mirrorなど話題作をリリースするEkheinから。 押し花を象ったような清貧なアートワークが彼の美意識を映し出している。湖水地方の朝靄を思わせる静謐なアンビエント。



◎Mohave Triangles/Smoked Mystics
過去にはDigitaliesからのリリースもあるロバート・トンプソン。まるで『イレイザー・ヘッド』のサウンドトラック~リンチの妄想系SFの世界を想起させるインナートリップのアンビエント。ハナタラシとか日本のノイズにも造詣が深いとか。


◎Brian Green/112011
南キャロライナのサウンド・アーティスト。エレクトロ/アコースティックを巧みに編み込んだ即興性の高いアンビエント&コラージュ。抽象度を増したウィリアム・バシンスキーのような気配漂うミニマリズム。


◎Misner Space/Radika Quansoon
カナダの6人組が奏でるNo Funなエキスペリメンタリズム。具体音やノイズを散乱させて不協和なサウンドスケープを演出。タージマハル旅行団のダーク・ヴァージョンのような装い。


◎The Exhalers/Wave Reader II.O
なぜかイルカやプーチンやキャメロン・ディアスがアイコンに使われている新興Exo Tapesから。João/Johnnyとしても活動するポルトガルのチルビエント・プロジェクト。アナログ・シンセに具体音を絡ませ、Dolphins into the futureや海洋ドキュメンタリー系のディープ・ブルーなアンビエント・ドローンを創出。



◎Indignant Senility/Blemished Breasts
DJ Yo-Yo Dieting名義で知られるサウンド・アーティストの別プロジェクト。ジョン・オズワルド~DJオリーヴからのUSアンダーグラウンド発ドローン/アンビエントへのアンサー……とでもいった風体。ドローンというよりドゥーミーな雰囲気も漂うダーク・アンビエントで、しかも両面2時間弱というヴォリューム、、


◎Boar/Teen Cribs
製品工程上のトラブルではない……とは思うが、一切の音楽的要素を排したノイズが延々と。起伏も展開も深みもない、同内容と思われるフラットなハーシュ・ノイズが両面にわたり続く。いやしかし、深読みすればきりがないのだけど、これはまあ、そういうものとして額面通りに受け取るべしなのかも。



◎Geoffrey Sexton/Suburban Sun Births
同レーベルのHorsehair Everywhereのメンバーによるソロ・プロジェクト。フィールド・レコーディングも交えながら鬱蒼と広がるダーク・アンビエント。映像作家の肩書きもあり、イメージの喚起性の高さはテクスチャーの構成や音像処理にもいかんなく。


◎Sparkling Wide Pressure/Some Triggers
DigitalisやHooker Visionからのリリースで評価の高いテネシーのSparkling Wide PressureことFrank Baugh。アシッド・フォーク~フリー・フォークとモダン・ドローン/アンビエントのあわいを紡ぐような、奥深く詩情豊かな音像。多様な楽器や具体音~コラージュを散りばめたサウンドスケープは複雑なうねりを見せるが、そこはかとない歌心も感じさせる。 染み出すユーモア・センスはR・スティーヴォー・ムーアや初期アリエル・ピンクの境地も。









2012年8月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年7月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年6月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年5月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年4月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年3月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年2月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
2012年1月のカセット・レヴュー(随時更新予定))
極私的2010年代考(仮)……“カセット・カルチャー”について)
極私的2010年代考(仮)……2010年夏の“彼女たち”について)
2011年の熟聴盤(カセット・リリースBEST 30+2))